日記掌編

No 17. 魚を食べよう


 魔導学園を抱く街の外れ、小高い丘の上に立つ塔の回廊をサタン様は悠然と歩いていました。

「サタン様〜〜〜」
「ん? おぉ、この声はル……ルー!? お前一体何処から入って!?」
「アーチ窓からこんにちは」
「いや、それは見れば解るんだが……ここを一体何階だと思って――」
「サタン様のいらっしゃる所、八階だろうが九階だろうがましてや千階だろうが逢いに行きますわ」
「そ、そうか、それはよか……っじゃなくて。悪い事は言わん、ちゃんと玄関から入ってきなさい。危ないから」
「階段上るの面倒臭いのです(びしっ)」
「いや、そっちの方が面倒臭いと……(びしって;)というか、本当に一体どうやって上ってきたのだ?」
「サタン様、乙女の秘密を探るなんて野暮ですわよ」
「乙女のやる事なのか、それは。そんな呆れた目で見るな。私が可笑しいみたいではないか」
「今日はサタン様にお土産を持ってきたのです」
「…………。そ、そうか。で、何を持ってきたのだ?」
「これです。マグロの……頭」
「あ、頭!!? 頭だけ!?」
「知ってます? マグロの頭にはカルシウムが非常に多く、目の裏側にはドコサヘキサエン酸、いわゆるDHAが多く含まれてます。DHAは不飽和脂肪酸のひとつで多く摂取する事によって脳細胞が活性化され記憶力・判断力・集中力が高まるそうで、脳の発達に必要不可欠なのだそうですわ。また老人性痴呆症にも有効らしくて……」

 ―― 一時間後。

「……つまり、脳みそぷーなヤツにこそ食べて欲しい食材だと言いたい訳だな? お前は」
「ええ、まぁそんな感じですわ」
「…………何気に私を馬鹿呼ばわりor老人扱いしてないか?」
「そんな! 気のせいですわサタン様あまり勘ぐりすぎると嫌われますわよってことでさぁお食べなさい!(にっこり)」
「…………」



 ○月×日
 今日サタン様にマグロの頭をさしあげたら目の前で食べてくださったわ。
 お気に召して頂けたようでそれはそれはお喜びになって。
 ……でもだからといって骨まで食べる必要はなかったのだけれど……ねぇ……。
                      ――ルルーの日記より抜粋

 ○月×日
 ルルーに無理矢理マグロの頭を食べさせられた(手をバキバキ鳴らしていたのは脅しであろう、明らかに)。
 まぁ、なかなかに旨かった。が、やはり生は宜しくないな。
 今度持ってきた時は焼いてもらう事にする。以上だ。
                      ――サタンの日記より抜粋


 THE END



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