・星の声・

夢をみた。

キラキラしている中でキミといるの。

変だよね。彼にとっては無駄なおしゃべりとも言える会話さえしたことないのに。
いつも交えるのは闘いの間だけ。他愛ない話なんて、ないに等しいくらい。
ボクは自慢じゃないけど「友達に好かれるタイプ」だって言われるのに、彼とは一向に‘線’を引いた状態の付き合い。

話したいのならボクから話せばいい。

でも、そう思っていながらも珍しく行動に移せないボクがいた。
…なんでだろ? ルルーとかが聞いたらきっと「らしくない」って言いそう。
そうわかりきってるのに……‘不安’‘迷い’‘恐れ’が、ボクの心にちらつくんだ……。


・星の声・


「友達ぃー? おいおい。馬鹿を言うなよ、アルル・ナジャ。お前は俺の獲物であり、お前にとって俺は倒すべき存在だ。
 どこの世界に敵同士仲良くしているヤツがいる?」

ハッ、と馬鹿馬鹿しく吐き捨てるシェゾにビクッと背筋がすくむ感覚を覚えた。


間違っても、今この状態で有利なのはボクだったはずだ。
いつものように仕掛けられた闘いにボクが勝ち。
彼は立っているのもやっとな状態で、ハタから見ても一目瞭然なほど、シェゾよりボクのほうに風は味方していてくれた……はずだった。
なのに、こうもたった一言の彼の言葉にボクはまるで、先生に叱られたような感覚を覚えてしまうハメになる。
ただボクは、勝ったという報酬として

「キミと友達になりたい」

と言っただけ。
でもそれは言ってはいけない地雷のようなものだと、言ってから気付いて後悔した。
だけど、それを今更「冗談だよ」とすることはボクには出来ない。
…かと言って何かを言えるワケじゃなく、俯くしか……今のボクは気持ちを現すことができなかった。
そして、「ボクらしくないな」と心の中で自嘲してしまい、同時に胸が締め付けられるような気分を味わってしまう。

「…………。」

「…………。」

沈黙が流れ、それを破ったのは彼だった。
グシャグシャと髪をかき乱し、「どう言ったらコイツは理解するのか」と苦悶しているのがありありとわかった。

「…………あのなぁ、アルル。よく聞け?
 確かに今日この日も認めたくはないがお前は勝った。…それを当たり前だと思ってないか?
 俺は俺のためにお前を殺す気で魔力を手に入れたいと思ってる。
 それなのにお前はそんなあまっちょろい考えを持っている。
 俺は手加減なんかしない。このままだと本当に………死ぬぞ?」

あまりにも現実味のある言葉に、ボクは卑怯だけど何も言えずその場から逃げるように立ち去った。
不意に込み上げてくる涙を拭いて。




ボクは軽い考えで「あの」シェゾ・ウィグィィと友達になりたいって思っているのかな。
この関係…敵同士であることを受け入れることができたなら、こんなコト考えずにすんだのかな。



彼から逃げてきた先は何にもない場所だった。
人もいない、静かでお気に入りの場所。
右手には海が見え、左手には陸地。
高台というのか、森の開けた場所にある崖っぷちは危ないと言われてるけど潮風がとても心地よかった。
走ってきた足を止め、疲れたとばかりに草に身体全体を預け寝転ぶ。
さっきは泣けてきたのに、今は打って変わって意味もなく怒りが込み上げてきた。

「なにさ、シェゾのヤツ! 敵だ敵だと言うけど、実際ボクより力も知識も上なくせしてさ。
 両手で数え切れない程勝負して負けてるくせしてなーにが「死ぬぞ?」なんだよっ!
 あまっちょろいのはそっちじゃない!」

早口でまくし立てる。
心に留めるより口に出したほうが幾分楽になれる、と知ってか知らずか誰に言ってるとかじゃなく声に出す。

「ボクだってなんでここまでやるのかわかんないもん!
 大体、頭堅すぎるんだよシェゾは。ボクがシェゾを殺せないことをわかってて言ってるんだ。意地悪なヤツ!本当陰険!
 でも………」

でも……、何なのか。
その時はその続きの言葉が見つからなかった。

「でも………」

でも、でも、でも……。
何か感じるものは確かにあった。
だけど、わからなかった。
自分のことは自分が一番わからないから。
ボクは何が言いたかったんだろう。

しかし、そんなことを考えているうちに。
いつしか、眠気に襲われ……眠ってしまっていた。



「………はぁ、いた……。」

日が暮れた今、やっと見つけた一人の少女は、彼が呆れてしまうほどぐーすか眠っていた。
彼はため息をひとつついて、彼女の隣に座る。

捜すのに手間取った。

…それだけ彼女の魔力が小さすぎ、けれど密度が濃いもので。きっと何年後かには彼女が目指す魔導師になれるだろう。

何時だったか……もう十数年も前のことかもしれない。

『キミは誰?』

まだ小さな小さな少女は無邪気な目を向けたのを今でも覚えている。
そして、今もだ。

「………むにゃ……シェゾのバカぁ……。」

一瞬、起きたのかと身構えたが、どうやら寝言らしい。

「…ったく、どんな夢見てんだよ…。」

閉じられた瞳に何を映して、何を考えているのか。
無邪気な目を見るのは嫌な気はしないが、それが曇るのを見るほど最悪なものはない。
いつの日か、しかも自分のせいで闇を宿るのは十中ハ苦遠からずあるだろうと理解していた。
力を持つとは、そういうことだ。

「俺は、一体何がしたいんだろうな。」

答が曖昧なのは嫌いだ。
しかも自分のこととなるともどかしくなる。それはまさに闇に閉ざされた感覚に溺れる。

闇の魔導師だから闇に慣れるなんてこと、誰が言った?

暗闇は嫌いではないが、好きにはなれない。
だからと言うわけではないが、純粋無垢な少女に惹かれ、同時に汚したくないけれど汚したい。……自分の手で。
そんなことを思うようになってから、余計にコイツの傍にいてはダメだと感じた。
けど……

「おい、起きろ、アルル!!」

ペチペチと頬を叩く。

「ぅ〜………。」

それを、イヤイヤと首を横に振り再び寝入る。
でも、しばらくして夢心地の中で「誰に」起こされてるのかが繋がり、まるで地震か何かが起こったかのように「ふぇ?!!」と跳び起きた。

「し……シェゾ?!」

「……何だその狐につままれたような目は。」

「ほ、本物?」

「意外と失礼なヤツだな、お前は。」

呆れたように見やる彼に、アルルはふと思い出したのかぷぃっとそっぽ向いた。

「なんでココにいるんだよ。ボク達…て、敵同士って言ったのはキミじゃないか。」

ワケがわからないとばかりにツンと拗ねる。
すると、シェゾは何かを呟いた。

「友達。」

「え?」

「友達関係になりたいって言ったのはお前だろ?」

「えぇ?!」

我が耳を疑って思わず振り返る。

「ただし、今日だけだ。わかったな?」

「……うぅ。わ、わかったよぉ。」

シェゾは相変わらず何を考えているか理解出来ない表情だった。
有無を言わせない表情に不満を覚えてしまうけど、彼が「今日だけ」でも受け入れてくれたことがアルルにとってはすごく嬉しいことで。
ニコニコと笑みを浮かべることはそう難しいことではなかった。

でも、「今日だけの友達」とは何だろう。自分で言っときながらわからないシェゾに、アルルはあっけらかんと「お喋りするんだよ♪」と笑ってみせた。

「そういうものか?」

「そういうものなの。」

そう言われても、ココ最近…というか何十年も「普通にお喋り」したことのない彼にとってそれは無理難題のように思えた。
でも、男に二言はないと覆すこともできず、ただ意味もなく空を眺めていた。
つられて、アルルも空を見る。
地上に光が少ないからか逆に月の光のような……星月夜の夜だった。

「そういえばね、ボク、夢見たよ。」

何の、とは聞かない。

「正夢だった。キミもいたよ。キラキラしてたの。きっとこのことかもね。」

「ふぅん。正夢はいわゆる予知夢だからな。お前が見ても不思議ではない。」

空がキラキラ。万華鏡みたいに。
アルルはえへへ、と笑う。

「さっきから何が可笑しい?」

「明日も明後日もその次の日も友達でいられたらいいなって。今みたいに。」

「調子に乗るな。今日は特別だ。」

「むぅ。…でも星、綺麗だよ。」

「それが?」

「一緒に見たいな。この先も、ボク達が同じ地にいる限り、きっとまた見れると思う。」

「また夢か?」

「んーん。違うけど。こんなに星があるんだから、流れ星にお祈りするのもいいね。」

にこにこにこ。今のアルルに何を言っても無駄だった。
けれどシェゾは意地悪そうにあしらう。
そんなやり取りが続いて、二人はしばらくして自然と口を閉ざした。
天体観測というのか。
ただ、‘今’を味わうのに言葉は必要なかった。

「「まだ」ボクは夢を見るよ。」

ぽつり、と呟く。

「まだまだ、夢を見続けるよ。」

それに対して、

「俺は夢なんか見ない。絶対にな。」

それはそれぞれ自分にも言っているかのようだった。



星だけが知ってるコト。
ひとつひとつが何億光年も離れているのに、見る人から見るとそれは数cmしか変わらないほど近いところに‘在る’ことを。

アルルやシェゾもまた、近いようで遠く、遠いようで近い。
そんな‘星’にしか過ぎない存在でしかないのだから。。。



‐了‐
story by asuka 
あとがき
なんとか完成♪
こんにちわw 久々ながらのasukaです。
こういうコンテストは大好きで。それがココでやるということで張り切っちゃいました☆
えへv二番手だぁ♪♪(ゃゃ

相変わらずなシェアルで。でも、ちょっと雰囲気を変えてみましたがいかがでしたでしょ
うか??
「星」に加えて「無自覚」をテーマに。
無事出来てよかったです><w

お粗末サマでした!♪


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