雨が降ってる
 
 
 
 
 
 
   しとしとしと。
 
   雨が、降ってる―
   荒れた大地に、涙雨。
 
 
 
 
   冷たい、孤独な眠りの淵から
   解き放たれるまでの、少しの時間。
 
   瞼さえも動かせなかった冷たい檻の中で
   それでも、どうして、幻にしては、鮮やかに。
   覚えているよ、覚えてる… 優しい声を、澄んだ声。
 
 
   あの歌声は、誰のものだろう― ?
 
 
 
 
 
 
   ------------------------------
   雨が降ってる
   ------------------------------
 
 
 
 
 
 
   ざあざあ、ざあ。
 
   その日も雨が降っていた―
   深い緑に包み込まれた遺跡がみるみる濡れる。
 
 
 
 
  「全く、酷い土砂降りですこと。
   魔女が徒歩を余儀無くされるだなんて、何てお恥ずかしい。」
 
 
   しとどにずぶ濡れたドレスの裾を、ぎゅう。
   両の手で固くかたく、雨水を絞りながら魔女がごちる。
   どうやら普段は徒歩で無いのか、何とも不機嫌極まりない声。
 
   それでも、遺跡に響いたその声は鈴を転がしたかのようで。
   辺りで雨宿っていた先客たちは、恐れず怯えず寧ろ聞き入っていた。
   雨粒の歌声に掻き消されること無く、鈴はころころ転がり続ける。
   先客なんかお構い無しに。それに、ここはまだ入口ですからと。
 
 
  「一昨日はとても良いお天気でしたのに。
   箒も風もご機嫌でしたわ… なのに今日はこんな雨。」
 
 
   彼女の手元、辺りを見るに。
   傘のようなものは何処にも見当たらなかった。
   そこはそれ、きっと魔女だけに何か魔法を施したのだろう。
   それにしては、ドレスの裾がぐっしょりなのは何故か。
 
 
  「まぁ、偶には、歩くことも必要ですわよね。」
 
 
   自分の言葉で、自分を半ば無理やりに納得させると
   びちょ濡れた裾を不服そうに、風の呪文をフワリと詠唱。
   宙をくるん、と一片。花弁の如くに舞う金の髪。
 
   降り立つと裾は雨水から解き放たれていた。
 
 
  「魔女たる者、いつ如何なる時も気高くあれ。
   相手が何であれ、どうであれ、礼は等しく払うべきものですわ。」
 
 
   何処からともなく、いつの間に。
   手鏡片手にもう一方には櫛、自慢の柔髪に滑らせる。
 
   梳きながら 『あ・あ・あー』 鈴が音を研ぎ澄ましていく。
   その表情たるや、研究事に没頭しているそれとは
   また別物の、それでも真剣に違いなかった。
 
   先客たちの耳が覚えている。
   先客たちの耳が覚えていた。
 
 
  「あ… あー♪ んぅ…… コホン。」
 
 
   ふと、我に返り、傍見の滑稽さを思い頬を染める。
   先程までの物言いが主とは、到底思えぬあどけない少女。
 
   すう、と遺跡の奥を見やると今度はヒールが唄い出す。
   身嗜み整え、御髪も万全。準備万端、歩みを進める。
   こつ、こつ、こつこつ。カンカン、カン……
 
 
 
 
   程無く、辿り着いたその先に
   ひっそり佇む透き通ったお相手が、独り。
 
   動かぬ、息せぬ彼の人に深々、敬愛を込めて一礼し
   魔女は顔を少し綻ばせた。嬉しさ哀しさ混じる瞳であれど。
   ここに来るのは何度目だろう、しかし何度も初めまして。
 
 
  「いつになったら… いいえ、いいえ。」
 
 
   ふい、と一振り。
 
   雑念だろうか、振るい落として
   もう一度向き直ったその表情は魔女のそれであった。
 
 
 
 
  「異国の勇者さま、もう暫し、こちらで休息を。
   目覚めの使者はあと少し… それまで歌は如何でしょう?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   しとしと… ぴたん。
 
   雨が止んだ、雨は止んだ。
   雨粒とは違う雫はまだ、止まない。
 
 
 
 
   目覚めたその時は、気にも留めなかった。
   己の身体、そして記憶。色んなものでいっぱい一杯で
   思い出すにはおぼろげだった、それにしては後から溢れ出す。
 
 
  「なんの、歌… 何処で聴いたんだっけ?」
 
 
   おぼろげ曖昧、雨あられ。
   されど気になり想いは数日曇り空。
 
   目覚めの使者は少女であった。澄んだ瞳と元気な声の。
   傍らには銀髪の紳士、それから清き水のような淑女。
   何故かはっきりと、歌声の主では無いと思える。
 
   甘く、優しい声。
   鈴のような澄んだ音色、歌声。
 
 
 
 
   どれほどいとしくても
 
   誰のものにもできない心
 
   頼りなさが 決めごとなら
 
   たおれながら 歩かせるのはどんなちから
 
 
   誰の
 
 
 
 
 
 
   頬を伝わぬその雫、一体誰のものだろう― ?
 
 
 
 
 
 
 
紅葉椛
2005年07月31日(日) 04時11分03秒 公開
■この作品の著作権は紅葉椛さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 
 こんばんわー、うっかりもう朝ですが。(痛)
 登録申請した動機が投稿したさな辺り末期です。
 勢い任せでアレなんですが、ラグウィを1点投稿します。
 
 魔導SS未プレイの方には御免なさい。
 上記作品の設定を微妙にクロスオーバしてます。
 
 作中、ラグナスが目覚めるまでにはアルル達が
 主体の冒険がありまして、ウィッチはどーだっつうと
 完全にサブキャラ扱いだったんですが(実話) そこはそれ。
 サタンさまの配下(?)なだけに、色々動いてたんでないかなーとか
 もしかすっとラグナスが異世界から迷い込んでしまった時に
 うっかり居合わせた当事者だったりどーですかねーとか
 
 
 嗚呼もう!(何なの)
 
 
 ご挨拶代わりにもなりませんが。(汗)
 足跡くらいには… 失礼致しました〜ぺこぺこ。
 
 

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No.1  華車荵  評価:100点  ■2005-08-02 10:44:15  ID:KBkoNExVYf.
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投稿有難うございます〜〜v
いや、素敵ですね〜〜vv(愛
なんと言うか…神秘的な感じが…
そういう出会い方も良いですね!!かなり萌えですよ!!
今後どういう風に絡んでくるのか妄想が…vv(ヤメレ
言葉が詩的で綺麗ですねw
情景がありありと頭に浮かびましたw
本当に素敵な作品を有難うございました!!
総レス数 1  合計 100

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