未完成な音色2〜特別になる日〜

 

アルルとエミリアはすぐに仲良くなった。

近くの広場で、二人は自分たちのことを話していた。

エミリアはこの街の生まれで、両親を早くに亡くし、

舞姫をして生計を立てている。

夜は近くの酒場に頼んで、ちょっとしたショーをさせてもらっている。

そして何よりアルルが驚いたのは、エミリアはアルルと一つ違いの

17歳であること。

「エミリアって17歳なの!?」

「そうです。それが何か?」

「だって…ボク、20歳ぐらいだって思ってた!」

すると、エミリアは軽く息をついた。

「皆そう言いますわ。そんなに私は大人に見えます?」

アルルはこくこくと頷いた。

「でも、おかげで酒場に出入りできますから。感謝しなければですね」

「だね。そういえば、エミリア」

「何でしょう?」

「エミリアって言葉使いが丁寧だよね。どこかのお嬢様みたいだ」

それに一瞬エミリアはドキッとしたように見えた。

だが、それはあくまでも見えただけであって、アルルには微妙なところで

あった。

「…昔、父と母がいた頃はとても裕福でした。よく礼儀作法や言葉遣い、

 勉強とかもさせられて…結構これでも世間は渡り歩いているんですよ?

 でも、この言葉遣いのせいでよくお嬢様だって言われます」

「ふーん…」

と、アルルが目を逸らした視線の先には、銀髪に、黒いローブを纏った

男の姿が目に止まった。

「あっ、おーい!シェゾーー!!」

アルルは男の名を手を振りながら呼ぶと、男はそれにぎょっとしながら、

こちらへ歩み寄った。

「アルル!お前こんなとこで何やってる!?」

「ボクはたまたまここに立ち寄っただけだよ。そっちこそ、何しに来たの?」

「オレか?オレはただここの図書館はいい魔導書が多くあると聞いてきて

 だな…ところで、そこの女は誰だ?」

すると、エミリアは穏やかに微笑んで、

「エミリア・シーライトです。以後お見知りおきを」

丁寧に名を名乗った。

「エミリア、ここで舞姫をしてるんだって。すっごく綺麗な舞なんだよ!」

が、シェゾはそれにあまり反応せず、ただエミリアを見ているばかり。

「シェゾ?」

「…お前、魔術を習得してるか?」

アルルは突然エミリアに尋ねたシェゾに驚いた。

エミリアは、魔術を習っているなど一言も言ってない。

まあ…ついさっき知り合ったばかりで何なのだが。

「いえ、魔術など一度も習ったことなどないです。

 あるといえば…この扇での舞い方ぐらい」

エミリアはバッ!と扇を広げる。

その様を見てシェゾは、

「…そうか」

一瞥して言った。

「では…私は用事がありますから。アルル、また会いましょう」

「うん、またねー!」

エミリアは軽く手を振ると、去ってしまった。

「行っちゃった…明日もまた会えるといいな」

と、アルルがシェゾを見ると、シェゾは何やら考えていた。

「シェゾ?」

「あの女…どこかで見たことあるな」

「えっ?」

「何でもねぇ。オレは行くからな」

そう言い、シェゾは立ち去ってしまう。

「あっ、シェゾ!もう…あーあ、これからどうしよう?」

とてつもなく暇になってしまったアルルであった。

 

 

それから、数日が過ぎた。

エミリアとアルルは毎日のように会い、互いの周辺のことをよく話した。

アルルは仲間達のことを話した。だが、エミリアの番になると、

何故かしゃべらない。

「エミリア、どうして何もしゃべらないの?」

「いえ…私、ずっと一人でしたからそういう人いないんです」

笑って答えるエミリア。だが、その笑顔はどこか物寂しい。

「あっ、ゴメン…」

「いいんです、アルルが悪いわけではありませんし。

 それより、別のことを話しましょうか」

「うん」

それで話は元に戻ったが、アルルはエミリアが笑う時はいつも寂しげ

なのが気にかかった。

どうして、あんな笑顔をするのだろうか?

その笑顔を見て、ある人物を思い出した。

直感で、似たもの同士だと思った。きっと、会ったら仲良くなれるだろうと

アルルは思った。

それにしても、エミリアは綺麗だった。

容姿も確かだが、その雰囲気も美しさを物語っている。

彼女の場合、美しいより優しいの方が勝っていたが。

アルルの中で、エミリアは触れがたい印象だった。

何かこうして話してはいけないような…だが、それはすぐに打ち消される。

エミリアとは友達だと。わずかな時間だが、そう思っていた。

だから、こんなことを思うのはおかしいと、それを否定した。

 

 

彼女は彼女であった。

 

けれど、その印象を持ってしまう理由もすぐにわかってしまうこととなる。

 

 

それからさらに数日。アルルはイルシアからほど近い森で迷っていた。

理由は簡単で、魔法の鍛錬をしようと森に入ったのはいいが、

自分が歩いてきた道のりを忘れてしまったのだった。

「ここ、どこ〜!?」

アルルの叫びが虚しく響く。

「あ〜あ、ボクってドジだなぁ…」

アルルは俯いて、仕方なく歩みを進めていく。

歩いてから随分経つが、なかなか森は抜けられなかった。

「…それにしても、やけに静かだなぁ…」

アルルは森の不自然さに気づいたのは、それから遅くはなかった。

鳥の声も、動物の泣き声も聞こえない。

明らかにおかしい。

アルルは立ち止まって、ぐるりと周囲を見渡した。と、

『いたぞ、追えっ!』

若い女の人が大声でそう叫んでいた。

「なに!?」

ドォン!

すぐに木がなぎ倒される音がした。それも程近い。

ガギンッ!

同時に金属音もした。やはり近い。

『そっち!―様!!』

誰かを呼ぶ、少女の声が聞こえた。

「…魔物でもいるのかな?」

アルルは加勢しようと、声のした方へ近づく。

そこへ、

『アカン!一匹逃がした、抑えてや!!』

何やらどこかの地方の言葉で叫ぶ高めの女の声が。

ガサッ!

瞬間、アルルの目の前にクマのような魔物が現れる。

「わあっ!」

あまりにも突然すぎて、魔法の発動も間に合わない。

魔物がその鋭い爪を、アルル目掛けて振り下ろす。

(ダメかっ!?)

アルルは全てを覚悟した。

が、

 

ザシュッ―

 

そこへ舞い降りたのは、金の髪の戦乙女。

黒い軍服を着て、その手には槍を持ち、

彼女は魔物の胸を大きく切り裂いた。

魔物は崩れ落ち、戦乙女は一撃で魔物を切り伏せてしまったのだ。

アルルはその様を呆然と見ていた。

そして華麗に着地し、こちらを見る戦乙女の姿に釘付けになった。

「大丈夫ですか…っ!?」

声を詰まらせる戦乙女。

何故なら…

 

 

戦乙女は、舞姫ことエミリアだったのだ。

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