日記掌編

No 2. シェゾとアルルと闇の竜


「ねぇねぇ、シェゾ、シェゾ〜!」
「あ?」

 背後から呼ばれ、シェゾは読んでいた魔導書から目を離し振り返った。
 今迄闇竜と遊んでいたはずのアルルが駆け寄ってきたのだ。
 唯でさえ大きい目をこれでもかと言うほど大きくして、茶色の瞳は、窓がない薄暗部屋を照らす光でさえ、いつも以上に金無垢に輝いている。

「闇竜って、卵から孵った時から一緒なんだって?」

 愛らしい目をキラキラさせて訊いてきた。どうやら闇竜に昔の話を聞いて興味を持ったらしい。
 小動物並みの可愛さに癒されつつ、シェゾは椅子の上で向き直る。

「あぁ、まあな。闇竜ってのはどうも母性が薄いらしくてな、置いてけぼりになってた卵を拾って、それで孵ったのがそいつってわけだ」

 アルルから視線を外して一瞥をくれる。
 こちらを伺っていた長躯に四本足の鱗竜は、床すれすれに飛びながら巨体をくねらせてゆっくりとアルルの後ろにくっついてきた。

「そうだったんだ? シェゾって優しいんだね〜。ボク、闇竜がこんなに人に懐くもんだなんて知らなかったよ」

 やや色の薄い黒鱗に代わり、白っぽい毛の生えた喉元を摺り寄せ、懐っこく竜が少女に甘える。首にしがみつき、くるくると嬉しそうに笑いながら、頬擦りと寵愛のキスでそれに応えるアルル。
 シェゾの柳眉が片方跳ねあがった。
 デスクに乗っけた肘で頬杖をつき、長い脚を組む。

「孵化がもっと遅ければ貴重な竜の卵を食えたんだがな。惜しかった。しかし竜の体ってのは余す所がなくて重宝する。角や爪は薬になるし、肉や内臓は食料。骨や鱗は装飾品としても高く売れるしな。そんまま売っ払うのもいいが、バラした方が断然役に立つ。血の一滴も無駄にならない全くもって便利な生きモンだよな、竜ってモンは」

 邪悪に満ちた無邪気な笑顔を貼り付けてぺらぺらとしゃべりまくる闇の魔導師。
 飛び退った闇竜が仄暗い部屋の隅っこでガタガタ震え、アルルの罵声が住居と化した遺跡内に響いた。

「こんの、ひとでなしっ!」


 THE END


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