雨音の中で

 

神といえども万能ではない。

 

プラウダは、その能力が大きすぎるが故に、特殊な条件がそろわなければ、世界に対しての干渉値が限られている。

自らを「拘束」し、「自由」と「時間」を犠牲にして、世界への干渉する値を増やすことができる。しかしそれでも、世界の微妙なバランスを崩さないところまでである。

今現在、プラウダは干渉値を大きく超えてしまい、自ら独房に入っている。

力を制約する鎖と、数々の拘束具。それを身につけ、虚無な時間を過ごす。

ふと、プラウダの耳が、小さな音を捉えた。

無の世界での、久しぶりの感覚。いくら精神が強靭なプラウダとて、何も無い世界はきつい。プラウダはその音に意識を集中させた。

 

それは雨音だった。

 

 

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「やまねーな、雨」

そうポツリとつぶやいた。

「そうですね……」

大きな杉の下で、フレアとラグナスは雨宿りをしていた。

フレアは先ほどの戦闘で剣についたオーガの血を雨水で流している。ラグナスも雨水で剣や鎧を洗って、布で水気を取っている。

………しとしと………しとしと………

静かな雨音だけが響く。

「なぁ、ラグナス。あんた明日、世界が滅びるって知ったらどうする?それも、抗うこと叶わぬ滅びだ」

「いきなりどうしたんですか?」

「いいから答えろ」

刀身をさらしで拭きながら、乱暴にそういった。

「さあ…………………たぶん、最後の最後まで、俺らしく生きると思います」

「つまり、あがくのかい?絶対なる滅びに対して?」

「ええ。最後まで、自分の足で立っていたいんです、俺」

「………………………………………………立派だな。だが、覚えとけよ」

フレアは大仰な仕草をしながらいった。

 

「真なる絶望とは、それを覚悟したものに程大きくのしかかる。それは、飲み込まれるほどの深淵だ。己すら消える場所。それが『終わり』なのさ」

 

………しとしと………しとしと……

雨は相変わらず、かすかな音を響かせていた。

 

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

ザアァァァァァァァァァァ………

少女は一人、洞窟から出てきた。外は大雨だった。

「……………………」

長い間闇の中にいたためか、雨の感覚が無償に懐かしかった。

感覚すら消える、闇。少女はつい先ほど、その闇と戦っていたのだ。

 

そして、今、ここにいる。

 

「…………………」

少女のもう一つの望み。

そのための体を得た少女は、濡れるのも構わず歩き出す。

「………………………………………シェゾ!」

最後。そう、これで本当に最後。

最後の「ごめんなさい」。最後の「ありがとう」。

 

そして永遠の「さようなら」を言うために。

 

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

 

雷鳴と雷光が、天を切り裂き、地を揺らがせた。

大雨の中、その男は数十匹の狼のような幻獣「ヘルバウンド」を相手に戦っていた。

水に弱い幻獣とはいえ、その男が放ったサンダーストーム(雷の呪文)により、大半が消滅した。

男はなおも攻撃の手を緩めない。

 

数分後には、男は全ての敵を葬り去り、一人で雨に打たれていた。

「………………………………………………」

男は目を瞑った。

 

 

―――――うかんだのは、嵐すらも吹飛ばす、太陽のような笑顔だった――――

 

 

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 

 

無償に外に出たくなった。

雨が降っていたけど、無視して駆け出した。

走って、走って。

どこまでも走って。

離れ離れになった魂を見るのがつらくて。

大泣きした顔を見られるのが嫌で。

泣くことしかできない自分が悔しくて。

気がつけば、雨が雪に変わっていた。

自分が己が名のままの力を持っていたからだった。

「ユキ。どうしたんだ?」

振り向けば、拘束具を引きずったままのプラウダが、そこにいた。

なんでもありません!」

涙で声が変だった。

「すまん……お前に苦労ばかりかけて」

「…………違うの……」

もっと、誰かに頼っていいのに。

誰かは、もっと頼ってほしいのに。

「いつもいつも、一人で突っ走らないでよ!バカ!バカバカ!!」

「イタ!す、すまんすまん」

そうやって、傷つく君を見たくなくて。

そうやって、誰かが傷つくのを見たくなくて。

「すまんがユキ、イレギュラー(特別干渉条件が発生した時にこう言う)だ。兄を起こしに行ってくれないか?」

「……はい!」

 

 

だから、自分も走り出す。

みんなで、走れば楽しいとおもったから―――――

 

 

お・わ・り♪

 

 

 

 

季節解説

 

今回、全員描かれている時期が違います。

プラウダ&ユキ

クロノスが落っこちたときの話だから、八月の時の話。ユキさんがこっちに送られた理由は、プラウダがまだ完全に行動できなかったからです。

ちなみになんで動けなかったというと、フレアを送り込んだからです。

神一人分を長期間干渉させるために、自分で自分を拘束しました。

 

ラグナス&フレア

であったのが十二月。時期はそれから一週間後といった所。

オーガも幻獣ですが、戦闘シーンはカット。

 

アルル

こちらも一月くらいと、冬のお話。

クロノスがもういない、プラウダに体を貰ったなど、以前の登場から結構状況が変わったご様子。

そのうち詳しい話を書きます。

て、言うか今躓き中(ヘタレ)。

 

シェゾ

音楽ネタだったりする。

しかし曲調は明るく、所々微エロ。くらーい作風とは似ても似つきません。

ただ、歌詞とはリンクしてます。

雨に打たれて、闇の中で見たのは―――愛する人の幻―――

こっ恥ずかしい!

 

でわでわ

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