敗者


「…っ…たぁ……」

体中が鈍く軋む。魔法をモロに受け、ボクは殆ど体の自由が利かないまま、ごつごつした
冷たい岩に背中を預けていた。

「…勝負は…着いたな…アルル・ナジャ」

氷の様に冷たい声。
目の前で笑むは闇の魔導師。彼も同じくらいぼろぼろなのに、平気な顔してそこに立っている。
…やっぱり強いや…。実力の差…ってヤツ…かな?
この日初めてボクは彼に  負けた…。

「…ボクの…負けだね…。いいよ?あげる…全部…。そういう約束だったでしょ…?」

驚いたような、意外そうな表情。まさかボクがそう潔く魔力を渡すなんて思ってなかったんだね。
最後まで抵抗するって思ってた?そりゃボクだって魔力を奪われた魔導師の末路を知らないわけじゃないよ。
死ぬのは確かに怖いけど、ここで負けちゃうくらいだもん。この先生きてたって他の魔導師に斃されるのが
オチ。それより今此処で君に魔力を奪われた方が良いかな?って…。
そうすれば、魔力は君の中で生き続けるでしょ?それも良いかなって思ったんだ…。
だってね、シェゾ…ボク…君の事が……。君はボクの事をただの“器”としか思ってないんだろうケド…。
今日の君はあまりにも…いつもよりも『本気』だったから…。そんなに欲しいんならあげるよ…全部…。
でもこの先、君はボクの事忘れちゃうんだろうな…それはちょっと…悲しい…な…。

「それとも要らない?」

挑発するように見上げる。彼が確実に魔力を奪ってくれる方法…。彼は見下されるのとか嫌いだから。
挑発には乗らずには居られない性質だから。その事はボクが良く知ってる。

「ふん…お望みとあらば好都合だ…奪ってやるさ…全てを…」

近づいてくる靴の音が嫌に鮮明に聞こえる。心臓の音が強く、激しく波打ち始め、口の中がカラカラに渇く。
やっぱり…怖いな…。恐怖心を表に出さないようにするのがやっとだよ…。
伸ばされた手。目を閉じる。恐怖から、いつもよりも『怖い』彼から目を背ける様に。
頬に触れる冷たい手。その冷たさに一瞬びくりと体が震えるのを感じた。

「…!!?…んっ…ふ…っ!?」

不意に顎を引き上げられ、湿り気を帯びた生暖かいモノがボクの口の中に流れ込み、激しく動き回る。
何をされているのか理解出来ず、目を見開くと青い瞳とぶつかった。
それと同時に動き回っていたモノはその動きを止め、ボクの唾液と供に取り除かれる。

「なに…す…っ」

なにするの!?
何をされているのか理解して、どうしてそんな事するのか理解出来なくて叫ぼうとした瞬間、
腕を掴まれ、軽い眩暈に似た浮遊感がボクを襲う。




「きゃっ!?」

そこは薄暗い室内だった。じゃぁ、さっきのは空間転移テレポート
ここどこ?どこに連れて来たの?問う暇も与えず、シェゾはボクの体を放り投げる。

―――ドサッ!

音が耳元で聞こえ、柔らかい感触が背中に当たる。予想とは違った展開に頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱された
感じがした。

「敗者は勝者に良いように扱われ、逃げる事も抵抗も赦されない…。」

「ソレが自然の法則だ。そうだろ?アルル…」

確認するような問い。ボクの体に覆いかぶさる彼の体。ボクの腕を捕らえる彼の手。
何がしたいの?何が言いたいの!?
わからないよ…君が…。怖いよ…君が君じゃないみたいで…。

「なん…で…!?」

服に手が掛けられ、何の抵抗も無しにソレは引き裂かれる。その音にボクの顔は引きつり声は凍りついた。
布に隠れていた肌が露になり、戦いの傷が彼の体に擦れて痛みを伴なう。
その痛みに小さく悲鳴を上げた。

「…ひぅ…っ!ど…して…?魔力…奪うんじゃ…ないの…?」

声が震えているのが自分でも解った。訊いた後でその問いはつまらないものだったことに気付く。
魔力なんていつ手に入れたってそう変わらない。『そういう行為』の後でも遅くないんだから…。

「…そんなに死にたいのかよ…?お前は…」

冷たい声。体が震え上がるのを感じた。
でも、そんな声とは、力強く腕を捕らえる手とは裏腹に彼は優しく、熱っぽくボクの首筋に吸い付くように
口付けを落とす。どうして…そんなに優しくするの…?

「…殺してなんか…そう簡単に逃がしてなんかやるものか…。やっと摑まえた獲物…やっと手に入れた…俺の…。」

耳元で囁かれた科白。それは何処か寂しげで。
殺さない?逃がさない?…良くわかんないよ…。君はボクに何を望んでいるの?魔力…じゃないの……?
彼の舌が体中を這い回り、手が脇腹をなぞりながら降下し太腿を探り始める。ボクの体が汗ではないモノで濡れる。

「…や…っ…だ…って…あぁ…っ…君…は…ボクの魔力…んふ…っ…狙…っ」

息が苦しい。お腹の辺りが熱い。
今迄感じたことのない強い刺激に耐えながら問う。何が何だかわけわからなくなりそうだったけど、
必死に意識をそこに留める。だって、そうしないと訊きたい事訊けないじゃないか…。
ボクは知りたいの…君のキモチ…。だから…まだ…負けてあげない。
彼の動きがぴたりと止んだ。

「魔力なんかいらん」

え…?

「そんな物は他の方法で幾らでも手に入る」

なに?どいうこと…?

「俺が欲しかったのはもっと別の…この世に二つと無いもの…。決して手に入らないもの…。」

「…お前自信だ…アルル・ナジャ…」



…うそ…。ほんとう…に…?

「…俺から逃げられると思うなよ…」

少しだけ乱暴に塞がれる唇。さっきよりも長く、さっきよりも執着に。何度も何度も角度を変えて
合わせられる。まるでボクに選択の余地はないとでも言うように。
一見恐ろしいとも思える言葉。何かに縛られる事は嫌いなはずなのに…その言葉が何よりも嬉しくて。
震える腕で彼の体を抱きしめて…。

「ボク…逃げない…よ…?君から…逃げたりしない…よ…?」
    
だって

「シェゾ…ボク…君の事…」

こんなにも

「好き…だか…ら…っ!!」


熱いモノが目から零れ落ちボクの髪を濡らす。

「アル…ル…」

一瞬驚きの表情を見せる彼。切なげな両手がボクの顔を包み込み涙で彼の手が濡れた。
…いつものシェゾだ…。さっきまでの怖いシェゾじゃない。
いつもの…馬鹿でまぬけで変態で…でも…優しい闇の魔導師…シェゾだ…。

「…だい…す…き…だよ…しぇ…ぞ…っ」

涙でぼやけて良くは見えないけど、ボクの目は確実に君を見ているよ?

「……すまない…」

苦しげな顔。切ない声。優しく合わせられる唇。
どうして謝るの?ボクはこんなに嬉しいのに…。
そんな顔されたら…そんな声で言われたら……。
…やっぱり…ボクの…負け…だなぁ…。

「…しぇ…ぞ……続き…しよ…?」

そっと頬に触れて微笑む。
ボクからこんな事言うなんて信じられないけど…。恥ずかしいけど…。
でも…して欲しかった。
もっと…彼を感じたかった…。もっと…ボクを感じて欲しかった…。
やっと…想いが届いたんだから…。

「…あぁ…」

優しい微笑み。嬉しかった。君がボクを受け入れてくれた事が…。凄く…。

「…っひゃぁん…っ!」

傷口に甘く吸い付く。次々と。自らが付けた傷を一つ一つ消そうとするかのように。
痛みと同時に訪れる快楽…、安堵もあってかその刺激にボクの思考力は一気に奪われる。

「…お前は…俺のものだ…」



意識が混沌に落ち入る寸前、彼の声が聞こえた。



      もう逃げない

     もう逃れられない

        だって

        ボクは


       『敗者』


      なのだから…
華車 荵
2004年12月04日(土) 10時35分18秒 公開
■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
やっちゃいました。
シェアルで裏…しかもありがちな敗北ネタ(爆
何気に好きだったりする敗北ネタ(笑
いや〜色々妄想できるじゃ有りませんかv(ぇ
でもやっぱり下手だ…裏小説…(汗
あまりえっちぃく無いですね(汗
…まぁ…想像力をフルに働かせて読んでいただければそれなりに萌ぇるかと…(マテイ
読んだ方…こんな物で宜しければ出来れば感想を…(涙

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