あーーー…暑ィ。


額をつたっていく汗を感じながら、自分をしっかり抱きかかえて眠っている
迷惑ながらも愛しい彼女の腕の中、身動きをとることもできないままに、ふっと苦笑した。





 
                           「 夏 風 邪 注 意 報 」







…暑いっていうか、熱いっていうか、アツイ……。



ぼんやりと、熱で呆けた頭を動かしながらシェゾは天井を見上げた。
汗でじっとりとしめった肌が気持ち悪い。

シェゾを抱きしめている少女の肌は、遙かに自分より高い熱をもっていて、
ぎゅっと自分の身体に腕をまわしている手のひらはしっかりと汗ばんでいる。口から零れる寝息もあらい。

蒸し暑さすら感じるこの熱。気分のいいものじゃないだろうに、どこか微笑みすら浮かべて眠る少女
…−−数ヶ月前にめでたくオツキアイをすることになった、アルル。


一向に目覚める気配のない彼女の寝顔をみつめていると、暑くて熱くてたまらないはずなのに、
じっとしといてやるか、と、いう気さえしてくるのだから不思議だ…、と、シェゾは苦笑した。





そもそも何故こんなくそ暑い八月の最中に、眠っているアルルに
シェゾが抱きしめられているかというと、話は数時間前に戻る。
















今日の昼下がり、一番暑い時間帯を越えたころ。
アルルが俺の家にやってきた。



「……はぁ、し、シェゾー!」


ド派手な破壊音(おそらく扉を壊した音だ。)と共に、部屋にあがりこんできたアルル。

やれやれ、またか…。と、溜息をついて、本を読んでいた俺が顔をあげる。

やっほー、と、ひらひらと手を振りながら、ドアのところで
アルルがどこかぼんやりと熱に浮かされたような目で、ふにゃ、と、微笑んだ。



頬をつたう汗と、その瞳が妙に艶っぽい。
…とか思うのは、別に俺がヘンタイだからじゃない。





「…おー、どうした?…っていうかお前、そんな汗だらけで何してたんだよ。」


「えー?…はぁ、今日もあっついからさ〜……うん。
 まぁ、それはいいんだよ!」




ぱたぱたと自分を仰ぐように手をふりながら、
近づいてきたアルルに大人しく身体をずらして座る場所をあけてやる。

それに気付いたアルルが、ありがとー、
などといいながら、息を切らせたまま隣に座った。

はて、暑いといってもそこまでなのか。
流石八月…と、横をみると…アルルの目が、渦をまいている。
まるでばたんきゅ〜状態のそれに、外出しなくてよかった。
と、どこか的はずれなことを考えた。




「…あー…もうなんか、頭もぐらぐらする〜…。」

「んぁ?熱中症か?どれだけ外にいたんだ、お前。」

「ふぁー…外?どこにもいってないよ、僕?
 …なーんか、朝から…っていうか昨日?…あは、わかんないけど…あーもう熱い限界〜…、」

「はぁ!?…っちょ、まて、おいっ、アルル!」




ソファに座ったアルルが、うーん?と首をかしげたその格好のまま
膝の上に倒れ込んできた。

慌てて肩を抱いてささえてやると、手のひらにつたわってくる異常な熱。
あー…、しんどー…などと、ぽつりと呟くアルルに思わず溜息をついた。




「お前な…。」

「えー?なぁにー?」



気の抜けた力無い声に、こちらまで脱力しそうだ。
熱い身体。あらい呼吸。触っただけでもわかる、異常な体温。
100%夏風邪です。本当にありがとうございました。(違)




「夏風邪はバカがひく。ってしってるか?」

「あははは、ばかだなー…バカは風邪ひかないんだよ?」




呆れて見下ろすと、そんなことをいいやがるので、
妙に納得しながらもとりあえず一発かるく小突いておいた。










「うー…、叩くなんて酷い…。」


とりあえずそのままにしておくこともできないので、抱きかかえてベッドに寝かせた。

運んでいる最中は、風邪じゃないだの、夏だから当然だの、
訳のわからないことをぶつぶつといっていたくせに、
横になったとたん、ドッと身体にきたのか、先程よりも覇気がなくなったようだ。




「いいから寝とけ、ばか。」

「ばかじゃないってば〜…」




あいにく体温計なんてものはこの家にはないので、とりあえず冷やしたタオルをしぼって、
頭にのせてやりながら、いってやると、口だけは元気なものでしっかりと言い返してくる。

風邪ひいた時は水分補給だよな、と、思い、
ペットボトルの水もついでにアルルの近くにおいてやった。



ったく、風邪ひくだけならまだしも気付かないってどういうことだ。
健康管理がなっちゃいない。(お前がいうな)

どーせこいつのことだから、熱さにやられて、
冷たいモンでも食い過ぎたんだろ。(正解。)






「ほれ、その服きてたら汗が冷える。上だけでも着替えろ。」

「…んー…身体だるいよぅ…。」



まぁ、ひいてしまったもんは仕方ない。
このまま気付かずうろうろされて、下手に外で倒れられるよりよかった。
と、自分に言い聞かせながら、ばさり、と、適当なシャツを出してなげてよこすと、
けだるそうに身体を起こしたアルルがそれを手にとって、ぼんやりと眺める。



さて、じゃぁ着替えている間に、薬でも探すか…と、思った瞬間。


ばさり、と。





「Σ…ちょっ…まて!!!!」




なんの前触れも、一言もなく、急に自分の服に手をかけて、
アルルが服を脱ごうとするもんだから、思わず叫んでしまった。


それがよかったのか、よくなかったのかはわからないけれど、
脱ぎかけた中途半端な状態でアルルはぼんやりとこちらをみる。

脱ぎかけたの服の下からのぞく白い肌と、細い腰。

こちらをぼんやりとみる潤んだ瞳。熱のせいでうっすらと色づいた頬。




その状態で、こて、と、首などかしげられたらもう……






「なななな、なにやってんだお前は!!」

「…なにって…、着替え… 「だああぁぁ!!!わかった!わかったからマテ!!!」





思わずうわずった自分の声。
それに平然とかえすアルルに、たえきれなくて、
思わず半分叫んで部屋を出る。




ばたん、と、扉をしめて、一つ息をはいた。
あー……いいもんみた。……違う!!!!!!



未だに落ち着かない心臓。
ちらっと目にはいった白い肌。

…やっぱ、女なんだな。とか、ぼんやり考えている自分に気付いて、
ぱちん、と、頬を自ら軽く叩いた。




…くそ……〜〜〜〜っ仕方ないだろ、男なんだから!!!












しばらく、脳裏に焼き付いてしまったあの光景を
理性で必死におしやりながら、廊下で奮闘していたけれど、
「着替えたよー」という気の抜けたアルルの声がきこえてきて、
がっくりとつられて力がぬけてしまった。



本当に、何考えてるんだあいつは…。

……。
なんにも考えてねぇんだろうな。
…病人は恐ろしい…。





扉をあけると、俺がきていたシャツをきたアルルがベッドで横になっている。

当然男物なので、大きいわけで。
ちらちらと見える肌に、また自分の中の熱があがりそうになる。



頑張れ、俺の理性。






そのままアルルをみていると、本当にどうにかなりそうなので、
確か残っていたはずの風邪薬を出しながら、
苦しそうに息をつくアルルに話しかける。



「…どうだ?苦しいか?」

「……だいじょぶ…ごめんね…、迷惑かけちゃって。」



見つけた風邪薬を手にもち、アルルが寝ているベッドの淵に腰をかけると、
アルルは、そうとう辛そうにしている癖に微かに微笑みながら謝ってくる。

別に迷惑じゃない、と、ずりおちそうになっている額のタオルを戻しながら、
微笑みかえしてやると、ほっとしたのかゆっくりと目を閉じた。




「ちょっと寝るか?」

「ん…。」

「じゃ、寝る前に薬だけ飲め。」

「やだー…。」

「やだじゃねぇ。」




ころん、と、横をむいたアルルに覆い被さるようにして、
上からじっと見下ろすと、不満そうな視線がかえってくる。

ほら、と、風邪薬を差し出すと最初は抵抗したものの、小さく口をあけたので、
薬を含ませて、先程近くに転がしておいたペットボトルを差し出す。

横になったままじゃ飲みにくいだろうと、
頭の下に腕を差し入れて上体を僅かに起こしてやると、
こくり、と、アルルの喉が咀嚼して動いたのがわかった。




「飲んだな。よし。じゃ、寝ろ。

「君ねぇ…。」



しっかりと薬を飲んだのをみて、満足気に笑ってやると、
あまりに極端すぎたのかおかしそうにアルルがくすくすと笑った。

これ以上煽るな。






「君の手、冷たくて、気持ちいー…」


頭の下に差し入れてやった腕に、そのまま、すり、と、頭を擦りつけてくる。

甘えるようなその仕草。




…頑張れ、俺の理性。(二回目)






「…ね、こっちの手もかして?」



だめ?と、惚れた奴から熱のこもった瞳で見られて、駄目なんていえますか?

俺はいえません。(即答)






とりあえず、「しょうがねぇな…」などと、憎まれ口を叩きながらも、
体重を支えていた手もはずし、アルルの隣に横になって空いている手で、
そっと頬を撫でてやる。

ふ、と、微笑みをこぼして、そのままアルルはまた目を閉じた。






「……………。」


………。頑張れ、俺のりs…(ry









そうして暫く、頬にあてた俺の手を、自分の手で額や、
頬や首元にもっていくアルルを、しばらく何も言わずにじっと見つめていた。






「君の手、すき…」


どれくらい時間がたったのかわからないけれど、ぽつり、と、
目を閉じたまま半分夢うつつでアルルの口から言葉がすべりおちた。



…すき?すきっていったか、今?


頭の中でその言葉を理解するのに、たっぷりと10秒はかかった。
…不意打ちは、ずるいだろ…。
と、アルルが目を閉じているのはわかっていながらも、思わず視線を彷徨わす。





「…お祭りが、あるんだ…明日…、」



ん?すきだのなんだのは、もう終わりか?

とか、なんだかほっとしたような、それでいて微妙に残念に思いながらも、
とぎれとぎれに話すアルルの話に耳を傾けてやる。




「祭り…?…あぁ、そういえば、夏祭りがどうのこうのとか…。」

「…うん、またサタンの企画だって…毎年、あるやつ…。」




祭り好きなあのロリコン魔王主催の祭り。

花火大会や出店が出るそれは、夏の風物詩の一つになりつつある。
たいていはちゃめちゃなことになるのだけれど、
なんだかんだで人は集まっているようだ。

かくいう俺も、たいてい参加しているわけなんだが…







「今年は、君と…シェゾと手、つないでいきたいなぁ…。」





自分の頬にあてていた俺の手を、そっと上から熱い自分の手のひらを重ねてアルルは握った。



……ったく。
アルルが目を閉じていてくれて、助かった。なんて。


可愛いな、とか、素直に思ってしまった。

多分、今、自分が情けない表情をしているだろうことがわかる。


色んな意味で、本当にアルルにはかなわない。
…でも、それでもいいと思っている自分がいる。










「……いってやるから、風邪、治せ。」

「うん…!」

「だから、ちょっと休め…、な?」

「…ん…、どっかいったらヤだよ?」

「いかねぇから、安心しろ。そんなに心配ならくっついててもいいから。」




風邪ひくと人恋しくなるとかいうアレか。
と、ぎゅ、と抱きついてくる熱い身体を感じながら、苦笑する。


起きたらまた着替えだな。
とか、アルルの口から零れる熱い呼吸を胸のあたりに感じながら思う。

…今度はさっさと部屋を出よう。







くるなり倒れられて、最初は驚いた。
いろいろと災難(いい思いもしたけど)だったけれど。


あえていおう。


夏風邪万歳。
















しばらくは、起きたまま抱きしめられ続けていたシェゾであったが、
アルルの寝顔にさそわれて、三時間後、
二人して汗だくになって目が覚めたことはいわずもがなである。









凪 *空
2009年08月23日(日) 12時19分52秒 公開
■この作品の著作権は凪 *空さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ


おはこんばんにちわv凪  *空デスv
小説の方も参加させてもらいにきちゃいました〜^^*


一応、もうオツキアイ始めしてるシェアルで
甘め・微ギャグ・シェゾさんふりまわされっぱなし(笑)を
テーマにかいてみました〜ww
あんまり夏っぽくならなかった…!orz
ちなみに、夏風邪話になったのは、私自身が夏風邪ひいたからです。(爆笑

というわけで、病み上がりに出来た作品ですが
ヘタレ(コラw)シェゾをかけたので、とても楽しかったですv
あるるんにかなわないシェゾって大好きです。
腕枕も風邪ひきシチュも大好きです。(力


ちょっとでもにやにやしてもらえたら嬉しいですv(笑
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました^^*

らぶ!v

menu comment