if…
落ち葉が舞う森の中。綺麗に掃除された、お屋敷のバルコニー。

    その中で、お茶を飲みながら話す少女が二人・・・。



「……と、言うわけですの……。」

「…なるほどね。それで、私に助けを求めてきたって訳ね。」

  

 

                                 if……



 

 朝晩冷えてきた、このごろ。

朝食を食べ終えて、さぁ、今日は何を作ってあの人に会いに行こうかと考えて。

 その中に飛び込んできた、金髪の少女。



「ルルーさぁん!!」



 普段、ロクに喋らないのに、何事かと思ったわ。

 いきなり、盛大なドアの閉まる音。何事かと見に行けば、ちびっ子魔女のウィッチ。



「な、何事よ!?……ノックもしないなんて、失礼よ!?」



「だって、だってぇ……っ!!」



 普段、こんなに取り乱すことのないこの子が本当に慌てて。

 ……わたくしとしたことが、少々焦ったわ。



「とっ、とりあえず落ち着きなさい、ねっ!?」





―――宥めて、たどり着くのは冒頭でいったバルコニーでの会話。







 話を聞いたところによると、どうやら、この魔女ッ子が心惹かれている勇者様が原因。

その勇者様の名前はラグナス・ビシャシっていうのよ。で、その勇者が、今丁度旅に出て色んな人のために正義を貫いてるとか何とか……。全く、お人好しよね!

 で、その彼が居なくなってもうかれこれ1ヶ月。そろそろ帰ってきてもいいんじゃないかと思うんだけど…?

 じゃなくて。その勇者様が、早く帰って自分の愛しい魔女の子に逢いたくて、最近かなり仕事を詰めているとか何とか。



「……なんだ、可愛い話じゃないの。」



 とても可愛い恋の話。ただの惚気にしかとれないとも言えるわね。



「可愛くなんて無いですわっ!!」



 ダンッと、テーブルを叩いて抗議の声を上げられてしまった。



「可愛くなんて、ないですわ……。」



 改めて、席に戻って。この金髪の彼女が何を考えているのか、わたくしには分かりませんわ。

 わたくしだったら、心から嬉しいと思うのに。

 例えば、こうサタン様と離れてしまったとして……そんなの寂しいわっ!!…ま、まぁ例えだとして。落ち着くのよルルーっ♪それで、離れたとして、わたくしの元へ早く帰るためにこの広い空を、あの立派な翼で深緑の髪をたなびかせて………… 



「ルルーさんっ!!聞いてますの!?」



「はっ…?  ……あらら、ごめんなさいね。チョット考え事を……。」



 ……危なかったわ。(焦



「…全く……まぁ、いいですわ。嬉しいのは、山々なんですわ…

 だけど……私なんかのために、無理して怪我でもされたら……。」



 いれてあげた紅茶のカップをもって、下を向いてしまったウィッチ。

 なんだ……可愛い恋じゃないの…



「それはそうよね。無理なんて、して欲しくないモノね…っ」



「そうでしょう?…ラグナスさんに何かありましたら、私っ……。」



 あぁ、なんて幼い恋なんだろう。 なんて、可愛い……。



「だけどね、ウィッチ。」



「……?」



「幸せなことだとは思わないの?」



 そう。自分の身を案じて、自らの身体まで犠牲にして。

 確かに、自分のためなんかに傷付いて欲しくないのはわかる。

わたくしだって、そうだから。 だけど、いつも誰かが自分のために頑張ってくれる。



「ラグナスは、貴方のことを本当に大事にしてるのよ。ウィッチ。」



 なんて、幸せ。  愛した人が、同じように愛してくれる。

  それに気付か無いだなんて、なんて幼いんだろう。なんて、儚いんだろう。



「……だけど…。」





「信じて、待っててあげなさい!」



   きっと……

「絶対、」

   何があっても

「ラグナスは、」

   必ず

「貴方の元へ帰ってくるわ。」





  だから、





「ウィッチ、信じてあげなさいよ。」



 あぁ、この言葉。いつもいつも自分のためにあった。

 わたくしが思いを馳せる人は、いつも遠くで皆を見てる。寂しい赤い目をして、ただ時の中にある。全てを愛して。

 いつか、その愛がわたくしに向くことを祈って。

 わたくしだけに特別に向くことを願って。

 例え、あの力強い腕で、さらって行かれてもいいから。

もし、祈りが通じるなら もし、願いが叶うなら

なんだってしましょう。『貴方のために。』



「……ありがとうございます。そうですわねっ、永遠のお別れなんかじゃないんですわ。」



 少し、控えめに微笑んだ彼女は、本当に恋する乙女なのだと思った。

 秋の太陽の日差しが金髪に反射して、光の中を楽しそうに踊った。

                         思わず、微笑みが漏れた。



「…ラグナスは、なんて言って出かけていったの?」



 もう大丈夫。そう心中で唱えて。

 金髪の彼女は、優しげに微笑んで



「『必ず、帰ってくるね。』……と。」



 しばらくの間、バルコニーにはくすくすと笑う声が飛び交った。







「そうだ!!…ところで、なんでわたくしの所に?」



 わたくしなんかよりも、この少女は、あの闇の魔導使に懐かれて(?)いる亜麻色の髪の少女、アルルの方が仲が良いと思っていたのに。



「……ルルーさんが、良かったんですの。」



 手の中ですっかり冷え切ったカップの中の紅茶をくるくると回しながら、笑っていった。



「…アルルは、明るくって、いつも元気で……。」



 あぁ、確かに。あの方が、后にするだのなんだの言った子。

  あんなに純粋じゃなかったら、少しくらい嫉妬できたかも知れないのに。それすらさせてくれない。いいえ、できやしない。  あの子は 光 だから。

 あの子の明るさは、本当に何処から来るんだろう。

 

「だけど、もっと大人……というか、同じような恋…を、しているような人に話したかったんですの。って、言ったら、失礼かしら……?」



 ちょっと俯き加減で、ただでさえ小さな身体をまた少し小さくして、そっと尋ねてくる

ウィッチの姿は、普段大いばりで、失敗作のクスリを作っては大騒動しているウィッチだ

とは、到底考えも付かないくらい。



「……同じような恋…?」



「…ルルーさんも、サタンさんがお好きなんでしょう……?

 近くにいるのに、なんだか遠くに感じる恋…というか……。」



           あぁ、そう言うことか。

 

「ウィッチ、それは違うわ。

 少なくとも、わたくしはサタン様を身近に感じてるのよ。」



 いつも、遠くから、皆を見ていて。

 だけど、わたくしが思っている限り、ずっと近くにいるから。

 わたくしがあの方を見ているの。独りぼっちで寂しくないように。



「だから、寂しくなんて無いし、とても幸せなのよ。」



 ――わたくしも、独りぼっちだなんて考えないように。



「だって、わたくしがサタン様を思っている限り、わたくしは何かができるじゃない。」



「……寂しくないんですの…?」



 驚いたように、顔を上げて。



「ふふ、わたくしはね。でも、ウィッチ。貴方の場合だったら寂しいかも知れないわ。

 実際に遠くに離れてしまうんですものね。だけどね、ウィッチ。ほら、さっき貴方が悩んでたこと。あの話だってね、言ってみれば何処にいても何をしてても貴方のことを思っている人がいるってコトじゃない。」



  きっと、そうであるように。

  あの人が一回だけでも一日のうちにわたくしを思い出してくれるように。



「それだけ、貴方だって頑張ってるの。」



  そうなるように、毎日頑張って。 今は無理でも、何時か伝わるかも知れないから。



「みんな、頑張ってるのよ。」



  一生懸命。その言葉ほど、『恋』にピッタリくるものはないわ。



「……幸せになりたくて。その人と、一緒にいたくて。  ……頑張ってるのよ。」



        



「…そうですわね……。わたくし、ラグナスさんが帰ってきた時、怪我してたら困りますから早速家に帰って効果抜群のクスリでも開発しますわ!!」



 しばしの沈黙。

 すっくと、立ち上がって微笑んだ金髪の彼女。



「それじゃぁ、ごきげんよう!!」



 ひらひらと手を振って、去っていく彼女。

 あぁ、待って!!まだ、あと一言言いたいことがあったわ!!



「ウィッチ!!!」



 くるりと振り向いて、深呼吸してから。



「愛は、障害があってこそ燃えるものなのよっ!!!」



 一瞬、ビックリして軽く目を見開いた。

 次の瞬間。  彼女の背中に光る太陽よりも眩しい笑みを浮かべて。



「……ありがとうですわっ!!!」



 くるりと、きびすを返して走っていったウィッチが、少し大人びて見えた。



 愛は障害があってこそ燃えるもの。

 こんどは、それを支えにして頑張ってみようかしら…。



「さぁてっ!気合い入れて、カレーでも作ろうかしら!!

  ミノッ!!お鍋準備してーー!!」













―――晴れた秋の午後  静かな時を過ごそう

  ―――そして 貴方に会いに行こう



――もし…、何かが伝わったならそれもまた『進歩』――
2004年11月29日(月) 12時00分26秒 公開
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No.6  梅  評価:200点  ■2012-04-30 17:27  ID:VjaA/pyFtyY
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ラグウィと、サタルル。どっちでもある、心和やかになりそうだけどまた違う。そんな小説、好きです。

短くてすいませんm。
No.5  空  評価:0点  ■2004-12-01 23:18:10  ID:ldB5jEfqq82
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にょぁっ!!皆サマありがとうございますですーっ!!!
こんなにたくさんのレスがっ・・・(涙  アリガトウゴザイマスっ!!
シノv>うわぁぁ、そんな最初の投稿にこんなものをのせて頂けるなんてっ…!!もう光栄ですっ★
空の中のルルーさんはこんなカンジなのでィッス♪カッコイイ!?嬉しい〜!
いやいやいや……こちらこそ、ありがとうっ!!
asukaサマv>レスさんきゅデス!!(涙  まさか、こんな作品にレスしてくれるなんて……っ!!
おぉっ!!心を打たれるッ!?うわぁぁ……もう感激の嵐です!!
本当に、アリガトウございました!!ちゃんと、気持ちが伝わったようで…良かったッスよ〜♪
華西サマv>はじめましてです!!レス、アリガトウございました!!
わざわざ、打ち直しまで……本当に、アリガトウゴザイマス!!(涙
あ、あこがれるだなんて!?まだまだ、修行中ですよっ!!(力
やっぱり、ルルーさんには「愛は〜……」は、欠かせないなっ♪と思ったので、その言葉を褒めて頂けるなんて、本当に嬉しいっす!!
は、はいっ!!頑張ります〜!!どうか、見捨てないで……w(コラ
No.4  華西  評価:100点  ■2004-11-30 22:44:59  ID:5zdadj/bONo
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なんか、間違いで70に…とてもよいにしたかったんですが…ってことで打ち直します〜
No.3  華西  評価:70点  ■2004-11-30 22:43:36  ID:5zdadj/bONo
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よかったです!
なんか、大人なルルーさんとまだこどもっぽいウィッチの
恋模様(?)が似てるようでちがう。
私もルルーさんみたいにつよくなりたいなあ、なんておもってしまいました♪
すごいかっこいい文章であこがれます!
同じく、「愛は障害あってこそ燃えるもの」って言葉がいいなあー!と思いました!
これからもがんばってくださいー!
No.2  asuka  評価:50点  ■2004-11-29 15:39:33  ID:.KAYs4b9J0s
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すっごくよかったですぅ。
ウィッチがそこまでラグナスのコトが心配なんだっていうのがひしひしと伝わってきましたv
同じ恋をするもの同士、ルルーのアドバイスはウィッチにとってなにより力になったっていうのが素晴らしいですw友情(?)みたいな感じで〜(何
ルルーの一途にサタンを想っているというのと、『あの人が一回だけでも一日のうちにわたくしを思い出してくれるように。』・・・。
この一文がすごく心を打たれてしまいました★

No.1  空  評価:100点  ■2004-11-29 12:08:17  ID:BH4G.dZ0sJM
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空さんから頂いた作品です〜v
同盟最初の投稿にぴったり☆
ラグウィでサタルルv(*/∇\*)キャ
ラグナスの身を案じるウィッチが凄く可愛いですv
かなり理想的だわv
そして何よりルルーさんがカッコイイっ!!
真にサタン様を想い、傍に居て支えになりたいという思いがとても素敵ですw
それに「愛は障害あってこそ燃えるもの」と言う言葉がルルーさんらしくてかなり惚れましたvv
ルルーさん〜〜〜vv(愛
大丈夫!サタン様は貴方のモノです(>д<)b(爆
本当に切なすぎて涙が…(/_;)
素敵な小説有難うございました〜っ!!
総レス数 6  合計 520

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