夏空の真実 |
そして。 いつも、能天気に笑う彼は。冗談ばかり言う彼は。 夏空に映し出される花火の下――― 「・・・ディーシェ」 あまりにも――― 何も無い表情を、していて。 夏空の真実 夏のある日。オリジナルが―アルルが「海へ行こう!」と誘ってくれた。 僕が「いや・・・僕、水着、持っていないから」と断ると、アルルは「待ってました!」と言って持ってきた紙袋を開いた。中身は水着だった。 「これなら、断れないでしょ?ディーアッ♪」 と、アルルの満面の笑顔を見て――― 僕は、行く事になった。 + + + 海へ行くと、アルルは皆の所へすっ飛んでいく。ほら。心の中で呟いた。 やっぱり、僕はいつも一人――― 「あー、もー、ディーア!水着着てるのに海入らないって悲しすぎるよ〜?」 ドラコ、とか言った人だ。びっくりして、顔を上げるとそこには笑顔。 何で、君は僕を誘うんだい?そうたずねると、ドラコは胸を張って答えた。 「ふふーんっ、このドラコ様のナイス・バディを見せる為でしょっ!」 「なーに言ってるんですの、ナルシー竜族!純粋なディーアにそんな事言うんじゃありませんわ!」 ウィッチも、乱入して。喧嘩が始まって。 ―――僕も“仲間”の一人として認めてくれていて。 「おーいっ、ウィッチ、ドラコ、ディーアーッ!花火をするからこっち来てー!」 「わかったからそんなに大声ださなくても良いですわーっ、ラグナスさんー!」 皆が、かけてゆく。走っていった方向には花火の音。 そして。僕は、ひっそりと。こっそりと。 『・・・っありがとうっ』 と、花火をする皆に小声で言ったりしていた。 + + + 「よっ。ディーア、何やってんだよ?花火みねーのか?」 「・・・ディーシェ」 はっ、として振り返ると、線香花火を持ったディーシェの姿。 ディーシェ。Dシェゾ。時空の水晶。シェゾ=ウィグィィ(僕はいつも「アルルの彼氏」と呼んでいるけどね 笑)のドッペルゲンガー。影の存在。 「ううん、ちょっとぼーっとしてただけだから、何でも無い」 適当に言い訳をつける。 これで、彼も帰ってくれるだろ――― 「あっそ。馬鹿も夏風邪になるんだなー」 「馬鹿ッ!もうちょっと気遣え!」 「えーこんな人に気遣う程の価値があるかなー?」 あはははっ、と笑う彼を見て、僕は昔の事を思い出していた。 昔は、僕と同じ存在だった彼も、今はこうして、明るい人となっている。初対面であった時の無表情さと大違いだ。 初めて会った時の、あの無表情な顔――― 『お前が、アルル=ナジャか?』 真っ黒なマントで身を包み、いきなり空間転移で現れた、彼。 僕のオリジナルとなる存在に、昔、話(のろけ話というか自慢話に近いというか)を聞いたので一瞬で分かった。 何も無い表情をし、ただ暗闇の中に生きるドッペルゲンガー<影>―――・・・ どうしても、昔の自分と重なる。仮面をかぶって傷つかずに生きていた、あの頃。 でも、今は違う・・・そう、違うんだっ!! だから息を吸って、大きくこの人に誓ってやる!僕はっっっ!! 『違う、僕は――――――!』 言葉が、出ない。 今。 今、影だった存在が光の存在と分かち合った今。 僕は一体、誰なんだ・・・? 今はこうして名前をつけてもらったものの、その意味がいまだに分からないでいる。 「・・・どーしたんだ?やっぱ風邪か?」 気が付くと、彼の顔が近くにある!? 「馬鹿っ!顔近づけずぎっ!」 慌てて離れる。ディーシェが「えー。結構“自分自身”を訴えている!ってな感じの眼でカッコ良かったのになー。ヒーローディーアちゃんっ?」 「馬鹿馬鹿馬鹿っっっ!変態変態変態っ!痴漢―っ!」 「ち、痴漢だと!?変態だと!?お前なーっ、変態言ったらオリジナルが怒るの知っているだろうが!」 「もう馬鹿っ!馬鹿すぎるんだ馬鹿っっっ!!!」 顔を赤らめて距離を置く。 と。 「―――お前も、自分らしくなってきたな」 ふっ、と。 寂しげに笑う、彼。 「っ、え・・・?」 「あ、本気にしたな?アホ。いちいち気にするなっつーの」 気が付くと、そんな表情の片鱗も見せずにいつものニヤけた笑いをする彼の姿があった。 かぁぁぁぁ・・・・・・ やばい、自分でも分かるほど赤くなっている・・・。 「え、あ、ほ、本気って!!ヤダ、騙したわけーっ!?最低っっっ!!」 「騙される方が悪いのだーっ!さ、ディーア、花火しにいこうぜ!」 ひょい、と身を翻して彼は皆の方へとかけていった。 「・・・ばーか」 + + + ディーシェの姿が見当たらず、シェゾ等(サタンに聞くとルルーがうるさいから)に聞くと「ああ、あいつ、ちょっとフラフラしてくるだってよ」と。 だから僕は、ディーシェを探しに行く事にした。皆に一声、『ディーシェ探してくる』と声をかけて。 ・・・すると皆が、 「御暑いですわね〜っv」 「帰ってくるの、遅くて大丈夫よvv」 「ディーア、頑張ってねっ♪」 ・・・・・・・・・一応反論だけしてその場から逃げた。後でラグナロク打っとこう。 そう、そこまでは良くて。 そして――― + + + 「・・・・・・ディーシェ」 あまりにも冷たく、無表情だったその顔は、僕の視線に気付いて慌てて微笑む。 「っ、どうしたんだ?ディーアッ」 いつも僕をからかう、彼が。 いつも僕を遊ぶ、彼が。 あんな表情をするなんて思わなくて――― 「お?ディーア“ちゃん”もつけた方が良かったか?」 「っっ・・・・馬鹿っ」 途端に彼が、険しい顔になる。 どうしてなんだろう。 どうしても、彼は今でも昔の僕に見える。 仮面をかぶり、傷つく事無く生きてきた僕―――“道化師<ピエロ>だった頃の、僕に。 どうして? どうして、君はまだ仮面を取らずにいるの―――? まだ、自分をしたってくれる人達の優しさに、その仮面<ガラス>のせいで気付かないの・・・? 「っ、なんだよ・・・」 と。 彼が、バツが悪そうに呟く。 ああ、一体僕は、今、どんな表情をしているのだろうか。彼の苦々しい顔からして、とてもヤバイ顔なのだろうか? ただ、分かるのは一つ。 「こんな時くらい・・・演技、いらない、か、ら」 ほほに冷たい感覚が、来ている事だけ。 「・・・・・・何故、お前は仮面をはずした?」 ふっ、と笑った彼。いつものニヤけた笑い。 だけどやっぱりそれも「演技」。僕には何故か分かる。 そして、その笑顔が少し寂しげな事も――― 「君、がっ・・・馬鹿、だから」 「んだと、コラッ」 またそれも、演技なんだね。 どうしてまだ、仮面を外さないの? 時空の水晶<シェゾ=ウィグィィ>はそこまで臆病だったの・・・? 「君は・・・気付かないだけなんだよ。その優しさ、に・・・。だから、すこしでいいから・・・仮面をはずしてよ・・・・・・“素”の君、がどんなでも良いから・・・」 一言ずつ、ゆっくりとつむぐ。 ねぇ、気付いて。僕も皆も、本当の君が見た――― 「だって」 言葉を遮られる。 同時に胸の奥が熱くなる。 ・・・あぁ、この感覚は知っている。僕は知っている。 影の存在だけに分かる痛み――― いつも嘘をつく度に、僕を襲っていた痛み。 もう味わう事の無いと思っていた痛み――― その低く、感情の無い声に反応して、また、痛みがきたんだ――― 「俺は何にも感じられない、“時空の水晶”なのだから」 そして、その、“無”を感じさせる言葉に。 僕は何もいえない。ちっぽけでどうしようも無い僕は。 彼は、淡々と機械人形のようにしゃべり続ける。 「時空の水晶とは、本来、ただの機械だった。感情も何も無い、ただ人の“痛み”を知る水晶―――」 「だがこうやって人の形を取り、人と共に生きる。何も分からないままで。何が楽しいか分からないままで。何が悲しいか分からないままで」 「なぁ、分かるか?俺にはどれが楽しくてどれが悲しいか分からないんだ。なぜなら、人の心を持たないから」 「そんな中で、いきなり「笑顔」を求められる。「涙」を求められる。そして―――「素」を求められる」 「なら、お望み通り「素」を見せたら、お前は―――怖がって、俺の前から、いなくなるだろう・・・?」 気が付いた。 ただ淡々と喋る彼の言葉の中。 彼の瞳にたまる、涙の存在に。 「だから・・・俺は、「素」を見せずに生きる。お前が―――皆が、いなくなって欲しくないんだ・・・」 イナクナッテ、ホシクナイ・・・・・・ 頭の中が、真っ暗になる。 そしてそんな僕を、ただ涙を流しながら彼は見つめている。 ただ、何も言わないままで。 「そん、な・・・僕は君が解放される事を、望んでいたのにっ・・・」 なのに、逆に君を傷つけていたなんて。 ―――ごめん、ディーシェ。 君の本当の痛み、わかってあげられなくて。 そしてどんどん、君を追い詰めていって。 僕は、僕は―――!! 「うぅっ・・うあ・・・」 しゃがみこみ、声を殺して泣く。 泣き声を見せたら、泣き顔を見せたらまた君を苦しめてしまうから――― 「ばーか」 ぽん、と頭に置かれた感覚が暖かくて。 それはとても、温かみのある感覚で。 これは演技じゃない、と思わせる暖かさで。 いつものへらず口で、演技しているような口ぶりだけど―――そうは思えなくて。 あったかい。 「何で、お前が無く必要があるのかは知らないが・・・。お前は黙って―――今を楽しく、自分の事だけを考えて生きろよ、それでもう、俺もお前も十分だろ」 顔を上げると、いつものニヤけた笑う彼。 「・・・馬鹿ぁ」 「ええ馬鹿ですがそれがどうした?」 笑う、君が。 笑う、僕も。 心の中が、暖かく埋まっていく。 じゃあ、僕ももう行動に移さなきゃいけないね――― 「変態さんっ!」 大きく息を吸って、言ってやる! 「へ、変態はやめろっ!オリジナルに怒られるんだよ!」 動揺したって、無駄なんだから! 「変態なんだからね、君はっ!今更弁解しようとしたって、無駄なんだからね!?」 「・・・・・・ん」 ああ、もう、馬鹿! 言葉に表しきれないくらい、馬鹿!! 「僕はねっ、君がそうやってシリアスに走るな、って言ってんの!僕にももう少しその痛みを分けろ、って言ってんの!!」 そう。 君は、優しく微笑んでくれたよね。 いつだって悩んでいる時だって。 その微笑は嘘でも良いよ。演技でも良いよ。 だけどね、僕は、これだけ言える。 「・・・まぁ、つまりなんだよ。お前が言いたいこと、っていうのはよ?」 意地悪気に、顔を近づける彼。 ・・・僕は、どうやら最後まで彼に振り回されてしまってたようだ。 でも、もし君が「こんな本当の僕」が好きなら。 ・・・仕方ないなぁ。見せてあげるよ、これからも―――ねっ! 「ばーか。鈍感。・・・大好きだって、言ってんだよ」 「言葉にしなきゃ、伝わらないだろーが」 「ばーかっ」 + + + そう、どんな嘘つきだとしても。 僕は君が大好きなんだから。 どぉんっ! 夏空の花火と共に、打ち上げられた真実を僕は受け入れよう。 |
白銀
2009年08月21日(金) 21時35分39秒
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