小さな駆け引き

 勉強を教えてもらっていたらだんだん疲れて来たので、息抜きにからかってみようと思い立った。
 振り返ると青い切れ長と目が合う。
「ねぇねぇ、シェゾ。キスしていい?」
「は?」
「キス」
 見つめる先で固まった彼。次に口を開く時は怒鳴られるか嫌味を言われるか、だと思っていたが。
「……今は駄目だ。勉強中だろうが」
「お勉強中以外ならいいの?」
 意外な答え。
 訊ねると、眉を寄せチラチラとアルルを見たあと、目を逸らして答える。
「言わなければわからないのか」
「……(いいんだ……)」
 予想外の反応に面食らう。

――数時間後。

 お茶飲みながらくつろいでいるとシェゾが来た。
「おい」
 落ち着かない様子で声をかけてくる。
「ん? どうしたの、シェゾ」
 もう一つティーカップを用意しながらアルルは答える。
「さっきの話だが」
「さっき?」
「……」
 見ると、シェゾは口ごもって目が泳を泳がせていた。
 ティーポットを置く。コトンという音を合図のように、
「さっきキスがどうとか言ってただろう」

 思わず動きを止めてしまった。
 動揺を隠して紅茶を差し出す。
「冷やかしか」
 それはそうだよ。
 出かかった言葉を飲み込む。
 悟られないように、こっそりと息を吐いた。
「シェゾは、」
 肘を付いて顎を支える手に汗を握る。
「どんなキスが好みなの?」
 これ見よがしに。そう装って真っ直ぐ見上げてやった。
 流石に答えられなかったらしい。狼狽えて身を引く銀髪蒼眼。
「シェゾってさ、結構可愛いところあるよね」
 ようやく息を吐いて腕を絡める。

「……なんなんだよ、ったく」
 頭を掻きながら隣に座るシェゾ。

 ――こっちのセリフだよ。

 アルルは心の中で一人ごちた。
華車 荵
2015年08月15日(土) 04時28分24秒 公開
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