バンクルの舌
極楽の蓮池の周りを、お釈迦様がぶらぶらと歩いておりました。
蓮池の底は、ちょうど地獄と繋がっており、そのはるか下のほうに、地獄の様子がよく見えます。
お釈迦様は、ふと、血の池地獄で苦しんでいる、一人の男が目にとまりました。
その男は、シェゾ・ウィグィィといい、生前は闇の大魔導師でした。
シェゾ・ウィグィィは、人の家に忍び込んでカレーを盗んだり、子どもをいじめたり、あげくのはてにはお釈迦様に向かって「お前が欲しい!」などといった極(?)悪人でございます。
しかしその闇の魔導師も、ひとつ良いことをしたことを、お釈迦様は思い出し……
「う〜〜〜〜〜ん…………」
……とにかく、良いことをした覚えがありました。
お釈迦様は、思い出すのが面倒になって、そのまま蓮池の辺でお眠りになられてしましました。
蓮池の葉の上に、一匹のカーバンクルが、大きな鼻ちょうちんを膨らませて寝ておりました。
寝ぼけているのか、カーバンクルは池の底へ―――地獄へと向かって、その赤い舌を伸ばしていきました。
さて、こちらは地獄。様々な悪人が、様々な責苦を課せられておりました。さすがの闇の魔導師シェゾ・ウィグィィも、血の池の血にむせて、古代魔導を使う気力もありませんでした。
ある日、シェゾが上を向くと、上から赤い舌が降りてきました。それに気がついているのは、今の所シェゾだけのようでございます。
シェゾは、ちょっといやだけど、この舌を登っていけば、地獄を抜け出せるかと思い、早速のぼりはじめました。
―――それからまる一日、疲れ果てたシェゾは、ふと、下を見ました。
するとそこには、シェゾ同様、舌を登って地獄から抜け出そうとするものが群がっておりました。
「後継者だけが、地獄から抜け出せると思わないことですね……んふふ」
「なんでミーが地獄なんかに………!」
「わ〜た〜し〜は〜、何も悪いことは〜、してません〜〜」
シェゾは嫌な予感がしました。何故なら、この舌には、見覚えがあったからです。
そしてその予感は、見事的中しました。
「うわ!」
上から、赤いビームが降ってきました。
シェゾは間一髪避けましたが、下の連中は、そのビームで弾き飛ばされてしまいました。
シェゾはその後も必死にビームを避けました。しばらくすると、突然舌が上へ上へと引っ張られていくのです。
「うわ、わわ!!」
ただでさえ滑り易い舌でございますから、当然シェゾはどんどん滑ってしまい、とうとう舌の端に辛うじてつかまっている形となりました。
そして―――
ばしゃ――――――ん!!
「うわあ―――!!」
カーバンクルの舌に引っ張られて、シェゾは見事極楽にたどり着きました。
不思議なことに、極楽に来たとたん、汚らしかった服装が一変、見事な銀色の召し物へと変わりました。
「んー?あれ、シェゾ?こっちにいつ来たの?」
「な、キサマは―――」
ぐぎゅるるるぅ〜〜〜〜〜〜〜〜……
『…………………』
「……………お腹空いたし、カレーでも食べにいこっか、カーくん」
「ぐー!」
いつの間にかおきていたカーバンクルも、元気に手をあげました。
「シェゾも来る?」
「…………」
無言でしたが、シェゾもお腹が空いておりましたので、すごすごとついていきました。
完(で、いいのか?)