鏡に映るは 闇の鼓動
水鏡に響くは 月の光
眺めて壊して 涙をこぼした……
月の大通り 5
「……ルル!アルル!」
遠くでシェゾの声がする、ボク月の大通りへこれたのかな……?
「……起きろってば、ホレ、見てみろ!」
「ン……?」
目を開けると、銀の光に照らされるシェゾの顔。
「うわぁ…………。」
ボクは目を疑った。
銀の真っ直ぐ続く道。そして、それのまわりはカラスの羽より黒い闇。
オーラリーは雪のような道だと言ってたけど、一言では言えない。
月の光をそのままあびた、白銀の道。朝露みたいに光り輝く。
「ボク達…これたんだね……。」
「あぁ………。」
ボク達は月の大通りに来た。
この何処かに、一人、メルちゃんが居るんだ。こんな闇の中に。
いくら、道が綺麗でも。こんな所に一人きり。
辺りの闇は、本当に美しく綺麗だけど。それでも、きっと寂しいだろう。
此処にあるのは月の道、闇。そして、星と月だけ……
「本当に、月が近いな……。」
シェゾはずっと月を見てた。何処か悲しそうに…
心がズキンと、悲鳴を上げた。
「シェゾ、行こう。ここは綺麗だけど、ゆっくり眺めてなんか居られないよ…。」
何処かで一人、メルちゃんが居るのに。
もう七年もここに一人で。
「あぁ、早く見つけてやらねぇとな……。」
そういって振り返ったシェゾの銀髪が、眩しく光る。
蒼い目は、やっぱり何処か悲しそうで。今にも壊れるんじゃないかと思った。
「ほら、行くぞ。」
そういって、差し出された手。
「うん……。」
彼の手を握ったとき、ボクはちゃんと笑えてたのだろうか……
「見つからないね……。」
もう何時間も何時間も、歩き続けた。だけど、何も変わらない。
白く続く、白銀の道。暗い暗い、闇という色。
「一体、何処へ行ったんだろうな……。」
歩きながら、シェゾが呟いた。
いつの間にか星が出てた。暗い闇に転々と光る、金の色。今にも落ちてきそうで。
「メルちゃん……寂しいだろうね…。」
「あぁ……。」
「独りぼっちで泣いてないかな……。」
「…………。」
ボクはあれからシェゾと目を合わせられない。
回りの闇は、黙ってボクとシェゾを見てる。月は煌々と光り輝いて。
何も聞こえない。無音の世界。
「シェゾ……。」
不安が募る。一体帰れるのだろうかとか、見つからなかったらどうしようとか。
「きっと、帰れる。見つかる。大丈夫。」
あぁ、この人はボクの心を見透かして居るんだろうか。
欲しい言葉は、全て彼がくれた。
「うん、見つかるね…。」
そう一言だけ言ったら、何故か涙が一筋だけ頬を伝った。
闇の世界、彼と二人でただあるく銀の道。光り輝く金の光。寂しく光る銀の光。
何一つ音のしない世界。こんな場所に七年間……
「シェゾ、三人で帰ったらきっと、みんなで遊ぼうね……?」
気を紛らわしたくて、さっきから先のことばかり話してる。
「あぁ、あの泉のそばでなら、他の精霊達も出てくるだろうしな……。」
シェゾは、返事をするときボクの目を見る。その度に、一つずつ安心していって。
心についてた重りが一つずつ外れるみたいで。
「そうだね、ボクでも仲良くなれるかな…。」
「なれるんじゃねぇか……?」
「そうだね、なれるね……。」
先のことばかり。目の前のことからボクは逃げてるんだろうか……
歩いても歩いても。いくら立っても何も見えてこない。何も聞こえない。
もしかしたら、ボクもシェゾも無駄なことしてるんじゃないかなって…
「アルル、もしかしてここあるいててもなんにもなんねぇんじゃないか……?
だから……今度はこっちへ行こう…。メルもこっちに消えたらしいから……。」
シェゾが指したのは暗黒に染まった闇。此処へメルちゃんは消えていった……。
「そうか!……怖いけど…だけど、行こう。」
もう此処まで来たからには引き返すわけにはいかない。
「大丈夫だ。俺を誰だとおもってんだよ……。」
そういってシェゾは笑った。本当に、本当に微笑んだ。
「俺は、闇の魔道使なんだぜ?」
「ふふ……そうだったね。なら、大丈夫だね……。」
思わず、笑った。シェゾの笑顔をみたら、一気に張りつめてたものが緩んだ。
回りの闇も、長く続く銀の道も、全てが光輝いた気がした。
「シェゾ、絶対に絶対に、手を離さないでね。」
離すわけがないと、分かってたけど。それでも聞くんだ。
「離すわけねぇだろ。こんな場所で、バラバラになったらたまんねぇもんな。」
そういって、シェゾがまた笑った。月明かりに照らされて、とても綺麗だった。
「ほら、早く行くぞ。メルがまってんだから。」
そういって、シェゾは闇に足を踏み入れた。もう怖くない。
「手、離したらじゅげむだからねっ。」
笑いながらついて行く。
闇に足が触れたとき、やっぱり一瞬ためらった。だけど……
「大丈夫だから……。な?」
シェゾは振り向いてそういってくれた。
それみたら、一体何を怖がってるのかなって、そう思ったんだ。
シェゾはそばにいてくれるから。メルちゃんもきっと見つかるから。
「うん、大丈夫!シェゾ、ありがとうね……。」
「あぁ……。」
いつもの返事を返したシェゾは、やっぱり少し照れたのかな…?
闇の中は、思ってたほど怖くなかった。むしろ気持ちいいと思った。
遠ざかっていく月の大通りを何度も何度も振り向いて眺めた。
きっと帰ってこれるから……。
自分に言い聞かせて、前に進んでいった。
「シェゾ、月がどんどん近くなるね……。」
「本当だな……。もしかしたら、触るくらい近くに行けるかもしんねぇな……。」
「そうだね……。」
ボクとシェゾは月に向かって進んでる。闇の中、ただ光に向かって。
「オーラリーの話だと、メルが走っていったのが月の方向だしな……。」
メルちゃんは、なんのためらいもなく、一番好きだったオーラリーを振り切って、この闇の中へ走っていった。
若い精霊に、そこまでさせるほどの何かが聞こえたんだろう。あの銀の道で。
「メルちゃん、居るかな……。」
一体何度そういったのかな。
「居るだろ。何処かに。」
一体何度その返事を聞いたのかな……。
「アルル、見てみろ。月が……。」
そういって顔を上げると、目の前に銀褐色。思わず立ち眩んだ。
「綺麗だねぇ……月の大通り、精霊達が毎年来たがるの、ボク分かってきた…。」
「あぁ、俺もだ。」
なんて幻想的な世界。夢を見ているみたいで。
「だけど、ここに一人は寂しすぎるよね……。」
メルちゃんは何年もこの世界にただ一人だと、一体何度思っただろう。
「すぐに、一人じゃなくなる。」
シェゾはきっぱりと月を見ていった。俺たちが今探してんだから……と見つけて連れて帰るんだから。って。
変化が起きたのは、そのすぐ後だった。
「シェゾ、シェゾ!何か聞こえる……っ!!」
ボクの耳に聞こえてきたのは、悲しい旋律。思わず、耳をふさいだ。
それでも、聞こえてくる。聞きたくないのに。
見つからない 手に入らない
「……!?アルル、手、離すんじゃねぇぞっ!」
過去の記憶は 戻らない……
シェゾの腕にしがみつく。早く、早く……消えてなくなって…!
まるで月のように まるで星のように……
「くそっ! オーラリーがいってたのはこの事かっ……!」
シェゾが闇を睨む。シェゾにも聞こえてるんだ、この悲しい旋律が…
ボクは、目を開けているだけで精一杯だった。
数多の命が消えるように……
「メル!居るなら返事しろっ……!!」
シェゾの声が遠ざかる。身体が、闇に浮いたみたいで……
このまま、闇に心を委ねてしまえば、きっと楽だろうな………
それでも それを望むのならば……
ただ、シェゾがボクに叫んでるのが見える。ボクの腕を掴んでいるのが見える……
月の記憶へ 月の道……
―ねぇシェゾ……シェゾ…ボク、眠いんだ……―
………続く………
後書き
さてと、五話終わった〜!!中半戦(何それ)始まったー!
これ書いてるとき異常に眠くて、何度も何度も書き直しながら書きましたです。
じゃぁ、寝ろって話か……(汗
とりあえず、ここからは「メル探し」が始まります!
六話はあんまり関係ないのかもしれないけれど。(は!?
では、またお会いできたらお会いしましょう〜♪(Σ…… 空