遠く遙かに 君が笑ったのを見た   

 

   時が止まった  あの朝。

 

 

 

                      遠く遥か

 

 

 

 

 

 

 

「……元気だしなよ…?ね…?」

 

「…あいつのことだ、どうせ還ってくるだろ……。な。だから、元気出せ。」

 

「還ってきたとき、キミが笑ってなかったらきっと彼は悲しむよ…?」

 

「……ったく、何処行きやがったんだ……。」

 

 

 

「……大丈夫、ボク大丈夫だから!」

 

 

 

 

 

 朝、目を覚ましたら世界が彼の銀色でいっぱいだった。

 

 嬉しく嬉しくて、掛けだしていった。後悔した。ボクは、知っちゃいけなかったん

だ。

 

 

 

彼の銀色。……彼の…

 

 

 

 

 

「綺麗……だねぇ……。  ねぇ…… ……。」

 

 いつも其処にいたんだ。話しかけたら、同じ返事。いつもいつも。

 

「寒い……なぁ…。」

 

 雪が冷たくて 心が寒かった。

 

「……痛い…や。」

 

ちっちゃな声は 誰にも聞こえないまま 雪に吸い込まれていった。

 

「痛いよ……  ……。」

 

 

 

 

 

 朝起きて いつも通り彼の家に向かった。

 

 間違いだったんだ。ボクは なんにもしちゃいけなかったんだ。

 

 

 

 

 

「あ、アルル!!何やってるの…?身体、冷えちゃうよ!」

 

 そんな時、駆け込んできたのはボクのドッペルゲンガーと、彼のドッペルゲン

ガー。

 

「……どうしたんだ?オリジナルの家に行くんじゃねぇのか……?」

 

 同じ声。同じ姿。同じ形。

 

 全部、ボクには痛かった。彼は悪くない。だけど、そのあり方がいけない。

 

「もう、いいんだ。」

 

 響きをもたない声に 無性に哀しみが募った。

 

 

 

 

 

 銀雪の上 小さな血痕。

 

   それだけで  充分だった。

 

  充分すぎた。    

 

 

 

 

 

「……ルル…?アルル!!」

 

「あっ……。」

 

 Dアルルがボクを呼んでた。

 

「どうしたのさっ…?」

 

 心配そうな顔。その向こうに、同じくこちらを伺うDシェゾ。

 

優しい二人の眼差しが 何処か 痛かった。

 

「……雪が…。」

 

「あぁ…また降り出したね…。」

 

 

 

 寒くないだろうか  

 

 たった一人で。 何処かへ行ってしまったの…?

 

 何処か 遠く……  遙か 遠く……

 

 

 

 

 

 雪に心を奪われて 何時の間にか Dアルルが入れてくれたココアが冷めてしまっ

たのに気付く。

 

 悲しいほどの冷たさに 思わずからだが震えた。

 

 

 

「あいつは……。」

 

 突如呟かれた言葉。

 

彼と同じそれに、 心が痛かった。

 

「勝手なヤツだ……。」

 

 雪を見るその目が 切なげで 痛かった。

 

「……何処へ行ったんだ…。」

 

 あぁ、彼も辛いんだ。

 

 

 

 

 

 幸せは何処にあるの…?

 

  ボクは 何処にいるの?

 

 彼は、  何処へ行ったの…?

 

 

 

 

 

 夜も更けて、雪も強くなった。  それでも 彼は還ってはこなかった。

 

   いくら待っても   それでも       還ってこなかった。

 

 

 

「アルル、ボク達そろそろ帰るけど… 一人で大丈夫?」

 

「…別に、此処にいてやってもいいんだが…。」

 

 優しい。 ボクと彼と同じ形。 だけど 違う心。

 

「ううん、大丈夫だよ。ボク、もうチョット此処でまっとく。」

 

 彼の家で  彼の帰りを。

 

「そう……?何かあったら、すぐにおいで。…ね?」

 

「……俺たちは いつもの丘にいるから。」

 

「………ウン。気を付けて帰ってねっ。」

 

 

 

 彼は 別れを告げることもせずに 消えてしまった。

 

  ボクに なんにも言わずに 何処かへ行ってしまった。

 

 去っていった ボクの心から居なくなった。  幸せは 何処にあるんだろう。

 

 

 

 

 

 一刻一刻…… ただ時計の針は動く。

 

  ゆっくりゆっくり 時間が止まる。

 

彼との時が カチリと音を立てて止まった。

 

午前 十二時。 時が 止まった。

 

 

 

「何処へ行ってしまったの?」

 

   一緒にいるっていってたのに。

 

「幸せは 何処にあるの?」

 

   彼の居ない今 ボクが 出来ることは何…

 

 ―もう 名前まで 忘れてしまった。―

 

 

 

 昨日までは笑ってたんだ 昨日 笑ってくれた

 

 寂しそうに 何処か遠くを見ているあの蒼い目は。

 

  キミの目 哀しみで蒼く染まった。蒼く 蒼く 染まった。

 

 幸せか 聞かれた。  キミがいれば幸せだって言った。

 

  キミと居れば 幸せだって 言った。

 

 そうか。って、一言。

 

   俺もだ。 って、いって笑った。

 

 

 

 

 

 雪の上 残っていたのは 紅い赤。

 

  消えていったのは キミの温もり。

 

 

 

 嘘だって 思って。  走った。

 

  キミの家 雪降る窓辺。 残っていたのは ただの虚無。

 

「    ?」

 

 呼んだ声。跳ね返る声。

 

呼べば 来てくれた。 必ず 来てくれた。

 

「    ?」

 

 だけど こない。 こない。こない。

 

「    ?」

 

 

 

 

 

「雪が降ってる。」

 

「止まないね……。寒くない…?」

 

「……寒くない…?」

 

 

 

「ボクは寒いよ…。」

 

「……キミが 居ないから…。」

 

「……   っ!!」

 

 

 

 名前すら 分からなくなった  ただ 微笑んだ表情だけが

 

 ヤケに鮮明に思い出される  

 

「昨日…… 昨日までは 此処にいたじゃないかぁっ!!

 

  帰ってきてよ 待ってるから 早く 早く……!!

 

 もう一回わらってよ ! もう一回わらってよ !!

 

  怒ったって良い 何したって良い!!

 

 ボクの幸せは キミなんだから !! 

 

  何処にも行かないって いったじゃないかぁっ……!!!

 

嘘つき! 嘘つき……!!!!」

 

 叫ぶことしかできなくて 無力な自分に 涙すら出ない。

 

「嘘……つき…っ…」

 

 彼が悪い訳じゃないのに

 

  誰も 悪くないのに

 

こうなること 運命だって 判ってた 認めたくなかった。

 

 こんな形で、 認めたくなかった。 

 

痛いほどの裏切り。 狂ってしまいそうで……

 

「アイタイ……逢いたいよ!! 

 

  もう一回 逢いたい……逢いたいよぉっ!!」

 

 笑った彼 怒った彼

 

  切なげな横顔 光る銀の髪

 

 全てが好きだった 全てが愛しかった

 

     

 

―ただ それだけだったのに……

 

   もう、何もできない  君が居ない 

 

  何処かへ 行ってしまった……―

 

 

 

 

 

 今頃… きっとボクとキミのドッペルは あの丘にいる。

 

  雪が降ってるのに 寒いのに。

 

 ボクとキミを心配して あそこにいるんだ。

 

  キミが 還ってくるのを待ってる人がいる。

 

 だけど きっとボクが 一番 キミの キミの……かえりを待ってる。

 

 

 

 あの朝 時が止まった  ボクのなかの キミの時が。

 

  居なくなった 何処かへ行っちゃった

 

「還ってきてよ  ボクが キミを忘れる前に。」

 

 挨拶も しないで。 まだ 想いを 伝えてないのに。

 

  さよならも 言わないまま

 

 

 

 

 

「月……綺麗だね…。」

 

 外に出た。 彼の家が冷たすぎて。

 

 外も冷たかったけど キミもこの世界の何処かに居るって 思えて。信じて。

 

「キミ……似てたよね。月に…。」

 

 太陽と月みたいに ボク達 一回も会えなかった。

 

  だけど  昨日は きっと近くに居れた

 

 昨日  昨日は きっと日食。 だから キミが 愛しかった。

 

「……また、居なくなったんだ…。」

 

 最初から 居なかったって思ったら それも否定できない。

 

  いつでも 月みたいで  触れられなかったから。

 

 

 

「キミの家からは ボクの家が よく見えるんだね…。」

 

 小さな 灯りがぽつりと。 それは ボクの家だった。

 

「カー君 何してるかな…  寝ちゃっただろうな…。」

 

 キミもこんな事考えたのかな

 

 ボクが 何してるか 少しは気にしてくれたこと あったのかな…

 

  ボク置いて 行っちゃう時

 

……ボクのこと 考えてくれたのかなぁ……

 

    もう 答えのない 質問。

 

 

 

 

 

 雪が 舞う 

 

  キミの居ない この空間に

 

 時が 止まる

 

  もう 忘れることしかできない 

 

―ボクは きっと 君を 忘れる……―

 

  ―そして 君も ボクを 忘れる……―

 

 

 

「君が いないのに

 

……ボクは なんで生きてるの…?」

 

雪に笑う。 意味もなく。

 

その先に 君が居るんじゃないかって 淡い期待。

 

   無駄な   期待。

 

 

 

「ねぇ……」

 

言いたいこと 沢山あるよ

 

       なんで置いていくの 何があったの

 

       悲しいな 寂しいな  一緒にいたかったよ

 

         君は 何処から来て 何処へ行くの

 

        ボクは 何を祈って  何を望んでるの

 

          幸せは  もう 何処かへ……

 

「ねぇ……」

 

 だけど 言葉にならない。

 

 どうしても 言葉に 出来ない。

 

 

 

 

 

「ボクの魔導力 ずっと 欲しがってたね…。」

 

  それが なかっても もしも それが一欠片もなくても

 

 君は ボクの傍に居てくれただろうか。

 

「……あげちゃったら 良かったね。」

 

 君は怒るだろうけど。 

 

「だって、もう……あっても どれだけあっても

 

    意味が無いじゃない! 君がいないのに……。」

 

 無意味なモノ。ただ 自分の力が 恨めしかった。

 

 

 

 

 

 雪の上の血痕  降ってきた雪に少し隠れて。

 

  現実を見るために それを払いのけた。

 

 生々しい血のあとが  彼がいたことを物語って

 

               ……何処か安心できた。

 

 

 

 

 

「……。」

 

 ボクは何がしたいのか   ボクは何をしたいのか

 

  判っているけど  気付かないふり  いつもいつもそうだった。

 

「……。」

 

 だけど

 

「……。」

 

 もう

 

「……。」

 

逃げない。

 

 

 

 

 

「君の居ない今なんて ボクには必要ない。」

 

「必要ないよ  ……    。」

 

 

 

 

 

とても短い詠唱  軽くなるからだ

 

  雪に反射して 海の水面が揺れるような

 

 そんな 幻想的な世界。

 

 

 

 

 

 

 

 「今   行くよ。」

 

   「逢いに 行くよ。」

 

 

 

 

 

― ユメハサメルカラ  ユメデアッテ

 

   ケッシテ ツヅカナイ   

 

 コノセカイハ アマリニモカナシスギテ

 

   キョウモマタ ナミダニソマル

 

 ソノセカイニ キミガイナイナラ

 

   ソレナラ……    コンナフウニオワルノモ

 

 シアワセ    ―

 

 

 

 

 

 

 

「……キミは  幸せ に 終われ  た…?」

 

  繋がることのない言葉。 世界が白くて。

 

「ねぇ…… ボク は キ ミと 居れて………」

 

  届かない祈り それでも 祈り続けた。

 

「     し  あわ  せ  だった よ。」

 

 

 

「シェゾ……」

 

 

 

 

 

 

 

  雪に身体を預けた  もう 何も要らなかった

 

 キミ以外の全ては  もう要らなかった。

 

  この世界に ボクの形をした キミの形をした

 

 とても 優しい人がいる。  すごく優しい人がいる。

 

   その人達が  幸せなら  それで良い。

 

 ボク達の代わり  絶対に  幸せになって欲しい。

 

     あの丘に  いつまでも 幸せが降りますように……   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『― 遠く遙か きっと君は また笑ってる。― 』

 

 

 

 

 

  

 

 雪の上の血痕。  その横に 小さな足跡。

 

  愛するものの 命。 

 

 丘の上の 二人に届いた 小さなメッセージ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『― 遠く遙か  ボクはきっと 笑うから。―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―遠く遙か  未だ止まない新雪が  そっと涙を流した……――   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           ………………アトガキ

 

 

 

 それなりに 心を込めて書きました。 とにかく 時間がかかった。

 

  心情描写、かくの苦手なんだけど、それなりに……(何

 

……きっと ハッピーエンドです。 (ぇ

 

  この後ドッペル達がどうしたのか、アルルはどうなったのか。

 

これより先は 貴方に続く ストーリーです

 

 そして、チャンスがあったらどうなったか書いてみたいな……。(笑

 

                         空

 

 


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