小さな


 すすき野原にとけ込むような
  朝の光が踊るような
 
                   小さな……
               


「ラグナスさん!!お散歩しに行きません?」

 朝から、元気な明るい声。眩しいような笑顔で、
自分を誘ってくれるウィッチが可愛くて、ラグナスも笑顔で了解を出した。


 
「ねぇ、ラグナスさん?手、つないでも…良いでしょうか?」

 外に出て、少し歩いたところで、微かに頬を赤らめて自分にお願い事をするウィッチ。

「ン?いいよ。」

 優しい笑顔を返して、さしだした手。ウィッチはその手に自分の手を重ねてきた。
 重なり合う体温。心が温まるような感覚。

「ねぇ、ウィッチ?今日は、何処に行こうか?」

 辺りはすっかり秋の景色。何処を見渡しても、鮮やかな赤と黄色。
優しく頬を撫でる風。徐々に高くなっていく空。  もうすぐ冬が来る。

「そうですわね…ンー…何処でも良いですわ!」

―――ラグナスさんと一緒なら。

笑顔で、そう言ってくる少女に自然とこっちまで笑顔がこぼれる。
なんて、嬉しいことを言ってくれるんだろう。少女の一言一言が、暖かくて。

「そうだね…それじゃぁ、適当に歩こうかっ!」

 ウィッチとラグナス、二人で会う時間は僅かでとても少ないものだけど、
その分二人であって、喋ったり、何処かへ出かける時の喜びは、
他の人と桁違いに違っていて。
 

    幸せほど 望むものはないけど
       幸せよりも 何よりも 
   ずっと貴方といたいから  ずっと隣に居たいから

    例え それが試練だとしても 
     乗り越えていこう  貴方と一緒にいたいから 


 暫くして、森に入った。気の間から漏れる木漏れ日が交差する道を、手を繋いで歩く。
まるで、精霊でも出てきそうな澄んだ空気。 その中を二人で歩く。

「ねぇ、今度はいつまで居れるんですの?」

 ふと少女が聞いた。凛と響く声が森の空気を震わせた。

 長い時間逢えないって分かってるのに。それでも、もう幾度も聞いた。
その度に寂しいと感じるけれど、その度にまた帰ってきてくれると感じる。

「ごめんね、一週間くらいしたら行かなきゃならないんだ。」

 大丈夫。信じてるから。また帰ってきてくれるって、信じてますから。

「一週間も居れるんですの!?それじゃぁ、
 ラグナスさんさえよければできるだけ一緒にいてもいいかしら……?」

 てっきり寂しがると思ってた。俯いて、それを受け入れて。
だけど、違った。 
明るく笑って、自分を見上げてくる彼女が愛しくてたまらなかった。

「うん、一緒に居よう。」

 にっこりと笑って、また前を向いて歩く。
 こんな時が、こんな幸せな時がいつまでも続けばいいのに。


 永遠なんて そんなものより
      今を信じて 今を信じて
  まだ希望があるから  きっと一緒に居れるから

    例えそれが辛いものでも 全て笑っていられますように
     笑っていて欲しいから  いつも笑って欲しいから



 ざぁっ………


 森を抜けたところ、いきなり視界が広くなった。
 差すような光に一瞬眩んだ。日の光よりも眩しいそれに。

「うわぁ……」

「……凄いですわ………」

 森を抜けた其処にあったのは、一面のすすき野原。金色の世界。

「綺麗……。」

 優しげに今にも壊れそうな笑顔を一瞬浮かべた。まるで、懐かしいものを見たような。
そっと吹き抜ける風が、彼女の髪をゆらした。

 ――同じ、金色。  まるでとけ込むような。

「ウィッチ…?」

 消えてしまいそうだった。同じ金色に、溶けて。
金の髪が楽しそうに踊る。少女は儚げに微笑んだ。

「どうしたんですの…?」

 その微笑みが、今自分を向いて、自分のために向けられていて。

「……いや…すすき…綺麗だね。」

 ただ不安だったんだ。消えてしまいそうで。
俺の手の届かないところへ行ってしまいそうで。

「そうですわね……。」

 本当は毎日不安で、いつ居なくなるか分からないから。
いつ私の手の届かないところへ行ってしまうか分からないから。

 二人の間を、また風が通り抜けていった。


  いつでも目を開ければ 希望が見えた
   心配は積もるばかりで ぬぐわれないけど
 それでも一緒に笑えるなら  どうか一緒に笑おうよ

  例えそれが哀しい笑みだとしても 決して泣かずにすむように
   いつも貴方が好きだから  いつも貴方を愛してるから

 

「ねぇ、ウィッチ。」

――俺がもし居なくなったら 君は泣くのかな?
   俺が、もしも居なくなったら この世界は何かが変わるのかな?――

「……?」

 微笑んで、こっちを見上げる少女。

「ううん、なんでもない。」

『もし』なんてこと、言わなくたっていい。
それをいったら、きっと君は怒るだろうから。きっと悲しむだろうから。

「ふふ…、変なラグナスさん……。」

 クスクスと笑う少女。目の前の金野原。踊って遊ぶ金の髪。
小さな君は、一体何を思って生きてるんだろう……?

 俺は勇者で 人を助けて生きなくちゃならないけど。
もしも、それが。ウィッチを傷つけるような、そんな仕事だったとしても。
 俺は実行できるだろうか? いつものようにただ剣を振るえるのかな?
 
            ――答えは    否  



 黙ってしまったラグナスを不思議に思って、ウィッチが話しかける。
 答えの分かってる質問。だけど、もう一度答えを聞きたくて。 
貴方の声が聞きたくて。

「ねぇ、ラグナスさん…。」

 今日一体何度名前を呼んだだろう。
繰り返し、呼びかけて。

「私達、ずっと一緒ですわよね?」

 目の前の金野原は、変わらず風に揺れ遊ぶ。
『兎が走る』って、言うけど、まさにそれそのもの。

「…うん…、当たり前だよ…?」
   
   予想通りの、いつもと変わらない返事。それが嬉しくて。
 ぎゅっと手を握りしめてくれて、優しい笑みを浮かべて答えてくれる。
どんな言葉の一つでさえも、どんな仕草の一つでさえも忘れたく無いから。

「…ありがとうございますですわ……。」

 何故か、涙溢れそうになった。
その景色が、その言葉が、その仕草が愛しくて。


   夢見てた いつまでも一緒に居れる夢を
    目が覚めるたびに 涙流した
  それでも貴方が居てくれるから そして抱き締めてくれるから

   例えそれが今だけだとしても それでも信じたい
    何があっても好きだから  何があっても貴方を愛してるから



 二人は暫くそのすすき野原を見つめていた。
それから、その中へ飛び込んでいった。風のように。

 そっと吹き付ける風にも気を取られず、ただ笑った。
 一緒に居れる幸せを、笑った。 時間さえも忘れて。
全てを忘れて、ただ笑った。笑い声が絶えることは、なかった。



  ――金色の世界   小さな笑い声が響いた―― 




  いつ いつまでも  その未来が暗くても

   きっと 光が耐えることなんて無い

 いつか別れてしまうなんて そんなこときっと無いから

  別れてしまっても きっとまた出会う

     光の子ら 忘れないで  貴方達の傍の光を
   
   いつか
                      きっと
    わかる
                       必ず
  いつまでも
                     忘れない


           きっと忘れない

   

  信じたい  未来を  夢を 希望を
 幸せも 永遠も 夢も 希望も  きっといつか 
   きっといつか           現実になるから
     きっといつか           現実になるなら

 いくらでも 泣こう  いくらでも  苦しもう
        そして 笑おう         『二人』で。

  貴方が好きだから   貴方を愛してるから
   いついつまでも  貴方を愛してるから

   だから  笑おう    愛してるから
    


               『小さな想い』   愛してるから










 すすき野原に、小さな影が二つ。
  また、一つ小さな思い出がふえる。





 ――繋がれた手が 離れることは なかった。――




             『貴方を 愛してるから』

どうか   小さな想いが  届きますように
どうか   小さな願いが  叶いますように
2004年12月05日(日) 19時35分31秒 公開
■この作品の著作権は空さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ラグウィお題〜!!八番目の「小さな」!!
って何処が小さな……なんだよ自分!!(汗
スイマセン!!!(土下座 
意味が分からないッスよね……?スイマセン!!(汗

えっとー…とりあえず、今回は風景描写を中心に頑張ってみました…。それから、甘めを…(ぇ
二人の心情を少し居れてみたのですが、どうだったでしょうか?二人には、笑ってて欲しくって……(コラ
とりあえず、苦情でもなんでもどんとこいです!いくらでもどうぞ!!(ォィ

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No.2  リュウ  評価:70点  ■2004-12-06 19:04:27  ID:tjAemY01kIY
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なんか・・・詩人っすね〜(感心)
なんでそんな言葉が浮かび上がってくるのか・・・・俺には到底マネできません。
とりあえず感激しました。
No.1  華車 荵  評価:100点  ■2004-12-06 02:09:33  ID:BH4G.dZ0sJM
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凄い素敵だ!!
良いなぁ〜…こんなのが書けて…。
二人の心情、良く伝わってきたよvv
ウィッチの「一週間もいられるんですの!?」って言葉に驚きましたv
私もラグナスと同じように一週間しかだと思ってたのに…(笑
そんな事でもプラスの表現が出来るウィッちゃんは魅力ですvv
どんなに寂しくてもラグナスに心配をかけまいとしてるウィッちゃん…あんた切ないよっ!!(ぇ
この二人はいつかずっと一緒に居られる日が来ると良いなって本気で思いますvv
あと、詩がやっぱり良い!!クゥの詩はやっぱり最高ですvv
もう切なくて切なくて…vv
これからも良い小説いっぱい読ませてくださいvv
総レス数 2  合計 170

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