10月31日 ハロウィン。
外では子供たちが仮装して嬉しそうにお菓子を貰っている。
そんな時、一人の少女は憂鬱な顔をしていた。

“ハロウィンバースデー”


「ハァ…。」

 ウィッチは店のカウンターで頬杖を付いて、ため息を付いた。
 何かを期待しているような、半ばあきらめているかのような表情で。

「ハァ…。」

 人のいない静かな店内で、ウィッチのため息が響く。

「トリッーク オア トリートッッ!!」

 店内の静けさをぶち壊すかのような大声で入ってきたのはアルルだった。

「トリックオアトリート!何かお菓子くれないとイタズラしちゃうよ〜?」
「あら。アルルさん、ごきげんよう。」

 少しそっけなく、冷たい態度でウィッチは答えた。

(ヤッパリ…アルルさんも覚えていなかったみたいですわね…)

そんなウィッチの心境もお構いナシにアルルは続けた。

「そそー、見てみてっ!ハロウィンだからボクも仮装しちゃった♪ ウィッチも魔女に仮装?」
「…私は元から魔女ですが?」
「あ。そっか!ゴメンゴメン!! ボクはね〜、カボチャの…えっと…ジャック………」
「ジャック・オ・ランタン」 「そうそう!それそれ!! ヤッパリ現役魔女は違うね! で、お菓子頂戴!!」
「…お菓子ならそこにありますが…?」

 少しイラ付きながらウィッチは言った。
  そして続けた。

「ちなみに、ソレは10G以上お買い上げの方に3つプレゼントですので、 もって行く場合は何か買ってくださいね。」

するとアルルは伸ばしていた手を止めて嫌そうな顔で言った。

「え〜!?ウィッチのケチー!! 少しくらい…少しだけ、いいでしょぉ〜?」
「ダメなものはダメですっ! 文句が御ありでしたら、出て行ってくださる?」
「えぇ〜!?」
「ハイ、文句があるなら、強制ですわ!!」

 そういうとウィッチはアルルを強制的に店から放り出した。 そして、静かになった店の中で一人、深いため息をついた。
  しばらくして、再びバーンという音とともにドアが開いた。

「トリーック オア ユアーハートっ! ユーのハートをくれないとイタズラ…ん?」
「メ・テ・オ!」

 入ってきたのはインキュバズだった。
 さっきのアルルと同じく、ハロウィンに浮かれた台詞、 さらにプラスしてナンパてきな台詞にぶち切れたウィッチは、 台詞が終わらないうちに魔法を放った。

「フゥ…。今年も…。誰も覚えていませんのね。」

 目に涙を浮かべ、ウィッチはつぶやいた。
 …しばらく、静かな時が過ぎた。
 カチ、カチ、と、時計の針の音が響く。
 カラン…カラン… ドアのベルの音が静かな店に鳴り響いた。
 入ってきたのは全身を金色の鎧に包んだ黒髪の勇者だった。

「あら、ラグナスさん、今年は勇者の仮装ですの?」
「ハァ?何だソレ。」

 つん、とした態度のウィッチに、ラグナスは戸惑う。
 さっきのアルルたちとのことを、まだ根に持っているのだろう。 さらにウィッチは続けていった。

「お菓子なら、10G以上お買い上げの方のみ、ですわよ。」

 そんなウィッチの台詞で、ラグナスは気がついたのか、クスっと笑っていった。

「あぁ、そうか。今日はハロウィンだったな。 すっかり忘れてた。」
「そうでしたの。勇者様はお忙しいそうですものネェ。」

 少し同情するような、皮肉半分な感じでウィッチは言った。

「あ…いや…そうでなくて…。」

 ラグナスは頬をポリポリとかきながら、照れくさそうに言った。

「今日、ウィッチの誕生日だろ?」

 思わぬ言葉にウィッチは驚き、目を丸く大きく開いて言った。

「―…え?」
「あ…え?違った…?」
「い…いえ。只、誰一人として私の誕生日なんて覚えていませんでしたから…。 ビックリしただけ。ですわ。」

 ウィッチも照れくさそうに、そして未だに驚きを隠せない表情だった。

「んで、これ…。 こんな物で良いのか分からないけど…。 ハッピーバースデー、ウィッチ。」

 そう言って、ラグナスが差し出したのは、 青い、幻想的な色をした花のペンダントだった。

「これ…は?」
「え〜っと…花の名前は忘れたんだけど、 ある国でしか取れない花をペンダントにしてもらったんだ。 女の子ってどんなのが好きか分かんなくて…。 ウィッチに似合うと思ってソレを。」
「いえ…そうでなくて…。」
「あ、ホラ、誕生日だからウィッチにプレゼント〜…ってウィッチ!?」

 嬉しさ余りに、ポロポロと涙を流すウィッチに、ラグナスはビックリしてしまった。

「本当にありがとうございます。 一生大切にしますわ。」


                Trick or Treat!          
                      and
                   Happy Birth day! Witch!!




 ハロウィンに生まれた魔女の、エピソード。



 2005.10.31.Mon.

〜あとがき〜 フィー…。 やっとこさ終わりました; ギリギリハロウィンに完成;
「魔導館」初!のラグウィですねぇ〜…。 え?全然ラグウィじゃないって? そんなこといわんで下さい〜…。 ボクじゃあコレが精一杯です。 最後をどうするか…。 必死に迷いました〜…。 あいまいな終わり方でスミマセン。




◆サイト開設当初からお世話になっている魔導館のどっぺるなんたら様から頂きました。
 先日、メールのやり取りをした時、フリー配布期間とっくの昔に過ぎ去っているにも関わらず、「もらって良いよv」とのお言葉を頂き、ほ、本当に良いのか!?と動揺しつつ狂喜しつつ、心は畏れつつ手は早く、かっさらってまいりました(笑)
 可愛らしいウィッチ、そしてハロウィンなんかよりも彼女の方が大事!なラグナスにクラクラします。
 二人の恋はキャンディーのように甘かった!
 もう全く理想の二人で……っ!!

 思えば、ラグナスの誕生日はエイプリルフール当日。誕生日が行事と重なってる点、互いの苦労は解ってそうですよね(笑)

 メールでのお返事が限りなく遅れてしまっているので、代わりにこちらでお礼申し上げます。
 ドッペルなんたら様、ありがとうございました!
 魔導館復活、心から楽しみにしています。
                           
                              2008.1.2 華車 荵


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