Rainy & Sunny Day

 

 

 

 

 

 

さーーーーーーーーー

 

 

…雨だね」
「…梅雨だからな」


 

 

 

 

窓の外の雨模様をみながら言うアルルに、ソファーに横になっているシェゾは本を読みながら興味無さそうに答えた。そんな彼の様子を見て、

 

「も〜、シェゾったら。もっと気のきいたこと言えないの?」

彼女が子供っぽくむうっとした表情で言う。

 

「それ以外に何を言っていうんだ?」

相変わらず彼は本から目を離さない。

「ただ普通に答えるんじゃなくて…『なんだよ、いきなり』とか『家の中が退屈か?』とか話を発展させようとかって思わない?」
「それじゃあ、『家の中が退屈か?』」
「…」

 

はあっと溜め息をつきながら、彼女は彼から窓の方に視線を戻した。

 

 

 

さーーーーーーーーーー

 

 

 

室内には外から聞こえる雨の音。

2人とも何も言わないまま、静かに時間が過ぎていく。

 

 

 

「ボクはね、最近雨も好きなんだ」


彼女が窓の外を見たまま再び口を開いた。「ふ〜ん」という彼の気の無い相づちが聞こえたが、微笑みながら彼女はそのまま続けた。

「前まではね、外に遊びに行けなくて嫌だったんだよ。ずっと家の中にいるのつまらなかったし、お洗濯もできないし…。

でも…、でもね…」

 



「今は…キミと一緒にいられるから」

 

………」

 

ページをめくっていた彼の手がぴたりと止まる。

 

「雨の日だとこうやって、キミと一緒にゆっくり家にいれるでしょ?他の人達もこんな日じゃ外には出ないから、家にも来ないだろうしね」

 

彼女は彼の方を見た。彼の方はというと…さっきのままだ。

 

「雨がボク達以外の世界を遮断してくれてるような気がするんだ。だから…キミがいつもよりとっても身近に感じられるの」

 

 

 

さーーーーーーーーーーー

 

 

 

雨の音が2人の空間を包み込む。

 

「ボクは…キミと一緒にいられるそんな時間がとっても大事で、とっても幸せなんだ。…一緒にいてくれてありがとう…」

 

そう言って、彼女はにこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

さーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「な、なーんてね。…あ、お茶でも飲もっか!」

 

話題を変えるかのように、そそくさと彼女は窓の側を離れ、紅茶の入ってる棚の方へと向かった。…照れているのか顔が少し赤い。

 

 

…アルル」

彼が本を閉じてソファから立ち上がった。

「オレは前まで晴れた日が嫌いだったが…今は嫌いではないぞ」

彼女が紅茶の葉の入った瓶をとったポーズのまま、彼の発言にえっという表情をした。彼を良く知る彼女にとっても、意外なことだったからだ。

「どうして?」
「それはだな…」

ちょいちょいと彼女に向かって手招きし、こっちへ来いと合図する。無論素直な彼女はいつものように彼に近付いていく。

「何なに?」
「…もうちょっとこっち」

そして彼女の顔は彼の顔に近付いていき

 

「うりゃ」

 

むに〜っ

 

「!」

 

 

…彼は接近した彼女のほっぺたをつまんで伸ばしたのだった。

 

 

 

 

「くくく…ひっかかってやがんの」


彼女のほっぺたをうりうりしながら笑う。彼女のほっぺたが気持ちいいのか、やけに楽しそうだ。

 

「ひょっお…あいうるんあよ〜、あええお〜」

 

訴えかける彼女だがほっぺたを伸ばされてるせいで、きちんと話せない。

 

「お前、よく伸びるな。…カーバンクルといい勝負だったりしてな」

「あ、あーうんおおうあうっおうっおおいうおん!」

 

彼の言葉に言葉にならない言葉で彼女が強く否定をする。ムキになって怒る彼女を見て、

 

「あーあーわかった。それじゃあ、さっさと茶いれてこい」

 

そう言って彼女を解放した。…しかし彼女はまだ不満のようだ。

 

「何だよ?」

…さっきの話の続き教えて」

「嫌だね」

 

あっさり言う彼に彼女はなっ!という顔をした。そして彼に攻め寄る。

 

「ひっど〜い!ボクだっていったじゃん。」

「あれはお前が勝手にオレに言っただけだろ」
「ずるいずるい〜!!」

「勝手に言ってろ」

「もう、シェゾの馬鹿!変態!!」

「変態って言うな!」

 

そこだけは彼もいつものように流せないようだ。

 

「ふ〜んだ!」
そして彼女は紅茶を入れに行ってしまった。ホットでお湯は出せるから紅茶を入れてすぐに戻ってくるだろう。

 

 

 

 

 

さーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

彼は窓を開けて外をみた。

「雨が強くなったな…」

しとしと降っていた雨はいつのまにかどしゃぶりに変わっていた。

急に窓を開けた彼が気になってか、ポットにお湯を入れた後にテーブルにティーカップを並べた彼女は窓のほうへ戻ってきた。

「何で窓開けるの?閉めないと、雨が入ってきてぬれちゃうよ」

…」


彼はじっと彼女を見た。そして、彼が口を開いた瞬間…

 

 

 

 

 

ざーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 

 

急に雨脚が強くなり、雨の音が彼の言葉をかき消した。

 

 

 

「へっ、何?今なんか言ったよね??雨の音で聞こえなかったんだけど…」

 

窓を閉めた彼に問いかける。彼はその問いに彼女をジト目でみて答えた。

 

 

…。紅茶、大丈夫なのか?」

「へっ…?……あーーーーーー!」

 

彼女はお湯を入れっぱなしにしたままの紅茶の存在を思い出し、慌ててティーポットから紅茶の葉を取り出す。

その様子にやれやれといった彼。しかし、彼女をみる彼の目はとてもやさしかった。

 

…紅茶はすでに遅かったらしい。どうしようという表情で彼女が彼をみた。

 

…うう、濃くなっちゃったよ」

「まぁ、薄めたら飲めるだろう」

…そうだね。クッキーでいい?」

「ああ」

 

曇っていた表情がたちまち明るく変わる。そして、彼女は今でずっとイスの上で寝ていたカーバンクルを起こした。

 

「カー君、おやつの時間だよ」

「ぐぅ!!」

 

今まで寝てたのかがわからないくらいすぐに起きるカーバンクル。

 

「クッキーだとキミが全部食べちゃってボク達が食べる分が無くなるから…カー君はぷよまんでいいかな?」

「ぐぐっぐ!」

「よし、それじゃあ取りにいこっか」

「ぐ〜!」

 

彼の方は彼女が戻ってくる間に濃すぎる紅茶を魔法で丁度良くしておいた。とは言っても、ホットでさらにお湯を出し紅茶とわっただけだが…。

 

そして、すぐに彼女はクッキーとぷよまんを数箱もって戻ってきた。それらをテーブルに置くとすぐさま、カーバンクルは箱をあけぷよまんを食べ始めようとしたが、

 

「カー君、まだ食べちゃ駄目!」

「ぐぐぅ」

 

彼女に言われカーバンクルの動きがぴたっと止まる。

 

「お茶を入れてからだよ」

「ぐっ!」

 

彼女の手によって皆のティ-カップに紅茶が注がれる。紅茶のいい香りが辺りに広がった。

 

「はい、カー君。もう食べていいよ」

「ぐっぐ〜〜!」

 

いっただきま〜す!というようにぷよまんを食べ始めるカーバンクル。

…寝起きで空腹だったのだろうか。ひょい、ぱく、ひょい、ぱく、とぷよまんがものすごい速さでカーバンクルの口へと入っていく。

 

「はい、どうぞ」

「どーも」

 

彼は彼女から紅茶を受け取り、飲み始める。彼女もそれに続いて紅茶を飲む。

 

「おいしいね」

「まあな」

 

 

 

不意に彼は外の変化に気が付いた。

 

 

 

…おい、外みてみろよ」

「え…?………わあ〜〜〜!」

 

窓をみるといつの間にかあれだけ降っていた雨はあがっていた。

 

空には虹が広がっている。

 

「きれいだね!」

 

窓の外を見ながら彼女が満天の笑顔で言う。すると、ちょうど雲から太陽が出たのか…、

 

 

窓からさした光が彼女を包み込んだ。

 

 

…ああ、きれいだな…」

 

彼もふっと笑う。

 

 

 

…彼女を見て…

 

 

 

「あんなにどしゃぶりだったのに、なんでいきなり晴れたんだろう?」

「さっき強くなった雨で降り収めだったんじゃないか」

…」

…紅茶飲み終わったら、外に出るか?」

「え、いいの!?」

「雨上がり外に出て、水溜りで遊ぶのが好きなんだろ?」

「ボクそんなに子供じゃないもん!…多分しないよ」

…多分かよ」

「あ〜、もういいから!早くお茶飲んじゃおうよ」

「わかった、わかった…っておい!カーバンクル、オレらの分まで食うな!」

「も〜、カー君!」

「ぐっぐぐ〜!」

…………」

……!」

…!」

…」

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちゃん…ぴちゃん、ぴちゃん…

 

 

雨のはれた昼下がり、屋根から地面に落ちる滴の音が奏でるメロディは、さっき彼が言ったこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―お前が太陽の光の下で笑うときれいだからだ―

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴちゃん…ぴちゃん、ぴちゃん…

 

 

 

滴の音が聞こえなくなってからも、彼と彼女の幸せのメロディはずっと奏でられることだろう。


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