Call my name

 

 

しん…っと静かな時が流れる午後。

暖かな光はまるで金色のヴェールのように淡く部屋を満たし、頬を撫でる柔らかい風は

レースのカーテンと観葉植物の葉を揺らす。

今、優しさに包まれた部屋に居るのは彼と彼女、二人のみ…。

 

「…Dシェゾ…?」

「…どうした?Dアルル?」

 

ふと思い出したように紡がれた名。ソファに腰を降ろし本を読んでいた彼はその歴史の断片

から目を離し、窓辺に座って外を眺めていた彼女に深紅の瞳を向ける。

いつもの名で呼ばれない(・・・・・・・・・・・)。ふと、そんな些細な事に疑問を抱きながら。

 

そこに映るは、赤いシャツと少し短めのスカートだけを身に纏い、片膝を胸の所に抱えて

もう片方を部屋の中に投げ出す形で顔だけを此方に向けている少女の姿。

 

「…なんでも…ない…」

 

目が合った途端、逃げるように窓の外に視線を投げかけるDアルル。静かな部屋。風のさわめきと鳥の囀る

声だけが聞こえてくる。

 

視界から消えた彼女の瞳。その赤味掛かった金色に揺れていた小さな不安を見つけると、Dシェゾは溜息を

一つ吐き、本をテーブルの上に放り投げ彼女に近づく。

床を踏む音が静かな空間に響く。

 

「…どうした?…何か心配事か?ディーア…?」

 

二人しか居ない部屋で、何度も呼ばれることとなった呼びなれた名。

その声が…そんな事がどれ程彼女を安心させることか…。

 

「………」

「…夢を…見た…」

 

落ち掛かる影に、

一度視線を落とし躊躇いがちに呟く。

ゆっくりと彼を見つめるその瞳に宿るのは深い悲しみと怯え…?

 

「…君が居なくなってしまう夢…。

 白い、冷たい光に呑まれて君が…見えなくなった…。

 何度も名前を呼んで…でも、返事がなくて…。

 …怖かった…凄く…」

 

暖かな風とは裏腹に冷え切り凍りついた心。

どこか遠くを見つめるような瞳はまるで精気のない人形の様。

孤独になる事を恐れていた。それは彼も同じだろう。

互いの存在が当たり前になった現在、過去では感じ得なかった恐怖が

頭を擡げる。

 

 

『もし…君が居なくなってしまったら…?』

 

 

ずっと考えていた。彼はちゃんと此処に居る。当たり前のように、いつもの様に傍にいて…。

ソファで本を読んでいて、視線を移すと其処にいて、時々名を呼んでくれて。

そして、何時でも彼は彼女の心の中にも存在するというのに。

そんな事考える必要もない筈なのに、考えたくもない筈なのに…。

 

しかし、一度抱いてしまった想いは時間と供に彼女を侵食していく。

あたかもその恐怖が夢の壁を引き裂き、現実にその姿を曝そうとしているかのように。

 

 

「…居なくなんかなるかよ…」

 

ぽんっと頭に手を置き呟いた言葉。大きな手。優しい声。午後の日差しよりも、風よりも温かく温かく。

まるで彼女の心を融かすように。

 

「……言い切れるの…?」

 

しかし彼女は自嘲的に尋ねる。否定して欲しいから、不安を消して欲しいからあえて自らを嘲り虐げる。

そんな自分を醜いと思いながらも。

 

「…あぁ…言える…」

 

Dシェゾはそれを知っている。気付いている。

だからこそ求められた答えをDアルルに手渡す。

彼女によって紡がれた問いは彼によってその答えを得る。

幾度と無く繰り返されたカンケイ…そうやって彼らはゆっくりと、遅い歩みでも

二人の時を刻んでいく。

 

「…お前が俺の名を呼ぶからな…」

「…名…?」

「…ディーシェ…。それが俺の今の名。お前だけに赦された俺の名。お前がその名を呼ぶ限り…お前が俺を必要と

 する限り…、俺はお前の傍を離れないし、居なくなったりなど、しない…」

「だから、安心しろ…ディーア…」

 

呼びなれた名を呼ぶ。何よりも甘く、優しく。彼にだけ赦された名を、まるで陽だまりの様に微笑んで。

そんな事が温かく彼女の心を満たす。

 

「…うん…ディーシェ…」

 

名を呼ぶ。互いの存在を、自分の存在を確かめる様に。

微笑みあって触れ合って。そっと抱き締めあって。

例え、出逢った事が偶然でも、奇跡でも、それを重ねて運命へと導いてゆこうと誓いあった。

二人だけの名を呼び合うことこそが互いが其処にあり、決して消えぬという証。

だから彼らは名を呼び合う。誰も居ない、二人きりの部屋でも。呼びなれた名、何度でも。

消えぬ様に、消さぬ様に。

それが二人が今、此処に存在する証なのだから…。

 

 

 

だから…もっと

 

 

 

 

call my name

 

 

 

 

 

***あとがき***

はい、意味不明なブツが出来上がりました…(焦

一応ふんわりした雰囲気のコイツらを書きたかっただけの話しなのですけど…

限りなく分けわかんない方向に行ってしまいました(汗

取敢えずこれをファリ・アリアイク様に贈与いたします。

こんな物でごめんなさい…本当に…(汗

 


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