「月下葬送」
麗らかな春の日差し。
ぽかぽか陽気のもと、軽く背伸びをする。
「う〜〜〜〜……ん……」
シェゾと一緒に暮らしだしてから、三年が経過した。
魔導学校を卒業してすぐの出来事だった。シェゾとの再開、そして最後の戦い。
あの戦いを堺に、シェゾはもうボクとは戦わないといった。
それから、いろいろとあった。二人でパーティーを組んで、色々とやった。
それから一年後、こうして穏やかな日々を過ごしている。
「シェゾ、今回の仕事は長引きそうだから手伝おうって言ったのに、一人で行っちゃって……………こう穏やか過ぎると暇で暇でしようがないんだけどなぁ〜」
まあ、それもこれも、ボクのお腹の中が原因なんだけど、ね。
「五週間でぅすね!間違いありませんでぅす!!」
近くの村からの依頼を除けば、家の仕事の依頼主はほとんどデウスだったりする。
そのデウスが、突然そんなことを言い出した。
『………は?』
「だ・か・ら、おめでだでぅすよ!」
『………………………………………………』
この後、二人で何をしたかは思い出したくもない。(人前でとんでもないくらい恥ずかしいことをしたからなぁ〜………)
「ふふ………あのシェゾが前にも増して明るくなったのは………キミのお陰だからね?赤ちゃん」
自分のお腹に話しかけるのも奇妙だが、そこには確かに、新しい命が芽吹いている。
カーくんとてのくんの寝顔を少しだけ覘いて、ボクは今日の昼ごはんの準備をすることにした。
「はあ!はあ!はあ!はあ!」
まったく、晴天の霹靂とはよく言ったものだ。
俺はそんなことを考えながら、そいつから逃げていた。
ブラストもサンダーストームも効かない。
しかもやたら素早い。
闇の剣でも刃が立たない。
(主よ、何故我を使わない。闇の剣の覚醒形態ならば、あの魔物の身体も切り裂くことが出来るはずだ。何故それを知っててそうしない?)
「うるせぇよ………」
俺は闇の剣の言葉を無視して、足を速めた。
俺は………こんな所で死ぬわけにはいかない!
死ねない理由があるんだ!!
気がつけば、家の目の前に立っていた。
やつの気配は無い。
「はあ……はあ……はあ……ふう………」
思わず安堵の息をつく。
それが甘かった。
「「「―――グルゥ―――」」」
シェゾ以外の、人以外の気配を感じて外に出た。
すでに月は空の上に昇っている。春でも少し肌寒い。
すでにシェゾは何箇所かに傷を負っていた。そして、対峙しているものも、すでに深手を負っていた。
「「「グゥガアア!!」」」
シェゾの相手は、三つ首の魔物―――ケルベロスだった。
一般的なケルベロスは、「私は鳥………かもしれない」と言ってくる、羽の生えた犬のような魔物だ。だが、シェゾが以前読んでいた本によると、ずっと昔は、ケルベロスは三頭犬を指す言葉だったらしい。
絶滅種と呼ばれていたが、まさかまだ生きていて、今この場にいるとは。
「「「がぁあああああ!!!」」」
「フレイム!」
足に怪我を負っているケルベロスは、シェゾの呪文をまともに喰らう。
だが、軽く首を振って炎を振り払う。
「「「ガァアアァアアァァ!!!」」」
飛び掛ってきたケルベロスを、辛うじて避けるシェゾ。
「シェゾ!」
「アルル!お前は家の中に逃げろ!!」
シェゾはそういったが、もちろん従うつもりはない。
「ブラスト!」
頭の後ろから直撃したが、ダメージはまったくないようだ。
とりあえず、少しでもケルベロスの意識をずらせればいい。
「シェゾ!アレイアードを!」
しかし、シェゾが放ったのは別の魔法だった。
「クラッシュ!」
それは、こちらに意識をそらしたケルベロスにまともに直撃したが、ダメージは一切ない。
「シェゾ!なんで!?なんでアレイアードを使わないの!?」
彼からの答は、ない。
シェゾはその後も効果のない呪文ばかり唱える。
「シェゾ!どうして!?どうしてキミはいつも、一人で戦うんだよ!!」
シェゾの時が止まる。
「いつだってそうだよ!キミは、いつもいつも一人で背負い込んで!昔たくさん人を殺して!それでキミが生きてきたのは知っているよ!だからって!だからって今、古代魔導も闇の剣も封印して!一人で罪を背負い込んで!!ボクたち正式じゃないけど、結婚したんでしょう!!」
命がけの戦いだというのに、アルルはシェゾしか見えていない。そして、シェゾはアルルしか見ていない。
「なんで人が結婚するか、分かる!?シェゾ!?今まで別々の道を歩んできた二人が、お互いの苦労を分かち合おう!これからは二人で歩んでいこうって、そういう意味があるんだよ!!少なくとも、ボクはそう思う!!」
アルルの一言一言が、シェゾにしみこんで行く。
闇の魔導師の最後の意地。それが、こうもあっさりと崩れようとは、シェゾも思ってもいなかっただろう。
守る為に封じた力。それを、今、解き放つ。
「―――アレイアード!!!」
容赦なく放たれた闇の波動は、ケルベロスの右首をもぎ取って、消滅させた。
「「ぐぁぁがっがっがっガアアぁっガぎっぎいぃぃぅ!!」」
残った二つの頭が苦悶の表情を浮かべ、もがき叫ぶ。
「ジュゲム!」
アルル最大の攻撃呪文は、アレイアードほどの威力は無いが、それでもケルベロスの左首を破壊するのに成功した。
「ぎやぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
首が一つになることにより、苦鳴も統一されたらしく、聞き取りやすいものとなった。
「………闇の剣よ…………」
―――応!―――
シェゾの声に反応した闇の剣が、禍々しい刃を出現させる。
「……カイマートよ!」
―――応!―――――え?
闇の剣は応じた後で疑問の声を出した。ケルベロスを倒すのには、闇の剣第第弐覚醒形態にしなくとも充分のハズだ。
シェゾは、ケルベロスに向けて駆け出した。
(俺の今までの罪………拭えない血の跡……それを一緒に、背負って行く為に……!!)
ケルベロスが、よたよたと頼りない足取りで、シェゾを迎え撃つ。
「カイマートよ………」
(過去は消せない。だが、これからを生きるために、今までの過去への迷いを…………)
「断ち切れぇぇ―――――――!!!!」
闇の刃は、ケルベロスの最後の首を切断し、その体を蒸発させた……。
気がついてみれば、まだ空に月はあれど、日は昇り始めていた。
「ふう……おわった―――」
シェゾはその場に大の字になって倒れた。相当疲れているらしい。
「大丈夫?今、ヒーリングかけてあげるからね」
アルルはすぐにシェゾに駆け寄り、ヒーリングをかけた。
緊張していた二人に、笑顔が戻る。
―――その瞬間だった。
「―――――ウグアアアアァァアアアア!!」
最後に残ったケルベロスの首だけが、襲い掛かってきた。
「―――――え?」
ケルベロスの最後の一撃を受けたのは。アルルだった。
いや、ケルベロスの標的は、最初からシェゾだった。シェゾ目掛けて飛んできたケルベロスの目の前に、アルルが飛び出したのだ。
「………ア、ルル…………?」
アルルは自分の心臓あたりから出る夥しい血を見、そしてシェゾを見た。
「……シェゾ、ごめんね………」
驚くほどの、微笑みを浮かべて。
「あと……赤ちゃん、ごめんね…………」
「アルル………」
「ごめん……………ね………………………」
アルルは、力なく崩れ落ちて逝く。
「アルルぅぅ――――――――――――――――!!!!!!」
シェゾの絶叫は、誰の耳にも届くことなく、辺りの森に響いて消えた。
今、かつてこの二人が住んでいた家は空き家になっている。
その傍らには、クリスタルの棺が横たわっていた。
そこを訪れた男が、墓標に華を沿え、そして、最後の言葉を見届けた。
『これを読んでいるのは、デウスかサタンかウィッチかルルーかラグナスか、とにかく顔なじみだろう。一つ頼みたいことがある。
俺はアルルを守りきれなかった。言い訳も何もない。俺はアルルの亡骸を埋葬する勇気すらない男だ。気がついたら永続的な冷却呪文までかけて、花嫁衣裳まで着せていた。
アルルにかけた呪文を解いて、ちゃんと埋葬してほしい。
俺はもう二度と、お前らにあうつもりはない。ここに帰るつもりもない。
俺、一生、罪を背負って、死ぬまで阿呆でいるともりだ。
〜シェゾ・ウィグィィ・ナジャ〜
「馬鹿だな、あいつは………」
男はゆっくりと棺に近づき、コインを棺の上に置いた。
表には、黄金で太陽を描き、裏は純銀で月を描いた、細工の細かいコインだ。
「せめて安らかであれ………太陽に染まった闇の魔導師よ………」
男が置いたコインは、太陽に焦がれ、太陽に愛された、月そのものだった。
〜END〜
朔月「はいはい、とりあえず完成〜」
アル&シェ「…………………………………」
朔月「あれ、どしたの二人とも?」
アル「………オリジナルラグナロクの続きは?」
朔月「…………………………………………………………私の名前はぁ、朔月でっす♪」
シェ「ごまかしてんじゃねーぞ?どーせ『第二楽章のルルー編、構成も全部できたけど、ルルーってなんか書きにくい!面倒!!』って、現実逃避してんだろーが!」
朔月「ぎくぅ!」
アル「やれやれ、学校の友だちからも『作品なんか読みにくい、分かりにくい』って言われまくってるし」
朔月「ぎくぎくぅ!!」
アル&シェ「変態だし(ねー/なー)」
朔月「くぅ……シェゾ、またかいてやろーかとおもったけど、却下!そしてアルル、キミはこのまま殺した状態で話をすすめるよ!!」
アル&シェ「えー!こんな駄作の続編なんて書く (のー?/のか?)」