第二十一話 時の狭間

 

ウィッチが目覚める少し前。シェゾは、洞窟の前にいた。

−−−俺は何をした……?−−−
−−−何故、このようなことを……?−
−−
「あんな奴ら、邪魔だ。死ねばいい……。」
シェゾの口からは、思ってもいないことばかり飛び出してきて。
手に付いた血を眺め悪魔のようにシェゾは微笑んだ。恐ろしい笑みだった。
−−−止めろ!−−−
シェゾの意志に従うことなく、血にまみれた手を口へとうつす。
手に口づけを落として……
「あいつらは、邪魔だ。必要ない。俺には力さえあればいいんだ……。」
−−−止めろ!止めてくれ!あいつらを殺さないでくれ!−−−
心の叫びと、口から発する言葉は、あまりにもちがうもので。
「俺が望んだことだ……。」
−−−ちがう!ただ俺は、守りたいだけで−−−
「次は……誰を殺してやろうか?Dシェゾにとどめを刺すかDアルルを殺すか……?」
−−−止めろっ!何故だ?何故こんな事に……!?−−−
「あいつらは、邪魔だ。まやかしなど、消えればいい……
−−−守りたいだけだったのに……−−−

「アルルは……最後のお楽しみだ。」
シェゾの声が、誰かとかぶって洞窟に響いた。
彼の目には、もう何も映ってはいなかった。ただ、人が恐れ死んでいくことを喜びとして……
シェゾは、シェゾではなくなった
彼は……

その頃ルーンロードは、シェゾの心を見透かしてあざ笑っていた。
闇とは落ちやすいもの。」
そう呟く彼の声は、ただ闇に響き渡った。

 

二十二話 友人との複雑な再会

 

ウィッチに温かく見送ってもらったアルルは、洞窟の中をただひたすらと走っていた。

アルルは、先程の魔導学校に居た時と随分違っていた。
服には、泥が多少付いていて、体には、血と傷後が付いていた。
洞窟に入ってから、何分、いや、何時間走っているのだろう。
アルルの呼吸が、速くなっていく。

「うわぁっ!」
突然。アルルは、何かにつまずいて、転んだ。アルルの膝から血が、少し出てきた。

───
転んじゃった。なんでこんな時に。とにかく、早くシェゾの所へ
アルルは、そう思い立ち上がろうと足を動かした。
しかし。
……………!」
───…
イタッ……
アルルの足に痛みが走った。どうやら、だんだんと、痛みを感じるようになってきたようだ。

「動いてよ。早く動いてよ
アルルは、自分の足に言った。だが、やはり、痛みで動かない。
不意に、アルルの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
………こんなのなんでもないのにどうしてなんだろう。ただ転んだだけなのに情けないな
アルルは、涙をこぼしながら、思ったことを口にしていった。
………ボク本当に情けないよ
アルルの涙が瞳から、頬へと、こぼれ落ちた。

………うっ……
いきなり、アルルの声ではない、何かのうめき声が、聞こえた。
「? 何?」
アルルは、声が聞こえた方向へと目を向けた。
……!?」
アルルは、拒絶した。
怪我をした、モンスターなら、問題ない。
けれども、それは人だった。
水晶色の髪で、綺麗な体の女性だった。
しかし、体中には、血がたくさん出ていた。

アルルの顔が、どんどん恐怖に染まっていく。
そして、こう言った。
ルルー!!?」
倒れながら、血を出している。アルルの友人、ルルーに向かって

 

二十三話 弱音

 

「ルルー!!」
なんとか一歩一歩ゆっくりとルルーに向けて歩いた。
ルルーはなんとか意識はあるものの、身体中には何か刃物で切られたような後が残っていた。
「ア・・・ルル?」
う・・・と痛い顔をしながらもルルーはアルルの名を呼んだ。
「ふ・・・不覚だったわ・・・。まさか、あんな中途・・・半端なヤツに2度もやら・・・れるなんて・・・ね。」
息遣いも荒い・・・。
「しゃべっちゃダメ!」
(こんな魔法でどこまで効くかわからないけど・・・。)
「ヒーリング!!」
優しい光がルルーを包み込む。
少しずつ傷がふさがっていったけれど、まだあちこちにある深い傷までは今のアルルには回復できなかった。
「もういいわ。ありがとう。」
「でも・・・ごめん。全部治しきれなくて・・・。」
痛々そうにルルーの身体の傷を見る。
「そんなことないわ。助かったもの。・・・あんたも怪我してるのにどうして治さないの?」
ふとルルーはアルルの足の怪我を見た。
「・・・たいしたことないよ。ただ、治そうとしないだけ・・・。ただ転んだだけなのに。足が動いてくれないの・・・。」
そう、ただすりむいただけ。
ヒーリングで治しても、絶対一歩も動けないと思う・・・。
「・・・怖いんだったら帰ればいいじゃない。」
「え?」
ルルーはアルルに対して厳しい顔を向けた。
「怖いんでしょう?シェゾと戦う事が・・・。
嫌なんでしょう?友達が傷つくのを見るのは・・・。
だったら帰ればいいじゃない。」
そんなルルーを見てアルルは叫んだ。
「・・・嫌だよ!」
帰りたいけどほおって置けない。
帰るのなら・・・みんなとがいい。
ふっ、っとルルーは微笑んでアルルの肩に手を置いた。
そして、アルルの身体の中に何かが入っていくような感覚があった。
「借りは返したわよ。それでまともに動けるでしょうよ。」
綺麗に傷跡は消え、動けないと思っていた足もなんだか軽くなった。
「あ・・ありがとう。」
「さ、行くわよ。こんなところでぐずぐずしてたら日が暮れてしまうわ。」
すくっと立ち上がり、ルルーは先に行ってしまう。
それをあわててアルルが追いかけた。
「ルルーを傷つけたのってやっぱりシェゾ・・・なの?」
「・・・まぁね。でも、アレはもうシェゾなんかじゃないわ。私たちが知っているシェゾなんかじゃないわ。」
それだけ言うと、ルルーは黙り込んでしまった。
(それにしても、サタン様は一体どこに行ってしまわれたの・・・?)

 

二十四話 シェゾのかすかな思い

 

シェゾがシェゾじゃなかった
ルルーの言葉が妙にボクの中で木霊する。
「それってどんな風だったの?」
途切れ途切れになりながらも、ボクはルルーに問いだす。
「私にあったとき、何も言わなかったのよそう何も。ただ一言、まずはお前からだってだけ。恐ろしく冷たい目だったでも、あなたなら戻せるかも
あいつシェゾは、私を切るとき、一瞬寂しそうな目をしたの。そして小声でアルルってつぶやいてた。もしかしたらまだ元に戻る見込みはあるのかも知れない。だから、アルル、あんたシェゾを元に戻してやりなさい!」
最後のほうはいつものルルーだった。
にこっと笑って、ボクにカツを入れてくれた。そのとき、ボクは少し元気が沸いてきた。
syezo side―
シェゾは奥底深い洞窟で一人、考えていた。
「アルルは最後のつもりだったが
先に来てしまったかまぁいいせいぜい楽しんでやろう
と、声が洞窟中に響き渡る。
でもやはり、少し、一瞬、ためらって
でもその後は洞窟中に怪しい笑いが響きわたるのが聞こえた

 

第二十五話 サタンの思惑

「全く・・・何をやっているのだ・・・ヤツは・・・」
 サタンは森の中を漆黒の羽を広げ比較的低い位置を木々を避けながら飛んでいた。
「ルーン・ロードの事を調べたいと言っておったから図書館の管理人を任せてやったと言うのに・・・まんまとヤツの罠にハマりおって・・・」
 ぶつぶつと呟く。シェゾが校長室に足を運んできた時は驚いた。普段彼は滅多にサタンに近づく事は無く常に距離を置いている存在である。それがルーンロードの事を調べたいから図書館をかしてくれと要求してきたのだ。
 サタンとて闇の気配の微妙な変化を感じ取れない程バカではなく勿論ルーンロード復活の可能性も考えていた為、図書館の管理人を勤めるという条件付でその要求を呑んだ。しかし当のシェゾはルーンロードの呪術にハマり狂いつつあるのだからなんとも言えないもどかしさが募る。
 先ほども話をつけようと彼のもとを訪れたのだがまんまと逃げおおせられてしまった。
「・・・それにしても何故闇の支配力が強くなった?いや・・・光の加護が弱くなったのか・・・?どちみちこのままバランスが崩れればマズイな・・・」
 それに何故今更になってルーンロードが復活を図っているのかも気になる。復活の為に力を温存していた・・・そう言われればそれはそれで納得が行くのだがどうもそれだけではないような気がしてならない。
「・・・もしやルーンロードの他に暗躍している者が・・・?」
 敵は一人だけではないのか?そう思うのだが根拠がない。しかしその可能性も否定は出来ないため完全に忘れ去る事は出来ないだろう。
「ヤツに頼るのは癪だが・・・この際仕方あるまい・・・」
 溜息を吐き呟き、この森の奥に居るであろう双子の弟を思い浮かべて飛ぶスピードを早めた。
 が、重要な事を忘れていたのを思い出す。
「はっ!?カーバンクルちゃんを忘れていた!!」
 動揺するサタンの目の前に一際太い木の幹が迫る。

―――
めきっ!

 マヌケな音を立てて幹に顔を突っ込んだサタンはずるずると地に落ちた。

 

二十六話 大切な人

夜の森の中を、Dアルルはただひたすらに走った。
 途中で何度も涙が溢れて止まらなかったが、そんなものを気にしている暇はなかった。
「Dシェゾ……Dシェゾっ……
 ただ愛しい人の名前だけが、口から溢れて出る。
 かけだしたとき、咄嗟に持ってきた手の中の、二つにわれた時空の水晶かつてDシェゾだったものが悲しく光った。
「ねぇ……嘘だよねキミはボクをおいていかないよね……。もう一人はやだよ?」
 走ることをやめて、手の中の中に話しかける。
−何泣いてるんだ?俺はお前の傍にいると言っただろうが……。−
 心の隅にそんな言葉が聞けるんじゃないかと想って。だけど、手の中のそれはただ悲しく光るだけ。
「ねぇボクまだ君に、言いたいこと在るんだよ?闇になんて還らないで!!ボクをおいていかないでよっ!!」
 どうしようもないくらい、涙が溢れてきて。
 泣いても仕方ないのに、ぬぐってもぬぐっても溢れる涙が憎らしくて。
「ボクが……シェゾを倒すから……。君は早く帰ってきて。必ず倒すから。」
 返事をしない水晶にただそれだけを何度も告げる。
 だけど。それでも。彼のオリジナルを倒せるだろうか。力の問題じゃなくて、もしも還ってきたときのDシェゾが、倒されたシェゾを見て、なんと言うだろう。
 そして、彼女自身のオリジナルである少女は、一体……
「Dシェゾ、わかんないっわかんないよっ!!」
 髪を振り乱し叫ぶ声。
「もう一人は……やだよぉ……。」
 蚊の鳴くような声で呟いて、Dアルルは座り込んだ。

 めきっ!!
ドサッ!!「アイタタタタタ……。」
「おぉ!!Dアルルではないか!?一体どうしたのだ……!?」
 派手な音を立てて、上から何か降ってきた。
 なんだろうと思って顔を上げれば……
 顔に派手な跡をつけたサタンが、にこやかに笑っていた。
 今まさに、哀しみの縁にたっているDアルルの前に。
…………。」
 
 静かな夜の森に、ただDアルルに吹っ飛ばされるサタンの叫び声が響いた

 

二十七話 アルルの気持ち

「シェゾッ!」
シェゾの待っている洞窟の奥に、ボクは息を切らしながら入っていった。
「フッよくオレがココだと気づいたな。」
シェゾの眼にはもう何も移っていなかった。何の光をも映さない冷酷な瞳
ボクは一瞬ためらったケド、シェゾの質問に答える。
「ルルーに聞いたからね。キミがここに入ってきたって。」
もう、しゃべってるのがやっとだった。
今までのシェゾがシェゾだけどシェゾじゃないような気がして
悲しくて悲しくてたまらなかった
「ねぇっ!シェゾ!!本当に本気でルルーやDシェゾに攻撃したの!?ねぇっ!」
ボクは一生懸命、訴えるように聞いた。
もう、涙はこらえられない
なのにそれに対してシェゾが顔色一つ変えずに
「あぁそうだな。」
といったのが信じられなくて、悲しくて、本物のシェゾじゃないんじゃないかと心の奥底から思わせられて…―
つい行動に出てしまった。
パシーン
気が付いたときには驚いた顔をして頬を押さえているシェゾがいた。
やっと、表情を変えてくれたことが、当たり前のことだけど、ボクにはうれしくて仕方がなかった。
「貴様っよくもっ!」
でもその小さな喜びもつかの間。
シェゾは剣を取り出してボクに向けた。
いつものことだけど、日常茶飯事かも知れないけど、今日はどこかが違った。
それはきっとシェゾの心、冷たくなった瞳…―
それを見たとたん、大粒の涙がこぼれてきた。
シェゾがボクや、みんなのことを忘れたのではないかとついつい思ってしまう。
「アレイアード!」
シェゾの魔法が飛んでくる。喧嘩ではいつものこと。でも今日は何かが、どこかが違う
ボクはその見慣れた魔法をよけた。
なんだか、だんだんその悲しみがあほらしくなって、そして、怒りに変わった。
「シェゾのシェゾのバカァ〜〜〜!!」
ドカーン
ボクの魔法がシェゾに当たる。
「なんで!?なんで何だよ!!なんでDシェゾに怪我させたんだよっ!!なんでルルーを攻撃したのさっ!!シェゾのバカァ!ボクはボクはキミとは戦いたくないのに!!なんで勝手におかしくなっちゃってるんだよぉ!!なんでそんな冷たい顔してるのさっ!笑ってよっ!笑ってってば!」
ボクは、思うがままに口を動かしていた。
気が付くとシェゾはさっき叩いた頬を押さえながら唖然としている。
ボクの頬には涙が沢山流れている。
涙を止めたいのに、泣いても何の解決にもならないことぐらい分かるのに、今まで我慢してきたのに、なぜか止まらない。
「止まってよなんえ涙出るの
もうっこえもそれもみんあキミのせいだ!!
シェゾのバカやろぉー!!」
もういいたいことも何もかもめちゃくちゃ
ただ、ただ静かな中、この洞窟の中で、さっきの叫びがこだまし、ボクの泣きすする音のみが洞窟の中に響き渡っていた―…

 

二十八話 傷つけあう戦い

「ひっく・・・。ひく・・・。元に戻ってよぉ・・・・・。しぇぞぉ・・・。」
ずっと目の前で泣き続けるアルル。
俺はどうしたい?
―――
魔力を奪え・・・・―――
頭に何度も響く。
誰だ?この声は・・・。
―――
魔力を奪え・・・・!!!―――
そのとき、俺の身体は自分の意思ではなく闇の剣をアルルに向けた。
「し・・・シェゾ・・・・・・?」
アルルは一歩も動こうとはしなかった。
なんで・・・?という顔を俺に向けるのに、呪文を唱える体勢も避けようとする動作もしない。
・・・・・・なぜだ?
俺の身体は闇の剣をギュッと構え、アルルに向かっていった。
「アルル!!!」
ふいに声がした。
青い髪・・・ルルーだ。
ルルーはすばやく闇の剣を蹴り飛ばした。
それからルルーはアルルのほうへ振り向き、大声で怒鳴った。
「バカ!なに勝手に先に行ってるのよ!?あんたにはシェゾを傷つけることさえできないのにのこのこと出て行っちゃって!!」
「だって・・・。だって・・・!シェゾがこのままじゃあやっぱりダメかと思って・・・!」
どうやらアルルはルルーを置いて先に来てしまったようだった。
ルルーはそんなアルルを見てもう何も言わず、ギッと俺をにらんだ。
「聞いたわよね?あんたは一体どうしちゃったのよ?答え次第だとアルルには悪いけど・・・」
そしてグッと攻撃体勢に入った。
「この私があんたを少々痛みつけてあげるわ!」
俺は落ちた闇の剣をひろい、アルルではなくルルーに向けて構えた。
「おもしろい。まずはお前からだ・・・・・・。」
俺の意思とは関係なく、また身体が動く。
アルルはそんな俺らを止めようとしたが、おれは結界を張って入ってこさせないようにした。
そしてアルルのほうへ向き、
「この後はお前だからな・・・・。」
と言ってルルーに向けてアレイアードを放った。
「まだまだっ!結界を張るなんてそんなに邪魔されたくないのね。」
ルルーはアレイアードをかわし、破岩掌を喰らわせようとしたがなんなくかわす。
「ダメ!ダメだよぉ!もうだれも傷つかないでよ〜!!!」
戦いが続く。
結界をドンドンとたたきながら絶叫するアルル。
俺は・・・・一体なにがしたいんだ・・・・・?

 

二十九話 アルルの喜び

アルルは一生懸命ルルーとシェゾを止めた。
何度言っても、辞めない。
アルルは最終的に、攻撃。
アルル(以下『ア』)「ファイヤー!!」
シェゾ(以下『シ』)「うぎゃあああ!!」
ルルー(以下『ル』)「きゃあああ!!」
ア「ゼェ、ゼェ、辞めてよ!!何で、
何で!!攻撃すんだよ!!もう、辞めてよ!!」
シ「・・・・・。」
ル「アルル・・・・。」
シ「はっ、オレは一体何をしていた。」
ア「シェゾ!!元に戻ったんだ!!」
シ「は?」
ル「何が何だか分かんないけど、良かった。」
シ「ああ。」
シェゾが元に戻った。良かった。

 

第三十話 フェイント

「良かった良かったよぉ
ボクの目から、今まで以上に涙がぼろぼろでる。
「おぃあんまり泣くなよ。らしくねぇぞ?」
そういってシェゾはボクに近づいてきた。
その彼の、異常なまでな、今までにありえないほどのやさしい言葉に違和感も感じず、ボクは泣いていた。
その時、ボクは気づくべきだった。
ルルーの行動に、シェゾの表情に
ルルーは少しうたがりぶかいかおでシェゾから離れるように後ろに下がり、シェゾは、少し不思議な笑みを浮かべていた
「アルルっ!こいつはやっぱり何かおかしいわ!今すぐ離れなさい!」
ルルーがすごい剣幕でボクに言い放つ。
「えっ!?何で!?いつものシェゾだよ!?」
「こういうのはストーリーのお約束だからよ!!」
えらそうにいうルルーの発言に思わずボクも、シェゾまでもがずっこけた。
「そんなお約束だけで決め付けるのもどうかと
と、ボクが言いかけた瞬間、
「アルル!!」
ルルーの叫びとともに、ボクの腹部を闇の剣が触れた。
シェゾは薄ら笑いを浮かべて
ボタボタと落ちる血、見てわかっているのだけれど、これの原因がシェゾだと気づくのに時間がかかった
というか信じたくなかった
ボクはその場によろけ、ひざまずく。
「さぁ茶番はここまでだ
そうシェゾはつぶやく。
まさか本当にストーリー上のお約束がここまで守られるとは
「今度こそお前の魔力、いただくぞ
そういうシェゾの言葉は落ち着いていて、ボクに安心感を与えた。
決して安心できるような状態ではないのだけど、シェゾの声を聞いたとたん、何かがホッとした。
これはボクがシェゾに対してもつ信頼感からなのだろうか
「我 シェゾ・ウィグィィが 命ずる
前に一度、聞いたことのある呪文をシェゾは唱え始めた
そういえば、前はカー君が魔法を跳ね返してくれたっけ
「汝ら アルル・ナジャなるものの
力に宿りし 魔に住まう 若き精霊たちよ
汝らよりも なおいにしえにありし 盟約に基づき
我が望みを聞き入れ
我の提案せる契約によって
周りが沈黙に包まれる。
ルルーも、動かずにボクを見つめていた。
「我にその力のすべてを与えんことを……
ボクは目をぎゅっとつぶる。
「さらばだアルル
ボクにはその時見えた、シェゾの目にかすかな涙が浮かんでいて、ボクの名前をよんだときにつらそうな顔をしていたのを…―
そして、一瞬ためらって最後の呪文を唱えた
「エヴスオウブッ!!」
ボクにその魔法の黒い光が飛んでくる
「アルルッ!!」
最後に聞こえたのは、ルルーの叫ぶ声だった。

 

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