「だーかーら、買い物付き合って欲しいわけよ」
がらんと人気の無くなった図書館。サンダルの音高々にうろうろしていた女は、くるくると指を回してカウンター越しに此方を振り返ってくる。
「なんで俺が……」
「暇そうだから」
呆れて訊けばそんな答え。
他人を何だと思っているのか。
「……他に暇そうなヤツが居るだろうが」
「プレゼントなのよ? 一緒に行けるわけないでしょ」
別に名を出した訳じゃないにも関わらず即答。
どうやらそこら辺は認めているらしい。
「男の人の好みってよく解らないのよね」
自分の顎に手をそえて考え込む。
ルルー。それがコイツの名だ。
魔王に恋する二十代手前。
波を描き流れるような青髪は長く、翠玉の瞳は高貴に鋭く。自信満々に薄生地の白い長衣(ドレス)を纏った高飛車。
この魔導学園において通り名は格闘女王。あだ名は暴走女王。
「だから、一応男であるアンタに同行願いたいワケ。せっかく頭下げてるんだから快く承諾しなさいよ」
大人しく話を聞いてやればふんぞり返ってくるこの女。
何時何処で頭を下げたのか全く解らん。だいたい一応って何だ一応って。それが他人に物を頼む態度なのか。
「言っておくが、俺とサタンの趣味が合うか解らんぞ」
辟易(へきえき)して聞くと、
「そこら辺は私のセンスでカバーするわよ」
――だったら一人で行けよ。
言いたいことを我慢すると溜息しか出てこない。
「食事くらいはおごるし、こういうこと頼めるのアンタしか居ないのよ」
見据えてくる翠眼。
ルルーの声には男に対する遠慮も気後れも媚もない。
コイツの思考は単純明快。興味があるものはある、ないものはない、それだけだ。サタン以外は男じゃない。
ウンザリするような駆け引きなど必要ない。打ち込む拳はいつでもストレート。不要なものが一切省かれた性格は、ある意味好感が持てる。付き合いやすい、人間。
そういう解りやすい性格だからこそ、あの魔王様も完全には突っぱねられないのだろう。が、コイツと並んで歩きたくないのもまた事実。
「……シェゾ……」
何も答えずに居ると相手が痺れを切らしたらしい。
「遊園地のペアチケット。――アルルに言ったら尻尾振って飛びついてくるわよ」
「よし、乗った」
どうしたものかと考え込んでいた矢先に即答してしまった。
ヤツの口元に勝ち誇った笑みが乗るのを見て、
――相も変わらず情けない。
そう思った午後。
THE END
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