日記掌編

No 6. 悪友


「だーかーら、買い物付き合って欲しいわけよ」

 がらんと人気の無くなった図書館。サンダルの音高々にうろうろしていた女は、くるくると指を回してカウンター越しに此方を振り返ってくる。

「なんで俺が……」
「暇そうだから」

 呆れて訊けばそんな答え。
 他人を何だと思っているのか。

「……他に暇そうなヤツが居るだろうが」
「プレゼントなのよ? 一緒に行けるわけないでしょ」

 別に名を出した訳じゃないにも関わらず即答。
 どうやらそこら辺は認めているらしい。

「男の人の好みってよく解らないのよね」

 自分の顎に手をそえて考え込む。

 
 ルルー。それがコイツの名だ。
 魔王に恋する二十代手前。
 波を描き流れるような青髪は長く、翠玉の瞳は高貴に鋭く。自信満々に薄生地の白い長衣(ドレス)を纏った高飛車。
 この魔導学園において通り名は格闘女王。あだ名は暴走女王。

「だから、一応男であるアンタに同行願いたいワケ。せっかく頭下げてるんだから快く承諾しなさいよ」

 大人しく話を聞いてやればふんぞり返ってくるこの女。
 何時何処で頭を下げたのか全く解らん。だいたい一応って何だ一応って。それが他人に物を頼む態度なのか。

「言っておくが、俺とサタンの趣味が合うか解らんぞ」

 辟易(へきえき)して聞くと、

「そこら辺は私のセンスでカバーするわよ」

 ――だったら一人で行けよ。

 言いたいことを我慢すると溜息しか出てこない。

「食事くらいはおごるし、こういうこと頼めるのアンタしか居ないのよ」

 見据えてくる翠眼。
 ルルーの声には男に対する遠慮も気後れも媚もない。
 コイツの思考は単純明快。興味があるものはある、ないものはない、それだけだ。サタン以外は男じゃない。
 ウンザリするような駆け引きなど必要ない。打ち込む拳はいつでもストレート。不要なものが一切省かれた性格は、ある意味好感が持てる。付き合いやすい、人間。
 そういう解りやすい性格だからこそ、あの魔王様も完全には突っぱねられないのだろう。が、コイツと並んで歩きたくないのもまた事実。

「……シェゾ……」

 何も答えずに居ると相手が痺れを切らしたらしい。

「遊園地のペアチケット。――アルルに言ったら尻尾振って飛びついてくるわよ」
「よし、乗った」

 どうしたものかと考え込んでいた矢先に即答してしまった。



 ヤツの口元に勝ち誇った笑みが乗るのを見て、



 ――相も変わらず情けない。



 そう思った午後。


 THE END


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