**アメ玉**
 
 
今日、闇の魔導師は情けなくもまだ16という少女の荷物持ちをさせられていた。
街中をルンルン気分で歩くアルル・ナジャと、反対に不機嫌そうに両手で荷物を
持ちながら付いて来るシェゾ・ウィグィィ。
妙な組み合わせであり、似たもの同士でもある2人のいつもの日常から始まるヒ
トコマだった。
 
 
「おい、アルル!なんなんだ、この重さはっ!」
 
「あぁ、それ?見ればわかるでしょ?食料とー、魔導書とー、服とー……」
 
ひーふーみー、と指折り数えるアルル。後ろのほうで喚いているシェゾに街の通
行人達はギョッとこちらを振り向いては通り過ぎる。
2人共そんなのは全然かまわず話し続けた。
 
「だからってなぁ、何でこういう時にかぎって一週間分の食料+読みもしない魔
導書や本+服やら何着も買ってるんだよ!!」
 
シェゾの両手は大きな袋や紙袋で重さは見た目以上に重い。持つ手をかえたりな
ど工夫はしているものの、手は真っ赤になってる情けない状態だった。
その点アルルは軽い袋さえも持っていない、手ブラ状態。否、さっき買ってもら
った食べかけのバニラアイスクリームだけ。
 
「一週間っていってもソレ、4日ではもうなくなってるよ。カーくんいるもん。
それに、読みもしないっていうのは失礼じゃない?ボクだってこれくらい読むん
だからね。あと、女の子なんだから服くらい買うでしょ。普通。
そしてそしてその荷物持ちは何もかもぜーんぶ自業自得でしょー?」
 
くすくす笑いながらも納得させるためか全部説明する彼女に、彼はどんどん項垂
れていった。
そしてトドメの一言。
 
「自分から勝負仕掛けたんだからねー?だから初めに言ったじゃないか。「キミ
が負けても知らないよ?」ってさ」
 
「煩い!だからってなぁ…」
 
「ムキになるからでしょ?魔力使い果たしたーなんてマヌケすぎたこと、ルルー
が聞いたら笑われるよ?」
 
即座にルルーの顔を思い浮かんだ。
馬鹿にしたような高笑いのルルー。
アルルは笑い、シェゾは「う……」と言葉が詰まった。
ルルーの事は未だに苦手だ。たったそんな事だけれどシェゾにとっては屈辱。き
っとルルーは面白がって様々な人に伝えるだろう。
魔力さえ残っていたら空間にこの荷物を放り込んでおくことや、軽い空遊魔法を
かけて軽く事さえ出来る。しかしそれさえも出来ないなんて。『闇の魔導師』が
聞いて呆れる。
ちなみにアルルはまだ魔力は残っているものの空間に入れたり浮かせたりする魔
法を知らないためいくら残ってても意味がない。かといって魔力を少し分けてあ
げようという慈悲の心もないため、がんばってー♪と応援するのみ。
 
……くそー!」
 
何もかも自業自得。けれどまだシェゾは懲りずに明日にでもまた勝負を挑みに来
るだろう。
でもさすがにやりすぎたかな?とアルルは手を差し出した。
 
…なんだ?」
 
「やっぱり少しは持つよ。貸して」
 
シェゾは持っていた袋を2つ渡そうとした。…けれど止めた。
 
……どしたの?」
 
…いい。オレが持つ」
 
手を無視し、スタスタと歩き出す。
その後ろでアルルはポカンとシェゾを目で追っていたが、くすっと笑い小走りで
駆け寄る。
 
「ありがと、シェゾv でも、まだまだ買い物あるけど大丈夫?」
 
持ってあげようかと言っておきながら結局は全部シェゾ任せ。
 
「まだあるのかよっ!」
 
うざったそうにこちらに振り向き、その隣をアルルが駆け出す。
 
「もっちろん。いい機会だしー……あ!見てみて、シェゾ。あっちで福引やって
るー!」
 
ちょっと行った先にある街の中心部の時計台の下で何やら人がたくさん集まって
いた。上のほうには『福引会』と書かれてあり、アルルはさっき買い物したとき
にもらった券を6枚取り出した。
 
「やるのか?」
 
「もちろん。今日までなんだー。3枚で一回回せるみたいだから1回ずつねw」
 
はい、と3枚券を手渡される。けれどこれはアルルの買い物でもらったもの。何
故俺までやらなきゃならんのだ、と言うと、いいからいいからと腕を引っ張られ
る。
 
「ボク、くじ運悪いもんv …っと、一等は何だろう。人でいっぱいで前がよく
見えないぃ」
 
ぴょん、ぴょんと隣で飛び跳ねるアルルに、苦笑混じりでシェゾは荷物を一度地
面に置き、今度はアルルを後ろから上へと抱えあげた。
 
「ひゃぁっ。ちょ、ちょっと何するんだよぅ!」
 
「見えやすいだろ。…見えたか?」
 
…え、えと…あ、見えた!んと、一等が…うわぁ、温泉旅行だって。二等が…
やたっ!カレー一週間分だってー!」
 
「温泉旅行とはまた…ありきたりというかなんというか」
 
言いながらアルルをすとん、と下ろす。
 
「ありがとー。でも、いいじゃない。温泉旅行!あー…でもボクはカレーのほう
もいいなぁ」
 
列に並びながらうーんと悩む。シェゾのほうはというと、別にどうでも…といっ
た感じだった。
当たったわけでもないのに温泉旅行だったら誰と行こうかな…などと呟いている
と、後ろからシェゾに押された。
 
「こんなとこで突っ立ってたら邪魔だろ?並んで、当たってから考えろよ」
 
「はぁい。じゃ、Let’s Go♪」
 
………はぁ、ダルイ」
 
「そんなこと言わないのっ。ほら、行くよー?」
 
ぐぃぐぃと腕を引っ張り、列の中へと入ってく。
福引をしてる人の6人後ろにアルル、シェゾの順に並んだ。
一番前の人が終わったらしくはずれだったのか残念そうに列を抜けていく。
 
「残念だよねぇ。はずれって。はずれ賞とかあるのかな?」
 
「さぁ。あったとしてもどうせティッシュとかだろ」
 
「ティッシュだったらいらないなぁ…」
 
他愛ない話をしていると、急にカランカラン♪とベルの音が町中を響かせた。
 
「当たりなの〜。温泉旅行なの〜」
 
福引を代表としてやっているのはどうやらもももらしかった。
アルルはその声を聞いて、「うぅ、取られた…」などと残念がっている。
 
「残念。。。行けると思ったのになぁ〜」
 
「そういうのは早い者勝ちだろ。つか、当たってもないのに夢見るなっての」
 
「そんなこと言ったって〜。よーっし。絶対カレーを当ててみせるんだからっ」
 
さっきの温泉旅行を取った人から後ろの人のほとんどがはずれだったらしかった
。たまに3賞の買い物券が当たった人がいるけれど、目的のカレーが取られてな
いからアルルは上機嫌だった。
あっという間に順番が回ってきて、アルルは3枚の券をもももに渡す。
 
「一回だけなの〜。お客さん、がんばってなの〜」
 
もももや、後ろに並んでいる人達の声援を受けながらアルルは回す取っ手をしっ
かりと握る。
 
(カレー、カレー…。2賞の、カレー…)
 
心の中で呟き、全身全霊を込めてぐるりと一回回した。
コロン……。
出てきたのは、真っ白な玉だった。賞の色付け表を見ると、1賞が金、2賞が銀
、3賞が赤、それ以外は白となる。
すなわち
 
「えぇ〜っ!?はずれーっ?」
 
「残念だったの〜。また挑戦してくださいなの〜」
 
はずれ賞となる、中身の入った茶色の小さな袋を手渡され、仕方なく列を抜けた
はぁぁぁ…とため息をつき、あ、とシェゾはどうだっただろう、と福引会場に目
を向けると。
すると、カランカラン♪とさっきと同じようにベルの音がした。
 
「え、え?シェゾ、何当たったの?」
 
横から覗き込み、出てきた玉を確認すると、その玉は銀色に輝いていた。
 
「もしかして……」
 
「どうやら…当たったらしいな」
 
別にどうでもいい、とでも言う風にもももからカレーの材料をもらう。これで一
週間は保ちそうだ。
2人共列から抜け、アルルは大はしゃぎ。
 
「すごいすごぉい!シェゾ、やっぱりくじ運いいんだねぇ♪あ〜あ。ボクの分も
やってもらえばよかったー」
 
「まぐれだろ。それより、ほれ」
 
重たい荷物を抱えなおし、空いてる手でさっきもらったカレーの材料をアルルに
手渡す。
 
……ふぇ?」
 
きょとん、とシェゾを見上げると、苦笑交じりで返された。
 
「何ポケーっとしてるんだよ。まさかそれまで俺に持たせる気か?」
 
「じゃなくて、コレ、シェゾが当てたんだからシェゾのものじゃないかぁ」
 
「お前の券だろ?」
 
「でもでも、ボクはキミにあげたから…」
 
「だったら、それ、お前にやる。これならいいだろ?さっさと行くぞ」
 
次の買い物があるんだろ、と促し歩いていくシェゾ。
アルルはよくわからなくて突っ立っていたけれど、くれる、という言葉に笑みを
綻ばせた。
右手にカレーの材料が持たれていて、左手には茶色の袋。
そういえばこれってなんだっけ…、と袋を開けると、そこにはビー玉のようなも
のが数個入っていた。ストロベリーやレモンやグレープなど、種類は様々。
面白いことを思いついて、アメ玉を1つ袋から取り出す。
 
「シェゾ!」
 
大きな声で呼び、タタタッと駆け寄る。
 
「何だ……、…っ!?」
 
振り向き、口を開けた瞬間にさっき取り出したレモン味のアメ玉を口の中に入れ
てやる。
突然甘いものが口の中に入って、何を入れたんだ、とアルルを見ると、にこーっ
と笑ってた。
 
「さっきの福引のはずれ賞だって。アイスクリームとカレーのお礼v おいしい
でしょ?w」
 
…甘ったるい…けど、不味くはないな」
 
「素直じゃないなぁ〜。でもま、キミらしいか。今日はもう帰ろ♪」
 
「は?買い物あるんじゃなかったのかよ」
 
「いいの。福引はもういいのないだろうし、これ以上お金使っちゃうのもねー。
今日、夕飯おごってあげるから家に来るでしょ?」
 
カレーの材料を持ち上げ、それを見たシェゾは「カレーか…」と呟く。
 
「もちろん!何?嫌なのー?」
 
…お前のカレー、甘すぎ」
 
「文句言わないっ。甘いのもたまにはいいでしょ?」
 
その言葉を聞き、口に残ったアメ玉の甘酸っぱい味を思い出した。
 
「悪くはない…かもな」
 
そしてこういう日常もたまにはいいかもしれない、と思う昼下がりだった。
 
 
**あとがき**
 
シノー!誕生日おめでとうっ!
リク通りシェアルですっ。やっぱりシェアルは最高っ!w
ほのぼの系にみえるかな?><; シリアスの方面もよかったけど、少し変えて
シェ誕に回したんでまぁ予定通りほのぼのにv
ネタが全然思いつかなくて、ふと町に出て福引やってたから「あぁ、これでもい
いな…」と思ったり。単純っ!?
そこではアメ玉じゃなくティッシュだったけど(涙
こんなものですが受け取ってくださいませw