Saint Valentineday
例え幾千もの言葉を並べても
言い尽くせない想いもある
その想いを形にして
For you…
「うっきゃぁ〜!もうこんな時間!?後30分しかなぃ〜〜〜!!」
星が煌き、風が揺れる。木々に囲まれた道をアルルはひたすら走っていた。時々懐中時計に目を走らせ、汗を輝かせながら
目指すはお気に入りの、月がよく見える小高い丘…
「もぉ〜、カー君ってばチョコレート全部食べちゃうんだもん…」
「ぐぅ〜…」
アルルの科白にカーバンクルが済まなさそうに肩の上で鳴く。
「あ、別に責めてる訳じゃないんだよ?ボクが居眠りしちゃったのも悪いんだし…って後15分〜〜!?このままじゃバレンタインデー終わっちゃうよ〜!」
再び時計に目を走らせ驚愕する。走る速度を上げようにも手に持っているチョコが気になり思うように行かない。
今日は彼女にとって大惨事だったらしい。バレンタインデーだというにも拘らずうっかり昼寝をしてしまい、チョコレートをカーバンクルに食べられ、
寝過ごした挙句にチョコ作りに手間取ると言う始末…。
渡すだけなら今日で無くてもいい筈なのだが、出来る限り今日渡したいという乙女心が彼女を焦らせる。
しかし、それも彼があの場所に居ればの話しで…一筋の不安がアルルの胸をよぎる。
「…居るかなぁ…?」
別に約束した訳ではないのだ。唯、そこで逢う機会が多くなったというだけで…
この林道を抜けた先の丘で彼等は落ち合うようになっていた。最初は散歩がてらに立ち寄り、偶然逢っていただけだった。
しかし、回数を重ねる毎に何となく気になり、自然に足が向いてしまうようになり、今やその丘で他愛もない会話を繰り返すのが日課となっていた。
勿論毎日逢えると言う訳ではない。彼は気紛れで時々突然居なくなったりする。酷い時には一ヶ月近くも姿を現さない事もあるのだ。
しかし、其処に来ている以上逢えない事はない…それは漠然とした約束のようなモノ、しかし既に証明済み…だからこそ彼女は走る。
今日逢える事を願って…。
「あっ…」
緩やかな坂道を登り終え、林道から開けた場所へと変わる。暗闇に慣れた目は月の光ですら眩しく見えるものらしく立ち止まって目を細める。
しかし彼女の瞳は確かにその存在を認めていた。丘の中央に佇むその存在を…。
「シェゾ!」
一陣の風が吹く。彼が振り向き月の光に似た髪が揺れる。彼女は走る。彼の下へ。
「よかったぁ〜、今日逢えないかと思った…」
「何だ?寂しかったのか?」
アルルの科白にシェゾは驚きもせずににやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「そうじゃなくてぇ〜…はい…これ…」
「…あ?」
差し出された小さな箱に、シェゾは素っ頓狂な声を発す。その様子にアルルは可笑しそうに笑う。
「あ?じゃなくてさぁ〜…チョコだよチョコ、今日バレンタインデーだよ?って言っても日付変更線過ぎたけど…」
「あ、あぁ…そうだったか…?」
ぽりぽりと頭を掻きながら箱を受け取るシェゾの様子にアルルはまた笑う。
「…来年もこうして居られるといいな…。黙って何処か行っちゃったりしないよね…?」
寂しげな科白、悲痛な表情…幸せな時の中で育ち行く心のかげり、決して人には見せない彼女の弱さ。彼女が彼を誰よりも信頼している証…。
シェゾはアルルの頭に自らの手を置く。
「…当たり前だ。お前を手に入れる迄…俺は此処を離れるつもりはない…」
「…魔力…でしょ?」
「さぁな…」
シェゾの言葉に、ほっとしたようにアルルはくすくすと笑い、シェゾも意地悪な笑を漏らす。
っと、シェゾは今しがた気付いた事を口にする。
「そう言えばお前…カーバンクルはどうした?」
そう、いつも肩に乗っかってるはずのカーバンクルが居ないのだ。
「あ、あれ?さっきまで確かに…また何処か行っちゃったのかなぁ…?」
アルルがきょろきょろと辺りを探し始め、シェゾが「しょうがねーな」と言うように苦笑した。
***
「…何か用か…?」
風が吹き木々がざわめく。さくりと地を踏む音と、闇に消え入りそうな程静かで低い声に彼女はゆっくりと振り向いた。
地面に付きそうなほど長い、軽くウェーブの掛かった金色の髪が揺れ、白くゆったりとした服がはためく。
「…来ないかと思ったわ…」
細い指で髪を掻き上げ、金褐色の瞳で声の主を見る。額に埋め込まれた紅い宝石がちらりと覗く。
その視線の先には闇を纏いし一人の男。漆黒の髪と瞳、そして黒を基調とした鎧に身を包んだ青年…。
彼は眉間に皺を刻み、「何故?」と言うように彼女を見る。
「だって、今日は約束の時じゃ…新月じゃないもの…」
彼女の瞳が彼を見据える。何時も一緒に居られる訳ではない、何時も近くに居られる訳でもない。
だからせめて、互いの距離が近い時は月に一度だけでも…。そう思い選んだのは光の加護が弱く、彼の魔力が最も強くなる新月の晩。
その日だけは本来の姿に戻り、語り合う。それが二人だけの約束…もう何千年も前からの…。
しかし、たった月に一度の約束も今は苦痛ではない。それはおそらく違う形でならば顔を合わせる事が多くなったからなのだろう。
「用が有るから呼び出したのだろう?…ならば良いのではないか?」
「今の言葉聞いたら貴方のご主人様、何て言うかしら?…渡したい物が有っただけよ」
一寸した皮肉を込めてくすくす笑いながら彼女は小さな箱を渡す。彼はそれを受け取り、困惑の表情を彼女に向ける。
「…解ってるわ。貴方は私達とは違う…物を食べなくたって生きて行ける…。
でも私だって、人間の女の子達みたいな事…したいと思う事だって有るのよ…?」
苦い笑を浮かべ彼女は言う。彼は彼女と箱を交互に見た後、徐に箱を開け、中身の一つを口の中に放った。彼女が驚いたような、それで居て嬉しそうな顔で眺める中、彼は。
「…人間の食べ物も…時には悪くないものだな…しかし良く作れたものだ…」
何時もの仏頂面で言うものだから、彼女は可笑しそうに笑う。しかし彼は気にも留めて居ないようだ。
まだ冷めぬ笑の中答える。
「えぇ、あの子がお昼ねをしている間に…一寸ね」
「…怒られなかったのか?」
「怒られたわよ?おもいっきりね」
「一寸悪い事しちゃったかな?」と、悪びれる様子もなく言う彼女に、彼は半ば呆れ、彼女の主人に静かに同情した。
「…あの姿の時は食欲が半端じゃないからな…お前は…全部食われたとでも思ったんだろう…」
「あら、あの姿結構疲れるのよ?…お腹も空くし…」
「…唯単に食い意地が張っているだけではないのか…?」
「…ビーム撃つわよ…?」
「……冗談だ…」
科白に彼女は「冗談に聞こえなかった」と頬を膨らませ睨み付ける。二人の男女とは思えぬ程色気のない会話。
二人の主人が聞いたら顔を見合わせ爆笑必至だろう。
「けど…貴方が来れたって事はあの子達も逢えたのね」
気を取り直したように言う。「あぁ…だろうな…」っと答える彼の声は少し暗い。
「…しかし…これで良かったのか…?このままではいずれ辛い想いをするのではないか…主らは…」
「また貴方の好きな『運命』?」
苦笑を浮かべ彼女は言う。彼の顔が一層曇る。
「…好きな訳では…唯…」
「大丈夫よ。あの子達は」
言葉を遮る様に、そして自分に言い聴かせる様に言い、彼女はそっと彼の背に腕を回す。彼の不安を…そして自らの不安を拭い去ろうとするように。
彼もそっと彼女を受け止める。
「…だが…」
「大丈夫…彼女達は何かやらかしてくれるわ…そう思うの…」
「…根拠は…?」
「無いけど…確信に近いわ」
「…だと…いいが…」
「私は彼女達を信じる。…それに、何時来るか解らない時に怯えたってしょうがないじゃない?」
「…随分楽観的だな…だが…それもいいかもしれん…」
彼女のマイペースさに半ば呆れながらも幾分か心が軽くなる気がした。彼女の体温を肌で感じながら「毒されたものだな…」と思う。
しかし、それが嫌ではないと言うのも不思議なものだとも…。彼女は「悪かったわね」と呟くが言葉とは裏腹に声は優しい。
「…タイムリミットね…」
「…行くのか…?」
「えぇ…探してるみたいだし…」
遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。そっと離れ踵を返し歩き出す。「そうか…」と言う声と共に彼が動く気配を感じた。
近づいて来るのではなく離れていく気配を。
「…また逢おう…カーバンクル…いや、グラーヌスよ…」
背後で時空の歪みを感じた。久々に耳にする真の名。しかし彼女は歩みを止めず、振り返らず…。
「えぇ…またね、カイマート…」
静かに愛しい者の真の名を呼ぶ。何度も繰り返されてきた別れ…しかしそれは決して悲しいものではなく、次へと続く約束のような物。
渡したかった物は二つ…欲しかった物も二つ。二つはチョコと想い…もう二つは安らぎと温もり…願いは達成され、
また逢える日を夢見、彼女は歩む。自分を探し続けているであろう少女の下へ…。「今の名」を呼ぶ声と、草木を掻き分ける音を聞きながら…。
「あ、カー君!こんな所に居たの?」
やっと見つけた小さな親友をアルルは嬉しそうに抱かかえた。カーバンクルは「ぐ〜」と一声鳴いて、何時もの指定位置に戻る。
「お?見付かったのか?」
がさがさっと一際大きい草を掻き分ける音がしてシェゾが姿を現す。シェゾの姿を見るなり、「ぐっぐ〜」と何時もの様に
すちゃっと手を上げて挨拶をする。
「はぁ…行方不明になっておきながら…マイペースと言うか呑気と言うか…飼い主似か?この性格は…」
「ま、まぁそれがカー君の良い所なんだから良いじゃない」
「…お前…自覚してねぇな」
「な、何が?」
ジト目でアルルを見るシェゾ。アルルの頭には大粒の汗。それを見たシェゾは盛大に溜息を吐く。
「それより…さっき時空の歪みを感じたが…お前じゃねぇよな?」
シェゾがアルルの肩に乗っかったカーバンクルに問う。カーバンクルは首(?)を傾け「ぐ〜?」と不思議そうに鳴く。
「知らないってさ」
「ん、なら良い。俺の勘違いだろ」
アルルの通訳にシェゾが納得する。
「さて、カーバンクルも見付かったし…帰るか?」
「あ、シェゾ、送ってってくれるの?」
「まぁな」と言ってシェゾは呪文を紡ぎだす。それを見たアルルは慌てたように。
「あ、テレポート使うの!?たまには歩きで良いじゃん」
アルルの科白にカーバンクルは「賛成〜」と言うように鳴く。
「あ?別に良いが…」
「んじゃ、決定〜♪」
アルルが嬉しそうにシェゾの腕にしがみつく。調子の良い奴と思いながらもシェゾはその腕を振り解こうとはしない。
そうして、三人は家路につくべく歩きだす。それぞれの想いを胸に。
***あとがき***
ハイやってしまいました第二段!(爆
シェゾ×アルル&闇の剣×カーバンクルw
見ての通りバレンタインデーの時に書いた小説w
梨菜さんにプレゼントした品ですw
あまりバレンタインデーは関係無い気がするのは気の所為です、えぇ、そうですともきっと(何
一度書いてみたかったんですよね擬人化ネタv見事私の野望が達成されましたw
オリジナル設定は濃いめですね(笑
因みに言うとグラーヌスと言うのはガーネットのラテン読み。
ルビーとどっちにしようか迷った末にこの名前にw
書いて無茶苦茶楽しかった逸品w(ぇ
ついでに言うと、これにはフリートーク式の訳の解らないあとがきがついていましたが、
それは梨菜さんの得点と言う事で、此処には載せませんw(ぇ
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