全てが終わった後で・aⅢ

ガン！と、大きな音はしたが、その音は地面と剣とがぶつかるときの音だった。

「だー！ちょこまかと面倒なー！」

頭に完全に血が上っているフレアは、デタラメに剣を振り下ろすが、もちろん簡単に避けられる。

「メガレイブ！」

ラグナスの放った電撃は、一瞬マンティコアを怯ませたが、その威力が自分の防御力を下回ると判ると気にしなくなった。

「フレイム―――！フレイムぅ――――！！ファイヤーブラストぉぉ――――――！！！」

「うわあ！」/「グワァァ！！」

完璧に頭にきていたのか、フレアはデタラメに炎の呪文をデタラメな威力で放った。それには味方であるはずのラグナスまで巻き込まれそうになった。

「あ、危ないですよ！フレアさん！！」

「やかましい！戦闘に安全も危ねぇもあるか！！」

正論のようだが、どうにも乱暴である。

「だーも―――！！」

またもや剣は空を切った。

しかし、ラグナスははっきりと見た。

と(・)て(・)も(・)嬉(・)し(・)そ(・)う(・)に(・)口(・)元(・)を(・)吊(・)り(・)上(・)げ(・)た(・)フ(・)レ(・)ア(・)の(・)横(・)顔(・)を(・)。

それを確認したや否や、突然マンティコアの動きが止まった。

「………ガアア！？」

まるで金縛りにでもあったかのように、完全に動かなかった。

「グアァ！ガア！」

しかしその様は、蜘蛛の糸に絡まった虫を思わせた。そしてよく見ると、赤い細い糸のようなものが見える。

「はっはっはっはっはっはっはっは！！これぞアタイの必殺技、『焔縛糸』！炎をもとに創った、安全性、耐火性、強度に優れた極細の糸！密かに張ってたんだよね～」

そう言って高らかに笑ったが。

ビュン！

「とわ！」/「うわ！」

マンティコアが、何かを飛ばしてきた。

木の幹に刺さったそれは、鋭い毒針だった。

「あ、尻尾封じんの忘れてた」

そうぽつりと呟くフレア目掛けて、再び毒針が放たれ―――なかった。

「グワアアァァ！！」

突然、マンティコアの右目が潰れ、その後すぐに左目も潰れた。

すぐに後ろを振り向いたフレアの目には、普通見えるはずの無い距離にいる、ライフルタイプのパースエイダーを構えたキノの姿が映った。

「キノちゃんナイスー！」

キノに向けて親指を立てるが、もちろん見えていない。

その時後ろを振り返っていたフレア目掛けて針を飛ばそうと、マンティコアは尾を上げた。

「させるかぁ！！」

ラグナスはそれよりも早く切りつけ、尾を切断した。

「ラグナスもナーイス！！よーし、どいてな！」

すぐさまマンティコアから離れたラグナス。それを確認してフレアは、剣を構え、手を前方に突き出した。

「蒼き光は猛火の証！！」

何の意味かはわからないが、剣を図形でも描くかのように振り回す。

「竜の息吹に勝るとも劣らず！！」

そして、その言葉通りの呪文が放たれた。

「ブレイズ！！！」

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「なんだ！？あの光は！？」

びっくりしたキノが正直な感想を漏らした。

「あれがこの世界の『マホウ』ってやつだね、きっと。あの蒼い光はきっと1500度以上の熱をもっている炎だね。温度とか燃やすものとかによって色は変わるから。ほら、キノも学校で習わなかった？キャリアカーなきとか」

「……リアカー？」

「そうそれ」

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「竜の息吹(ドラゴン・ブレス)………」

ラグナスは、その凄まじい熱量を持った青い光に、かつて見たドラゴンの息吹を連想していた。

否、その炎の勢いは、ドラゴンの息吹をもすでに超えていた。

その炎が大地を一撫でしただけで、前方十数ｍが、焼け野原に変わった。

「チェック・メイトってか！」

そうにっこりと笑ったフレアは、最初に感じさせた威厳を保ちながらも、とても親しみ易い雰囲気が漂っていた。

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「……………………………何の用だ？次元冥王……………いや、兄上」

半分割れた仮面を被った男は、自分の背後に現れた、自(・)分(・)と(・)同(・)じ(・)顔(・)を(・)し(・)た(・)男(・)に向かって話しかけた。

「久しぶりだな、弟よ。実は頼みがあって………」

「皆まで言うな。大方、その横にいる『蟲』に関してのことであろう？」

仮面の男は、黒い男の横にいる、い(・)る(・)は(・)ず(・)の(・)な(・)い(・)黄金の蝶を指差して言った。

「その通りだ。この娘の願いが私をここに呼んだ」

「……………アルル・ナジャだな、その『蟲』は………………。それで、頼みごととは？」

「この娘に、『仮初の身体』を創ってくれ」

「……………………今何と言った？」

仮面の男は、背後の男に聞き返した。

「今、何と言った？『仮初の身体』だと？ふざけるな！たとえその力があろうとも、死者をそのまま転生する死者蘇生術はタブーであろう！！たとえその身体が仮初であろうと、死者を現世で生かすことなどできぬ！！」

「無理は承知だ。だが、私としても………」

黒い男は、金の蝶を―――アルル・ナジャの魂を愛でるような目で見た。

「私としても、あの娘の願いをかなえんことには、また眠れんのだ」

仮面の男は、仮面の下の瞳でじっと自分の兄を見つめた。その瞳に映ったのは、確固たる決意を秘めた、兄の夜闇の瞳だった。

「…………………………わかった。だが、『仮初の身体』は半年しかもたぬ。それを肝に銘じておけ。できたらとりに来い」

「わかっている。スマンな」

「気にするな、兄上。たとえ時と運命を司る神とはいえ、再生に関しては俺かもしくは―――」

仮面の男が言葉を切った。地面に魔法陣が浮かび上がったからだ。

「そろそろおいとまするよ。それじゃ、またな」

「じゃ、またな」

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「よく来たな、『異界の勇者』。『異界の旅人』よ。ようこそ『定められし娘の墓標』へ」

仮面の男は、感情の無い声で、ラグナス一行に話しかけた。

「まずは……『異界の勇者』、汝には、この墓標に花を手向けて欲しい」

そう言われたラグナスは、促されるまま、男の背後の棺を見た。

「……………！！！！これ、は………………！！！！！」

クリスタルの棺には、花嫁衣裳を着た、アルル・ナジャの亡骸が横たわっていた。

「汝が最後だったのだ。『異界の勇者』よ……」

男はそう言いながら、ゆっくりと仮面を外した。

そこから現れた顔は、驚くほど整っていて、美しく、しかしどこか悲しげな漆黒の瞳を持っていた。

「汝がここを訪れて、これで最後だ。アルル・ナジャがかつて出会った者は皆、ここを訪れた。俺もいくらか手伝ったのだがな」

そう男が話しかける中、ラグナスは嗚咽を必死で押しこらえていた。そのラグナスの目の前で、棺が青白い光に包まれ、やがて光は収まった。

「俺がかけた術が解けたのだ。アルル・ナジャの知人が全員ここを訪れるまで、遺体を保存する。汝で……いや、お前で最後だったんだ」

すでにラグナスは話を聞いていなかった。男が口調を変えたことにも気が付かなかった。ただ、アルル・ナジャがとうの昔に死んでいた事実の重さに耐えるのが精一杯だった。

だが、その糸はすでに切れ、涙と叫び声が、その場を蹂躙した。

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アルル・ナジャの棺を土に埋め、墓標を再び建て直し、花を添え、埋葬を終えた一行は、墓の前で話し始めた。

「で、なんでアタイを呼び寄せて、わざわざそんなことをしたんだ？プラウダ？」

男の名はプラウダだった。

「お前が司るは炎だ。『過去の風』『現在の水』『永久の土』『宰の雷』そしてお前も含めた『五柱神』の斬り込み隊長『未来の火』、『紅蓮のフレア』だからこそなのだ。お前なら、ラグナス・ビシャシに真実を告げるべきかどうかを見極められると思ってな」

フレアはやれやれとため息をついて、親指を立てた。

「よかろう。汝、ラグナス・ビシャシ、そして、キノと相棒のエルメスに、真実をつげよう。ただし、俺が教えられるのは限られた真実だ。そしてもう一つ。このことは他言無用だ」

「わかった」

「わかりました」

「言っちゃうカモ」

「―――その時はおいて行きますので」

「言わない言わない誓います誓います」

プラウダは、まずラグナスにアゾルクラクをかえした。

「では、話そう。世界とは、例えるなら一つの部屋なのだよ」

プラウダはいきなりわかりにくい例を挙げた。

「その部屋の主は、その部屋を好きなように創ることが出来る。だが、その家の主が決めた決まりごとには、逆らうことは出来ない」

「つまり、今あんたたちが呼んでいる『世界』と『次元』は、無数の部屋の一つに過ぎず、その外側に広がる世界は数多存在するってことだ」

フレアが少しわかりやすく補足する。

「そしてその『世界』と言う名の部屋と『次元』と言う名の家を創ったのは、他でもない俺だ」

『…………………………はい？』

「すごいねー、お兄ちゃん神様なんだー」

緊張感の無い、エルメスの声だけがはっきりと聞こえた。

「正しく言えば、俺は十六代目だ」

「今年いくつだっけ？アンタ？」

「五十億は千年くらい前にとうに過ぎたと思うがな…………」

「それ、五億年くらい前から言ってるような気がすんだが」

そして、すこしの間唸った後、

「てか、この会話、三億年くらい前からやってる気がするんですけど」

「まあ、それは置いといて」

プラウダは話を戻した。

「その『次元』が、現在不安定になってきているのだ。揺らぎ、捻れ、混ざり合い、狂い、正しき流れを刻まなくなってきている」

「そうなると、どうなるんですか？」

キノが聞き返した。

「簡単に言えば、今回みたいなことが起こり易くなる。だが、もっとも厄介なのは、お前らもここに来る途中に出会ったであろう、『幻獣』が解き放たれてしまうことだ」

「『幻獣』てのは、神話の世界に滅んだ魔物。だが、その子孫は姿を変えて、今も世界のあちこちに散らばっている。それらの太古の姿をしたもの。それが『幻獣』だ」

その後もプラウダは、雲を掴むかのような話をした。

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「これで話は一通り終わった。質問があれば一つだけ受け付けよう」

「ボクの世界にも、その、『幻獣』が出てくるかもしれないんですか？」

「その可能性はある。が、君の世界は極々稀だ。気にしなくてもいい」

「神様はこれから何するのー？」

そう尋ねたエルメスを見たプラウダは、しまったといった雰囲気で天を仰いだ。

「あー……とりあえず、裏で次元を支えることにする。あとは、気に入らん魔女からあるものを頂く」

「気に入らない魔女？」

ラグナスが聞き返した。

「そうだ。大切なもののために、大切なものを売り渡した、それをな」

そしてプラウダは、すこしの間、黙った。

周りの人たちも、その雰囲気に、話しかけることが出来なかった。

しばらくして、プラウダが口を開いた。

「それで、汝は聞きたいことはないのか？『異界の勇者』」

そういわれたラグナスは、すこし考えてから―――

後書

やっと掻き終わった。

しかし、やっぱりアルルやシェゾをほったらかしにはできそうもなく、さっそくアルルが魂だけで登場。

今後はどうなることやら……………はあ。

さて、2月もイベントはもうなくなったし、次は何を書こうかな？

次回は、シェゾかアルルが出てきます。どっちでしょう？（オイオイ）

じゃ、また会いましょう。

できれば、世界が終わる前に。