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「ねぇ、Dシェゾ…好きだよ…君の事…」 ずっと言えなかった科白。ずっと伝えられなかった想い。 それが今、自然とボクの唇から零れ落ちた。 初めて見る海が、初めて感じる潮風が、そして始めて知る暖かさがボクに勇気をくれたんだ…。 「Dアルル…」 名前を呼ぶ声、切なげな紅、頬に触れる指先。 全てが痛い程に…苦しい程に愛しくて、手を伸ばしそっとその頬に触れる。 途端に強く抱きすくめられ、暖かい感触がボクの唇に重なる。 その感触が彼の…Dシェゾのソレだと気付くのにさほど時間は掛からなかった。 「…ん…ふ…っ…」 湿っぽい、熱を帯びた吐息を漏らしボクは彼を受け入れる。 吸い付くような深く長い口付け。 何度も何度も角度を変えて重ねあわせられる唇。 初めての…キス…。 旅の道中、戦いの最中。彼がボクを抱き締め、守ってくれた事は幾度かあった。 だけど、こんな風に触れ合ったのは…初めてで…。 今迄感じたことのなかった感覚。躰の奥からじわじわと熱いモノが込み上げて来て、 それに全ての力が吸い取られていく気がして彼の服を強く掴む。 知らなかった…こんな衝動がボクの中に存在するなんて…。 「…ふっ……はっ…」 解放された唇は酸素を求めるが、彼はそんな暇すら与えぬようにボクの首筋に きつく吸い付き、紅い痕を付ける。 彼の瞳と同じ色彩。まるで刻印の様に。 鼓動が早鐘のように打ち鳴り、体中を焼くような熱に溜息が漏れ、抵抗を失った躰は彼の腕の中へ落ちた。 力なく震える躰を地に押し倒し、彼はキスの雨を降らせる。額に、瞼に、頬に…次々と…。 それが何だかくすぐったくて…嬉しくて…笑みが零れた。 「…あ…っ…」 不意にDシェゾが服に手を掛けたのを知り慌てて腕を交差させそれを拒否すると、彼は「何だ?」と 言う風に眉を顰めボクを見下ろす。 海からの光に煌く銀が…、紅が…陽炎の様に揺らめいて…。 それを綺麗だと思いつつも魅入られてしまいそうで思わず視線を逸らしてしまった。 「……恥ずかしい…」 ぽつりと呟くと視線の隅に彼がふっと微笑うのが映った。 その微笑に安堵するのも束の間。一瞬の隙に両腕を頭の上で束縛される。 「…なっ…!?何をす……あふ…っ…」 抗議の声は最後まで発せられる事はなく、自分が発したものとは思えないほど間の抜けた声が 漏れた。 服をたくし上げられ、胸元を這う熱い刺激に躰をこわばらせる。 空いている片手で胸のふくらみを弄びながら、湿っぽく熱い愛撫を体中に降らせる彼。 その刺激を妙に意識してしまい掴まれた両腕を解こうと必死にもがくが、熱でのぼせてしまった様に 力が殆ど入らない。 「…力…抜いとけよ…」 「…え…?」 耳元で囁かれた科白。何が何だか解らないまま、スカートのホックを外され下着ごと剥ぎ取られて しまった。 太腿の裏側に手を回され、脚を開かされる。 「…や…っ…ちょ……っ!!?」 拒絶の声をあげようとした瞬間内股の付け根辺りで張り裂けそうな痛みを感じ、躰を仰け反らせ目を見開く。 必死で悲鳴を喉の奥で食い止め痛みから逃れようと身を引くが、腰に腕を回し彼はしつこくボクの 中を侵食していく。 「……っ!」 手を握り締め、唇を噛み締め、彼が侵入って来る痛みに耐える。 少しずつ少しずつ彼はボクの中を進んでいく。 爪が掌に食い込み、唇からは鉄の味がした。 奥まで入り切ったのか彼の動きが止まる。痛みが和らぎ始め、そのお陰で力が抜けたように 荒く息をする。 「…大丈夫か…?」 その科白に声では答える事が出来ず、小さく頷いて「…平気…」と意思表示。 それを確認すると彼はボクの躰を抱き寄せ、逃れられぬようしっかり押えつけていた両腕を自らの肩に置き、 ゆっくりと動き始める。 「…あ……は…ぁ…んっ」 今までとは違った刺激に、抵抗する気力も力も失い、彼にしがみ付きまるで自分の声ではないような 甘い喘ぎを漏らす事しか出来ない。 まるで電気が流れたように躰中を奔る痺れ。中心部から広がる躰中を焦す様な熱。 初めて感じるものに涙が溢れた。 「…ん…っ…ふっ…あぁ…ん…っ!」 彼の動きに合わせて上下する躰。自分の意思とは無関係に発せられる甘い声。 恥ずかしい筈なのに頭の中がフラッシュバックのように瞬いて、沸き起こる衝動を抑える事が出来ない自分。 彼の唇が涙を拭い、手が上着を剥ぎ取る。露になった胸に顔を埋め、匂いを嗅ぐようにくんくんと鼻を鳴らす。 「…D…シェ…ゾ…」 彼の体温が気持ち良くて名を呼ぶ。視線がぶつかった瞬間、吸い込まれるように彼の唇を奪った。 目の前には驚いたように見開かれた紅。それにも構わず深く深く口付け、舌を絡める。 躰を上下させ、殆ど思考力を停止させたまま本能に命令されるがまま夢中で彼を求めた。 「…ん…っ…ふっ……はっ」 意識が朦朧として息が苦しくなり始めたころやっと繋ぎ留めていた唇を彼の唾液と供に取り除く。 それを待っていたかの様に彼の動きが速度を増した。 「あ、あ、あ、……あぁぁ……っ!!」 「!…っ…くっ!」 私の中で勢い良く熱が弾け、私は意識を手放した……。 「…大丈夫か…?Dアルル…?」 そんな声が聞こえ、ゆっくりと目を開ける。心配気に覗き込む紅い瞳と光を受け揺れる銀。 眩しくて目を細める。躰に纏わり着くような布の感触と彼の腕の感触。 二つの感触に彼のマントを掛けられ膝の上で抱かかえられているのだと知る。 「…初めてだったんだな…」 すまなさそうな声の裏側に慶びが見え隠れしている事に気付き、恥ずかしくてそれに少し腹が 立って、ぶん殴ってやろうかと思ったが、躰が重く思うように動かないため断念する。 「……当たり前でしょ…?前にも言ったけど…私は長い間封印されてたんだ…。…宝箱の中に…ね…。 目覚めたのはつい最近で、アルルに負けてから…私はずっと時の狭間を彷徨ってた…。こんな事…知らなかった…」 さっきまでの事が脳裏に浮かび顔がだんだん熱を帯びてくるのが解る。彼は「それは知っているが…」と 呟くように言い、不思議そうな顔をする。 「…お前…自分の事『私』って呼んでたか…?」 「…え…?」 その科白にふと我に帰る。そういえば…いつから?自問してみるが答えは還ってくるはずはない。 自然に…そう呼んでいた…自分を…。 ふぅっと溜息を吐く。 「…解らない…」 「…あ…?」 素っ頓狂な声を上げる彼。無理もない。マントで躰を隠しながらゆっくりと起き上がり彼を見つめる。 「…解らないんだ…『ボク』って言ってた気もするし、『私』と呼んでたような気もする…。なんせ随分と 長い間封印されていたようだからね…。記憶が曖昧なんだ……ただ…」 「……ただ…?」 彼のさとすような声に少し躊躇しながらも少しずつ言葉を並べていく。彼と出会う前…私が思い、考え、 そして決意した事…。 「…ただ、今迄『ボク』と言っていたのは意識しての事だった…。確かに私はアルルと出逢い、自分はアルルでは なく、Dアルルという個人だ…ということを認識した…。でもそれだけでは不十分だったんだ…」 一旦言葉を切り俯く。 「心の何処かではアルルのドッペルゲンガーである事に拘ってた…。自分にしかない…自分だけしか持ちえない 『何か』を手に入れない限り私は私ではなく、アルルのドッペルゲンガーでしかないと…だからそういう戒めを込めて…」 「……つまり自分自身を封印していたわけか?…お前は…」 彼は静かに聴いていたが、少し考えたような仕草の後口を開く。「…まぁ…そんな所…」と苦い笑いを浮かべながら 答えた。笑われるかと思ったが、そうではないことを知ると少し意外に感じたのと同時に安堵する。 「…俺と交わる事によってお前はお前になったわけか…」 「…なんだか恥ずかしい言い方だね…それ…」 真っ赤になって俯くと「事実だろう?」と一言。何も言えなくなってしまった。 確かに…その通りなのだから…。 「…Dアルル…まるで精霊みたいだな…お前は…」 名前を呼ぶ甘い声。そっと頭を撫でて紡がれた科白。 不思議に思い彼を見上げる。 「…精霊には魂がないらしい…。だが、恋をすることにより次第に感情を覚え、永遠に愛を誓うと魂を得るという…」 「…魂…?…私も…魂を得たの…かな…?私という…魂を…」 見上げたままきゅっと彼の服にしがみ付く。沸き起こるは淡い…期待…? 「…そうだと信じたいな…お前にも…唯の『石』でしかなかった俺にも…魂がやどったと…。 そうすれば…永遠にお前と繋がっていられるだろう…?」 「…Dシェゾ…」 強く抱き締められ、唇を重ねられる。暖かいと思った。背中に回された腕も、触れ合っている唇も、彼の躰も…。 …必要とされている。必要としてくれる人が居る…。欲しかったものは…手に入れなければならなかったのは それだったのだ…。 胸の奥が苦しく、それでいて暖かい…。これが「幸せ」なのだと全身が告げていた。 「…さて…と…」 唇を離し気を取り直したようにそういうと、彼は私の躰を地に降ろし覆いかぶさるように…。 「…もう一回…」 え?っと素っ頓狂な声を上げる私を見下ろし、彼はにやりという笑いを浮かべ愉しげに言う。 その意味を瞬時に理解し、慌てふためいた。 「…ちょ、ちょっ!…ま、まだ躰が…っ!…んっ…ふっ…!?」 抗議の声をあげようとしたが、彼は「聞く耳もたん」とでも言うように唇を塞ぐ。 躰の体温が一気に上昇し、羞恥心を覚えながらも彼を押し退ける事が出来ない。 それどころかそれを「嫌じゃない」と思ってしまう自分に 私は少しだけ……腹を立てた…。 |
華車 荵
2004年11月08日(月) 14時21分54秒 公開 ■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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