おえかき

 傾き始めた陽の光が、眩しく降り注ぐお昼過ぎ。
 昼食後、休んでおけと言い置いて片付けを済ませ、戻ってみると彼女が居ない。そして家の中には自分一人以外の気配はなく。
 眉をひそめる。
「…………」
 他の仕事をしているのかと外へ出てみると、庭の隅に彼女は居た。
 木漏れ日の中座り込んで、膝に置いた板に向かいながら手を動かしている。
 溜息一つ。近付けば、さくさくと草を践む音に気付いて見上げてきた。
「何をしているんだ、ディーア」
「ん、」
 これ、と言うように戻した視線を追う。
 板には白い画用紙。握られた筆。
「絵? カーバンクルか?」
 よく見れば反対側には具材が転がっている。
 描かれた良く解らないものの形と色から推測すると、苦い笑いを浮かべる。
「結構難しいものだね。カーバンクルなら簡単に描けるかな、って思ったんだけど」
「そう言えば絵なんて書いているところ見たことないな。どうしてまた?」
「アルルが結構上手なんだよね。簡単にさっさと描いた感じのとか」
「真似っこか?」
「描けたら楽しいだろうな、と思って」
 現役学生魔導師は複雑な図形などもよく描かされる。その為必然的に上手くなるのだろう。
 そう考えながら彼女の膝からキャンバスを取り上げ隣に座る。
 不思議そうな顔で覗き込んできた。
 画用紙のまだ白い場所に筆を走らせる。

 さわさわと流れる風が銀をゆらす。

「ほら、出来たぞ」
 キャンバスを彼女に向けると目をまん丸く。
 手を伸ばして受け取り、
「……じょうず」
 目を輝かせて呟いた。
 その顔を上げたり下げたり、キャンバスと描き手を交互に見て来る。
「俺も最初は下手だったが。色んな仕事をしていると描くことも多くてな。割と描けるようになった」
 その顔を見ただけでも少し得した気分だった。
「じゃぁさ、」
「ん?」
「描き方、教えてくれないかい?」
 いや、かなり得した気分だった。
「あぁ、いいぞ」
 首を傾げて覗き込む彼女に承諾すると、ぱぁっと無邪気に喜ぶ。
 慣れたとはいえ、落ち着いて大人びていると定評のある彼女がこんな子どもっぽい姿を見せてくれるのが嬉しい。
 だがこういう時に少し意地悪をしたくなるのが男心――まぁ今は男だ――というものだ。
「その代わりちゃんと礼はしてくれるんだろうな? ディーア」
 ニヤリと笑うと、うっと声を漏らして退いた後、頬を赤らめてもじもじと指を弄る。
 そして上目遣い。
「……愛してる、って言ったら満足?」


 その後、調子に乗った変態水晶がラグナロクを喰らって吹っ飛んだのは言うまでもない。
華車 荵
2015年08月15日(土) 03時47分54秒 公開
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No.2  華車 荵  評価:--点  ■2015-08-16 22:18  ID:eJLaGfBmCU2
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 (∩´∀`)∩ワーイ 彗ちゃん感想ありがとう!
 そうそう、不安と安堵からですご名答♡
 うひひひひwさてどちらでしょう、妄想してみてね!←
 ディーアさん、きっとディーシェさんに手取り足取り教えてもらって上手になれたんじゃないかなぁと思います(笑)
 感想ありがとうね!
No.1  彗  評価:50点  ■2015-08-15 21:19  ID:94JWY1IrN4A
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うぁぁぁぁっ!!可愛い!最高に可愛い!!(*´▽`*)
あれだよね!顔をしかめたのはいないことに少し不安を覚えて、溜息は良かった、居た。っていう安堵からなんだよね!多分!
調子に乗ったってことはもっと要求したのかそれとも自分からもっと貰いに行ってテレギレされたのか…。
お絵描きディーアさんは上手くなれたのかな?可愛かったです!ありがとうございます!!!
総レス数 2  合計 50

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