いつもありがとうございます♪


「サタン様、お茶が入りましたわ」


空の真上に昇った太陽が次第に傾き始めた頃、芳醇な香りと湯気を漂わせながら

ルルーが金属製のトレーに紅茶とケーキを乗せ運んできた。

塔の屋上にあるテラスは午後の爽やかな風とシャワーのように降り注ぐ光とで温かく、そこから眺める事の出来る大自然の織り成すざわめきは、まるでBGMのように耳に心地よい。

「うむ、いつもすまぬな。ルルー」


「いいえ、これくらい当然ですわ」


微笑み礼を言うサタンに、同じように微笑みながらルルーは答える。

テラスにて二人で食事を取り、そして食後の紅茶とデザート。それが最近の日課だった。

そしてもう一つ…。

「ルルー、いつものをやってもらえぬか?」


「は、はい!喜んで!」


紅茶のカップを手に取りそう言ったサタンに、喜びに満ちた笑顔を向け、ルルーは数歩後ろへ

下がり、バッ!っと愛用の扇を開く。

「…~♪」


薄く紅のひかれた唇から涼やかな声が紡ぎ出され、やがて軽やかなメロディーへと変わり

それが自然のBGMと重なり豪華なオーケストラを演出する中、ルルーは扇を閃かせ白い

ドレスをはためかせる。

碧い髪が風に揺れ、時に跳び、時に廻り、軽やかにステップを踏み楽しげに舞う彼女はまるで

冬の空を漂う「雪虫」の様に可憐で美しく、この魔界の王ですら感嘆の溜息を漏らすほどだった。

ルルーが以前、格闘の一環としてではなく趣味として舞を嗜んでいた事を知ったサタンは、

午後の一時にそれを披露することを勧め、ルルーはそれを快く受け入れ今では

アフターヌーン・ティーを飲みながら彼女の舞を眺めるのが彼の日課になっている。

穏やかな時の流れる一時。緩やかな時を感じながらサタンは紅い瞳で目の前の少女を見つめた。

煌くエメラルドと目が合い、ルルーが微笑う。壊れそうなほどに儚い笑顔。

しかし、その足取りは強い風が吹く此処でさえよろめくことなく、自然のリズムに躰を預け

軽やかに、軽やかに、まるで宙を駆ける様に。

「きゃっ!?」


「ルルー!!?」


不意に強風に煽られルルーがよろめく。彼女にしては珍しい事だったが咄嗟の判断の下、サタンは

座っていた椅子を弾き倒し、ルルーの躰を支えた。

「大丈夫か?ルルー」


「は、はい…サタン様…あ、ありがとうございます」


マントに包まれ、顔に張り付いた碧髪を指で払いながら頬を紅く染め礼を言うルルーを愛らしく思った。



すっと瞳と瞳がぶつかり、二人の顔が徐々にその距離を狭める。

「さ、サタン様っ!幾ら私が可憐で美しいからと言ってそんな…いけませんわっ!」


「ぐはっ!?」


きゃぁ!という黄色い悲鳴を上げながら前に突き出された手は、サタンを数メートル程突き飛ばし

その勢いにより先に有った食器やカップをテーブルごと破壊する。

「…あ、あら?サタン…様?」


「………」


「きゃぁぁっ!!サタン様っ!?」






結局彼らの関係は今日も発展途上。


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