ある日の出来事

 

いらっしゃいませ。アイテムショップWitch lobにようこそ。
私がこの店のオーナー、ウィッチですわ。
あなたも物好きですわね。こんな辺鄙(へんぴ)
なところにわざわざいらっしゃるなんて。
ほら、ここって結構森の奥にあるじゃないですの?だから、限られた人しか此処にはきませんの。たとえば、魔導師の卵とか、変態魔導師とか、変体勇者とかですわ。まあ、時たま格闘女王とか、ロリコン魔王とかも来ますけど・・・。
あら、わたくしとしたことがお喋りが過ぎてしまいましたわ。ところでどのような御用ですの?

 
・・・へ?ラグナスさんと出逢った時の話をしろ?どうしてそんなことが知りたいんですの?
まぁ、いいですわ。どうせ暇ですし・・・。
・・・そうですわね、あれはわたくしが薬草を摘みに森に出かけたときのことですわ。

 
                                  ***
 

その夜、わたくしは薬を造るのに必要な薬草が足りなくなった為、一寸遠くの森に薬草摘みに行ったんですの。
もちろんわたくし一人で、ですわ。そこはわたくしの秘密の場所でしたし、もう真夜中に近い時刻でしたので。
そういう理由から、誰かを誘うわけにもいかず。わたくし一人で薬草を摘んでいましたの。

え?危なくないのかって?こう見えてもわたくし、天才魔女ですのよ?
そこら辺の雑魚モンスターくらい目じゃありませんわ。オ〜ホホホ。
ま、まぁあの時はちょ〜っと油断していたんですけどね。

「このくらいでいいかしら?」

薬草を持っていた籠の半分位摘んだときでしたわ。何だか森の雰囲気が違うことに気付きましたの。
さっきまで五月蝿いほどしていた虫の声も、精霊たちの気配も無くなっていましたわ。

「!?・・・どうやら、囲まれてしまったようですわね。」

周りを見渡すと、いつの間に集まってきたのやら・・・。
そこにはスピリットやゴースト、ぷよ等のモンスターが5〜6体、わたくしを取り囲んでいましたわ。
わたくしは薬草の事に夢中になって、周りに注意を払うのを忘れていた自分を恨みましたわ。度の道逃げるのは無理。
わたくしは籠を置き、急いで呪文の詠唱に入りました。
・・・早くしないと、スピリットに薬草をダメにされてしまう恐れがありましたしね。

幸いモンスター達はまだこっちの出方を伺ってるだけで、攻撃してくる気配はありませんでした。
ですから、邪魔はされずに呪文は完成しましたわ。
標的はスピリット。まずは厄介な敵から倒す・・・基本ですわね。
 

「シューティング・スター!!!」

わたくしは、お得意の魔法で敵を一掃しようといたしましたの。
幾多もの隕石が降り注ぎ、敵は跡形もなく消えうせる・・・筈でしたわ。
魔法は確かに今まで標的の在った場所に、砂塵を撒き散らしクレーターを造りました。
しかし、標的に当たる事はありませんでしたわ。
スピリットは何時の間にかさっきの場所から手前に移動していましたの。

「!?うそ・・・避けられたんですの!?・・・うぐっ!?」

呆気にとられているわたくしに一体のゴーストが体当り・・・
それはまるで私が呆気にとられるのが分かっていたようなタイミングでしたわ。
わたくしは4メートル位突き飛ばされ、地面に背中を打ち付けてしまいました。

「・・・いてて・・・ですわ」

痛む背中をさすりながらよろよろと立ち上がると、目の前にはぷよが・・・。私は慌てて持っていた箒で攻撃を防ぎましたわ。

「〜〜っ!」

ですがスピリットの背後からの攻撃を避けきれず、打撃を受けてしまい息が詰まりましたわ。
ですが、痛いのを堪えてなんとか転倒は避けました。
モンスターが異常に強い事に疑問を持ちましたが、そんな事に構ってる暇がありませんでした。

魔法を放つ暇も与えず、モンスターが攻撃を仕掛けてきましたの。
ゴースト二体の攻撃を横に跳んで回避。振り返ってぷよの攻撃を箒でガードしてぷよを跳ね返す。

ミシッ!っという音がして箒がきしみます。

・・・何度そんな防戦を繰り返したでしょうか・・・?攻撃を避け続けるのにもそろそろ限界が近づいていましたわ。
・・・このままではやられてしまう。私は何とか反撃しようと試みました。
攻撃を避けつつ呪文を詠唱しましたわ。
 

「ファイヤーアロー!!!」

私は出来るだけ短時間で詠唱できて、その上ダメージもそこそこ与えられそうな魔法を選んで使いましたの。
逃げながらでしたので思ったより時間がかかりましたけど、魔法は完成し、魔力は炎の矢と化して掌から飛び出しましたわ。
狙ったゴーストには逃げられてしまいましたが、その後ろにいたぷよには効果絶大。
一瞬で炎に包まれ、跡形も無く消えてしまいました。・・・やっと一匹・・・そう思った瞬間でしたわ。

「!?きゃっ!」

さっきまで姿が見えなかったスピリットが突如、私の前に姿を現したのです!元々見え辛いモンスターですからね。
逃げたと思って油断していましたわ。
私は反射的に箒を掲げ、攻撃を防御しました。・・・しかし・・・

――――バキィ!――――

鈍い音がして箒が真っ二つに・・・それどころかさらさらと崩れ落ちてしまいましたの。

「・・・あ!?・・・」

その瞬間、箒が風化させられたことを悟りましたわ。酷い!お気に入りでしたのに・・・。
あの時程あのにやけた様なマヌケヅラが憎いと思った事はありませんでしたわ!
っと、あら、私とした事がはしたない事を言ってしまいましたわね。・・・
でもそんな事にかまってる場合ではありませんでしたわ。

スピリットは勝ち誇ったように腕を振り上げましたの・・・。
もうダメ!・・・私はそう思って、キュッと目を瞑りましたわ・・・。

「ライトスラッシュ!」

・・・一陣の風が私の側を通り抜けました。
確かに聞こえた人の声と、いくら待っても訪れない衝撃とに疑問を抱きながら、そっと目を開けましたの。
でも、そこにはもう既にスピリットの姿はありませんでしたわ。

何が何だか解らないまま、声のした方を振り返ると、そこには黄金の鎧の青年。
手に魔力を帯びた剣を握り締めた黒髪の青年が、ぷよに切りかかっているところでしたわ。

「はっ!」

一閃してぷよを真っ二つにし、返しの刃でゴーストを一閃・・・そして更にもう一閃・・・。
私を取り囲んでいたモンスター達は一瞬で消え去りました。
私が防戦一方だったのに・・・信じられませんでしたわ。
彼は一息ついて、私を振り返りにっこりと微笑んで言いましたわ。

「大丈夫かい?」
「は、はい!だ、大丈夫ですわ」

一瞬、ぼ〜っとしていたわたくしは、慌ててそう答えましたわ。
・・・え?み、見惚れてなんかいませんわ!ただ一寸びっくりしただけです!
と、兎に角、わたくしがお礼を言おうとしたその時ですわ。彼が驚いたような顔をしているのに気が付きましたの。

しかし驚きの表情は、やがて喜びの表情へと変わって・・・。

「ウィッチ!?ウィッチじゃないか!」

突然肩をつかまれて、わたくしは混乱してしまいましたわ。
わたくしは彼とは初対面のはずなのに、彼はわたくしのことを知っている。
何故なのか解らずに口をぱくぱくしていると、彼は苦笑ともはにかみとも思える
表情(かお)をして・・・

「俺だよ、ラグナス、ラグナス・ビシャシ。・・・覚えてるかな?」「え? え〜!?ら、ラグナスさん!?」

確かにわたくしはその名前を知っていましたわ。確かあの時から2、3ヵ月前のことでしたわ。
アルルさん達がわたくしのお店に顔をおだしになったの。アルルさんはわたくしのお店に良く来る魔導師の卵ですわ。
そのほかにも、顔見知りの人物二人と、知らない人物が一人・・・。その人こそがラグナスさんでしたわ。ただ、違う所が一つだけ・・・。子供なんですの・・・しかも
10歳くらいの・・・。
話によると、ラグナスさんは異世界の勇者で、次元魔王とか言うのと戦った時に呪いをかけられてそのような体になったとか。
・・・此処だけの話、それが彼が変体勇者と呼ばれる所以ですわ。

彼らが来たことで、普段静かなこのお店が、とても賑やかになりました。
それから今までの経緯だとか、ラグナスさんの冒険話だとかを聞いたり。
カーバンクルがアイテムを食べようとして、アルルさんが必死になって止めたり。
シェゾさんとルルーさんの喧嘩を
3人がかりで止めたり・・・。
いろいろあってとても賑やかでしたわ。ラグナスさんの外見と、大人びた口調や態度とのギャップに驚かされたのを憶えていますわ。
当たり前ですけど・・・。
唯、シェゾさんは始終ぶすっとしてましたわね。ま、理由は見当が付いてますけど・・・。

え?あ、いえいえ、こっちの話ですわ。お気になさらないで。
と、それはおいといて。
・・・楽しい時間は過ぎ去り別れの時間はすぐに来てしまいましたわ。
なんでも、これからその次元魔王とか言うのを倒しに行かなければならないとか・・・。
わたくしは餞別として幾つかのアイテムを差し上げてお見送りしましたの。

 

そんな事を思い出して、わたくしはふと疑問に思いましたわ。
あれから何日か後、アルルさんがお店に来て、ラグナスさんは呪いが解けて元の世界に帰った。
と残念そうに話していたことを思い出しましたの。私も少し・・・少しだけですわよ?残念に思っていましたわ・・・。

「ラグナスさん、元の世界に帰ったんじゃありませんでしたの?」
「ああ、実はこれのおかげで自由に行き来出来るようになったんだ」

そう言って、ラグナスさんは蒼い宝石のついたペンダントを見せてくださいましたわ。

「これは・・・?」
「アゾラクラクといって時空を越える効果を持つらしい。サタンに貰った。」
「へ〜サタンさんが・・・」
「そう。で、一度ガイアースに戻ったんだけど、アゾルクラクに導かれて来てみれば・・・君が襲われてたって訳だ。
 ・・・それよりウィッチ、君怪我してるね?」
「え?・・・あっ!」

ペンダントをしまいながら言ったラグナスさんの言葉に驚きながら右腕を見ると、確かに私の右腕は服が裂け、血がでてましたわ。
多分さっき攻撃を避けている時にどこかに引っ掛けたんですわ。
彼はわたくしの腕に手をかざし、ヒーリングをかけて下さいましたの。瞬く間に血はとまり、傷も塞がりましたわ。

「・・・どうやらこの森は魔力に満ちているようだね。
 だからモンスターが異常な強さを持ってしまっている・・・ってウィッチ!?」

ああ、それで・・・そう思うと同時に、今迄張り詰めていたものが切れた様に、
助かったという安堵感ともし彼が来てくれなかったらという恐怖感が今更の様に押し寄せてきて私は目眩を感じましたわ。
もしかしたら一瞬気絶していたのかもしれませんわね。気が付くと晴れた夜空の様な色をした瞳が、心配そうに覗きこんでいましたわ。それで私は自分がラグナスさんの腕に支えられている事に気付きましたの。

え?今度こそ見惚れたろうって?・・・もう勝手にしてくださいな・・・。

「大丈夫かい?」「え、ええ、平気ですわ。ありがとう・・・」

何とか自分を落ち着けて、私は自分で立ち上がりましたわ。
少し顔が熱かったのですけど・・・どうやら気付かれていなかった様ですわ。
私の応えを聞いてラグナスさんは安心した様に頷きましたわ。そして、思い出したように・・・

「そう言えばウィッチはどうしてこんな所にいるんだい?」
「あ、ええ、実験に使う薬草を取りに来たのですけど・・・」

わたくしはすっかり風化してしまった薬草の入った籠を持ち上げて、

「ダメになってしまいましたわ・・・」
「なら、もう一回あつめよう。俺も手伝うから」

大きくため息を漏らす私を見て、彼は笑ってそう言って下さいましたわ。
それから薬草摘みを手伝ってもらって、その上家まで送ってもらいましたの。
そして別れ際に・・・

「もし、また手伝ってほしいことができたら、いつでも誘ってくれよ。手伝うからさ」

と言ってくれましたの。それでですわ。
彼がわたくしのこのお店に良く訪れ、わたくしも彼に用事を頼んだり、実験を手伝ってもらったりするようになりましたの。

                                         ***

と、まあこんな感じかしら。

あら、もうお帰りになるの?まあいいですわ。そろそろラグナスさんも来るころですし。
そういえば、あなた見たところ冒険者のようですわね。ここら辺はあまり強いモンスターはいませんけど、お気を付けくださいましね。それでは、
Witch Lob今後とも是非よろしくお願いいたしますわ。ごきげんよう♪

***あとがき***

はい、やってしまいましたラグウィですw(何
この二人ってゲーム中接点がないですよね〜
無ければ作っちゃえ☆ってな事で書いてしまいました(笑
二人の出会いはこんなんで有って欲しいと言う私の願望(ぇ)ですw
ちょっとオーソドックス過ぎたかなぁ?(汗
でも自分的に結構気に入ってたりしますw


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