好きだけど、

「ねぇ、ディーシェ」
「ん?」
「キス、して?」

 久しぶりの日向ぼっこ。いつも通りと言えばいつも通り、ひっついて指を絡めて淡々と話していたら不意に零れた欲求。
 驚きも照れくささもなく、不思議と、自然に。
「どうした? 急に」
「別に。何となく」
「冗談か?」
「冗談に聞こえた?」
「解らないから訊いている」
「……本気に決まっているじゃないか」
「本当に?」
 覗き込んでくる彼。真剣に見つめてくる紅。
 頬が熱を帯びるのを感じつつも、しかし気持ちは変わらず。じれったい彼へ対する苛立ちがふつふつと湧いて来るのみ。
「しつこいな。して欲しいって言っているじゃないか」
 睨み付けてしまった。
「ディーア」
 感情剥き出しの自分の声。反して冷静な彼の声。
 流石に情けなくなってうつむ――
「!?」
「こんなところで……後悔するなよ」
 覆いかぶさる陰にビクリとして見上げる。気が付けば腕を掴まれ、目に入るのは悪趣味な微笑。
 近づき、触れ合う唇。


 それからどれほど経ったのか。
 唇を吸われ舌を絡められ、未だ止む気配のない彼からの愛撫。

(そろそろ解放して欲しいなぁ……)
 淫らに響く水の音。喉を焼く吐息と白く霞んだ意識の中、ドッペルアルルはひっそりと後悔した。
華車 荵
2015年08月15日(土) 06時49分39秒 公開
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