歌いましょう あの月に届くくらい
泣きましょう 希望が見えてくるまで
永久の未来を 探しに行くの
あの人と共に… 月の道……
「月の大通り 最終話」
一瞬何も見えなくなって、気が付いたらシェゾと一緒にいたあの丘。肌に感じる草
の感触に帰ってきたんだとわかった。
「……ボク達、戻ってこれたんだ…。」
「う………」
「あっ、シェゾ!!起きた?」
シェゾが目を擦りながら起きあがる。辺りを見回して、ボクを見る。
とたんに、隣がからになっているのを感じた。 …メルちゃんは…?
「…アルルか…?俺たち帰ってきたんだな。」
「シェゾ、メルちゃんはっ!!?」
メルちゃんが、忽然と消えていた。
辺りを見回しても、気配すら感じられない。影一つ、見あたらない。
確かに、あの道を出る時ちゃんとした感覚があったんだ。メルちゃんの冷たい手。
ボクとシェゾの手を繋いで、一緒に帰ってきたはずなのに…
「…っ!?メルっ!?」
丘の上にメルちゃんの姿はなかった。
シェゾとボクは必死に探した。草の影、木の上。丘の回り。
息が切れたけど、それすらも分からないくらい焦る気持ち。其処に居ないとわかる度
に、積み木みたいに積み上がっていく。それでも居ない。
最後は、叫ぶように何度も名前を呼んだ。それでも、一向に状況は変わらない。
「シェゾっ、どうしよう!!」
辺りは朝日の昇る直前、うすら暗い辺りの景色。何処を探しても、アメジストの髪
の精霊は居ない。
おいてきた…?ううん、そんなはず無い。最後まで手を繋いでいた。
もう離さないって、誓ったのに。それなのに、何処にいったの…?
「……俺たち、そもそもなんで丘に居るんだ?」
シェゾが、落ち着きを取り戻して静かに言った。
そうだ。おかしいじゃないか。ボク達はオーラリーの居る泉の光に飲まれて、月の
大通りへと向かったはずなのに、なんでこんな所にいるの?
焦りと、不安でそれすらも考えられなかった思考に叱咤した。
ドキドキと嫌な予感。身体が震えて止まらない。手の先がどんどん冷えていくのが
わかる。
「アルル、とりあえずオーラリーの所に行こう。」
そんなボクの手を、シェゾは優しく繋いで立ち上がる。
つられて立ち上がる。月の大通りでも、こんな風にシェゾは優しくしてくれた。
指先から伝わる体温に、次第に震えが止まる。優しく包み込んでくれるシェゾと、一
緒にいて良かったと、心から思った。
いつでも支えてくれてた。大丈夫だよね、きっと見つかるよね…?
「うんっ!」
力強く返事を返した。シェゾは、優しく微笑んだ。
大丈夫…きっと、見つけられる。
ボク達は、急いでオーラリーの居る泉へと走り出した。
「オーラリー!!!」
森の中、泉を捜して走り回る。だけど、見つからない。忘れるはずないのに、光が
見えない。
枝が何度も何度も顔に当たり、手に当たった。
切り傷が増えるのも構わずに、ボクとシェゾは走った。
「っ!?アルル、こっちだ!!」
走り回ってようやく見つけた道。獣道みたいに、うっすらついた道。ここはボクと
シェゾが月の大通りに行く前に、通った道だ。
だけど、何処かおかしい。ボク達が月の大通り行く前よりも、道が古くなった感
じ。
不安をかき消すように、走った。
だけど、走っても目の前は明るくならない。
オーラリーの泉は光り輝いていたはずなのに。
ザァッ………
「なっ……!?」
急に開けた視界。その風景にボクとシェゾは言葉を失った。
枯れ果てた泉。草すらも生えてない、裸の地面が見え隠れしてる。抉れた苔、水の
湧かない泉。だけど、確かにここはオーラリーにあった場所。
輝きを失った、失望した風景。
「いや…いやぁ……っ嘘だ、嘘だ!!!」
シェゾの手を振り払って、泉へとボクは走った。
だって酷すぎる、こんな場所じゃなかったはず。僕らが見た時、ここの泉はキラキ
ラ輝いて、光で満ちていたのに。あのオーラリーの姿もない。
「メルちゃんっ!!!オーラリーさんっ!!!」
泉の前で狂ったみたいに叫ぶボクの肩を、シェゾは優しくだいた。
それでも尚、暴れるボクの身体をしっかり抱きかかえてくれた。
「落ち着け……アルル…。」
「いやだっ!!いやだよぉ…!!だって酷いよ!なんで、こんなっ……!!!」
シェゾの服をつかんで泣き叫ぶボクの肩をもつシェゾの手も微かに震えてた。
上を見れば、眉を寄せて後悔や哀しみをあからさまにみせるシェゾの蒼い瞳が見え
た。
それを見て、身体の力が一気に抜けた。遅かったんだ。
そう、ボク達は間に合わなかったんだ…?
あんなに、メルはオーラリーに会いたがってたのに。
オーラリーだってメルに、ひどくひどく会いたかったのに。
なのに、なんでこんな風になってしまうの?これで終わりなの?
だっておかしいじゃないか。ついさっきまでは、ここにオーラリーはいたのに。
なんで、いないの?メルちゃんは何処に行ったの?
もう一度会わせてあげたくて、ボクとシェゾは月の大通りへ行ったのに。
やっと解放してあげたのに、幼い精霊を。助けてきたのに。
だけど、その精霊の姿もなくて、二人とも忽然と消えてしまうだなんて。
会いたいって、願ってたのに。本当に、誰よりも何よりも強く願ってたんでしょう
?
それなのに、一番会いたい人に会わせてあげられないまま終わるの?
なんで、こんな事になってるの?ねぇ、誰か答えてよ。分かんないよ。
何処に行っちゃったんだよ。ねぇ、返事してよ…。ねぇ、戻ってきてよ……
「オーラリー……メルちゃん……。」
寂しいよ、もう会えないの?ねぇ、もう一回会いたいよ。嘘だよね、こんなこと。
僕が夢見てたのは、こんな終わりじゃなかった。
二人は出会えて、幸せな終わりになるはずだった。
だけど、こんな、こんな……
「……こんなの、やだよぉ………」
嗚咽を漏らすボクの後で、小さな光がそっと光った。
「っ!!アルル!後、見てみろ…っ!」
シェゾが、急に叫ぶ。
後を振り向けば、優しい白の光。
「オーラリー……?メルちゃん…っ?」
駆け寄ろうと思ったけど、身体が動かなくなった。
急にあふれ出す、唄。徐々に光は大きく、強く………
美しきかな 月の色
思いは届く 金の星
こちらへおいでと 手招きすれば……
美しいのは 思いやり
思いは届く 貴方の元へ
信じていたの 長く長く永久に……
優しい口調、安定した音程。
…この声は、オーラリーとメル…?
隠れて光る 昼の星
夜空の向こうに 願いをかけた
いつか会えると、願いを飛ばした……
隠れて輝く 昼の星
夜空の向こうに 貴方が居るから
やっと会えたと、涙を流した……
光が強く光った。ふわりと浮かんでボクの目の前へ。
幻じゃないよね…?そっと手を伸ばした。
求め続ける 永遠の光
叶わぬ願いは 闇の中
たった一つの思いをのせて……
願い続けた 永久の幸せ
叶わぬ願いと 思っていたのに
たった一つの輝くものが見つかった…
光を包むように抱く。シェゾがボクの隣で微笑んでた。
ボクもつられて微笑んだ。
後悔の色のなくなった蒼の瞳。
壊れたガラスは 翡翠色
繋ぎ止めるは 数多の色に
いつか戻ると 涙を流した……
未来を映す 水たまり
いつか数多の色へと 変わる
貴方の願いが 届く今……
少しずつ、唄の意味が分かってきた。
ボク達、決して遅くなんて無かったんだね…?
「…良かった……。」
「…良かったな……。」
鏡に映るは 闇の鼓動
水鏡に響くは 月の光
眺めて壊して 涙をこぼした……
鏡の向こうに 貴方の姿
水鏡に落とした 私の想い
いつか届くと 信じてた……
ボクの目の前の光の中に。
しっかり見えたんだ、精霊二人が微笑む姿。
思いは強く 星の空
瞳は捉える 真鍮の月
闇の向こうに 何を見てるの……?
もう戻らないと、分かっているのに……
思いは遙か 貴方の側へ
瞳に映るは 真鍮の月
闇の向こうに 何が見えたの……?
私は見えた、七色輝く貴方の姿……
温かい光の雨が、ボクとシェゾに降り注いだ。
それはきっと、二人の涙。
悲しい涙じゃなくて、幸せの欠片。
踊り子の息の根を 月の光で止めて
貴方のその手を 闇に打ち付けて
二度と戻らぬなら 二度と繰り返されぬなら……
二人の間の暗い闇 月の光で打ち消して
貴方のその手を 惹いてゆこう
もう二度と 二度と繰り返さぬように……
枯れた泉が光になって、砕けていく。
ボクとシェゾの足元、もう光で見えない。
徐々に酷になっていく唄。だけどその後に包み込む唄。
「これが、隠された唄なのよ。」と、オーラリーさんが微笑んでた。
闇へと落ちる かすかな希望
月へと延ばす 小さき腕を……
私は一人で 何が出来るの……?
闇へと飲まれる 希望より
遙か遠い 貴方へ送るのこの想い
私はもう怖くない 貴方が待ってるとしったから……
少しずつ夜空へ流れる光の川をただ眺める。
心の何処かに、幸せを感じながら。
思いは強く美しく 決して途切れぬ唄となる
私は貴方を 信じているから
私はもう一人じゃない 愛してくれるものが居るから…
徐々に消えていく唄の向こうに、誰かの歌を聴いた。
何故か、とても嬉しくて、悲しくて、涙が溢れた。
決してきれぬ絆は 時に強く時に美しく
貴方を守る刃と変わる 脆い心はもう捨てた
私はもう孤独じゃない 愛してくれるものが居るから…
シェゾがボクを抱き締めた 消えていく景色の中で。
この唄は……あぁ、そうか……
願い続けていれば 分かり合える日が来るなら
例え今が辛くても それでも願う
私はもう寂しくない 貴方と一緒にいるのだから
私はもう哀しくない 貴方が一緒にいてくれるから
私は貴方 貴方は私 今やっと繋がる
どれだけ夢に見ただろう どれだけ願ったことだろう
貴方が私を見てくれるまで 祈り続けて良かったと
貴方が 愛してくれるから 私はもう寂しくない
大丈夫だよ、お月様。
ボクはいつでも、君を愛してあげるから。
大丈夫だよ、お月様。
誰も、貴方の罪を責める人なんていないよ。
そして、大丈夫だよ、シェゾ。
ボクはキミが大好きだから。
ボクは、君から離れないよ。だから、安心してね。
きっと、これはお月様の唄。
知らず知らずに、シェゾへの思いにも繋がった。
例えそれが幻であっても 誰かの夢だとしても…
光り輝く銀の月 限りなく続く銀の道
それが今だけだとしても それが無くなるものだとしても
永遠の約束交し 生きいづる御霊は
月と闇を 引き離せはしない……。
ゆっくりと、すべての光が空へ流れた。
最後に残った、光。す、と、唄がやんだ。
「メル、オーラリー…。会えたんだね。」
「…良かったね……っ!」
この光は二人の命。優しく、白い光。
もう、離れないね。もうずっと一緒に居れるんだね。
だけど、僕とはお別れなんだね。
歌を聴きつつ覚悟はしてた。だから、寂しいけど悲しくないよ。
「…ま、空へ昇ったら今度こそ一緒に月の大通りへ行けばいいんじゃねぇか?」
「今からでも、全然遅くなんか無いんだしな…。」
シェゾが光に優しく微笑みかける。
一面が真っ白の、世界。白く光る光とボクとシェゾだけの世界。
「そうだよ!!いっておいで?」
「なんだ、俺たちに気兼ねでもしてんのか?
大丈夫だ、…ったく、アルルいい加減泣きやめよ?」
どうしてもとまらない涙。ずっと頬を流れ落ちる涙。
シェゾは優しくぬぐってくれた。
「えへへ…ごめんね。大丈夫だよ、これは嬉し涙なんだから。」
「……コイツもこういってるし…俺たちのことは気にせずいきな…?」
いつまでも、ボクとシェゾの前の光は動こうとしない。
最後の質問、してしまおうかな…?
「…オーラリーさん、メルちゃん。」
「…幸せ……?」
ちゃんと微笑んで、言うんだ。
分かってるけど、聞きたいんだ。二人の口から。
ポウ…と、光が大きく変わる。
それから、消えていく。空へと昇っていく。お別れだね。
シェゾも、微笑んで見送ってる。最後まで、優しいんだね。
………―――貴方達のおかげで、……幸せですよ
………―――幸せだよ!アルル姉ちゃん、シェゾ兄ちゃん!
……『……貴方達は、幸せですか?』………
消えていく光の中で、最後に一瞬二人の姿。
優しく微笑みながら、手を取り合って二人、ゆっくり昇っていく。
ライトブルーの髪を持った精霊と、アメジストの髪の精霊。
大きく手を振った瞬間、一気に世界が砕け散った……
森から離れた丘。満天の星空の下。
二人して眠る、シェゾとアルルの姿があった。
時刻はシェゾとアルルが最初に出会った時。
回りで、静かに舞い踊る沢山の精霊の姿。
夢…?そうじゃない。
二人の手には、二筋の輝く透き通るような髪がしっかりと握られていたから。
………―――貴方達は、幸せですか……?
………―――二人なら、幸せだよ………
道に迷ったのと、貴方は泣いたね
大丈夫、必ず見つけてあげるから
例えそこが、月の大通りの端と端だとしても
例えそこが、月の大通りの見せる幻のなかでも
そんな人きっと見つけられるはず
そんな人きっと貴方の側にいるはず
今は闇に紛れて よく見えないけど
道に迷ったのと、貴方は嘆いたね
だけどもう大丈夫、私は貴方を知っているから
分からなくなったら 月の大通りへおいで
哀しくなったら 月の大通りへおいで
すべての生命が集まる 光に満ちた道
貴方の幸せきっと見つかるから 手を伸ばせば届く月の大通り
願えば叶う 祈れば届く
信じていれば 大丈夫と、私は何度でも言うよ
飛んでおいで 夢を抱いて 月の大通りへ……
『Are you
happy ,,,,,,,?』
……END……
………アトガキ……
…終わってしまいました。ここまで、読んでくれた方。
本当に感謝してるッス!本当に本当に、有難うございました!!
色々、誤字や、怪しいところあったッスねぇ…。それでも、ここまで読んでくれ
て本当に有難うッス〜!
そして、この話から、何か感じてくれた人がいたら光栄です。
とりあえず、本当にありがとうございましたっ!!これからも宜しくッス〜☆
次回も、頑張ります!!vv