ナレソメ

ボクらの馴れ初めの話をしよう。





ボクの存在はいったい何者と言えばいいのだろうか。
それを考えるためにボクは旅に出た。
僕のオリジナルであるアルルにボクがボクとしてまた会いに行くために。

ドッペルゲンガー、鏡に映った存在、影…いろいろと呼び方はあるだろう。
優柔不断な神様によってボクはなんとも中途半端な存在だった。

もともとボクは自分の存在を確立させようと、自分の運命を決めようとボクはアルルに挑み、そして負けた。奪おうとしたボクを許しあまつさえボクに自分は自分だと教えてくれたアルルは確かシェゾとかいう闇の魔導師と恋仲であった。気がする。

いや、たまたまボクが作ったサーカスでは二人は少し険悪だっただけで確かに付き合っている。きっとアルルがボクに勝った理由の一つには大切に思う人間がいるということもあったんじゃないかと思っている。

ボクには寄り添うような相手はいない。だからおそらく弱いのだろう。寂しいとは思うがしかしそういった恋愛感情をボクはもてそうにない。だってボクは偽物なのだから。



そう思っていたのに。




旅を始めてすぐボクは壊れた遊園地と思われる場所についた。そこはなんだかさみしいのに落ちついて。しばらく何もないのにそこにとどまって空を見上げていた。何かよくわからないけれど涙がこみ上げて来て、普段は口に出さない寂しさを泣きながらに声にしてしまった。


「誰でもいい。オリジナルのようになりたいわけじゃないんだ。オリジナルの立場がほしいわけでもないんだ。全部じゃなくていい、ボクがほしいのは一人。オリジナルにとってのシェゾのように…。ボクじゃない誰か、ボクと一緒にいてくれる人…寂しいんだ。誰か…お願いだ…『ボク』を見つけて…。ボクの…隣にいて…。」

そしてボクはいつの間にか眠りに落ち、夢を見ていた。誰だかわからない。けれどもとても温かいものに抱き締められる夢だった。

そして目を覚ますと彼、ボクがオリジナルをもつようにシェゾのドッペルゲンガーであるディーシェが横に立っていた。思案顔でぶつぶつ「やはり普通におはよう、そんなにここはよく眠れるか?…か?いや、それではやはり・・・。」と何かを呟いていたようだったけれど眠りについていた僕が起きたのを感じてかこちらをむいて考え事ていたことをすべてほっぽり出して

「女の一人歩きでしかも無防備にこういったひらけた場所で寝るのはどうかと思うぞ。」

と言ったのがボクと彼の最初の会話だった。


「…キミには関係ないだろう。」
我ながらなかなかに愛想のない反応だったと思う。しかし彼はそんな態度を気にも留めずに、それどころか笑いだした。初対面なのに思い切り笑われるなんて…あぁ、腹が立つ。そんなことを考えていたら本気でふつふつと怒りがこみ上げて来てボクは怒鳴っていた。

「……何がおかしいんだい!!?」

おかしい。怒っている事は伝わったはずなのにいまだに肩を震わせ笑い続けている。なんだろう…この人はマゾヒストなのだろうか。あぁ、厄介な奴に捕まってしまった。ラグナロクでもかまして逃げ出そうか。そう思案しているとずっと笑っていた彼から声が聞こえた。


「くくっ…まぁそんなに気を悪くするな…泣きながら誰かともにいてほしい。そう願った人間の言葉とは思えないと思っただけだ…。」

「っ!!?なんでそれを…!?……ボクに声もかけず…目もそらさず見ていたのかい…悪趣味だよ。」

なにかで思い切り頭を揺さぶられた気分だった。そして気分は一気に急降下だ。ボクはそんないら立ちを押しやるべく先ほどまで見ていた夢はどんな夢だっただろう。ということを考えだした。

思えばなんだか幸せな夢を見ていた気がする。一人じゃないと。俺でよければ隣にいてやるから泣くなと。そう、言われた気がした。その声はひどく安心する声だった。

あぁ、なんだか元気が出てきた。…そう言えば夢の声は目の前にいる男のものとすごく酷似しているような気がするそう思った矢先、男は話かけてきた。

「その点に関しては悪いとは思っている、が、俺はその時人の形をとっていなくてな。言葉を発する口もそむけるための目もなかった。と、言ったらおまえは許すか?」

……言葉も出なかった。だって目の前には明らかに人間で、怒っているボクに対して饒舌にいいわけ?をしている上に赤く美しいボクを射抜くような眼があるというのになぜそんなことを信じなければならないのだろう。

「…キミは気が狂ってでもいるのかい?」

「いや、そうではなくてな…俺の名は…そうだな。元時空の水晶、現ドッペルゲンガーシェゾといったところか。そういうわけだ。第一俺は壊されていた上にそもそも石はしゃべらないからな。見るといっても自分の意志とは関係なく、認識してしまったのだからそれはもう見えてしまった。が正しいのだろう。これなら信用できるか?」

ほんの一瞬なるほど、と思ってしまった。でも時空の水晶なんて元は石だ。時空の水晶。己に触れた他者の魔力を吸い取り己の魔導力にする『すっごい魔法のアイテム』。しかし自我があると言うのは聞いたことがない。それでも…少し信じてはみたい。

「簡単には無理…かな。ボクは君という人間を知らない。それでも…キミはどうやらボクを心配してくれたみたいだ。少し信じてみようと思う。キミの言っていたことを本当だと見極めるためにボクはキミにその親切もついでに手伝ってほしいことがあるんだけど。」

ボクの言葉を聞いて彼はどこか安堵したような表情だった。

「予感がするんだ。キミとなら見つけられる気がする。ボクが一番わかりたい、そしてボク自身が一番わかっていないボク自身のこと。この止まったままの状態から抜け出せる。そんな気がする。だから…」

「言われなくとも、嫌がろうとも共に行こう。俺はそのために来たのだから。」





こんなことがボクらの出会いだ。

ともに行動することにしてからまず名前を考えた。ドッペルの頭文字Dとお互いのオリジナルの頭文字をとってボクはディーア、彼はディーシェと名乗る事にした。名前というのは大切で、あるだけでも自分とアルルが違うことが分かるし何より面倒事が減った。

自分だけでは気付けなかった面をディーシェが教えてくれた。

認めたくはないが『寂しがり屋』『照れ屋』などと言っていた気がする。

一度だけ、ボクはやはり一人なんじゃないかと。『ボク』はもうどこか遠くへ、行方知れずになっているんじゃないかと呟いたことがある。この時ディーシェはボクを抱きしめて

「お前が『行方知れず』になったなら俺が『探し人』になってやろう。絶対に見つけてやるから。だからそんな泣きそうな顔をするな。」

そう言っていた。ボクはその言葉がどうしても嬉しくて、やはり泣いてしまったけど。

この日、ボクらの関係がかわった。一緒にいる似ている存在であり気の置けない『仲間』から『恋人』へランクアップした。



あぁ、そろそろだろうか。きっと彼が探しに来るはずだ。
ボクは今一人で町はずれの小高い丘にはえている木の上に座ってぼんやりとしている。ここは見晴らしがいいから迎えに来る彼のこともよく見えそうだ。それに人間は下ばかり見て上は見ないから見つかりにくいというのもある。そこが面白いところだ。

彼が本当にボクを見つけられるのか。
それを試したくてたまに彼の傍から突然いなくなりどこかに隠れることをする。
きっと周囲から見たらかくれんぼみたいなものと認識されているに違いない。
ふふっ…とつい含み笑いをしていると下から声が聞こえてきた。

今日もまた、キミはボクを見つけてくれた。


「探したぞ、ディーア」

「見つかっちゃったかい…?ふふっ…キミはだんだんボクを見つけるのが早くなっているみたいだね。前はもっと遅かったのに。」

「さすがに慣れるからな。だがお前がいないの違和感があるというか…物足りん。とりあえず、降りてこい。」

あぁ…ボク専属の探し人は何て気障なんだろう。というより腕を広げているということはつまり飛び込んで来いということなのかな。

「ボクは『行方知れず』だからね。…それは飛び込んで来い。という意味であっているのかな?」

言葉がいい終わると同時にボクは木から飛び降りた。寸分たがわず彼の広げられた腕の中へのダイブは成功した。
少しよろめいてはいたがまぁ勢いが多少つきつつ人が飛び込んできたらそうなるのは当然だ。この形はなかなかにしっかりと抱きしめられる形になる。口にはしないがボクはこの感じがとても好きだ。そんなことを考えているとディーシェは口を開いて話し始めた。

「ふっ…偶にはお前も『探し人』の気持ちを味わってみるか?まぁ間違っていないし正しいがそういうものは飛び込む前に聞くものだと俺は思っていた。」

「遠慮するよ。ボクはあくまでも見つけられたいんだ。キミに、ね。そうは言いつつちゃんとボクを抱きとめたんだからこうなる事を予想していたんじゃないのかい?」

そう言われたら俺の負けだ。
と呟いて帰るぞ。と抱きしめた状態から手をはなし手を差し出した。

「帰っている途中でいなくなられてはこちらもたまらん」

肩をすくめながら目を伏せて笑いながら呟いた言葉にボクはつい

「適当なところでもう一度『行方知れず』になって見つけ出してもらおうと思ったのに…ずるいな。」

と思ってもいない反論を口に出す。手をつないで帰る、だなんて甘美なお誘いをボクは無碍にはできない。

「何がずるいか。そんなこと思ってもいないくせに…あぁ、手が嫌なら別に『オヒメサマだっこ』だって構わんぞ?」

「それは勘弁して…恥ずかしいから。」

すっかり赤くなってしまった顔でくつくつと笑うディーシェの手をとりつつ歩き出すとディーシェはとんでもない爆弾をほうり投げてきた。

「家ではいつもそうだろう?」

「家は家!!外は外!!しかもソファーで座っているときのことじゃないか!というかキミ、わかってて言ってるだろう?!」

実際は彼がなかなかはなさないからそうなっているわけで。ボクも恥ずかしくはあるけど別に家に誰かが訪ねてくるわけでもないし嬉しいからその状態でいるわけではあるのだけど。

帰路についてしばらくしたときになんとなしに小さな声でぼそりと「好きだよ。」と呟いていたのを聞きもらさず「俺もだ。」と返してくれた彼の声にひとつ、鼓動が速くなったことにボクは小さな幸せを感じた。
宮池
2013年10月08日(火) 00時23分39秒 公開
■この作品の著作権は宮池さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
分かりにくい終わりでごめんなさい。orz

ここまで読んでくれてありがとうございました!!

でも友人が言ってました『オチなんてそこで止めればオチなんだよ(ドヤァ』その心意気に乗ってみました。楽しかった…。

ちなみに某曲っていうのはGUMIちゃんの『ユクエシレズ』って曲です。わかる人すぐわかる仕様。




【宣伝】おまけ的な感じでディーシェさん目線も書こうと思っているのでよろしければそちらも見てくださいな!!


まだできてないけど。

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No.2  pt 78  評価:50点  ■2013-11-01 18:17  ID:BQAkycmOfIM
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このお話でユクエシレズをしりました!!とても良い曲ですね!それにとても心が暖まるお話でした!
No.1  華車 荵  評価:--点  ■2013-10-08 00:36  ID:UaLiuv04alE
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 Twitterでお世話になっている宮池さんから頂きました! DシェDアルの馴れ初め話です(゚∀゚)
 余裕たっぷりで格好いいディーシェさんとツンでデレな可愛いディーアさんに惚れ惚れしたのでおねだりして貰ってきてしまいました(〃▽〃)ゞ
 ドッペルズの馴れ初め話ってなかなかないので嬉しいですねv(*´ω`*)
総レス数 2  合計 50

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