未完成な音色

 

―何時かこの音色が 旋律となった時

 それは どんな曲を奏でるのだろうか?―


オーガスタ大陸西南に位置する魔術国家ヴァレンシス。
大陸内でも他諸国を圧倒する魔術水準と文化レベルを誇るこの国は、
‘策士’と評されるザフィゲル・フェナ・ヴァレンシスの元で、
繁栄の一途を辿っていった。
その首都イルシアに、かの少女が訪れたことから物語は始まる…



異国の街を彷徨ううちに、何処からか旋律が聞こえてくる。
それはどこか懐かしく、そして哀しい。
澄んだ歌声が旋律を奏でていた。


歌声を道標に、見知らぬ路を辿っていく。
そこには腰まである長い金髪と、赤いドレス風の衣装をなびかせ、
舞姫が舞っていた。
優美な舞は人々を惹きつけ、少女もまたその中の一人になっていた。
手には花を模した鈴が付けられ、刻みのよいリズムを生み、
回る度にふわりとドレスのスカートが浮かぶ。
やがてカツッと靴の音が鳴らし、ピタッと決めた。
途端拍手が沸き起こる。
少女もまた大きく拍手をしていた。
舞姫が優雅に一礼する。
やがて観客が銀貨を舞姫の近くに投げ、
ポツポツと帰っていく中、少女は去らなかった。
ふと、舞姫と少女の目が合った。
金髪に蒼い瞳、白い肌に整った顔立ち。
とても綺麗な人だ、と少女は思った。
「どうしましたか?」
「い、いえ…何でもないんですけど…
 その…舞、とても素敵でした」
しどろもどろと答えていると、舞姫は微笑む。
「ありがとう。そう言われるととても嬉しいです」
その笑みはやはり綺麗で、思わず見惚れてしまった。
「ねえ、あなた。名前は?」
「あ…ボクはアルル。アルル・ナジャです」
「アルル…いい名前ね。私はエミリア、よろしくね」


こうして、少女と舞姫は出会い、

ここから、全てが始まったのだ…

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