百鬼夜行

 

 

パチパチ………パチパチ………

焚き火が静かな音をたてて燃えている。

焚き火の近くに、一人の男が、寒そうに座っていた。

オレンジ色の光を反射する、黄金の鎧を纏っているその男の名はラグナス・ビシャシ。

ラグナスは焚き火に近くの枝を数本くべた。

いくらくべても、悪寒は止まらなかった。

「う〜……寒………。今頃になって、フレアさんのありがたみが分かるとはなぁ………」

そう言って、大きくため息をついた。

 

その日の昼頃………

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「こいつぁでけーな。気をつけろよラグナス!」

「わかってます!」

二人は大型の幻獣「ワイバーン」と戦っていた。

フレアは空を飛ぶ相手を余裕で攻撃していた。が、ラグナスは得意の接近戦に持ち込めず、あたふたしていた。

そこへワイバーンのブレスがきたものだから……

「う、うわあああああ!!」

「ら、ラグナス―――!!」

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「まさか吹飛ばされるとはなぁ……へっくし!!」

大きくくしゃみをし、また焚き火に枝をくべる。

「フレアさんのおかげで冬なのに寒くなかったし、狩りが上手かったから山の中でもサバイバルできたし………その上、防寒具と食料全部持ってもらってたしなぁ………」

つまりラグナスは、真冬の一月の夜を、鎧とその他わずかな衣類で過ごさなければならなくなっていたのだ。

ぐぎゅるるる〜………

「はははは……昼間の戦闘で体力も無いし…………情けないなー、俺」

そうぼやいていた時だった。

 

「ラグナス……さん………?」

 

「誰?」

ラグナスは振り返った。そこにいたのは……

 

「ウィッチ!?」

「ラグナスさん!?」

久しぶりの再会だった。

「え?ラグナス?」

「ルルーまで!?いったいどうしてこんな所に!?」

「それはこっちの台詞よ!アンタ!いままでウィッチほったらかしてどこほっつき歩いていたのよ!!」

「え?えーと、話せば長くなるけど……ごめん、今は話せない」

「なんでよ」

「本当にごめん、話さない(・・・・)んじゃないんだ。話せない(・・・・)んだ」

ラグナスは、必死になって説得した。

「そりゃあ、話せないことばかりじゃないけど、一番重要なところは絶対に話せない。許可が下りないと」

「そんな物、どうだっていいじゃないのよ」

「そういうわけにはいかないさ。今、この場にはいないけど、でも、きっと話したことはすぐばれる。ばれたら、俺も、ウィッチもルルーも、無事でいられなくなる」

「ははーん、口止めされてるわけね?そんなやつ、心配しなくてもこの私が―――」

「違う!」

ラグナスは大声を出した。

「あんな人達相手じゃ………誰も勝てない…………わかるんだ、一度だけ、戦ったことがあるから……」

ラグナスは、初めてプラウダと会った時のことを思い出していた。

圧倒的な実力差。攻撃を受けながらも、一切動揺しないその余裕。そして、その男よりも格下の神、フレアの実力を目の当たりにし、プラウダの底知れぬ実力を理解した時の心境を。

「俺が黙っているだけでいいんだ。それだけでいい………」

「ラグナスさん………」

気まずい沈黙。ラグナスの、神に対する「信頼」と、その裏の「恐怖」とが、初めて表に出てきた瞬間だった。

神に対する恐怖。そう、人は本来、神を恐れているのだ。

「わかったわよ……喋りたくなきゃそれでいいわ。とにかく、喋れるところは喋ってもらいましょうか」

「ああ、話すよ。話せるところは全部」

ラグナスは、創造神、幻獣のことは上手くはぐらかして、これまでの経緯を話した。

「…………と、いうわけで、俺は今、シェゾを探しているのさ」

「なるほどね〜。そのフレアってヤツと一回戦ってみたいものだわ」

殺されるからやめたほうがいい、と、ラグナスは言いたかったが、やめた。

「それなら私たちと目的は一緒ですわね」

「え?」

「アンタと一緒で、私たちもあの変態を追っているのよ。まったく、カーバンクルと手乗り象ほったらかして、どこほっつき歩いてんだか、あの変態は。まあ、変態のことだから、どこかでどっこい生きてるんでしょうね」

「私は、ルルーさんのシェゾさん探しを手伝う代わりに、ラグナスさん探しを手伝ってもらっていたんですの」

「そうだったんだ………」

「そうそう、あの変態が行方くらましたせいでこの私がどれだけ苦労していると………」

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

パチパチ………パチパチ………

フレアは焚き火の炎を通して、その様子を見ていた。

自分と一緒にいた時は見せなかった顔をするラグナスを見て、ふと寂しい気持ちになった。

「ふん………まあいいさ。アタイらはどうせ…………いや、まだ決まったわけじゃないか」

フレアはひとりぶつぶつと喋っている。時折、何故かきゅうりをかじる。

それを繰り返していた。

「にしても………楽しそうだな、あいつら」

時々ふざけたり、思い出話に花を咲かせていた。

「まあ、いいさ。どうせいつもの一期一会。戦友は武器と神々で充分………」

それでも、やっぱりひとりは寂しいのだ。

フレアはきゅうりに塩をかけ、またかじった。

がさ。

音がした。

フレアは後ろを振り向いた。

気配は一つではなかった。

「…………きゅうりならやらんぞ」

フレアは食べかけのきゅうりを火にくべた。

 

それが戦闘開始の合図だった。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

翌日、ラグナスたちは近くの村へとやってきた。

一行を見た村人が、一斉にたかってきた。

「な、な、な―――」

「お願いです、旅のお方!この村をお救いください!!」

お願いしますお願いしますの大合唱だった。

「た、たのむ、話を聞くから、す、少し離れて―――」

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「人が腑抜けになってる?」

「ええ、最近村のものが、森から帰ってくると皆腑抜けになっていて……歩いたりはするんですが、まるで赤ん坊のようで………」

実際被害にあった人を見てみた。呆けた老人のような顔をした青年がいた。

「原因も分からず、とにかく森に近づかないようにしているのですが、どういうわけか、ふっと村人がいなくなって、森から腑抜けになって帰ってくるんです」

「人が腑抜けに……それもいつの間にかいなくなって戻ってくる……」

三人が考え込んだその瞬間だった。

「カッパカッパラッタ」

『へ?』

「こ、この声は………」

「カッパカッパラッタ。カッパナッパカッパラッタカッテキッテクッタ」

「フレアさん!?」

ラグナスはすぐさま外に出た。

それに続いてルルー、ウィッチも飛び出す。

そこにいたのは―――

「よう、ラグナス」

何故か菜っ葉を食べているフレアだった。

「何やってるんですか……フレアさん?」

「朝飯だ。お前も喰うか?」

「………遠慮しときます………」

ラグナスは丁重ならぬ低調で断った。

「ちょっと!さっきのへたくそな歌はあんたの仕業!?」

遅れてルルーとウィッチも出てきた。

「歌じゃなくて早口言葉みたいなもんだ。すももももももももものうち、とか」

「いや一文字多いから」

ラグナスの突っこみのレベルが上がっていた(本人としては嬉しくもなんとも無い)

「にゃんここにゃんこひまごにゃんこ、山椒は小粒でもピリリと辛いっと」

そう言って、何故か菜っ葉に山椒を振りかける。

「何さっきから訳の分からないこと言ってんのよ!?この幼児体型わ!」

ラグナスは、ウィッチを連れて逃げ出した。

「え、ちょ、ラグナスさん?!」

よりにもよって、ルルーがフレアに喧嘩を売ってしまった。

暴れ出す可能性もあるので速攻で逃げたのだ。

いや、本来のラグナスなら逃げなかっただろう。

ラグナスの中の、フレアに対する恐怖が次第に表面化してきたのだ。

しかしラグナスの予想とはまったく違う展開が起こった。

何を思ったのか、フレアは上着を脱ぎ始めた。

「な!?………あんた何する―――」

「黙って見てろ!!」

その声に威圧されたルルーが閉口する。

フレアは上着を脱ぎ捨てた。その下には、さらしで押さえつけられているが、ルルーに匹敵する体型があった。

「身長低いからって見縊んじゃねぇ!!アタイを嘗めたやつぁあの世行きようぉ!!」

どういう意味であの世に行くのかは分からない。が、女としての闘争心とでも言うのだろうか、男勝りなフレアにも、女性らしい所(なのか?)があった。

「あんた……それ証明するためだけに脱いだって言うの………?」

「おうよ!バカにされて黙っているほど気ぃ長くないんでね」

そういう問題でもない。

話がどんどんややこしい方向に向かっていることを悟ったラグナスが仲裁に入ったおかげで、この場はギリギリ丸く治まった。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「で、フレアさん、あの時歌っていた歌は……」

「だーから早口言葉だっつの。単刀直入に言う。今回の幻獣は『河童』だ」

『カッパ?』

疑問符を浮かべる二人。ラグナスは飲んでいたお茶を噴出していた。

「きたねぇなおい」

「げほっ!げほっ!ふ、フレアさん、言っちゃっていいんですか!?」

「?何をだ?」

「幻獣のこと!」

「いいだろ別に。アタイが許す!でー、幻獣っつーのはだなぁ………」

 

 

「なるほど……ここ最近やたらと強い魔物が増えてるのはそれが原因なのね……」

「そういうこった。河童は個々の能力は高くねぇ。神通力もそれほど強力じゃない。ただ数が多くてね」

「それなら、私の魔法で一掃してやりましょう!」

「おう、たよりにしてるぞ!」

フレアとは対象的に、テンションが下がっているのはラグナスだった。

自分の苦悩はなんだったのだろうか。どこまでも拭えなかった神への恐怖はなんだったのだろうか。

あっけからんとした、軽い性格のフレア。それとすぐ打ち解けた仲間達。

そして、その正体を知るが故に、混乱する自分。

全てが、ラグナス自身を狂わせていた。

「やつらは夜行性だ。おそらく夜、幻術がなにかで人を連れ出して、しるこだまを取っている。それをつけて、やつらの住処を見つける。そしたらその場で一網打尽といこう。それまで時間があるから、ここで一度解散だ。夕方、またここに集ろう」

「分かったわ。それじゃあ夕方に、ここで会いましょう」

ルルーはそう言って部屋を出た。

「ラグナスさん、私たちも行きましょう」

「ああ、ラグナスは残ってくれ。少し話がある」

立ち上がろうとしたラグナスは、一瞬心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

「ウィッチ、先に行っててくれ」

ラグナスは出来る限り平静を装った。

ラグナスは感じていた。フレアが何を話そうとしているかと。

「…………………」

「さて、ラグナス。あんたに質問しよう。絶大なる滅びが明日、訪れる。お前はどうする?」

それは、以前もした質問だった。

「俺は……………」

何と言えばいいのだろうか。

あの時とは同じ言葉は言えない。その絶大な滅びに等しき力に、今ラグナスは屈している。

「俺は…………………―――痛!」

額に突然、痛みが走った。

いつの間にか、フレアにデコピンされていた。

「バーカ。お前バーカ。あんな言葉で暗示にかかりやがって。シャキっとしろシャキっと!」

「暗……示?」

「ああそうさ。あの後アタイがいった言葉で、アンタは知らず知らずのうちに絶望という名の泉を深く見積もっちまったのさ。人なんて所詮、気の持ち方次第でいくらでも変わる」

「……………………」

「アタイは五柱神一人間が好きだ。お前みたいに、誰かのために自分を犠牲にするやつはほっとけねぇ。だから言う。絶望なんて、笑顔と気合で吹っ飛ばせ。真の絶望ってのはな、覚悟すりゃするほどきついんだ。大切なのは、いつも前を見ることだ」

「前を………?」

「光と闇が一緒なのは常識。光だけの世界で闇は存在せず、闇だけの世界で光は存在せず、そしてその二つの世界では、闇も光も無い。絶望があるから希望があるんだ。『絶対』なんて、この世にゃありゃしない。……二つあって、初めて『光』と『闇』は存在できる。だから、恐れるな。アタイも、プラウダも」

「…………………………」

神と人間。相容れないからこそ、受け入れる。

ラグナスは、やっと完全に理解できた。神が何のために存在しているのか。

どう付き合えばいいのか。

「………ありがとう、ございます」

「て、ことで、改めてヨロシクな!ラグナス・ビシャシ」

そういって、手を差し伸べた。

「……よろしくお願いします、フレアさん」

その手を、ラグナスはしっかり握り締めた。

「そのさん付け、なんとかなんねーの?」

「ははは、何故かフレアさんは呼び捨てし辛くてね。まあ、気にしないでください」

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

そしてその晩、ラグナスたちは河童の後をつけた。

ウィッチが術にかかったふりをして、見事河童の巣を見つけることに成功した。

しかし問題は別にあった。

 

 

「……………オイオイ、河童だけじゃないのかよ……………」

呆れたような声で、フレアが呟いた。

なんとか逃げ出したウィッチは、河童以外の敵から攻撃を受けていた。

そこには、河童以外にも、様々な魑魅魍魎がいた。

首が伸び縮みするもの、巨大な男、動き回るもろもろの道具。

「さしずめ百鬼夜行か。はっ、笑えね―――」

ドクン!

「―――が!?」

突然頭に走った激痛で、フレアは膝を突いた。

「フレアさん!?大丈夫ですか?」

「あ、ああ、なんでもねぇ……それよりこいつらだ」

「大丈夫なわけが無いでしょう!顔が真っ青です!!」

「うるせぇ!いいから戦え!!余計な心配している暇なんて無ぇ!!」

フレアに押されて戦闘を開始するラグナスたち。しかし、フレアの頭痛は酷くなるばかりだった。

「畜生……!畜生……!こんな時に…………!!」

痛む頭を極力無視して、フレアも剣を構えなおす。

 

 

やがて、彼らはバラバラになり、魑魅魍魎の群れへと身を投げていった。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

ルルーは巨大な金棒を避けると、すかさず敵に向かって拳をつき出した。

「はあぁぁ―――!」

嫌な音と共に、金棒の持ち主は崩れ落ちていった。

間髪いれずに、ルルーは上空を舞う布切れのようなものに向かって攻撃する。

「スピンブレイド!」

「氣」の刃が布のようなものをズタズタにする。

赤黒いものが上から降ってきたが、それを気にする間も無く次の行動に移る。

三匹の河童の槍をかわし、そのどてっ腹に向かって掌を突き出す。

「破岩掌!!」

ルルー得意の必殺技が決まり、河童は倒れた。

しかし今度はすばやく動く小動物が襲ってきた。

三匹、それぞれ別々の武器を持っていた。

ルルーはすばやく攻撃をかわすが、頬や足が何故だか切れる。

「ちぃ!」

一瞬だけ思考をめぐらせたルルーは、すかさず三匹に向かって攻撃する。

「パワーストライク!」

爆発させた「氣」の力によって、三匹の動きが鈍る。

すかさずルルーが蹴りを放つ。三匹まとめて蹴り飛ばし、近くの木にぶつけた。

しかしまた、不定形な化け物が現れ襲い掛かってくる。

「くっ、あんたたち、ハムスターみたく増えすぎよ!」

弱音の代わりに軽口を叩いた。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「ミルキーウェイ!」

箒から出た星屑が、河童を数体弾き飛ばした。

しかし、肝心の大物には効果がない。

「くっ……やっぱり、メテオでないと……」

しかし、ウィッチはメテオを使わない。いや、使えないのだ。

メテオは広範囲を攻撃する。もし見方に当ったら……その不安が、発動を躊躇わしていた。

襲い掛かる敵から逃れるため、ウィッチは空に逃れた。

「な……!」

ウィッチの今の目線と同じ高さに、頭があった。

驚いていると、どんどん大きくなっていく。見上げども見上げども、一行に背伸びが止まることはない。

「見上げるな!見下げろ!」

「!」

ウィッチは突然の声に驚き、しかしそのまま従った。

するとそこには大男はおらず、小さな狢が一匹いた。

「フレイム!」

ウィッチはすかさず狢を攻撃した。

「今の声は………フレアさん?」

フレアもまた、この妖の大群の中で戦っているのだ。

「………負けてられませんわね!」

そしてウィッチは次の呪文を繰り出す。

メテオを放つ瞬間を探りながら。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「ライトスラッシュ!」

腕だけの化け物を切り裂いた後、切りかかる骸骨の攻撃を受け止め、間髪いれずに切り返す。

ラグナスならではの攻撃だ。

しかし上から巨大な蜘蛛が襲ってきた。反撃できる状態ではなかったので、横に飛び出して避ける。

そのラグナス目掛けて、今度は空を舞う首が襲い掛かってくる。

「ちぃぃ―――!」

ラグナスは驚異的な身体能力で首を叩き落し、大蜘蛛の頭部を突き刺した。

『ギャイィィィィ―――――!』

蜘蛛の悲鳴を聞く間も無く、次の妖怪が襲い掛かってくる。

「ヘブンレイ!」

その全てを、光の攻撃呪文で撃退しようとするも、如何せん、数が多すぎた。

攻撃を逃れた物の怪は、しつこく攻撃してくる。

「メガレイヴ!」

再度攻撃を仕掛けるラグナス。しかし、敵の数は減らない。

「くそ………どうすれば………!」

ふと、フレアの言葉が頭をよぎった。

 

『大切なのは、いつも前を見ることだ』

 

「前を…………!」

ラグナスは、もう迷わない。

前だけを見て、過去に縛られることなく、恐れずに踏み出せる。

たとえ無謀と言われようとも。

「はああぁぁぁぁぁぁぁ―――――!!」

そしてラグナスは、魑魅魍魎と群れへと駆け出した。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「畜生がぁぁ―――――!!」

頭痛で視界が霞む中、フレアは相変わらず桁違いに強かった。

巨大な鬼を一瞬で灰にし、襲い掛かる生首を五部刻みにし、餓鬼の群れを焼き尽くした。

「畜生……!畜生……!こんな時に……よりによってこの世界で………!」

フレアは知っていた。頭痛の原因を。

そしてそれは、何度も経験した痛みであることを。

自分にとって、最悪の事態を告げることを。

「畜生―――――!!」

 

 

 

あたりは圧迫するような気配で満ち、その場にいるのがとても息苦しかった。

その圧迫感をものともせず、廃墟に十字架を立てる、黒装束の謎の一団。

黒く大地に浮かび上がった、禍々しい気配を放つ謎の紋章。

そして、その紋章の真ん中に立つ、青い男―――

 

 

 

すべてが走馬灯のように、フレアの頭の中をよぎった。

それは、自分が最も見たくなかった光景だった。

しそて、この光景が、今まさに―――

「――――――――!!」

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

「え?」

気がついたら、ラグナスたちはフレアによって、魑魅魍魎の群れからすこし離れた場所に来ていた。

「な、何が……」

「それより、これで遠慮なく奴らを叩きのめせるわ!いくわよ!!」

ルルーに促されるまま、皆群れに向かって攻撃を放つ。

 

「闘氣放撃!!」

 

「メテオ―――!!」

 

「ドラゴニック・スラッシュ!!」

 

「火翼滅焦嵐!!」

 

 

それぞれの大技は、群れを一瞬にして消し去った。

その半分以上は、フレアの攻撃によるものだった。

ラグナスはここで、フレアがいつもと違うことに気がついた。

背中に、巨大な炎の翼が生えていた。

「フレアさ―――」

「来るな!!」

呼び掛けた途端、フレアが叫んだ。

「な……どうしたんですか、フレアさん……?」

「来るな!それ以上……近づくんじゃねぇ!!」

「フレアさん……」

「二度と……あたしの前に現れるな………」

フレアはそのまま、どこかへ飛んでいってしまった。

フレアが飛んでいった方向から、少しずつ朝日が差してきた。

「…………な、なんなのよ、一体……」

「………フレアさん……………」

 

「自分を『あたし』っていっちゃうくらい、焦ってたんですね………」

 

ラグナスの心はまだ、フレアを信じていた。

しかしそんな心境をよそに、ゆっくりと、ことは始まっていた。

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

バチン!バチン!バチン!バチン!

音を立てて、鎖が切れていく。

拘束が次々と解けていくのを眺めながら、男はそっと呟いた。

 

「地獄の始まりだ……」

 

 

全てが始まる。

 

 

幕引きのための物語を奏でるために……。

 

 

 

And to the next story……

 

 

 

 

 

 

 

後書とお詫び。

 

 

先ずは年内に書きあがったことを喜ばせていただきます。しかし年末だってのに暗い内容だなぁ。希望無さげなラストだし。

とにかく、今回はこのシリーズのラストに向かっての話です。

フレアが見た光景は?最後に出てきた男は?

そして、ラグナスたちとアルルとシェゾの運命は?

その全ての答はあと二話でだす予定です。

で、肝心のお詫びです。

フレアを脱がしました。本っっっ当にごめんなさい!

でもー、フレアってさらしの上に特攻服とかきてそーな感じだったんでー(言い訳)。

あとは、「背は低いけど着やせ体質」をどこでだそうか迷っていたので(無駄な裏設定)。

とにかく、申―――っしわけない!

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