鏡よ鏡よ鏡さん
時刻は午前0時の30分前。午後11時30分だった。お酒に酔ってハイになった人たちの笑い声と「ハッピーハロウィン」の声、そしてたまに聞こえるウィッチの誕生日祝いの声をバックにドッペルアルルことディーアは黒のローブに林檎のお菓子を入れたバスケットを持った状態で一人ノンアルコールのシャンパンを片手に壁にもたれてぼんやりと入口を眺めていた。

10/31と言えば先祖や悪霊が我々の世界である現世に帰ってくる日で、悪い霊に悪戯されないよう仮装し、パーティを開いたりする日である。ディーアがこの街についてからもう早3年はたつが今年も例に洩れずサタンの城でのウィッチの誕生日パーティ兼ハロウィンパーティが開かれるとのことで招待状が届いた。しかし去年とは相違点が一つありそれはパートナーのドッペルシェゾことディーシェが隣にいないことだった。

ディーシェがなぜいないのかというと、どうやら最近何かの依頼での貴族の人に気に入られたらしく警備の仕事と一緒にハロウィンパーティの招待がギルドから名指しで来たらしい。なんとか断ろうとギルド長に直談判までして前日まで粘っていたがとうとう駄目だったらしくともに送られてきた仮装用の服だろう黒を基調とした仮装にしては動きやすい騎士服に袖を通してテレポートでディーアをサタンの城まで送り、なおかつ
「できるだけ早く抜けてくる。どうせ警備なんて必要ないくらいにはあそこは厳重だったからな。だから待ってろよ」
と肩を掴んで宣言するかのようにしてから仕事先にテレポートをして行った。

「今日中は無理、かなぁ。」
ぱさりと頭にかぶっていたフード部分を取ってあたりを見回せばお酒に酔い潰れた死体といろいろな仮装が目に入る。
例えばフランケンシュタインのように顔に線を入れて縫い目のようにしているラグナスの隣には猫娘をイメージしたのか猫耳としっぽのついたウィッチが、アリスに出てくるマッドハッターのような格好をしたサタンの腕には赤の女王をイメージした格好のお酒に酔って幸せそうに腕を締め上げるルルーが見えた。他にも人魚姫、スケルトン、オオカミ男etc...中にはそのままじゃないかという人もいたが気にしたら負けだろう。ちなみにシェゾとアルルはどんなに探してもいなかった。1時間ほど前、まだ酔ってはいなかったルルーに聞いたところによるとアルルは課題が残ってるらしく来れないらしい。シェゾはそれを聞くとUターンして帰ったそうだ。

ディーアは一通り周りを確認するとグラスをまわしながら最近聞いた噂話を思いだす。『ハロウィンの日の真夜中に林檎を食べて振り返らずに鏡を見ると将来の伴侶が分かる』ディーアには自分の伴侶は十中八九ディーシェであると確信がある。がしかし、この状況でどう映るというのだろう。0時まではもう数分。彼は未だに姿は見えず。テレポートで来たとしても見つけてからディーアのそばに駆け寄るのにこの広い会場に沢山いる人だ全部ひっくるめて早く見積もっても2分はかかる。「(この噂は本当か迷信か…さてさて、ボクの伴侶は一体どこまで頑張れるやら…。)」口元に浮かんだ笑みを隠さず会場のバルコニー近くにある鏡の前に立ってディーアはバスケットからひとつ、林檎を取りだした。




一方ディーシェはサタンの城でハロウィンパーティが行われてる中、苛立ちまじりに自分を指名した依頼主のパーティの警備をしていた。さすが貴族の開いたパーティだけあっていくらか見知った名前の人間や有権者と呼ばれるような人物がいた。
「あぁ、ディー君。今日は悪いね、無理を言ってしまって。」
聞こえてきた声に振り向くと、今回の雇い主であるオズモンド=タッカーその人だった。悪いと思うなら呼ぶなよくそ狸、こちとらディーアと特別な日は居たいんだよ。そんなことを考えながらも心に隠して「仕事ですから。」と生真面目に答えた。この雇い主に対してディーシェはあまり好感を抱いていない。高い金額を報酬にくれるのでそれはありがたく思っているが事あるごと、隙を見せると自分の娘との縁談を薦めてくる。それを断るのが非常にわずらわしいので疎ましく感じているところが少しあった。

魔導師とは、なるのに大変な時間を有し、魔力も高く、素質もなければならない。魔法使いならまだしも魔導師となると数が減るのはそのせいだ。さらにその中でも依頼などを受ける際つけられている、S〜FのランクのうちSやAランクのものをこなせるのはほんの一握りの人間である。そのレベルになると権威ある人間であったり有名であったりするのだがやはり年齢が年齢になってくるのである。しかし高魔力の人間に憧れ自分の子孫を高魔力保持者にすべく自分の娘を40も50も年の離れたおっさんに嫁がせる貴族は五万といた。

そんな中ポッとここ数年湧いたように現れたのがディーシェだ。見た目は若く顔もいい。経歴がつかめないという点はマイナスだが魔力も高い。何よりAランクの依頼を軽くこなしてしまう彼に貴族の眼が向かないわけがなかった。恋人がいるという情報はあるが我が家の婿になれるという光栄だ、その恋人なぞ捨てて喜んで飛びついてくるに違いない。そういう考えの貴族は多々居てオズモンドもその一人であった。

ある程度仕事という名の警備をして、そろそろ暇を願おうとオズモンドを探しステージの近くへと向かったのは11時30分のことだった。パーティも終わりにさしかかりもう自分がいる必要もないと判断してのことだったが重大発表があるから待て、とオズモンドの横で待たされる。そしてそれはすぐのことで、ディーシェは後悔させられた。声を拡声させる魔導のかかったマイクと呼ばれるものを持ちオズモンドは高らかに宣言した。

「ここに、我が娘ユージニアと魔導師ディーの婚約を発表する!」

それを聞いて拍手であったりなんであったりとわいた会場を気にも留めずただディーシェはぽかんとしていた。開いた口がふさがらないとはこのことだ。何を言われたのか最初は理解できなかったが隣に寄り添って「不束者ですが、どうぞよろしくお願いしますディー様、いえディーシェ」と頬を赤らめて腕に絡みついてきた女を見て心底気持ち悪いと思い振り払った。
「俺をディーシェと呼んでいいのはディーアと一部の人間だけだ!」
気がつけばそう叫んでいて沸いた会場はシンと水をうったように静かになった。そんなことなどどうでもいいと剣を出して突き付けながらディーシェは聞いた。
「おい。オズモンド、これが俺を指名した理由か。」
まだ状況が理解できていないのかオズモンドは食いかかる。
「だ、だったらなんだというのだねっ光栄なことだろう!名門たる我が家に婿に来るのだぞ!!頭のいいキミなら分かると思うが今の恋人何ぞ捨てて「ディーアをけなしたのはこの口か?」冷ややかな目でオズモンドを見下ろすディーシェの眼には何の感情も宿っておらずただ苛立ちが見えた。脂汗をかくオズモンドに対し剣をしまいながら言い放つ。
「報酬はいらない。そして二度とお前からの依頼も受けない。…俺とディーアと俺の知り合いにはかかわるな。この約束を破ったらお前を殺す。」それだけ言うとディーシェは黒いつむじ風となって姿を消した。
ディーシェが消えた会場では、驕っていた貴族たちは皆、彼に手を出してはならないと心に誓っていた。





テレポートの地点が少しずれたのか、ディーシェがサタンの城に無事着いた位置は会場のバルコニーの一つだった。時計を見れば0時になる1分前バルコニーから中に入るとすぐそばにディーシェが今日、ここに送ってきた少女、ディーアが居た。カウントダウンをしながら0時になるのを鏡の前で待っているようで、10秒前になると数を数えるのをやめて手に持っていたリンゴをかじって咀嚼する。飲み込むと同時に鏡を見たところで後ろにいたディーシェに気がついたようだ。驚いた顔で振り返るディーアにディーシェは笑いかける。
「魔女は自分の作った毒林檎を食べて王子を待つのか?」
「…驚いた、噂は本物みたいだ。」
かみ合わない話にふっとディーシェが笑うと同じように笑いだすディーアの頭を撫でてて
「遅くなったな」
「結果オーライかな。理由はあとでじっくり聞くよ。とりあえず、魔女の亡骸を家に持ち帰ってくれないかい?騎士様…じゃなかった、王子様?」
とからかうように家に帰ろうと促すディーアに
「目覚めのキスは家に帰ってからな」
とささくれだった心を癒されながら一番愛しい少女を抱いて昨日までのいら立ちを置いて行くように今日最初のテレポートを唱えた。
宮池
2014年11月29日(土) 19時10分11秒 公開
■この作品の著作権は宮池さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんとなくこう、魔導師って貴重な人間なんだからこういうことも無きにしも非ずかなーとか思いながらだかだか打ってみました。ほとんど構想もなくかきだしたので読みにくいところもしばしばかと…。読んでくれて感謝です!

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No.2  りりりれり  評価:50点  ■2014-12-22 20:44  ID:TvdnLK10luM
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うわああああ、ディーシェさんカッコいいですね。ディーアさんも乙女……。占い、というか言い伝え、というか、とてもお洒落な感じで好きです。
貴族が貴族らしい、なんか価値観を押し付けてくるところがまさに貴族って感じですね。DシェDアル大好きなので嬉しいです。
No.1  華車荵  評価:50点  ■2014-11-29 23:07  ID:93R27tvt5go
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 執筆お疲れ様でした! くそう、ハロウィンの日にこれ読みたかった!!
 やばい。ディーシェさんかっこいい……(*´ω`*)
 オズモンドの描写、居るわぁ……こういう奴居るわぁ……っ!!って煩わしさを共感しつつ読んでました。感覚ズレた人って自己満足を自己満足だと気付かないのよね。買いたくもない親切心を押し売られても迷惑なだけですって。
 そりゃブチギレるし何も要らないからと突っ撥ねて帰りますわ、ほんと。ディーシェさんの気持ちがよくわかるので、娘を振り払ってオズモンドに剣を向けたディーシェさんよくやったと拍手を送りたい。

 溜飲が下がりました(`・ω・´)


 シェアルの小説と若干繋がってるのね! 女の子たちは占い好きなのか……。双方とも運命の相手が現れて良かったね! カウントダウンしてるディーアさんを黙って見てるディーシェさん空気読みすぎww以心伝心か、素敵だわ(*´Д`)ハァハァ

 ディーシェさんがディーアさんをどれだけ大切にしてるか、分かりきった事だけど、再確認できた小説でした。
 この後、ドッペルズはどんな会話したのかなぁ。


 フランケンシュタインなラグナス見てぇぇぇぇっ!! こんなフランケンいねーよ!ってくらいイケメンだよね!絶対!!
 アリスの登場人物で合わせてるサタルルも素敵。アリスとルルー(鉄拳春休み)で不思議の国繋がりかな?とちょっと思った。どうよこの推理←

 誤字見つけたので報告です〜。
『その恋人なぞ捨てて喜んで飛びついてくるに違いない。』の部分と、『ディーシェがサタンの城に無事着いた位置は会場のバルコニーの一つだった。』の部分。
 誤字……だよね?

 素敵な小説ありがとうございました!
総レス数 2  合計 100

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