未完成な音色4〜九人の戦乙女〜

 

その後、一行はヴァレンシス城へ。

ブォン!

メリッサの空間転移で、全員ヴァルキューレ宿舎に転送された。

「はーあ、大人数はキツイわねぇ…」

「エミリア様、陛下に報告致しましょう」

「ええ。残りはアルルを宿舎へ案内して差し上げて。

 私もすぐに行きます。アルル、楽にしてくださいね。」

「う、うん…」

「それでは、カルミア」

「はっ」

エミリアは会釈し、カルミアも軽く頭を下げると行ってしまった。

「いってらっしゃーい!」

ビオラは手を振ってエミリア達を送る。

「よし、それじゃあアルルやったな。これから宿舎案内するから、

 ついて来てや。姫様の言うとおり、気楽にしていいで」

「サフィニアの言うとおり。私達といれば部外者と言えど大丈夫だから」

「ありがとうございます」

アルルがお礼を言うと、リアトリスは笑みを浮かべる。

(あっ、綺麗…)

ふと、アルルはリアトリスの笑みを見て思った。

肩で切り揃えられた白髪、眼鏡の奥の深い海のような青の瞳、

顔の作りも整えられている方。最初会った時は、無愛想で無口で

怖いイメージがあったが、きっと根は優しいのだろう。それに美人だ。

アルルは何となく、リアトリスと仲良くなれそうだと思った。

「あー、そういえばお嬢ちゃんには自己紹介していなかったわねぇ」

そこに割って入ってきたのはメリッサ。

「アタシの名前はメリッサ・ヴィルート。ヴァルキューレ隊唯一の

 攻撃担当魔術師よv」

メリッサはウィンクを飛ばして、媚びたように言った。

「メリッサはん…何で唯一なんや。

 ウチも一応、攻撃担当魔術師何やけど…」

「あーら、忘れていたわぁ。ゴメンナサーイv」

メリッサはわざとらしく、物質転移で出した扇子で口元を隠しながら

言った。

「あのね、サフィニアも雷系統だけど魔法が使えるの。

 けど、本業は体術使いなんだけどね。

 メリッサさんは四大属性と闇属性のほとんどの魔法を網羅してるんだ。

 たまに接近戦用にあの鉄扇使うよ。あっ、メリッサさんが本気になると

 杖出すんだ。かなり威力増して、一回とんでもないことになったし。」

「フ、フーン…」

ビオラがアルルにひそひそと説明をした。

アルルは苦笑し、メリッサとサフィニアの睨みあいを見ていたが。

と、

 

「おっ、帰ってきたな」

 

そこへ、、

大剣を背負った大柄な女性がやってくる。

短い茶髪に額に白のバンダナをしている。

「あっ、アズミさん!」

「よお、今回の魔物討伐はどうだった?」

笑顔で手を軽く上げ近づくアズミと呼ばれた女に、ビオラは喜んで近づく。

「大丈夫でしたよ!エミリア様、とってもカッコよかったですv」

「おー、そうかそうか…ビオラは相変わらずな。で、こいつは?」

アズミはアルルを指差して聞いた。

「エミリア様のお友達で、アルルさんって言います」

「ど、どうも…」

「へーっ、姫さんのお友達…オレの名前はアズミ・グレン。

 一応こんな言葉遣いだが、女な。ヴァルキューレのことは聞いてるよな?

 オレは副隊長をしてる。よろしくな」

そう言い、アズミはくしゃくしゃとアルルの頭を撫でた。

「へ…?」

「アズミ、この子そんな子どもじゃないわよ。サフィニアと同じ」

「いいじゃねぇかよ。ミズキもアオイもこうやっと喜ぶぞ」

「それはそれよ…」

リアトリスは少し呆れながら、小さく呟いた。

「で、これからそのアルルはんを宿舎に案内するんや」

「はあ?何で、案内するんだ」

「姫様がそう言うんや。全部話すんやて…」

ガシッ

アズミは突然サフィニアのことを引っつかむと、アルルを背にして

何やらひそひそと話し出す。

「全部話すってどういうことだ!?やっぱ、だってバレたの前提で

 だよな?」

「それしかあらへんって。姫様はアルルはんを本当の友達やと思って、

 敢えて言うんやないの」

「それもそうだな…」

「ここは温かく見守ろうやないか」

「…だな」

アズミとサフィニアはこくと同時に頷くと、気を取り直して後ろを向いた。

「まあ、事情はわかった!じゃあ、オレが宿舎まで案内する。

 どうせオレら全員の前で話するんだろうけどよ。

 つーわけで、宿舎へ行くぞ」

「はーい!」

「…」

「はいはい」

「面倒ねぇ」

アズミを先頭に宿舎へ向かう一行であった。

 

宿舎はとても綺麗だった。

さすが女だけの部隊というだけあって、整理整頓されていて、

清潔感に溢れている。

宿舎には二人、やはり女子が待機していた。

「お帰りなさーい」

「討伐どうでした!?」

わらわらと近づいて来たのは、東方の着物に似た装束を着た、短めの

黒髪の少女と、淡緑色の髪を二つに結った少女。

黒髪の子の方は髪に東方独特の髪飾りを付けている。

「ミズキ、アオイ、聞いて!エミリア様、かなりカッコよかったんだよ!!

 大きいクマみたいな魔物を槍の一撃で斬り伏せちゃって…」

ビオラは興奮気味に女の子達に話す。

「はいはい。姫様絡みのお話の前に、お客さんいるからそれぞれ自己紹介

 しとってや」

「あっ…サフィニアさん、この方は?」

淡緑の髪の少女はアルルを見て尋ねる。

「姫様のお友達やて」

『お友達!?』

すると、突然二人は畏まる。

「何でそないに驚くんや?」

「だ、だって!」

「エミリア様のお友達だから…」

「あっ、いいよ!そんな畏まらなくても」

アルルがそう言うと、二人は本当?と聞いた。

アルルはこくと頷く。

「それなら!ワタシ、ミズキ・クレサキと言います。

 東方出身で、隠密として所属しています」

東方系の少女は笑顔でそう言った。

「私はアオイ・ライラルと申します。弓を扱っていて、遠距離攻撃担当です。

 どうぞよろしく」

もう一人の淡緑の髪の少女は丁寧にお辞儀して言った。

「…そういや、フェンネルは?」

「アズミ、今日は占いの日」

「あっ、そうだった!」

アズミはポンと手を打った。

「あの、フェンネル…さんって?」

「フェンネルは宮廷占い師なのよv 貴族のお嬢様だけど、占いの腕と

 補助魔法系統を網羅しているっていう理由で異例のヴァルキューレ入り

 をした子よ」

メリッサがやはり媚びたような声で説明する。

「貴族の…ですか?」

「そう。まあ、ここは基本的に身分も生まれも関係ナッシングだわ。

 実力さえあれば入隊は出来るみたいなもんよ。

 あっ、でも女じゃないといけないわねv」

クスクス…と笑い、メリッサは浮遊呪文でも使ったのか軽く浮き、

足を組んだ。

「さてと、噂をすれば…」

メリッサが扇子で口元を隠してすぐ、

「あの、お客様でしょうか?」

後ろを振り返ると、そこには長い銀髪の大人しそうな少女がいた。

「フェンネル、占い終わったのか?」

「はい、滞りなく。災いの兆しもなく、平穏無事という占いが出ました」

「そっか」

少女はアズミと親しげに話すも、やはりエミリア同様上品さが見られる。

「こいつは姫さんのお友達で、アルルっていうんだ」

「どうも…」

「まあ、エミリア様の…フェンネル・オルディーネと申します。宮廷占い師兼

 部隊の援護担当をしております。以後お見知りおきを」

フェンネルは着ているローブの端を持ち、丁寧に会釈する。

アルルもそれにつられてお辞儀した。

「リアトリス、これでヴァルキューレは全員紹介したのか?」

「そう。後はエミリア様と隊長が来るの待つだけ」

「アズミさん、エミリアの報告ってどれくらいですか?」

「うーん…早い時は早いしな。まあ、ゆっくり待ってくれや。

 あっ、そこの椅子に腰掛けていいぞ。アオイ、お茶出してくれ」

「はい」

「あっ、あたしもー!」

「えー、だったらワタシもやる!」

アオイについていくビオラとミズキ。

「ビオラにミズキ!アンタら二人行かなくても十分やて」

「無理よ、あの子らは三人でいないと気が済まないのはわかってる

 でしょ?」

サフィニアは軽く息をつくが、その顔は笑みを浮かべており、

メリッサも仕方ないといった笑みだった。

と、

「今戻ったぞ」

カルミアとエミリアが戻ってきた。

「アズミ、留守中は何もなかったか?」

「ねぇぜ。そっちの報告は?」

「特に何も。相変わらずお父様は好きにしてやれでしたけど」

「アハハ…なるほどな。陛下らしいや」

アズミが豪快に笑う横で、笑みをこぼすカルミアとエミリア。

アルルはそれを見て、エミリアとヴァルキューレがとても仲がよいというか、

単なる近衛部隊ではないとすぐにわかった。

各個人、それぞれ様付けだったり姫と呼んでいたりするが、

それは呼ぶ上だけであって、言動などから九人は個人としてエミリアを

慕っている。

「それでは、アルル。お話いたしましょうか」

「え、あ…うん」

「エミリア様、私達は」

「いてください。重い空気の中でやりたくはありませんから」

「何なら任しとき!ウチが思い切り明るくしたるから」

「邪魔にならない程度にね」

騒ぐ気満々のサフィニアにちゃんと釘を打っておくリアトリスであった。

 

そして九人の戦乙女に囲まれて、経緯を語る時が来た。

 


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