いつも通りに、罠。４
　「えい」
「だからその辺にあるものに勝手に触るな！　さっきと同じように鉄球でも飛んできたらどうするつもりだ！　って、ヒモを引くな！」



　ボクは後の事も考えずにヒモを引いてしまった。でもヒモがあったら引いてしまう、これは魔導士の性だ、仕方がないよ、うん。だって大概のダンジョンだとヒモはいい感じに隠してあって、それを引くと隠し部屋があったり宝があったりでいいことずくめなんだもの。引くっきゃあないよ。いくら経験豊富な闇の魔導士サンに言われてもねえ…。こればかりは。
　確かにこのダンジョンには罠が多いことを村人に教えてもらったし、このヒモはあまりにも露骨にぶらーん、となってたけどさ。キミにもいつも以上にやかましく言われたけどさ。


　でも、時々ダンジョン内でキミに会って協力するときにも、同じようなことしたら金貨ザクザクだったんだよ？　…まあ、その後の宿でのカー君の食事代にほぼ使われちゃったけど。ボクの、キミからしたら突飛な行動も、割と役に立ってたりはすると思うんだけどさ。
　第一キミだって、こうなることなんか予想できなかったじゃないか。まあ、正直言ってこの言い訳は確かに苦しいけど。
　こんなことになるなんて、思ってもいなかったんだ。


　ビックリするくらい大きい穴が開いてさ…。
「うわああああ！な、なにこれ！」
「だから言っただろうが！　くそっ空間転移が出来ないからもっとこっちに寄れ！」
「だって無理だよ！僕だって落ちてるんだ…いててっ」
がんっ、と尻もちをつく。え、ちょっ、シェゾ降ってこないで！
「おいどうし…あぶねえ」
ホントだよ、危なかったよ。ボク、キミの７１キロの巨体に押しつぶされそうだったじゃないか。キミが咄嗟に床に手をついたからいいものの…。ざっと２ｍ落ちちゃった。落とし穴だったのかあ…って、あれ？

　上のほうがなんだかどんどん落ちてくる…このままだと、潰されて死んじゃうよ！　シェゾは上の方に背を向けてる、言い方悪いけどボクを押し倒すように倒れてるから、きっと上が落ちてるのに気が付いていない。
「しぇ、しぇシェゾ！うううう、う上見て」
「は？」
「上！」
「…やばいなこれ、アレイアーｄ」
「そんなことしたら、落ちてくる天井の破片で、間違いなく死んじゃうよ！」
「だったらどうしろと…！」


　ああ、もう駄目だあ、と思ったら急に落ちてくるのが止まった…けど。
「閉じ込められちゃったね、シェゾ…」
「閉じ込められちゃった…じゃねえよ！　お前のせいだろ、じゅげむでもいいから吹っ飛ばせ！」
「だから破片が…」
「そんなもの俺がシールドで防いでやるからさっさとしろ！　…落ち着かないんだよ」
その一言にえっ、っと返すと早くやれと怒られた。というかボクの手の近くにキミがいるけど平気なのかな。
「う、うん。ダイアキュート、ダダダイアキュート！じゅじゅじゅじゅじゅげむ！」
「お前…失敗か？」
え、おっかしいな。最近なら絶対出来るのに…。
「あ、…アルルもうやらなくていい」
やれといわれたとしてももう次出来るほど残ってないよ！　最大級でやったんだからさ！
「結界が張ってある、どうやら魔法…ただし基本魔法以外、全く効果がないらしい。今気が付いた。そこに紋様が刻まれている。…どうせなら全て無効化すればいいものを…趣味が悪い」
なんだよそれー、つまり君も空間転移出来ないってことか…。

　「じゃあ基本魔法でこれ壊してよ」
「流石にこの残りの魔力ではそこまで威力が高いものは無理に決まっているだろう…あほか。さっきの空間転移さえ発動させなければできたが」
全く口が悪いよね。…でもまあ、ボクが罠にキミを巻き込んじゃったし、キミが不機嫌なのも仕方がないし、というかまだこれましなほうだから、いいか。
「じゃあ、魔力が回復するまで待つんだね」
「……。待つといえば待つが」
なんか変な言い方だな…。

　とかまあそうやってシェゾに心の中でツッコミいれて何とか冷静さを保ってはいるけれど、ボクの心臓は胸から飛び出してどこかに行ってしまいそうなくらい高鳴っている。
　だってここ、すっごい狭くて、ほぼ１人分しかスペースないのに二人でいて、しかも相手が長身の男なんだもの。うん、狭いせいだよってまた自分にウソをつく。身体が密着してて、なんか重いし。闇の魔導士のくせに体温ボクより高いし。肌白いくせに…。まあ、もちろんこの中は真っ暗でキミの肌の色どころか、目も見れないんだけど。なんか逆にそれで助かったりしてるかも。今ボクはとんでもなく顔が真っ赤だろうから。だって、頬にキミの銀髪が当たってくすぐったくて、息遣いが耳元で聞こえるんだもの。なんかボク、キミより変態かも、下手したら、なんて。暗くて狭くて、なおかつキミが近くにいるなんて、本当になんか、いやだ。







　俺にしがみつくのをやめてくれ。頼むから。コイツ狭いの苦手だったか？この状況だけでも俺は頭がどうにかしそうなんだ、離れろ。…この閉鎖空間じゃ、それが叶わないのは分かってはいる。
　しかしこう、くっつかれた方はたまったものではないぞ。しかもこれが女ときた。いや、男の方が気持ち悪いのは分かっているが。
　しかもアルルだ。この状況をあのハゲロリコン魔王が見たら、何と言うのだろう。そうなったら俺は間違いなくヘンタイ確定だ。…あいつ、本当はルルーの方が好きなくせに…。まあ、他人の情事なんぞどうでもいい。

　それよりもだ。この助けを求めなければいけない状況に非常に俺はイラついている。全くアルル…。これでは自力でどうにかできる訳がない。俺には闇の剣があるものの、だ。これでは振るえない。助けを求めようにもだ、人がいない。正直言ってこれは絶望的だ。





　なんかそういう思考を振り払おうと、ボクは取りあえず何かシェゾと話をすることにした。
「シェゾー、お腹空いたよ…。というか狭い…」
「お前黙れ！ここから出られなくなったのはお前のせいだろうが。第一俺の方がよっぽど狭い！」
うわあ、酷い言いよう。
「でもさー、お腹空いたくらいは言ってもいいんじゃないかな」
「ともかく、ここから出る方法を考えろ」
ううう、酷いな。そもそもボクたちは一体何でここにまだいるんだったっけ？
　
　思い出した。魔力の回復。…でもさっきから全然回復してない気が…。
「ねえシェゾ、魔力回復してる？」
「全然だ。全く回復していないが？」
なんだ、キミもか。
「これもへんな結界のせい？」
「まあそんなところか」
ああ、やっと分かったよ。通りでさっき、ヘンないいかたしたわけだ。シェゾはプライド高いからなあ。助けを待つなんて死んでも言いたくなかったんだろうな。

　あれ、なんかさっきっから、苦しい。
「シェゾ、なんか苦しいんだけど」
「狭いの間違いじゃあないのか」
違うよ、と言おうとしたけどもうつらい。
「なんか、クラクラするよ」
苦しいよ、息ができないよ。
「助けて…しぇぞ…」
「…おい！　起きろアルル！　何気絶してやがる！　お前、そのままだと死ぬぞ！」
そんなキミの声に返事すら出来ないで、ぼくはとうとう意識を失ってしまった。






　くそっ。闇の剣に気休めを言われたものの、俺にはどうしようもない。そんなことを思っていたら、聞こえてきたのだ。
「破岩掌！　女王乱舞！」
「ラビリンス！　ラグナロク！」
「サンダーストーム」

　…そしてついでに俺の悪口も。取りあえず救援が来たが、俺らが何処にいるのか分からないのだろう。なにか場所を知らせる方法が…。

　仕方がない。これしかない。そして俺は




　「アルルの魔力」の残りをかき集めるように、盗った。




　「悪いな、アルル。…最初に盗った時も、お前は意識を失っていたな。ともかく、赦せ」
そして俺は、呪文をわざと詠唱し、少しでも長く、大きい炎が出されるように祈りながら、わずかな天井の亀裂に魔法を放った。
「ファイアー」



　さあ、気づけ。存在に、気づけ。
りりりれり
2014年10月05日(日) 23時00分16秒 公開
■この作品の著作権はりりりれりさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんか長くなっちゃったなあ。全然関係ないですけど自分のホームページ作りたいけれどネット音痴でさっぱり出来ない…。シェゾ地味に活躍？
この作品の感想をお寄せください。
No.2  りりりれり  評価：--点  ■2014-10-06 21:18  ID:TvdnLK10luM
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ありがとうございます。次は多分、完結です！
No.1  華車　荵  評価：30点  ■2014-10-06 20:47  ID:xhjJGwmtVG.
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　きゃー！！アルルさん可愛い！！(*´Д`)ﾊｧﾊｧ
　そしてシェゾさんかっけぇぇぇぇぇ！！

　もうアルルさんのシェゾさんに対する想いが伝わってきて、独白一言一言にドキドキします。乙女ですね、めっちゃかわいいｖｖ
　シェゾさんも、悪態吐きながらも何気にアルルさん大事にしてるっぽい。
　気を失ったアルルさんを抱きかかえるシェゾさんが脳裏に浮かびましたｗｗ

　続き楽しみにしてます〜！
総レス数 2 　合計 30点

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