未完成な音色3

 

「エミ…リア?」

「アルル…」

互いを見つめる二人。そこから先の言葉が出てこない。

「どうなされましたか?エミリア様」

そこへやってきたのは赤髪の女剣士。

女剣士はアルルに気づき、冷ややかにその深緑の瞳で見た。

「誰ですか?この者は…確かこの森一帯はメリッサの結界で

 誰も入れないはず。まさか、またメリッサがわざと術の効果を薄くして!」

「違います、カルミア。私達が入るより前に彼女がここに来てしまった

 だけ。彼女は私のお友達です」

「友達…?」

カルミアと呼ばれた女剣士はエミリアの言葉に意外な顔をした。

「エミリア、その格好…それにさっきの…」

アルルはエミリアから視線を外さない。カルミアもそれに気づき、

エミリアを見つめる。

「隊長ー!こっち片付けたでー…って」

「あれー?何でここに人がいるの??」

「………」

割って入るようにやってきたのは、青い髪の地方の言葉を話す女、

金髪をポニーテールにしたハンマー使いの少女、

さらに白髪で眼鏡をかけた槍使いの女。

「えっ、あ、こ、この人たちは…」

「…いろいろ話さなければなりませんね。ここで話しますわ」

エミリアは槍を一振りし、付いた血を払う。

その扱う様を見ても、かなり手練れているのがよくわかる。

「おい、貴様」

突然、カルミアはアルルに尋ねた。

「貴様はエミリア様を誰だか知っていて、今まで会っていたのか?」

「え、ボクは何も…」

「カルミア―」

それが癪に障ったのかカルミアは、静止するエミリアに目もくれず、

怒鳴り声で言う。

「ならば今言っておこう。この方は、我がヴァレンシス国第二王女、

 エミリア・クリスタ・ヴァレンシス様…その人だ」

カルミアが自分の正体を言い、それにエミリアは眉をしかめる。

「エミリアが…王女様!?」

アルルは驚いてエミリアを見た、確かに言われてみればそんな感じが

する。そうなると、あの上品な言葉遣いや雰囲気も全て合点がいく。

「ごめんなさい、いつかは話そうと思っていたんです。

 隠していて…本当に申し訳ないありません」

エミリアは深々と頭を下げた。

「え、エミリアー!そんな、いいよぉ〜!!」

「エミリア様、顔上げた方がいいですよ!お友達困ってます!!」

金髪の少女に促され、エミリアは顔を上げた。

「え、えっとね…ボク、エミリアがお姫様でも別に何でもないよ。

 だって、エミリアはエミリアだし…」

「おっ、ええこと言うやないか!ホンマ、ええ子やなぁ」

と、青い髪の女はアルルの頭を撫でる。

「ふえっ?」

突然頭を撫でられて、アルルはどう反応すればいいかわからない。

「…サフィニア、その子どう見てもビオラと同じくらいだけど」

「ええんや、ええんや。アンタはエライでー!」

白髪の女を無視し、青い髪の女はさらに撫で続ける。

「カルミア、とりあえず全員の自己紹介をしてから経緯を話しましょう」

「わかりました。サフィニア、ふざけるのもそこまでにしろ」

「はいはい」

サフィニアと呼ばれた女は撫でるのをやめると、

カルミアは軽く咳払いをした。

「私の名前はカルミア・クデス。

 ヴァレンシス特別近衛隊・ヴァルキューレの隊長だ」

「ヴァルキューレ?確か、戦乙女っていう意味だよね??」

「そうです。ヴァレンシスには古くから戦乙女の伝承があり、

 それに乗っ取り、代々の姫を守る女だけの特別近衛隊があります」

エミリアの説明に納得するアルル。

「以上、私の紹介は終わる。次はリアトリスが妥当か」

すると、白髪の女が前に出る。どうやら、この女がリアトリスのようだ。

「…私はリアトリス・フレイヌ。よろしく」

そう言い、ペコリとお辞儀する。アルルもつられてお辞儀した。

「リアトリスは相変わらず必要最低限しか言わへんなー。

 うちの名前はサフィニア・ルピナスや。以後よろしゅう」

青い髪の女、サフィニアは笑顔で言った。

「えーっと、あたしはビオラ・ハーリア。よろしくね!」

ビオラはアルルの手をぶんぶんと振りながら握手した。

「ボ、ボクはアルル・ナジャ!魔導師…見習いです」

見習いのところで、アルルは顔を赤くしてしまい、

それに思わず全員笑みをこぼす。

「…そういえば、メリッサさんどこですか?」

「どうせ、またどこかフラついてるに決まってる」

カルミアがキッパリ言うと…

 

「はあ?何ですって??」

 

どこからか高めの若い女の声が聞こえてきた。

ブォン!

空間転移独特の低音を伴って、現れたのは藍色のイブニングドレスを

来た、桔梗色の髪の女が現れた。

ドレスはかなり露出度が高い。アルルは彼女を見て、即座にルルーを

思い出した。

「メリッサ!貴様、今までどこをほっつき歩いていた!?」

「別にー。魔物退治なんて面倒だし、いちいち魔法なんて使って

 らんないわ」

メリッサはどこからか扇子を出して、涼しげに扇ぐ。

それを見て、カルミアは拳を握り締め…

「貴様、いい加減にしろっ!!」

突然、カルミアが剣を抜いてメリッサに襲い掛かった。

「わあっ!」 

「アルル、こちらに」

リアトリスが手を引き、エミリアの近くに来させられる。

ガギン!

金属音が響く。

メリッサは余裕で剣を受け止めた。…どうやら、あの扇子は鉄扇らしい。

扇子の割には二周りほど大きい。

「チッ!」

「フン」

カルミアの舌打ちに、メリッサは軽く笑う。

「エミリア、いいの!止めなくて!?」

「もちろん、止めます。でないと、私がここで何で戦っているか、

 いろいろわかりませんものね」

「エミリア様ー!どうやって止めるんですか!?」

ビオラがはしゃぎながら言うのにエミリアは、

「サフィニア、槍を持って」

「ええでー」

サフィニアに槍を持たせると、エミリアは印を結び、小さく呪文を唱えた。

(これ…高等魔法かな?)

小さいながらもおぼろげに覚えている呪文を聞き、アルルはエミリアが

高等魔法を唱えているとわかった。

そして、これはシェゾが言っていたことが本当だと示唆していた。

「このぉっ!」

「ハンッ!」

カルミアとメリッサの睨みあいは既に乱闘へなっていた。

エミリアは一気に完成した魔法を放つ。

 

「アイシクル・エッジ」

 

バキッ!

瞬間、二人の間に氷の槍が降り注ぐ。

「なっ!」

「くっ!」

そこは特別近衛隊・ヴァルキューレに属するだけあって、

二人は難なく氷の槍を避けた。

「ちょっと、アンタ!何やってんのよ!?」

「無礼だぞ、メリッサ!エミリア様、突然魔法とは何事ですか!?」

「撤収です。ここには長居は無用でしょう?やりたいのならば、好きなだけ

 おやりなさい。私はアルルに事情を説明しなければなりませんから」

『………』

それに沈黙する二人。

これに、サフィニアとビオラは必死に笑いを堪えていた。

(あの二人が…あの二人がエミリア様に…!)

(あーっ!思いっきり笑いたいんやけど、笑ったら殺される…!!)

それを横目に見ているのはリアトリス。

「エミリア様、ならばそろそろ…」

「そうですね。全員、撤収」

エミリアが手を前に掲げ、宣言した。

「はっ」

「了解」

「はーい!」

「よっしゃ、今日も終わりや!」

「あーあ、面倒だった」

カルミアを先頭に撤収するヴァルキューレ。

「アルルも来てください、ヴァルキューレの宿舎でお話しましょう」

「えっ…で、でも…」

「私のこと、知りたくないんですか?」

エミリアの言葉にアルルはすぐにはっとして彼女の方を見た。

彼女は笑みを浮かべていた。

誰が見ても、見入ってしまうくらい綺麗な笑みだった。

それを見て、アルルは言った。

「…行く」

こうして、二人はイルシアへと向かった。


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