それはお菓子を貰えなかった小さな妖精が起こした

奇蹟だったのかもしれない…。

 

 

ハロウィンの奇蹟

 

 

Trick or Treat!!」

「え?」

 

 少し冷たくなりつつある夜風が頬を撫でる。上を見上げれば木々の間から覗く満天の星。

辺りは闇が包み込み、森の生物たち全てが息を潜めているような…そんな中、突然の声に

俺は切り株の上で振り向いた。

 

Trick or Treat!!」

 

 そこに居たのは十歳にも満たないような小さな少年。闇に溶けてしまいそうな漆黒髪に蒼い瞳。

黄や茶の色を基調とした少し大き目の服を着ており、腰には小さな短剣を挿していた。

妖精(エルフ)?外見や服装から恐らくは地の精霊(ノーム)大地の小人(ドワーフ)の一族だろうと判断する。

多くの世界を周っていれば、こういう者達と関わる事も有るため、あまり気にしない。

この世界なら尚更…。

 

「気が早いね。ハロウィンにはまだ時間が有るよ?」

「だって、待ちきれなかったんだもん…」

 

 

 今日は1030日…。ハロウィンにはまだ時間の猶予がある筈だ。しかも祭りが行われるのは

大抵夜で、それまでにはまだたっぷりと時間が有る。むぅっと少し拗ねたように俯く少年を目の前に

どうやら気が早いのはどこぞの魔王だけではない様だと苦笑した。

 

クリスマスじゃるまいし…。前夜祭だと騒ぎ立てるお祭り好きの魔王とその招待客たち。いつもの

どんちゃん騒ぎの中、サタンやシェゾのドッペルに無理矢理酒を飲まされた俺は酔いを醒ますべく、

一人会場を抜け出しこの森で休んでいたのだ。

 

「で?くれるの?くれないの?Trick or Treat!!」

 

 顔を上げ再び聴いてくる。少し考えた後に俺はアイテムなんかを入れておく袋を取り出す。少年の

顔が期待に輝いたのを知って、苦笑しながら袋の中を探っていると、出てきたのは甘そうに熟した

真っ赤な林檎のみ…。

 

「ごめん、これくらいしかない」

「……お菓子がいい」

「そんな事言われてもなぁ…今は何も持ってないんだ」

「……はくれたのになぁ…」

「え?」

「何でもない!」

 

 不服そうにしぶしぶと林檎を受け取った少年は、そのまま踵を返し森の闇に溶け込むように消えて行った。

それを暫く見送り、俺ははっとしたように懐中時計に目を奔らせる。

時刻は…1153分…。

 

「そろそろ戻らないとな…」

 

 どうやら会場を抜け出して、時刻は一時間近く経過していたらしく、日付は刻一刻とハロウィンに変

わりつつある。このままではウィッチに叱られてしまうな。と、おいてけぼり喰らわせてしまった魔女

っ子の事を思いながら立ち上がり歩きだした。

 来た道を戻りながら何気なくズボンのポケットに手を突っ込む。そこから出てきたのは小さなお守り。

それを確認して微笑む。明日はハロウィン。そして同時に彼女の誕生日。何れ一人前の魔女になるための

試験を受けるであろう彼女へのささやかな誕生日プレゼント。

彼女の夢が叶います様に…そういう願いを込めて…。

 

 サタンの城の方から12時の…ハロウィンを知らせる季節外れの花火の音。

 再びお守りをポケットにしまい、ふと前を見ると微かな違和感を感じた。

 

「あ、あれ?」

 

 …おかしい。そろそろ出口が見えてきても良いはずなのに…。道を間違えたのだろうか?そう思うが

道を真っ直ぐ歩いているのだからそれは無いだろう。それとも方向自体を間違えた?だとしたら物凄く

滑稽な話しだけど。だとしたら何か目印になる物が有る筈だし、花火の音が聞こえる方角も違う筈…。

しかし見えるのはこの一歩道のみ。ウィッチの店へ続く道も、ルルーが修行に使っている場所も、

ドッペルの二人が街を見下ろす大木も…。辺りを何度見回してもそれらしきものを発見する事は出来ず、

まるで全く別の…全く知らない森に迷い込んだような感覚に襲われ途惑う。

 

「…悪戯…されたかな?」

 

 思い出すはさっきの妖精の少年。やはりお菓子をあげなかったからだろうか?しかし持っていないものは

当然あげられないわけで…。まぁ、今更どうこう言った所で何も始まらないので取敢えず出口を探そうと

歩きだす。

 

『きゃぁぁっ!?』

「な、何だ!?」

 

 突然森の中で響き渡る叫び声。その声に一瞬足を止め、弾かれたように声のした方へ走る。そこには

森の木々を貫くように絶壁が聳え立ち、地上から6m程の所に小さな女の子がしがみ付いていた。

 

「大丈夫かい!?」

「た、助け…」

 

 安否を問いかけると助けを求める微かな声。どうする!?崖を上って助けに行くか…。だが間に合うか

どうか…。思案していると再び悲鳴が上がる。少女が耐え切れず手を離してしまった。それを知った瞬間

俺の身体は行動に移っていた。

 

―――ドサッ!

「〜〜っ!」

 

 何かが落ちる音と供に、腕にジーンっと来るような痛みと重み。落ちてきた少女の身体はすっぽりと俺の

腕に収まっていた。

 

「…大丈夫?」

「は、はい…あ、ありがとうございます」

 

 痛みを堪えながらも少女を地面に降り立たせ、問いかける。落ちて来たのはさっきの少年と同じくらいの

女の子だった。麻で編まれた服を着ており、肩の辺りまで伸ばした星々の煌きを集めたような金髪と、晴れた

青空のような瞳をしている。あの少年と同族の子だろうか?そう考えていると少女の瞳が俺の鎧に釘付けに

なっているのに気が付いた。鎧が珍しいのか?

 

「…どうかした?」

「ゆうしゃさま!」

「……は?」

 

 きらきらと輝くような笑顔を向け、嬉しそうに言う少女に俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。確かに

自分は勇者だと言うことを伝えると、少女はその笑顔を更に輝かせる。

 

「金色のよろい…。わたくしの村にお話があるんです!銀色のアクマを倒したおうごんのゆうしゃさまのお話!」

 

 村…と言うことは人間か…。でもこの森に村が存在するなんて知らなかった…。それより、銀色の悪魔って

ルーンロードの事だろうか?参ったな…こういう話には弱い…。照れくさい。俺は何とか話を変えようとする。

 

「近くに村があるのかい?」

「はい、小さな村ですけど…」

 

 少女の顔が一瞬曇る。何故こんな所に居たのか問いかけると、少女は握り締めていた潰れた花を見せてくれた。

白い、百合のような強い香りを放つ花。それはまだ咲き掛けで少しだけ花が開いている程度だった。

 

「このお花が完全に咲く時にお願い事をすると叶うって…」

「でも危ないよ?こんな時間に女の子が一人で…」

「夜にしか咲かないから…」

 

 どうやらその花は夜の、ほんの一時(いっとき)だけ咲く花らしく、その一時の内に願いをかけなければならないよ

うだった。少女の表情を見るに、恐らくそのお願い事は失敗に終わってしまったのだろう。

 擦れた手にヒーリングを掛けながら聴く。

 

「えっと…君の名前は?」

「……オウンシス…」

「オウンシスか…じゃぁシス、村まで送るよ?村は何処?」

「……こっちです」

 

 シスは一瞬顔を曇らせるが、村への案内を始めてくれた。シスの半歩後ろを歩きながら、ふと疑問に思っ

たことを問いかける。

 

「ねぇ、シスの村に、君と同じくいで黒髪の男の子って居る?」

「……いいえ?わたくしの村は黒髪は居ないわ」

 

 少し考えたあと、シスはそう答えた。不思議そうに見上げる少女に「こっちの話だよ」と苦笑しながら

言い聞かせる。

 

「それよりゆうしゃさま!旅のお話して!」

「え…?…参ったな…」

 

期待を込めた微笑みでそうせがむシスに少し照れながら、俺は一つの話を、簡単に、解り易く話して

聞かせる。俺の人生に転機をもたらしたであろう…ヨグスとの戦い。アルル、シェゾ、ルルー…そして…

ウィッチとの出逢いの物語。

 シスはその話を、嬉しそうに、楽しそうに微笑みながら聴いてくれた。時に驚き、時に笑い、そして時に

は真剣な顔で…。その仕草が何処となくウィッチに似ている…そう思った。

 

「…冒険…好きなんだ?」

「はい、でもわたくし…まだ村を出た事なくて…」

 

 問いかけに俯き答える。何処と無く不憫に思い、ふぅっと溜息が漏れた。ふとシスが顔を上げ、声をあげる。

 

「あ…あれが村の入り口です」

 

 どうやら話しに夢中になっている間に村に辿りついてしまったらしく、森の木を削って作ったような門が見え

た。もう少しでお別れだな…と少し名残惜しげに思う。

 

「……どうしたの?」

「………」

 

 シスの歩みが止まった。少し躊躇(ためら)った様な表情の後、何かを決意したように真っ直ぐ俺を見つめる。

 

「ゆうしゃさま!わたくしをゆうしゃさまのお供に連れて行ってください!」

「……え?」

「わたくし、何もできないけど…魔法なら少しは自信があります!それに、できることはちゃんとやります!

ゆうしゃさまのおじゃまはしません!おねがいします!!」

 

幼いながらも真剣な眼差しに少したじろいだ。どうしてさっき出逢ったばかりの人間に供をそう真剣に頼む

のだろうか?村を出たい?冒険がしたい?

…いや…それだけじゃない気がする。

 

「…村に…戻りたくないの?」

「………」

 

 沈黙は肯定。何がこのあどけない少女を此処まで追い詰めているのだろうか?俺は少し腰を落とし、シスと

目線を合わせ問いかける。

 

「…良かったら…事情を聞かせてくれないか?」

「…あした…わたくしのおたんじょうびなの…」

「誕生日?ハロウィンの日?」

「…うん」

 

 俯いたままシスは頷く。ウィッチと同じ誕生日…。誕生日が嫌なのかと問いかけると、シスはふるふると首

を横に振った。

 

「お誕生日は嬉しいの…村のみんながお祝いしてくれるから…」

「じゃぁ…何故?」

「…わたくしの村にはふるい“しきたり”があって、10歳になると儀式を受けなきゃならないの…」

「儀式?」

「うん…そしてあしたがわたくしの10歳のお誕生日…でもわたくし…その儀式を成功させる自身がないんです…

 …だから…」

「……それは駄目だ」

「…え…?」

 

 シスの顔が悲しげに歪む。蒼い瞳が真っ直ぐ俺を見つめる。

 

「君は逃げようとしてるんだよ?嫌な事から…。自身がないからって。そんなんで旅なんか出来ないよ。

 世の中にはもっと辛い事や苦しい事が沢山あるんだ。逃げては駄目だよ…どんなことからも…」

「………」

 

 10歳の少女にしてみれば、少し厳しい言い方だったかもしれない。俯いたシスが泣きそうになってるのが解る。

は、シスの頭を撫で言葉を続ける。

 

「…大丈夫、君なら出来るよ」

「でも…自信が…」

「大丈夫。君には勇気もあるし、度胸もある。それはその花が証明しているよ」

 

 俺は未だにシスが握っていた花を指差して言った。不思議そうに、不安げな瞳を俺に向けてシスは問うように

言う。

 

「お願いごと…できなかったよ?」

「確かに、願い事は失敗したかもしれない。でも君はその願い事の為に勇気を出して、この花を探しに行った

んじゃないのかい?そしてちゃんと見つけた…。それはとても凄い事だと思うよ?大切なのは願い事が出来たか

出来なかったかじゃなくて、どれだけ君がその儀式の成功を祈ってるかだよ」

「どれだけ…祈ってるか…?」

「うん。それに…どんなに失敗したって構わないんだ。肝心なのは諦めない事…。挫けずに何度も立ち向かって

 行くことだよ。

 俺の知り合いにも、何度も失敗する子が居てね。高い所から落ちたり、クレーター作ったり、他人の病気悪化

させたり…年中大騒ぎしてるけど、諦めずに頑張って、最後にはちゃんと成功させてるよ」

 

微笑んでそう言う。ウィッチの事を思い出しながら。

 

「その人…女の人?」

「うん」

「ゆうしゃさま…その人の事好きなんだ…?」

「え…?…うん…好きだよ…」

 

 何故だろう?素直に答えてしまっていた。いつもならどっちつかずな返事しか出来ないのに。この少女に対して

は素直に言えた。

 「そっか…」そう答えたシスは一瞬哀しげだったが、次の瞬間には元の笑顔に戻っていた。

 

「今日はありがとうございました。わたくしもう諦めたりしません。どんなに辛くても負けないで頑張ってい

きます!それから…この道を真っ直ぐ行けば森から出られます」

「うん、有難う…。あ、シス!」

 

 「それでは」と踵を返したシスを慌てて呼び止める。不思議そうに振り向いた少女に、今迄ポケットの中に入れ

てあった物を取り出し差し出す。本当はウィッチにあげようと思っていたものだけど…埋め合わせはまた今度する

としよう。

 

「これは?」

「お守りだよ。君にあげるよ、君の願い事が叶う様に…。それから誕生日おめでとう」

「あ、ありがとうございます!じゃぁ…わたくしはこれを…」

 

 嬉しそうにお守りを受け取り、顔を輝かせたシスが手渡してくれたのはさきほどの白い花だった。手折られ

ているにも拘らず、未だ咲こうと、花開こうとしているそれを受け取り微笑む。強い花だと思った。それはま

るで目の前の少女のように。俺の胸の内に存在()る彼女のように。

 

「ありがとう。……いつか、また出逢う事があったら、その時は一緒に冒険しようか?」

 

 そういうとシスは一瞬驚いたような表情をし、次の瞬間嬉しそうに微笑む。

 

「はい!わたくし、その時までに魔法いっぱい覚えておきます!その時を楽しみにしてます、ゆうしゃさま!」

「あぁ…」

 

そう言い残し、シスは村に向かって駆け出す。それを暫く見送った後、俺も踵を返し歩きだした。手の中の

花を見つめ、もう一度振り返ると村の入り口で大きく手を振っているシスの姿が目に映る。微笑みそれに応える

と、俺は再び歩きだした。

 

 暫く歩くとふと、さっきと同じような違和感。辺りが見慣れた風景に変わり、最後の花火の音が聞こえたような

気がした。

前を見ると森の出口が見え足を速める。

 視界が開け目の前には満の星空と相も変わらず聳え立つサタンキャッスル。

 

「ラグナスさん!」

 

 名を呼ばれ、サタンキャッスルから視線を移すとそこには見慣れた少女の姿。黒に近い紺色のローブに身を包み

金色の髪を揺らしながら少し怒ったように俺に近づいてくる。

 

「やぁ、ウィッチ」

「やぁ…じゃありませんわ!全く、一時間も姿が見えないので心配したじゃありませんの!」

 

 少し…どころが相当怒っているようだ。苦笑しながらも俺はウィッチの言葉を不思議に思った。

 

「一時間?…俺、二時間ぐらいは森の中を彷徨っていた筈だけど?」

「何を言ってるんですの?貴方の姿が見えなくなって一時間ぐらいですわよ?」

 

 疑問に思いながらも俺は懐中時計を見る。

 

「…そんな…バカな…」

 

 驚愕した。時計の針は今、丁度12時を過ぎた所だったのだ。俺が不思議な少年と出会ってから5分と経

っていない。それでは、俺があの少女と歩き、話した時間は何だったのだろうか?夢だったのか?そう思っ

たが、手の中には未だあの花が存在する。ただ一時の命を咲き誇るかのように満開で…。

 

「…その花は…」

「知ってるの?」

 

 驚いたように呟くウィッチに俺は問う。ウィッチはこくりと頷きその花のことを話し始めた。

 

「月下美人という花ですわ。夜に長い時間を掛けて花開き、花が開いた瞬間に願い事をすると叶うと言われて

 います。…私も幼い頃はそれを信じ探しに行ったものですわ。この森には咲いていなかった筈…」

「へぇ…君もシスと同じような事をしていた時があったのか…」

「シス?」

「あぁ、この花を貰った女の子だよ。森の中の村に住んでいて…」

 

 俺の言葉にウィッチは少し考えるような仕草をし、言う。

 

「森の中に村なんてありませんわよ?」

「え?でも俺確かに…。崖から落ちそうになってる女の子を助けて村まで送って…」

「崖から…まさか…。ラグナスさん!その女の子…名前はなんと名乗っていましたの!?」

「えっと…オウンシスって言ってたけど…?君と同じ誕生日らしくて……ウィッチ?」

 

 詰め寄るように聴くウィッチに少したじろぎながらそう答えると、ウィッチは大きく溜息を吐き頭を抱えて

しまった。

 

「なに?知ってる子?」

「…ラグナスさん…私、貴方が時を架ける勇者であることをすっかり忘れていたようですわ…。まさかあの

時の勇者様が…」

「え?何??どういうこと?」

 

 クエスチョンマークを頭にいっぱい浮かべて問いかけると、ウィッチはふぅっと溜息を吐き答える。

 

「…その女の子…私ですわ…」

「……は?」

 

 意外な言葉に素っ頓狂な声をあげる。シスがウィッチ?でもウィッチは今目の前に居るし、シスは村だろうし…。

でもウィッチは森に村はないって…。…なんだか混乱してきた。

 

「魔女は生きている間に何度か名前を変えるんですの。オウンシスは私の幼名ですわ。古代の言葉で「聖なる巫女」

 を意味する言葉…。私はこの世に生を受け、村の期待を込めてこの名前を付けられました。」

 

 俺が混乱しているのが解ったのか、ウィッチは話し出した。幼い日の自分の事を。あの名前にそんな意味が

有ったなんて…。その意味は幼い少女にとっては重すぎた物だったのかも知れない。逃げたくなるのも無理も

無かったのかも。

 

「そして3年前…、私は自分に自信が持てなくて森に月下美人を捜しに行きましたの。やっと見つけたその花

は崖すれすれの所に生えていた木の幹に生息していましたわ。私は手を伸ばして取ろうとして誤って足を滑ら

せてしまいました。それを助けてくださったのが黄金の鎧を着た勇者様でしたわ。そして、こんな私を叱って

励ましてくださいました。」

 

 そう言って目を伏せる。3年前のあの時に、俺にとってはほんの数分前のあの時に、想いを馳せるように。

 

「ハロウィンの日は魔の力が強くなるため、その前後は異界の門が開きやすいと聴きます。恐らくラグナス

さんはその歪みに巻き込まれてしまったんですわ。それで行ってしまったのでしょう。過去か…それに通

ずる別の世界へ…」

 

 蒼い瞳で俺を見つめ、ウィッチは言う。思い出すのは最初に出会った少年の事。それでもまだ何処か信じら

れず黙り込んでいる俺にウィッチは「まだ信じられないんですの?」と、少し怒ったように訊ね、ポケットの

中から何かを取り出し俺に手渡した。

 

「こ、これは…」

 

 それは少し古ぼけたお守り。俺がウィッチにあげる筈だった、シスにあげたあの小さなお守り。

まさか…本当に?呟くとウィッチは「さっきから言ってるじゃありませんの」と頬を膨らませた。

 

「…儀式…成功したんだ?」

「貴方に勇気をもらいましたもの。当然ですわ」

 

 その言葉に思わず笑みが零れる。なんだか可笑しくて二人、笑っていた。

 

「…それにしても…とんだ道化ですわね。まさか自分に嫉妬してたなんて…」

「え?」

「月下美人の花言葉…知ってまして?」

 

 苦笑とも微笑ともつく笑みを漏らしウィッチは言った。俺が知らないと答えるとウィッチはふふっと微かに

笑い言う。

 

「花言葉は…『儚い恋』。そして『ただ一度だけ逢いたくて』…ですわ。解ってくださいまして?この花を

渡した私の気持ちが…」

 

 それは…つまりそういうことで…。なんだか照れくさくてぽりぽりと頭を掻く。それを見てウィッチはまた笑う。

 

「…それにしても…まさかこんな形で願いが通じるなんて…」

「あぁ…俺もだよ。まさかこんな形で当の本人にプレゼントを渡す事になるなんて…」

「…え?」

 

 クエスチョンマークを頭に浮かべるのは今度はウィッチの番だった。苦笑し、俺は答える。

 

「このお守り…本当は君にあげようと思っていたものだったんだよ」

「…そう…でしたの?」

「うん…随分早い誕生日プレゼントになってしまったね」

 

俺の言葉にウィッチは「全くですわ」とまた笑う。

 

「じゃぁ行きましょうか?皆もう酔いつぶれている頃でしょうけど」

「うん、そうだね。……ウィッチ」

「はい?」

 

 歩きだそうとしたウィッチを俺は呼び止めた。ただ一つ言いたくて。少しだけ照れくさくて頭をぽりぽり

掻いた後真っ直ぐウィッチを見つめた。

 

「…今度…二人で冒険しようか?長旅は無理だけど…遺跡探索にでも…」

「え?で、でも…ラグナスさん…お仕事…」

 

驚いたように言うウィッチに俺はにっこり笑って答える。

 

「一日くらい構わないよ。あの時約束したしね。…それに…ハッピーバースデイ…ウィッチ」

「……はい!」

 

 嬉しそうに答えるウィッチ。俺の腕に自らの腕を絡め、満面の微笑みを向ける。

 

「有難うございます。最高の…誕生日プレゼントですわ…」

 

 頬を赤らめ微笑むウィッチに笑顔で応え俺達は歩きだした。最初の煌びやかな姿とは対照的に、想像を絶

するような悲惨な姿になっているであろうパーティー会場へ…。

 

 

ハロウィンの日、二人を包んだ小さな奇蹟。

それはもしかしたらお菓子を貰えなかった小さな妖精が起こした

小さな奇蹟(イタズラ)だったのかも知れない…。

あの少年は今も、どこかで誰かに幸せな悪戯をしているのだろうか…?

 

Trick or Treat!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『ただいま〜』

『あ、やっと帰ってきたね。全く…アゾラクラク持ち出したら駄目だって言ったろ?』

『え〜?』

『え〜?じゃないだろ…。……その林檎は?』

『貰ったー!』

『…知らない人から物貰っちゃ駄目だって言ったろ?』

『知らない人じゃないもん!知ってる人だもん!』

『……?シェゾがあげる訳ないしな…サタンかな?…お礼は言った?』

『言ってないけど、したよー?』

『??…まぁ良いか…。次逢った言っておくんだぞ?』

『うん!ありがとー!』

『何で俺に言うんだ?変なヤツだな…』

『えへへー。…おとーさん!』

『ん?』

Trick or Treat!!』

『…昨日あげたろ?』

『今日もー!』

『はは…解ったよ、後でね。さて、帰ろうか?今日は母さんの誕生日でもあるし…ご馳走作って待ってるよ』

『うん!』

 

                                            

Fin

  ***あとがき***
  華車「はい、ハロウィンストーリー完成しました〜w拍手!(ぇ
  ラグ「拍手って…拍手するまでの事なの?これ…
  ウィ「まぁ、シノが小説で締め切り守らないのはいつもの事ですしね…。日にち守っただけでも上達じゃ
     有りません事?
  ラグ「それもそうか…
  華車「何気に酷い事言ってるし…二人とも…(汗
  ウィ「事実じゃありませんの?
  華車「そんな事言われたって、小説って時間かかるんだからさ…(汗  一日や二日で書ける人羨ましいよ(汗
  ラグ「シノの場合は確実に3日は掛かるからね(苦笑
  華車「見直しとかしなきゃならないからね〜…しかも時間がないし(滅
  ウィ「まぁ…時間は仕方ないのでしょうけど…(苦笑   ところで…今回出てきた少年は一体…(何
  華車「ふっふっふ…
  ラグ「な、なんだい?その不気味な笑いは…(汗
  華車「不気味とは失礼な…。まぁ、少年の事に関しては「知ってる人は知っている」ということでv(ぇ
  ウィ「なんですの?それは…(汗
  華車「一部の人のみ、その存在を伝えて有りますv まぁ、伝えてない人でも勘が鋭い人なら解るかとv
      ヒントは、黒髪に蒼い瞳。アゾラクラク。気紛れで悪戯好き。そして四人の幼馴染が居る。
  ラグ「……まさか…
  ウィ「え?でも彼らが出てくるストーリーはラスラグ小説を書くまで書かないって…
  華車「書けるかどうかちと微妙になって来たからね(苦笑   ちょくちょく彼らを出現させてみようかな?っと…
      脇役でw(笑
      一応この小説も設定上はラスラグ後…かな?あの子が出てくる時点で(笑
  ウィ「全く…本当に書きたいものから書いて行きますのね…
  華車「じゃなきゃ書けないし…(汗  ってな訳で、この小説をきららさんに贈与させていただきますv
  ラグ「い…良いのか…それ(汗
  華車「うん、何でも良いって言ってくれたし…。取敢えずキリ番は書きたいもの書いて、良いのが出来たら
      贈与って形にしようかなっと…。まぁ、そういうことですので貰ってやってください。きららさん(苦笑
  ウィ「返品OKですわ(ぇ
  華車「………(汗  こんなものですが…ね(苦笑  というわけで、ここら辺でお開きです〜
  ラグ「じゃぁ、また。
  ウィ「ごきげんようですわ


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