紅い月5
 もうなんだかな、と思う。もう空は見事なだいだい色で、ボクは泣き腫らした目で家のドアを見つめていた。
 チャイムの音がこだまする。いや、実際に鳴っていたりもするのだ。それはもう一時間半前からのことで。ルルーがえんえんとチャイムを鳴らし、サタンはそれをそろそろ止めようと説得しようとしているようで。しかし、当然のようにピンポンラリーは止まらず。

 そもそも、ボクが開けようとしないからいけないんだけど。ホント、御昼の2時からずっとボクは外に出ていないのだ。まあ、そこまで心配する事じゃ、ないけど。でもどうしてルルーがチャイムを押す手を止めないのかと言えば、それは家に駆け込むボクが泣いていたから、否、ルルーに泣くところを見られたボクが家に駆け込んだからで。そう、みんなみんな心配性だよ。たかが、ボクが泣いただけで。ボクが泣いた、だけで…。



 もう全部シェゾのせいだ。うそうそ、勘違いしてたボクはもっと悪いよ。キミはいつもの、キミにとっては普段の態度をとっていただけなんだから。少し前の態度の方が特殊だったんだから。でも、いきなりなんて酷いよね、あんな、あんなにも冷たい目で、ボクを見なくても良いじゃないか。あんなに、怖い声で、ボクと話さなくても良いじゃないか…。

 でもそれで、泣いちゃうようなボクも弱虫だよね。分かってるよ…。ああ、もうボクは馬鹿みたいにキミの名前をしゃくりあげながら吐いて、吐いて、吐いて、一体何を望んでいるんだろうね。キミからしたら、ボクはただの…もういいや、これを自分で言うには悲しすぎる、悲しすぎるんだ。




 いつの間にかチャイムの音は消えていた。





 そんな風にもうかなりネガティブ思考に入っているボクの耳にも、彼女の声は、しっかりと届いた。
「どうしたの、二人とも」
その声は、そう、ディーアで。まさかディーアが来るなんて思っていなかったから。

 「アルルが最近元気がないから女王特製激辛カレースペシャルバージョンを作って持ってきてあげたのに結界が張ってあって中に入れもしないのよ!」
ボク、元気がないように思われてたんだ。まあ、そうかもしれない。最近、ずっとシェゾがなんだか冷たい事ばかり考えていたから。確かにボクらしくなかったかもしれない。…やっぱり、他のみんなにもそう思われてたのかな。みんなに心配かけちゃったかな。ちょっと悲しくなる。
「えー、そうなの?」

 「ワタシはカーバンクルちゃんを家に帰そうとしているのだが」
ごめんね、カーくん。さらに悲しくなる。
「でも、サタンは結界破れるでしょ?」
「わざわざ張ってあるくらい閉じこもりたいと思っているということだ。ワタシでもチャイムを10000回無視された事はあるが結界を張られたことは一度もない」
なんだかもう、そう言えばそうだったっていうのとサタンにまで気を使わせちゃってたのとサタンの無駄な過去の武勇伝に本当に泣かされそうだ。ああもう、なんて今日はボクらしくないんだろうな。


 「で、開けてないんだね」
「私だって家の中にづかづか入りたくはないわよ! だからこうやってチャイムラリーしてるのよ! おーっほっほっほ」
「わあ、ルルー。それ壊れてるよ」
「何ですって!」
「ワタシが見た感じだと一時間前に壊れていたのだが」
通りでチャイムラリーが止まった訳だ…。
「え…一時間前からいたの?」
「三時間前」
「いつまで待つつもり?」
「そりゃ、アルルの家の食料が尽きるまでよ」
…。ごめん買い物行ってきたばかりなんだけど。

 ばいばい、と言ってディーアが帰って行った。作ったらしいクッキーはルルーに預けていった。そうして。





 「ルルー、いい加減もう帰るしかない。ずっとまっていてもきっとストレスだろう」
「でも…!」
「もう四時間近く経っているのだ、ルルーまた明日、此処にこよう」
「…そうですわね、サタン様。明日ならアルルもきっとドアを開けるわ」



 そう、流石の二人もついに諦めてしまった。急に静まり返った家で、なんだか少し心細くなってしまった。もう、なんだか…。







 「シェゾの家に行こう…、話を聞いて、説得するんだ。確かにあの感じじゃあ、すぐには話なんて出来るわけではないだろうけど、でも行かなきゃ! 勝てば話を聞いてくれるはず…」
こんな甘い考えでいいのか、と思ったりもするけど、行動しなきゃなにも始まらないから、ボクは。









 ディーシェが帰った。ああ、嫌な予感しかしない。アイツの性格だ、俺の家にやってくるのも時間の問題だろう。のろのろと寝床から起き上がると、闇の剣を手に取り、ドアノブに手をかけた。



 チャイムが鳴った。



 どうしてこうもタイミング悪くこうなるのか。全く俺には分からない。
「シェゾ、開けて。お願い」
「……」
また居留守でも使うか? …今更何を。コイツをさっさと殺し、魔力を吸収するのが俺の望みではないのか。何故居留守を使う必要がある?
「開けて!」
ああ、そこに感じるのは黄金の魔力。完璧な獲物が俺の目の前にいるというのに。何故動こうとしないのだ。


 「何の用だ」
「ともかく開けてよ! 一体ボクが何をしたっていうの?」
「そんなに殺されたいのか?」
「違う! キミと話がしたいのっ!」
馬鹿な事を言うやつだ。
「次会ったら容赦なくと言っただろう」
「だからそれに勝ったらボクと話をしてくれるんでしょ! 今まで通り! というかそんなことせずにホントは話がしたいんだけどね! キミくらいなら論破できるし!」
「ふん、これが俺の今まで通りだが?」
「…っ!」




 「そんなに相手をしてほしいなら、やってやろうか?」
「それしかキミと話す道が無いのなら、やるしかないでしょ?」
ああ、この女はいつもいつもいつも…さっさと俺の目の前から消えればいいものを。





「外に出るから二十秒待て。俺も二十秒間はなにもしない」
「へんなところで律義だね! 闇の魔導師さん!」
それは、午後7時25分のことだった。









 六時半の鐘が鳴るころ、俺はディーアを連れてサタンの城へ出向いた。
「ディーシェ、なんでいきなりキミがサタンの城に行くとか言い出すのか、ボクにはさっぱり分からないんだけど」
「良いからついてこい」
…ディーアは全くもって分かっていないようだ。
「ディーシェ、何で」
「オリジナルたちの事だ」
「…?」
ディーアの頭に?マークが浮かんでいるのが嫌でも分かる。が、行く理由を細かく言う時間はない。早くサタンのところへ行かなくてはならん。





 「…どうした、ドッペルズ」
「全く、分かっているくせにとぼけるな」
「ああ、アルルが家を出たぞ。もうすっかり暗いというのに」
「サタン様! 追いかけましょうよ」
「待て待て、そう焦るなルルー、まだそろってない」
「…そろってない?」
首をかしげる3人に、二つの影が見えてきた。

 「あら、ウィッチとラグナスじゃない!」


 そんな3人に、サタンは1人楽しそうな顔をしていた。


                         続く
りりりれり
2014年10月31日(金) 19時06分00秒 公開
■この作品の著作権はりりりれりさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
無理矢理ではありません。ウィッチとラグナスを登場させたのは無理矢理じゃないんです!!!
まだなにも喋ってないですがね…。
次で完結です。

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No.1  華車 荵  評価:30点  ■2014-11-01 22:25  ID:93R27tvt5go
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 五話目お疲れ様です!! こんな風につながるんですね。
 おお、次で完結ですか!? 楽しみですvv
 アルルとシェゾはどうなるのか。サタンさまは何を考えているのか。
 完結編楽しみにしてます!!
総レス数 1  合計 30

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