壊れたガラスは 翡翠色
繋ぎ止めるは 数多の色に
いつか戻ると 涙を流した……
月の大通り 4
『そして、気が付けば私だけが…ここに戻っていたのです……』
相変わらずの光の中、ボクとシェゾはオーラリーの話に聞き入った。
まるで、過去の時を見てきたみたいで。
『メルは、きっとまだ……月の大通りで……』
光の中に響くオーラリーの声が、悲しく反響する。
相変わらず、外は月が照っているのだろうかと、ボクはふと思った。
「それで、それが一体俺たちになんの関係があるんだ……?」
……シェゾってばこんないい方しかできないの?
メルちゃんはきっと、まだ月の大通りで一人さまよってるだろう。それなのに……
「ハッキリ用件を言えば、手助けしてやらんこともないが……?」
……前言撤回。ボクはビックリしてシェゾをみた。
シェゾが人に手を貸すだなんて……
「んだよ……。」
シェゾはボクを見て、一言そういった。気のせいかな、シェゾ照れてる?
じゃなくて!!今は、メルとオーラリーのことが……
『…いいのですか……?』
光に響き渡るオーラリーの声が、少し明るくなった気がした。
それと同時に、光までもが明るさを増して。
「何度も言わせんな。まぁ、そうゆう事なら仕方ない。それに…、」
シェゾはそこまで言ってボクを見た。そして、ちょっと微笑んで…
「このお人好しが、いやだとは言わせないしな。」
ボクは目を見開いてシェゾを見た。まさか、彼の口からこんな言葉が聞けるなんて夢にも思ってなかった。シェゾの口から出た言葉は、ボクを優しく包み込む。
『わかりました、アルルさんも行ってくれるのですか……?』
「当たり前だよっ!メルちゃんを捜してこればいいんでしょう?」
そう。言わなくても分かってる。オーラリーはきっと、メルをおいてきたこと後悔し
てるんだ。オーラリーは優しい精霊。
『ハイ……ごめんなさい…私が、私がいければ……』
「何いってんだ。メルがもしも帰ってきた時、此処に誰も居なかったらどうなる?」
シェゾが、オーラリーの言葉を遮って言う。
横でかすかに笑いながら、彼は、なんて優しい言葉を言えるんだろう。
「そうそう!メルちゃんが帰ってきてオーラリーさんも居なかったら、きっと悲しいよ!」
光の中、何か温かいものが溢れてきた。
『ありがとう…ありがとう……私は…闇に足を取られて、気が付けば戻っていました。
それ以来、月の大通りに入れないのです…。何度も何度もメルを探しに、月の大通りへの道を通りました。だけど、もう…あの世界へは入れないんです……』
オーラリーは優しい精霊。そうきかされていたけど、それが本当だと改めてわかった。
闇に足を取られて、メルちゃんが消えていく様を目に見て。どれだけ苦しかったろう、どれだけ悲しかっただろう。どれだけ、怖かっただろうか……
それでも、この精霊は探しに行こうとしたんだ。何度も何度も、月の大通りへと足を運んだ。
「大丈夫、大丈夫。ボク達、きっとメルちゃんを連れて帰ってくるから。」
何故か、涙がにじんで視界が揺れた。
「あぁ、わかった。今まで…苦しかったな……。」
シェゾが、泣いてるボクの肩に手を置いて、光へ向かって、話しかける。
シェゾは、優しい。今の一言はきっと、オーラリーにとって、どれだけ嬉しいものだったろう…
『あ、ありがとう…ございます…。メルのこと…頼みますね……。』
「それで、月の大通りへはどうやっていけばいいんだ?」
しばらく、シェゾは僕を泣かせてくれて。その間ずっと、光は溢れてた。
目をつぶっても、白い光が見える。
『月の大通りへの道は、この光の向こうなんです。私が、ずっと守ってきました…。』
オーラリーはそういって、メルが帰ってくるのを待ってたんです。と、少し微笑んだ気がした。何も見えない光の中、オーラリーの心は、真っ直ぐボク達に響く。
『行って頂けるのは、本当に嬉しいんです。だけど……』
その先は言わなくても、ボクもシェゾも分かってる。
帰ってこれないかもしれない。
メルちゃんが、いる場所が何処かも分からない。その上、メルちゃんを見つけたって、帰ってこれないかもしれないんだ。
元はといえば、精霊や妖精がお祭りの時だけはいる場所。何も分かっていない言ってみれば危険なところなのだ。
そこへ人間が入って、無事に帰ってこれるのか。まず、月の大通りへと飛んでいけるのか。
「やってみねぇとわかんねぇだろ。」
シェゾはアッサリいった。シェゾはこういう人だ。
「そうそう、大丈夫。帰ってこれるよ!」
ボクも、オーラリーにいった。本当は不安だけど。だけど、シェゾが居る。
きっと、大丈夫。
『ごめんなさい、厄介なこと頼んでしまって。ただ……』
「なんだ?」
『貴方達が、どれだけ優しいか、どれだけいい人達か、精霊はしってるんです…。』
ボク達のことが、精霊達に伝わってる……?
「ねぇ、それってどうゆう事?」
『貴方達が、どれだけ真っ直ぐでいい人達か、精霊の間では有名なんです…。そうじゃなかったら、あんなに妖精や精霊達は集まりませんよ…。』
だから、貴方達を呼んだのです。と、オーラリーはそういった。信じられるから、と。
そういえば、今日この泉に来る前。ボクとシェゾは二人して、妖精に囲まれて月を見
ていたんだ。
シェゾなんか、ボクが来る前から妖精と一緒にいたんだ。
「精霊達には…借りがある。昔……」
シェゾはそういって口をつぐんだ。
『闇の魔道使さん、貴方の事はよく聞きます。優しい方だと。貴方のお母様のことも。』
「そうか……。」
なんのことかボクには分からない。シェゾのお母さん……?
「シェゾ……?」
「あぁ……お前にはいってなかったな。俺の母さんは、精霊達と仲が良かったんだ。
昔、母さんが病気になったとき、俺は精霊達に力を借りた……。」
『そう、とても素敵な方でした。シェゾさんと、同じように優しくて……。』
「そうだったんだ…。だから、シェゾも精霊達とあんなに仲が良いんだね…。」
そういって、さっきからずっと握ってるシェゾの手をもっと強く握った。
俺は優しくなんか無い……。とか、そういって照れてるシェゾが、なんだか眩しかった。
「で、とりあえず、シェゾ行こうよ!朝が来る前に、早く行こう!」
タイムリミットは、明日の朝まで。それまでにメルちゃんを捜さなかったら…
次に月の大通りへと行けるのは来年になる。
「あぁ…。必ず、連れて帰ってくる。」
そういって、歩き出すボクとシェゾを光が更に包んだ。
『私は、此処にいますから。ずっと、貴方達の目を通して見てます…。』
オーラリーは、光の中から、そういった。優しい、だけど何処か悲しい声で。
『信じてます…。アルル、シェゾ。きっと帰ってくると。』
「任せといて!大丈夫、きっと帰ってくる!帰ってこれるから!」
そういって、シェゾの手をもう一度、握りなおして、覚悟を決めた。
「シェゾ、きっと帰ってこよう!メルちゃんを連れて。」
そういって、笑った。
「あぁ、当たり前だろ。」
シェゾもそういって、笑った。
少し、涙が出そうになった。
シェゾが居るから大丈夫。シェゾと居れば、きっとなんでもできるから。
目の前の光が、強くなった。言われなくても、此処だとわかった。
『空間のゆがみ』月の大通りへ続く道。
もう一度だけ後を振り向いて。一瞬、オーラリーが歌っている姿が見えた。
綺麗だった。すらりと伸びた白い手足、長い真っ直ぐなライトブルーの髪。まるで、光り輝く海のようで。それに合う白く輝く真っ白の服。泡のようだった。
顔は遠すぎて分からなかったけど、きっと綺麗なんだろうな……。
「アルル、行くぜ!」
「アルルナジャ、いっきまーす!!」
帰ってくるから、三人で。そう呟いて、光へと飛び込んだ。
かすかに聞こえる歌は、オーラリーのもの……
心は永久(とわ)に 風に光る
思いは彼方 遠い空
紅の光に 深紅の髪が踊る
泉はさやぐ 貴方の心に
二人が もう一度巡り会えるように
儚き夢を見て 私は此処に…
………続く………
後書き
どうもですー、思ったより短かったカモ。
シェゾとアルルがちゃんと出せて良かった……。
あー、やっと話が進んできた!その間、四話って……ながっ!!
我ながら、情けないわ……(苦笑
読んでくださっている方々!こんな話読んでくれて、どうもありがとうございましたっ!! 次も頑張って書きますv 空