思いは強く 星の空
瞳は捉える 真鍮の月
闇の向こうに 何を見てる……?
もう戻らないと、分かっているのに……
月の大通り 6〜前編・アルルと記憶と〜
悲しい……哀しい……
誰かの声で、ボクは目を覚ました。
此処にいるのに 思いは届かない 願いは届かない……
「誰、誰なの!?」
辺りはさっきとちがう場所。青白い光が一面に漂ってる。
海の中から太陽を見上げたみたいな所だった……妙な浮遊感が、気持ち悪い…
此処まで来たのは 貴方が一人 私は 遠い過去の人……
「遠い、過去…?」
オーラリーの光の中にいたときみたいに、気配も姿も見えない。
ただ、この青白い光から、異常なまでに哀しいという思いが巡ってるのがわかった……。
「シェゾは……どこ?」
居ない、彼が居ない。急に怖くなった。
彼に会いたいの……? ほら、すぐ傍にいるじゃない……
すっと、目の前に現れたのはシェゾ。煌めく銀髪、蒼い瞳。
「シェゾ……」
手を伸ばして、触ろうとした。だけど、触れない。届かない……
遠い夢を追ってるみたいで、妙にリアルで……
届かぬ思いは 闇の中…星の陰……
歌い始めた声は、哀しく響く。
同じ場所にいるのに…思いが届かないのは……何故?
その瞬間、辺りの景色が変わった。
美しい緑、森の中。丁度春、新芽が生まれるその頃の景色……。
聞こえてきたのは、笑い声。精霊二人のものだった。
「メル、メル!こっちにね、昨日ベリーを見つけたの!」
「オーラリー、まってよぉ!!走るのはやすぎーー!!」
背の高い、人間で言うなら丁度17,8歳のライトブルーの髪をもつ精霊が走っていく。
そのうしろを、人間で言うならとっても幼いアメジストの髪の精霊が追い掛ける……。
―メルと、オーラリー??―
ここは、過去の記憶。月の記憶……
聞こえてくるのはさっきの声……
その世界の中を、精霊二人は駆けていった。思わず、耳を疑った。
―メルと、オーラリーが、まだ此処にいたときの記憶……?―
その世界の中、二人は本当に幸せそうで。無邪気な少女だったんだと、思った。
戻りたいと願っても…鏡は 同じものは写さない……
ぽつりと、さっきの声が歌ったのを、ボクは聞いた。
―キミは…一体……?―
次の瞬間には、また違う場所。小さな湖の木の上に、さっきの精霊達が見える。
きっと、季節は夏……。二人がいる気の緑は燃えていて……日の光が、眩しく照らした。
「メル、仕方がないの。命は、果てがあるのよ……?」
きっと、オーラリーだろう。オーラリーが、アメジストの髪を撫でる。
サラサラと、梢の音。まじって聞こえるのは小さな嗚咽……
下に目を移せば、小さなお墓が見える。
それに供えられた、白い花。さされた、白い羽根……
「…大丈夫、きっと無事に空に帰っていったわ…。」
一つの命が愛しいのは あの月が照らすから…
またさっきの声が歌った。
哀しい、哀しい。伝わってくる思いは、ボクの心を締め付ける。
「オーラリー、あの小鳥は…空で…幸せになれる?……メルの傍で…幸せだったかな…?」
途切れ途切れ、嗚咽まじりで。
それに相づちを打って、ただアメジストの髪を撫でるオーラリー……
―これが……月の記憶…?―
次に目を開ければ、ススキ野原……
一面の金色が目に眩しかった……
「オーラリー、見てみて!!ほら、あそこ!うさぎさぁん!」
ススキの陰から出てきたのは、メル……無邪気な笑顔を、振りまいて。
金色の野原に、アメジストの髪がなびく。あぁ、綺麗だな。って、そう思った……
「あっ!!ホント、かわいいねぇ……メル、よく見つけられたね…!」
二人の精霊はしゃがんで、うさぎを見て。
金色の波の中、ボクも同じようにうさぎをみた。
―こんな記憶が、月の記憶に……?―
「メル、ほらもう帰ろう。今日は遠くまで来たから、早く帰らなきゃ…」
もう帰る道はない あるのは闇に漂う月……
歌う声。何度聞いても哀しい旋律。
すべての幸せだと感じるものが、無に戻っていく瞬間……
―何故、キミはこんな記憶をボクに見せるの……?―
返事は こない……。
瞬きしてみれば、また違うところ。
雪がちらちらと降ってくる。銀の光を発しながら……
「オーラリー、寒い……。」
メルが、雪の中でそうぼやく。オーラリーは何を見てる?
刹那を見つめる、オーラリーの目に映っているのは……。
広い空間、ただ広い空間。そのうらに何かを見ようとしてるように見えた……
「オーラリー?」
メルが心配そうに呟く。オーラリーはすぐ我に返って、メルに微笑みかけた……
「大丈夫、なんでもないの。」
雪がちらちらと、舞い落ちる中。僕は思ったあの人を。
二度と巡り会わぬ 二度と帰れぬ……
刹那に散りゆく 想いと願い……
また歌を歌うその声は。シェゾを思い出させて哀しく響く。
それと同時に、ふと思う。……この声の主は、この声の……
―メル……ちゃん?―
音もなく、その世界が崩れた。
月の大通り 6〜後編・シェゾと銀雪〜
「どうやら飛ばされたようだな……?」
あの旋律が聞こえたあと、俺は何故か此処にいた。
白の空間。何もない。ただ、無が横たわっているだけで……
月の記憶の世界……銀の光をあびて 今夜……
響き渡る声はさっきの旋律を歌っていたものだ。
記憶の世界へ 白銀の世界へ・・・
俺は、目を閉じた。聞こえてくるのは、誰かの声と……
「お母さん、ほらほら、落ちてくる!!」
目を開ける。聞こえてくるのはガキの声……
空から降ってくる、雪を見て。
「綺麗ね……シェゾ、見てご覧、少し積もってきた…」
カナリヤのさえずるような声。これは、……俺の母さんだ……。
隣にいる、ガキは……
「ねぇお母さん、今日は、妖精さん達こないのかなぁ?」
ガキが言う。俺の母親を、自分の母親を見上げて。
雪を掴もうと、手を空に伸ばしてる。手に触れては、消えてゆくのに……
「きっと、くるわ。シェゾ、ほらそこ……。」
母親が指さした方向を見る。草の茂みに雪とまじって、小さな妖精が見えた……。
「あっ!ホントだ!!……ねぇ、ここへおいで……?」
ガキが手を妖精に向かって差し出す。直ぐに妖精達は、軽やかに飛びながらこちらへと向かってくる……。
そう、昔は願えばなんでもできた。
両手を差し伸べれば、虹だってつかめた。
「シェゾ、この雪は貴方みたいね……。」
母親が、ガキに微笑んだ。銀説の光が反射して、美しかった。
「この雪は、貴方みたいよ……。ほら、貴方の髪にそっくり……。」
すと、さしのべられた手は、ガキの髪を撫でる。
「お母さん、くすぐったいよぉ……?」
クスクスと微笑むガキは、そのあとも妖精と戯れて遊んでいた。
強い風が吹いた。
思わず目を瞑って……
次に見えたものは……
俺が一番見たくなかったものだった。
「お母さん!!お母さん!!」
泣きながら、声を振り絞るガキの姿。
その隣には、母さんが居た……。雪の上、大量の血を流しながら……
「シェゾ・・・。」
それでも微笑みかける。ガキが怖がらないように、恐れないように…。
その傍をクルクルと回る妖精が居た。しきりに、光り輝く……
「妖精さん、俺の持ってる物なんでもあげるから、お母さんを助けてよぉっ!!
俺、もうなんにもいらない!!わがままも言わないから!!」
ガキが、泣き叫ぶ。母親はそれでも微笑む。
はっとするような微笑み。人はこんな風に微笑むことが出来るのかと……。
「シェゾ、何も怖くないの……。」
穏やかな笑顔だった。そこいらを深紅に染めて。
もう何度も見てきたこの光景が、やけに目に痛かった……。
「お母さん!ダメッダメッ!俺をおいていかないでよっ!!」
必死に声をかける。だけど、もう遅いと分かっているのか……
それ以上、何も言わなかった。ただ、大粒の涙が頬を伝い落ちるだけ……
「シェゾ……ほら、雪が降ってる…。銀雪……。」
我が子をあやす母親の目は、愛情という色を持っていた。
俺が忘れた、愛という感情。もっとも美しく、もっとも醜い……。
「シェゾ、貴方の髪は雪の贈り物……私の、宝物…。」
母さんは、雪に身体を預ける。
妖精が、静かに無に去った。力を使い果たしたのだろうか……?
きらめき消えるその姿は、嫌という程脳裏に焼き付く……。
すと、空を見上げた。振ってくる銀雪、深紅に染まる雪……。
今でも覚えてる。この時、俺はもう闇の魔道使だったんだ。
回りからはじき出され、恐れられ、もっとも醜いものとして生きていた。
だけど。それでも。
母さんだけはいつも俺を見てくれた。いつも通りの笑顔で俺を迎え入れてくれる母さんを見たとき、一瞬だけ。本当に一瞬だけ。
――闇の魔道使になんてならなければ良かった…――
そう思ったんだ。
そのあとも母さんは俺を守ってくれた。人の目を気にせず、本当に俺を愛してくれたこと。
今になって思い出す。大怪我をしたときも、母さんは一度も俺を責めたりなんかしなかった。俺のせいで傷付いても、一度も責めなかった。
ただ、俺が人を殺したときだけ、その時だけ。
俺を抱きしめて離さなかった。やけに胸が痛くて、泣いたことも覚えてる……。
こんな雪のように積もっていく感情を、俺は知らない……。
ふと我に返れば、ガキは雪の上で座り込んでる。
母親から渡された、自分の髪と同じ指輪をもって……。
指輪をもつ手も、涙で濡れる。
「……生きてね…。」
降りしきる銀雪の中、母さんは雪へと溶けた……。
もう戻らない、もう二度と戻らない幸福な日々が……
溜息をついた。
何故今となってこのようなものを見せられなきゃならない?
暗い闇に、重りをかけて沈めておいた記憶なのに……。
もう二度と、愛など忘れてしまえるように……
「なんのつもりだ、メル……。」
その瞬間。
バックにガキの泣き声を残しながら、世界が銀雪へと砕け散った……。
………続く………
後書き(なのか?)
どうも、空でございます!ふぁー、6書けたぁ!
シェゾとアルルが遠い過去を見に行きます。
アルルは、オーラリーとメルの記憶を。
シェゾは、遠い自分の過去の記憶を。
ガキって、誰のことかわかりますよねっ!?(当たり前だ
……次回、やっとメルが出てきます!!
はぅ〜、だけどまだ次は中半戦(だから何それ)なのです!!
でわでわ〜w次回も頑張ります!! 空