あの何千個の星のなかから、私を見つけて
 
 そしていって ――かくれんぼはおしまい
 そして連れて行って 貴方に手が届く場所へ  
 
 星のメロディ
 
 
 さら、さら。 さら、
 
 笹の木の葉のずれる音が何処かで聞こえる。
 夕暮れ間近の、暗いような明るいようなそんな草むらのなかで。
 一番星はまだ見つからない。
 今日はお天気だから、きっと天の川もかかるだろう。
 
 さら、さら。 さら、
 
 
 
 無性に、哀しくなって、呼び止められる声すら無視して駆けだした。
 Dアルルの唄が。それを見るDシェゾの眼差しが。そして、僕の隣で仏頂面で立つ彼を見ていたら、切なくて泣きそうで、気が付けば飛び出していた。
 きっとシェゾはもうすぐ僕を探しに来る。
 
               
               貴方は見つけられますか
               あの何千億の光のなかから 私を
 
 
 Dアルルが唄を作った。Dシェゾが奏でるフルートにのせて僕に歌ってくれた。
 ――他の楽器は使わないの? と、聞いたら、「フルートだけにしか出せないメロディをベースに作曲したから、これでいいんだよ。」と、微笑んでいった。
 僕と彼のドッペルゲンガー。三度離れた音程の二人。手を伸ばしても、触れるか触れないか分からない距離で、二人は音楽を奏でてる。
『それ』が、二人をつなぐんだ、と、Dアルルは微笑んだ(わらった)
 
 
               時の流れの速さに時々貴方が見えなくなります
               夜行列車の窓から輝く星が見えますか
               それが、私です
 
 
 七夕の日。二人の音楽。僕の隣のシェゾ。切ない音色。純粋な歌詞。どれもが、何故か僕を泣かした。
 『私』に、Dアルルが重なって思えた。
 『貴方』に、Dシェゾを重ねて見た。どれもがやけにしっくりきていて、胸が熱くてたまらなかった。
 二人の間の、広い広い距離が、僕とシェゾの距離のようで。
 
 
                夜の間に輝く星に紛れて小さく光る星
                それが、私です
                時を越えて会いに行きたい
                遠い過去に私はいるのです 
                未来の貴方に恋をして、木の陰に隠れる星が私です
 
 
 さら、さら。  さら。
 笹の葉が、遠い民家の窓で揺れていた。
 色とりどりの短冊に書かれた願い事。
 顔を隠そうとしている夕日の回りの、紫色の雲も暗くなった。
 僕の腰の辺りまで伸びたススキが、夕暮れの風に音を立てた。
 隠れるみたいに、僕は腰を下ろした。
 
 シェゾは、見つけてくれるだろうか。
 たくさんのもののなかから『僕』を。
 
 
                 泣き顔隠してかくれんぼ
                 貴方は私を見つけられますか
                 降参なんて言わないで
                  最後まで私を探してくれますか
 

 

 シェゾの蒼い瞳を見る度に、哀しくなる。
 時の進みは変わらないのに、彼の時は進まない。
 なんて、こと。
 僕の時は進んでいくのに、彼の姿は変わらない。
 年をとるたび大人びていく僕。年をとるたび哀しみを重ねる彼。
 二人の時はずれていく。
 僕の時ばかり先に進んで。彼の哀しみばかり募っていく。
 
 草原で、座り込んで空を見上げた。
 いつの間に流れたかも分からない涙が、上を向いたのにもかかわらず流れてきた。
 思わず溜息も漏れるような天の川。
 いつのまにか、辺りは闇の色。
 
 
              貴方が私を見つける頃、私は其処にいるのでしょうか
              私の輝きは、時を越えて何十万年もの未来に空に浮かぶ
                 その時、私はまだ其処にいるでしょうか
             その時、私はまだそこで輝いている事ができるのでしょうか 
 
 
 今、お前が見ている星は何十万年も前の星だ。と、冬の夜にシェゾは静かに呟いた。
 離れすぎていて、その光がこの場所まで届くのにはすごく時間が掛かるのだと。
 お前が見ている星は、今はもう其処には無いかもしれないものだ。と、シェゾは言った。
 星明かりに輝く銀の髪、月の光で揺れる蒼。
 “神様を裏切る彼”が、とても神秘的に見えたあの夜。
 シェゾの表情は静かな海のよう。水面に光る銀の光は彼の銀糸。深い蒼は彼の瞳。
 彼の深い哀しみがちらりと見えた。とてもとても、切ない横顔。
 月のような人は、海のようでもあった。
 闇よりも、闇の中で僅かな光に照らされて、其処に存在するのが、彼の生き方のようで切なさがこみあげた。
 ぎりぎりの崖っぷちで、今も哀しみを堪えて其処にいる。
 ――いつになったら、救われるの?
 心の中で叫んだ言葉。
 
 Dアルルの書いた歌詞。切ないそれは、シェゾの様だ。
 ということは、彼女にとって、この歌詞はDシェゾの様でもあるのかな。
 それとも、それは僕等なのかな。
 切ないメロディ。奏でるのは愛する人。歌うのは、
 
                 
                 ずっと未来で輝く貴方
                 ずっと過去に確かにいた私
                 貴方に私が見つけられますか
                 何千個もの光のなかから 私だけを
 
                 出来ることなら連れて行って
                 貴方に手を伸ばせば触れられる場所
 
                 かくれんぼには飽きてしまったけれど
                 貴方のその目が私を見つけるまでここにいます
                 ――かくれんぼはおしまい と、微笑んで
 
 
                 連れて行って 貴方に手が届く場所
                 私を見つけて 連れて行って
              
                 此処から 私を連れ去るように
 
 
 さら、さら。  さら、   さら。
 
 笹の木の葉が夜風に揺れる。不思議と寂しくなくなった。
 僕の回りを囲む闇は、優しくそこに存在してる。彼のようなその波長。  
 気持ちが落ち着いていくのを感じながら、そっと歌った。
 
 
 ――貴方に私が見つけられますか
   あの何千億もの光のなかから 私を
 
 
 フルートの音にかわって風の音。鈴の音の様なススキの揺れる音。
 しんしんと、音もなく天の川。闇の音。
 立ち上がってみると、空が近くなった。
 胸にいっぱい、夜風を吸い込んで。
 
 
――あの何千個の星のなかから、私を見つけて
 
  そしていって ――かくれんぼはおしまい
 そして連れて行って 貴方に手が届く場所へ
 
 
 この歌詞を作った人のような綺麗な声は出ないけど、不思議と響く少女の声。
 遠くからそれを聞く、黒の衣装を纏った男の口許は微笑みのかたち。
 
 
――此処から私を連れ去るように
  此処から私を連れ去って いって……
 
 
 
「この馬鹿。」
 
 彼女の唄がやんだ。驚いたように振り向いて、そこに居る人を見て更に驚いて。
 一瞬の静寂の後、彼女の表情から溢れる喜びに、黒い衣装を纏った男はまた微笑んだ。
 
「――かくれんぼは、おしまい、だ。」
 
 違うか?と、黒の衣装を纏ったシェゾ・ウィグィィは、ススキの野原に立つ少女アルル・ナジャに手を差し伸べた。
 見つけてくれたね、と、アルルは微笑んで言った。
 
「僕を此処から連れ去ってくれるの?」
 
「言われなくても。」
 
「そこは、僕の手が君に届く場所?」
 
 からかうようなアルルの口調に、シェゾはシェゾ特有の笑みを浮かべてアルルの手を取った。
 
「違う。」
 
 月明かりに踊る銀の髪。星明かりにはえる彼女の白の手。映し出すのは。
 
 
 
「お前の手が俺から離れない場所まで、だ。」
 
「じゃぁ、ついていってあげる。」
 
 
 
 その場所に確かに輝く、シェゾとアルルと天の川。
 にこり、と、微笑む彼女の額に、生意気だな、と、にやりと笑いながらこつんと拳をあてて、シェゾはアルルの手をとって歩き出した。
 
 輝く星空。闇の色。流れる星の雨。
 野原の真ん中と、小さな森の一軒家からは一晩中優しい唄が流れていた。
 
 
 
                貴方に私が見つけられますか
                あの何千個もの星のなかから
                貴方は連れて行ってくれますか
                かくれんぼはおしまい  と そう言って
 
 
                もしも、悪戯に木の陰に隠れる星が見えたら
                それが、きっと私です
 
                貴方を想って輝く一番星 
                 夕焼けと闇の境界線
                      それが  『私』 です
 
 
 
 
 
「俺なら、何処にいてもお前を見つけられるのにな。」
 
「僕だって…君なら、何処にいても傍にいけるよ。
 だって、僕の居場所は君の傍。僕は、君を愛してるんだから。」
 
「…俺もだ…。
…あー…真面目に言われると、なんだかなぁ…。」
 
「くす…いいじゃない、たまには、ね?」
 
「…いつもだと思うんだが?」
 
「余計な事言わないのっ。」
 
 
 
 
 
「シェゾ、あのね、これからもね。」
 
「ずっと好きだ。」
 
「あー!?先に言ったぁ!?
…はりゃ?…シェゾ、照れてる〜!?」
 
「うるせぇ!」
 
「…好きだよ、シェゾ。ずぅっとね!」
 
「しってる。俺もだ。」
 
「知ってるよーだ。」
 
「…生意気。」
 
「分かってるくせに。」
 
 
 
               そんな、七夕の日――…


***感想***
七夕小説であるにも関わらずアップが無茶苦茶遅れてしまいました…すみません(死
あぁ…でも本当に素敵ですw空さんはドッペルズとシェアルを絡めるのが本当に上手だ。
羨ましい!!(笑
そして相変わらずフルート吹きなDシェさんは素敵でしたw(笑
空さんとはドッペルズに音楽を絡めるのが好きという共通点があってとても嬉しいですv
やっぱりドッペルズ=音楽よねv(笑
そしてやっぱり空さんのシェゾは優しいですねwあるるんとの会話に痺れまくってる輩が
此処に一人…(笑
素敵小説有難うございましたw


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