ミラクル☆フォーチュン
コンコンと聞こえるノックの音。 シェゾは立ち上がりドアの鍵をあけ、そして… 「おっじゃましまーーーす!」 ドゴン!! アルルの勢いよく開けたドアがシェゾの顔面に直撃した。 †† ミラクル☆フォーチューン †† 「ーーーーーーーっ!!」 おもいっきりドアに顔をぶつけたシェゾが悶絶した。あまりの痛みにその場にしゃがみ込んでしまう。アルルが慌ててシェゾの様子を覗き込んだ。 「ご、ごめん…!まさかぶつかるなんて…」 「…つつっ。気をつけろ、バカ…」 「ちょっとバカってなんだよ!!せっかく頼まれてた本を買って来てあげたのに!」 「…そりゃどーも…」 アルルはシェゾに向かって『MOMOMOマート』と書かれた紙袋を突き出した。昨日、もももの店に買い物に行くといったアルルについでにシェゾが頼んでおいておいたものだ。赤くなった鼻をさすりながらシェゾはその紙袋を受け取った。念の為言っておくが、代金はすでに前払いしてあるのでお金を払う必要も無い。 シェゾに品物を渡したアルルだったが、役目は終わったというように自分のために買ってきた方の袋を持ってそのままソファーへ直行する。そしてガサガサと袋を開き中に入っていた雑誌を取り出した。そして、ソファーにごろんと寝転がりながらおもむろに読み始めてしまう。 「お茶入れて〜。ボクこれ読みながら待ってるから」 「…」 あまりのアルルのふてぶてしい態度にシェゾは、一瞬本気でこのままあれやこれややってやろうかと思ったが…本も買って来てくれたことだしと今回は素直にお茶をいれてやることにした。 アルルの熱心に読みいっている雑誌は黄色い派手な表紙に『mommo(モンモ)』というタイトルが書かれていた。そして、今日の日にちが発行日として黒い文字でしっかりと書かれてある。シェゾはよくわからないが、最近女達の間で流行っているファッション雑誌らしい。…アルルがそのファッション雑誌を読んで何かお洒落でもしているのかと言われれば何とも言えなくなってしまうが…。 「ぐぐぐぐぐー!!」 「コラ、この軟体動物!!」 お茶を入れているシェゾの横で、シェゾがお茶と一緒に出そうとしていたおやつを盗み食いしようとカーバンクルが舌を伸ばす。それを制止しようとしたシェゾだったが、その瞬間、 「あつっ!!」 「ちょっとシェゾ大丈夫??コールド!」 お菓子を持って逃げようとしたカーバンクルが、お湯の入ったポットを蹴飛ばし、それがシェゾにモロにかかってしまった。慌ててアルルが駆け寄ってシェゾに冷水を上から降らせたおかげで火傷にならなくて済んだものの、すっかりびしょびしょになってしまうシェゾ。 「ダメでしょ!カーくん!!」 「ぐぐぐーぐぅ」 『ごめんなさい』とアルルに謝るなら俺に謝ってくれ、とシェゾは思ってしまった。それにしても、なんだかさっきから妙についていない。過ぎてしまったことをとやかく言うことも無いが…。 シェゾは気を取り直して再び湯を沸かし始めることにした。コンロに火をかけて湯を沸かしている間に、応用した火の魔法を使って温風のようにして服を乾かす。こういう時に魔導師って便利だな、なんて思ったが所帯じみてしまっている自分に何だか微妙な気持ちも感じてしまった。 「やったー!全てにおいて絶好調だって!嬉しいなぁ〜」 ふいにアルルから歓声があがった。シェゾが湯を沸かしに行ってからは再び暇だと雑誌を読み直していたらしい。 「何見てんだよ?」 「星座占いだよ。この占い、結構当たるって有名なんだ」 アルルがにこやかに雑誌を開いて見せてきた。派手な雑誌の取りわけ派手なページに『必勝!素敵に無敵な星占い☆』という、なんともセンスの無い派手なタイトルが書かれている。そのページをみてシェゾは鼻で笑った。 「はっ、くだらないな」 「そうだよね、シェゾとか占いとか信じなさそう」 くすくすと笑いながらそう言うアルル。もとより、彼女もシェゾのこういう反応は予想していたらしい。彼はこういう信憑性の無いものは信用しなさそうに思える。しかし、ちょっとだけ彼は違う反応を返してきた。 「いや、占い…というか占術自体は信じているぞ。それに、星は特に運命と強い結びつきを持っているものだからな」 「ほぇ?」 シェゾの意外な反応に思わず驚いてしまうアルル。正直アルルには、シェゾが占いを見ながらふんふん言っているところなど全く想像がつかなかった。 「こういう雑誌には『星占い』なんて庶民的にされてはしまっているが、元は『占星術』と言って、天体の位置や動きを人間の活動と結びつけて未来を予測するという占い術の1つだ。魔力の無い一般人から見れば勘や経験で捉えているという見方が強いが、星にはそれ相応の魔力が宿っているから…その魔力を併せて見ればそれなりに信憑性の高いものではあるな」 「じゃあ何でくだらないなんていったの?」 「そういう雑誌に載っている占いは適当にありそうなことを書いているだけだ、それこそ魔力の無い奴らがな。だから、専門の奴らが占ったら別ということになる」 「あぁ、ウィッチとか?」 そういや、ウィッチがいつの時だったか星図をみてうんうん唸っていたことを思い出した。 「あんな半人前のものが当たるはずが無い。良くて奴の祖母さんとかだな」 「ははっ…って、それってちょっとひどくない?」 アルルが苦笑しながら言った。確かに半人前ではあるが、彼女も十分頑張っているような気がするのだが…なんて思ってしまう。 「それが当たり前なんだ。その道を究めたものでさえ、正確に当てることは難しい。様々なものが絡み合いながら運命は折りなっているからな。星の軌道と人の運命の結びつきは重なる部分が大きいから占いとしては的確なものに入るだろうが…それでも星の全てを読み取ることは難しい」 「うーん、わかったようなわかってないような…」 「とにかく、運命を占うことは簡単なことじゃないってことだ。第一、先のことなんて簡単にわかってたまる…」 「へー」 「…」 シェゾの長い話に飽きたのか、どうでもいいような返事をしてアルルは再び雑誌を読み始めていた。ちょっとムカッときかけたシェゾだが、難しい話は嫌いなアルルだし仕方が無いと思って溜息をつくだけにだけにする。とは言え、彼もまた信憑性の薄い雑誌の星座占いなんてどうでも良かったところはあるのだが。 「へっ?」 すると急にアルルが変な声をあげた。 「どうした?」 「シェゾ…これ」 眉をよせたアルルが雑誌を持ってシェゾに近づいてきた。シェゾはアルルの指差した箇所を覗き込む。 すると、そこにはこんなことが書かれていた。 男ども【うお座 2/19~3/20】 うお座の男は最悪。超最悪。ありえないくらい何をやっても裏目にでる。何もしなくても嫌なことばかり。っていうか嫌なことしか無い。特に銀髪の陰険な闇の魔導師は今までの不運を二乗してさらに億倍した程の不運が訪れるだろう。甘栗色の髪の可愛い女の子や愛しのカーくんと一緒にいるなんて言語道断だ!!大人しく一人で(←ここ重要)誰にも迷惑をかけないように家に泣き篭ってるが吉。ふははははははは! ラッキーアイテム:無し アンラッキーアイテム:アルル&カーくん 「アンラッキーアイテムにボクとカーくんって…」 「…なんだ、このふざけた内容は?ってかどう考えてもこれって…」 その時だった。 がっしゃーん!! 「ぐーっ!!」 何かが崩れる凄まじい音とカーバンクルの叫ぶ声が台所から聞こえる。 「どうしたの、カーくん?!」 慌ててアルルとシェゾが台所へ向かった。するとそこには 倒れた食器棚と砕け散っている食器たち。 「テメェ、カーバンクル!!お前、無理やりこの扉を開けようとしただろ!!」 「ぐぅ…」 シェゾの怒鳴り声にカーバンクルがさすがにすまなそうな声をあげる。 そう、シェゾはカーバンクルが度々シェゾの食料をつまみ食いするので、食器棚の下の部分の食料スペースに魔法で鍵をかけて開かないようにしていたのだ。どうやらそれをカーバンクルが無理やりこじ開けようとして、棚が倒れてしまったらしい。こんな小さな身体のどこにそんなパワーがあるのだろう。 「動くなよ。今、破片を片付けるから」 「ちょ、シェゾあれ!!」 シェゾがカーバンクルの動きを制して箒とちりとりを持ってこようとした時、アルルが突然叫んだ。なんだよ…とシェゾがアルルが指差した方を苛立ちながら見ると、さらにそこには、 意気揚々と燃え盛るコンロ。 「なっ…!!」 「わわわわわ、コールド!!」 慌ててアルルが魔法をとなえ、冷水をかけて火を消す。シェゾが慌てて近寄ると、そこには黒コゲになった箱などなど。かけっぱなしだった火元に、食器棚の上に積んでおいた荷物が落ちて燃えたらしい。火元を離れた自分も悪いといえば悪いのだが、しかしこれはあまりである。 「ふぅ…良かった…ってうわぁ!!」 「アルル!!」 不運はまだまだ続く。火を消したことで安心したアルルがカーバンクルに近寄ろうとしたのだが、コールドで床に広がった水に足を滑らせ、調理台に向かって倒れてしまう。それを見たシェゾが慌ててアルルを抱き寄せて咄嗟に庇った。 そのため、彼女の代わりに彼はおもいっきり身体を調理台にぶつけることになった。痛みのあまりに彼女を抱しめたまま調理台を背にし、彼はそのまま床に座り込む。 「…!!…っ。いってぇ…」 「シェゾ、大丈夫?!」 「大丈…」 どすっ はらり 音のした方を見ると、床に突き刺さった包丁と空中を優雅に舞い落ちていく数本の銀髪。ぶつかった衝撃で調理台に置いてあった包丁立てが倒れ、上から包丁が降ってきたのである。包丁はシェゾの髪を数本かすめ、アルルを抱しめながら座るシェゾとアルルのすき間に落ちてきたのだった。 「…」 「…」 抱き合いながら固まる2人。後数センチでもずれていたら見事にシェゾの頭を真っ赤に染めていたことだろう…。これにはさすがのシェゾも絶句してしまった。 「占い…当たってるね」 青ざめた顔をしながら心配そうにアルルはシェゾを見る。 しかし、シェゾといえばアルルの言葉に反応することなくどこかを見つめていた。一心に何か考え込んでいるかのようだ。 「しぇ、シェゾ…?」 「…おい、アルル。さっきの占いのページ見せてみろ」 「え?う、うん…」 おずおずとアルルが手に持っていた雑誌の占いページを開いてシェゾに手渡そうとすると、シェゾは乱暴にアルルの手からそれを奪ってじーっと見入った。 「シェゾ…?」 「…やっぱり、な…」 雑誌を見ながらシェゾの身体がワナワナと震えた。そして、シェゾはアルルに雑誌を付き返し、アルルの手をとる。 「…行くぞ!」 「え、行くってどこへ?」 「決まってるだろ…あの馬鹿のところだ!!」 「うわっ」 突然のシェゾの行動に驚いたアルルの手からは雑誌が滑り落ちた。そんなこと気にもとめないというように、シェゾは素早く空間転移を唱え目的の地へと向かう。魔導の発動とともに2人の姿が宙に消えた。 「ぐーっ…」 後に残されたのは、凄まじい惨状が広がるシェゾの部屋とカーバンクル。とてとてと歩くカーバンクルが向かったのは問題の雑誌だ。退屈そうにカーバンクルは床に落ちた雑誌を小さな手を器用に使ってぺらりとめくる。開かれたのはファンシーな文字とデコレーションが施された星座占いのページ。そのページに書かれていた占い師の名は… “海よりも思慮深く山よりも気高い魔界のプリンス” 宵闇迫る夕。天にそびえる様に建つ壮大な塔がオレンジ色に染まっている。 その塔の最上階には光を一切遮断している部屋があった。とはいっても星の光のような明かりが一体を舞っているため、真っ暗という程ではなく、薄暗いながらも淡い光が辺りを照らす幻想的な世界を作り出している。部屋の中央には巨大な魔方陣のようなサークルと、一定の動きを続ける小さな光の球体。 そして、その中心に細い笑みを浮かべて満足そうに一人たたずむ男がいた。 「だーっはっははは!今頃あのシェゾも散々な目にあってるだろな、はーーはっはっは!!」 魔王サタンの高笑いが煩いくらいに部屋中に響いた。これ以上ないというくらい、彼はご満悦のようである。 そう、シェゾの不運は全てこの彼の行動のせいによるものだった。 サタンにとって星の動きを読むことはたやすいことである。もちろん、完璧にまでとは言えないが、この世界の誰よりも正確なことが言えると自負しているくらいだ。それどころか、その気になればありあまる程の膨大な魔力を使って本気で星の軌道を変えてしまうことも、太陽の大きさなんかも自在に変えることが可能なのだ。 そんなサタンは数ヶ月前から『mommmo』の発行者であるもももに星座占いのコーナーを担当して欲しいと頼まれた。最初は面倒だと思っていたサタンだったが、暇だったしまあいいかと思って気まぐれに引き受けてみることにしたのである。すると、よく当たると絶賛の結果によっていつのまにか人気コーナーになっていたらしい。街で女の子たちが楽しそうに話している星座占いの評判を聞くようになるとサタンは嬉しくなった。そして、従来単純な性格の彼は案の定気分を良くし、またたくまに調子に乗り、今度は星座の相性占いに挑戦してみようかなと思ったのだ。だが… 「あの変態魔導師が私の可愛いアルルと相性ばっちりだとは許せん!!」 気まぐれで2人の相性をサタンが占ってみたところ、彼らの星の相性は抜群だった。色々考えたり、占ったり、祈祷したり…色々やってみたもののやっぱり結果は同じ。なぜか良い結果しか出ないのである。星の示す結果は今後の要因で変わっていくので現時点でとしか言えないのだが、それでもサタンをいらだたせるのには十分だった。 そこで、サタンは嫌がらせをするかのようにシェゾに対応する星の軌道を変えてシェゾだけが不幸になるようにしむけたのである。とはいっても本当に星の軌道を変えてしまうと他にも影響が出てしまうので、厳密に言えば擬似的な星の軌道を作り出して、それをシェゾと無理やりリンクさせるというものではあった。一種の呪いのようなものだと考えていいだろう。 「さすがの私でも、このように誰かの運命を変えることは大分力を使うがな」 暗い部屋にキレイに輝く光を見つめ、サタンは誰かに言いかけるわけでも云々と独り呟く。 「事前準備が必要になるし、同じ場所でひたすら力を使い続けなくてはいけないというのも面倒だし、この儀式をしてることが見つかってしまったら私にも不幸がふりかかる…。しかし!」 かっと目を見開き、サタンは高らかに叫んだ。 「これで変態をアルルから遠ざけることが出来ることなら私は何だってやってやるぞーーー!!はははは、シェゾめ、早急にアルルとカーくんから離れるのだ!!」 「やっぱり…お前か…」 突然、サタン以外は誰もいなかったはずの場所に別の誰かの声が響いた。 悦になっているサタンの耳に入ってきたのは、どすの利いた男の声。自分に浸っているあまりに自分以外の気配に全くといって気がつかなかったのである。 そこにいたのは… 「シェゾ?!どうしてここに…!!あ、アルルまで!!」 「どうしても何も、あのバカそうな名前とこんなこと出来るバカはお前くらいしかいないだろう」 シェゾの目はすっかり据わっていた。隣に居るアルルはほとんど汚れたり傷ついたりはしていないが、対照的にシェゾの姿はボロボロである。白い服には泥とカレーの茶色や葉っぱの緑、わずかな血の赤などですっかり汚れてしまっていた。 それもそのはず。ここに来るまでに本当にいろんなことがあったのだ。 まずは空間転移でサタンのところまで行こうとしたら、まさかの魔導の誤発動。アルルともどもサタンの城に行く途中の森に空から落下し、シェゾがアルルを庇い下敷きになる。その後もなぜか空間転移は何度試しても発動しなかったため、それから歩いてサタンのところに向かうことになった。しかし、その先がまたひどい。 森を歩いている途中にコドモドラゴンの罠を発動させてしまったアルルを逃がしてシェゾが宙吊りになり、やっと逃げ出せたと思ったらアルルがハニービーの縄張りに侵入してしまっためにハニービーの大群に狙われ、道端に倒れているハーピーをアルルが助けてあげたら「お礼です〜!」とか言われて怪音波を聞かされて鼓膜が破れそうになり、やっとの思い出立ち上がったら空高くを飛びながらカレーを食べていたドラコが手を滑らせ、シェゾの上にカレーを盛大にこぼしたなどなど…。 言えばキリがないだろう。占いの結果通り、シェゾはとことんついていなかった。いや、ほとんどアルルを庇っていたせいとも言えるのだが…それでもこの不運さは故意的なものを感じさせられずにはいられない。 まぁ、ここにきてその原因が占いの結果ではなくサタンのちょっかいのせいだとわかったわけだが…。 「よくも人の運命を弄んでくれたな…」 シェゾは笑っている。しかし、それは見るもの全てを凍りつかせそうな冷たい笑みだった。 「いやー、これはだなぁ…」 サタンもさすがに気まずい顔をしている。それもそうだろう、これだけ嫌な目にあったのに、『もうこんなこと二度としちゃだめだぞ!』なんて言ってくれるのは慈悲深い女神くらいのものだ。いや、もしかしたら女神でもそんなことは言わないかもしれない。 そして、怒っているのは彼だけではなかった。 「サタ〜ン」 「あ、あの…アルルさん…?」 アルルがにこりと笑う。しかしその笑顔の裏には何かとてつもなく黒い影が見える。 「ボクもさ〜、アンラッキーアイテム扱いされて、ものすっごぉ〜く腹が立ってるんだよね〜!」 魔王であるサタンはそれこそ魔王に自分は睨まれているのではないかと思うくらいの恐怖を感じていた。アルルのここまで黒い笑顔を見たのは初めてかもしれない。 「いや、それはだな!!お前を変態に近づけさせないようにするために…」 「「問答無用、吹っ飛べーーーーー!!」」 サタンの言い訳も虚しく、アルルとシェゾの怒声が重なる。 「アレイアード・スペシャル!!」 「ジュゲム!!」 そして、シェゾとアルルの怒りの魔法が見事にサタンへと炸裂した。 「ぎゃああああああああああああ!!」 きらーーーーーーーーーーーん 魔法の威力でサタンの身体は塔を突き破り、空高らかに飛んでいく。 夕日のオレンジと夜の黒で染まる地平線の向こう。アルル達の魔法でふっと飛んだサタンはキレイな一番星となって輝いたのだった。 「ったく…酷い目にあったぜ…」 「ほ〜んと、サタンたらロクなこと考えないんだから!」 「まったくだ」 すっかり日が暮れて暗くなってしまった夜道を2人は歩いている。 空間転移は未だに使えなかった。サタンが行っていた儀式のせいで、塔周辺に空間の歪みが発生しておかしくなっているかららしい。サタンの儀式が途絶えた今、その空間の修正はすでに始まっているのだが、未だにそれは続いていた。そのため、2人はこうやって歩いて帰っているというわけだ。 「そういやさ〜、今更思ったんだけど…」 「ん?」 アルルがシェゾに声をかけた。大したことではなく、ちょっとした疑問のように。 「ボクを置いていけば良かったんじゃない?そうすればもっとスムーズにサタンの城にいけてたかもよ」 「なんでお前とはな…」 さも当たり前というようにシェゾは何かをいいかけたが、何かに気がついたらしい。ごまかすようにゴホンゴホンと咳払いをして話していたことを中断させてしまう。暗くてはっきりとはいえないがほんのりと顔も赤い気がする。 「あんな奴のいいなりになるなんてゴメンだ」 「…違うこと言おうとしなかった?」 「気のせいだ!」 言い直された言葉にじーっとシェゾを見つめながらアルルが言う。それに対し力強く反論し、シェゾはぷいっと顔をそらしてしまった。そんなシェゾの様子がおかしくてアルルは思わずくすくすと笑ってしまう。そして、シェゾの手を見つめた。 それにしてもシェゾは気がついているだろうか。 あの空間転移で家を出た時からほぼずっと、アルルの手を放さずしっかり握っていることを。 色々不運な目にはあったけれど、というか自分が遭わせた気もしないでも無いけれど…どんな時でも離すものかというくらいにしっかりと握ってくれていたシェゾの手はアルルにとって本当に心強かった。 言ってしまえばきっと照れて彼は手を離してしまうことだろう。それはアルルとしても嫌なので、とくに何も言わずただくすくすと笑い続けるだけにしておく。 「何だよ」 「別に〜、何でもないよ〜」 釈然としないシェゾだが、自分が答えなかったこともあるせいか深くは追求してこない。そんな彼の様子にアルルはまた笑いたくなってしまったけど、そろそろやめておくことにした。そしてなんとなく思ったことを口にする。 「ねぇ、シェゾ」 「…何だ?」 反応は返してくるものの、なんとなく機嫌の悪そうな彼の声。それを気にすることなく、アルルはそのまま言葉を続けた。 「運命ってあるのかな?」 「…あるんだろうな」 「決められてる運命ってなんだか寂しいね」 今まであまり気にしたことは無かったが、もしも自分がこれから歩く道が全て決まっていると思うとアルルはなんだか悲しい気持ちになった。どんなに望んでいても、やっぱり叶わないことはあるのだろうか。この先、ボク達はどうなっていくんだろう。空に輝く星たちは、全てを知っているのだろうかと。 「…もし気に食わない運命だったのなら、壊せばいいだけの話だ」 少し間を置いてから、シェゾがアルルに応えた。その発言にアルルは思わずきょとんとしてしまう。それにかまわずシェゾはそのまま言葉を続けた。 「わからないことを、ああだこうだと気にしていても仕方が無いだろう。それに、例え決まっていたとしても…気に入らない運命だったら俺が叩き切ってやる。運命に翻弄される程俺はやわじゃない。そして…お前も」 「…そうだね!」 最後の言葉は少々気恥ずかしかったのか消え入りそうな声でぼそぼそと呟く感じではあったが…アルルはそのシェゾの言葉がとても嬉しかった。アルルは元気にシェゾの言葉に答えた。 ―そうだ、2人ならきっと…― けれど同時にアルルは思う。 ―決められた運命なんて嫌だ。 だけど、 それでも。 彼とずっと一緒に居られるっていう運命だけは決まっていて欲しいな― アルルはシェゾの手をぎゅっと握りしめた。未来の自分の運命が彼としっかりと繋がっていられるようにと。アルルを握るシェゾの手もそれに応えるかのように少しだけ強く握られたような気がする。 夜空に広がる満天の星たちは、そんな彼らを見守るように優しくキラキラと輝いていたのだった。 <Fin> 〜余談〜 女性【うお座 2/19~3/20】 全体運・健康運・ラブ運・金運・仕事運・お天気、すべてにおいて最高だ!これ以上無い幸運に出会えることだろう。輝かしい未来がキミには待っているはずだ。特にラブ運が絶好調!愛する人に何かプレゼントなどすると喜ばれるのではないかな。キミの優しい思いに彼はさぞ癒されることだろう。あ…もし、料理など作ってあげる場合はあまり張り切りすぎて、変な隠し味をいれぬようにな、くれぐれも…。と、とにかくだ!!恋せよ、乙女!! ラッキーアイテム:愛しい彼への手作りカレー アンラッキーアイテム:チョコレート(隠し味に使うチョコレートは適量に…) 「きゃーーー、ラブ運最高ですって!!」 アルル達がサタンを倒し帰り道を歩いている頃、ルルーは自室で優雅にお茶を読みながら雑誌を読みふけっていた。読んでいる雑誌は、やっぱり『mommo』。ルルーはこの雑誌を毎月必ず読んでいた。 ルルー自身、この雑誌は自分にとって少し子供っぽいのではないかと感じる気もしない。しかし、街ではどんなものが流行っているのか、おススメの美容法、どんな服装が最愛の人に喜んで貰えることになるのか、ちょっとした恋愛の情報などなど…チェックするべき点はたくさんある。美しさを磨いて愛する人の妃になるためにも、こういった情報収集は欠かせないものだとルルーは思っていた。 とは言え、そんなルルーもやっぱりまだうら若き18歳の乙女。毎月、星占いの結果をドキドキしながら見ているというわけである。今月のルルーの運勢は満点がつくくらい最高だ。この結果にルルーはとても嬉しくなる。とりわけいつも気にしているラブ運が絶好調だというのだから、喜ばずにはいられない。 その時だった。 ルルーのところに慌てた様子で大きな牛男…ルルーの忠実な僕であるミノタウルスが息をきらしながら駆け込んできた。 「何よ、ミノ。そんなに慌てて」 「大変です、ルルーさま!!サタンが…じゃなかったサタン様が大怪我をして寝込んでいるそうですよ!」 「なんですって!!」 ルルーにジト目で見られたので慌てて訂正したミノタウルスだったが、ルルーはといえば、ミノタウルスの言葉が終わるやいなや驚いて大きな声をあげた。 「すぐにお見舞いにいかなくちゃ…て、はっ!!」 「ど、どうしたんですか?!」 「…カレーというのはこの時のためのことだったのね!お見舞いに持っていきましょう!」 ルルーの顔が閃いたというような表情を見せる。きっと怪我で痛い思いをしているサタン様も自分の真心のこもったカレーを作ってくれれば喜ぶに違いない!そんな風にルルーは思った。とは言え、雑誌のことを知らないミノタウルスにはちんぷんかんぷんな話だ。なので客観的な意見を口に出してみる。 「あのよく話は見えないのですが…、ルルー様、病人にカレーは少々きついのでは…?」 「『ありがとう、ルルー。私はこのカレーを食べたかったのだ』『そんな、サタン様に喜んで貰えるならどんなものだってお作りしますわ』『ふふっ…まだ他に食べたいものがあるのだがな』『…えっ、何ですか?』『それは…お前だ、ルルー!!がばっ』『そんな…でもサタン様のためなら…ポッ』なんちゃってーーーーーー!!きゃーーーー、サタン様のえっちぃぃぃぃぃぃ!!」 どごす! 「ぶもーーーーーーっ!!」 妄想から一人二役の芝居をしだしたルルーにはミノタウルスの忠告はキレイに耳に入らない。見事に声色もしっかりと変え、サタンの役を演じ切っている。そして一人でそのままぶつぶつと喋り続け、最後には妄想の勢い余ってミノタウルスを無意識に吹き飛ばしてしまった。 「…ぐふっ」 乙女の妄想パワー炸裂の拳を前にミノタウルスの意識はあっさりとばたんきゅ〜。…哀れ、ミノ…。 「サタン様、待っていて下さいね〜!今、貴方のルルーがいきますわぁ〜〜〜!!!」 気を失っているミノタウルスのことはすっかり眼中にないらしい。彼女は目を輝かせて、ミノタウルスと同じくらいの大きさの鍋を取り出し、意気揚々とカレーを作る準備にとりかかることにした。 かくして星の綺麗な夜は更けていく。 その後、サタンがルルーの心のこもった手厚〜い痛々し〜い介護を受けるのはまた別のお話。 <おしまい> |
story by こぱら |
あとがき 初めまして、またはお久しぶりです! 小説では4年ぶりの投稿になります、こぱらです。 ひねくれ者がゆえ、ちょっと変わったものを書きたいなと思いこのような作品になりました。かなりギャグですね!その中でも、ちょっと甘い部分も感じて頂ければと思います。 少しでも皆さんに喜んでいただければ幸いです。想いが伝わりますように。 最後に、素敵な企画を本当にありがとうございました! |