紅い月4
 最近シェゾがおかしいのには気が付いていたんだ。全く勝負を仕掛けてこなくなったどころか、ほとんど会わなくなっていた。まあ、あの魔導士のこと、なにかまた何処かにこもって研究でもしているんじゃあないかと思っていた。ただ、そんな風に。

 ボクが彼に監禁された時にも、なにか実験でもしていたようだったし、別段会う時に、否、近くを通り過ぎる時に見た、あの険しい顔だって何か考えごとをしているのだと思っていた。それが過ぎ去ればまた、勝負を吹っかけてきてボクが勝って何か頼みごとをするとか、一緒にダンジョン攻略をするとか、そういうことができると思っていた。そう、彼がいう「馴れ合い」ができると。


 でも…それは違ったんだ。ボクの勘違いだったんだ。昨日彼に会った時の眼を思い出す。凄く冷たかった、何かが痛かった。通りかかっただけだけど。彼の眼は確かにボクを…。ううん、違う。そうじゃない。多分シェゾはたまたま機嫌が悪かっただけなんだよ、アイツすぐ機嫌悪くなるから。そう笑って見せてもあの冷たい瞳の印象は消えない。



 「あーもう! こんなのボクらしくないよねカー君! 冷蔵庫も空っぽだし市場に買いに行こうっと」
「ぐっぐぐー!」
「カー君はサタンのところで御留守番していてね。流石に市場の品物食べられちゃたまったもんじゃないからさー」
「ぐっぐぐー…」



 今日の晩御飯は何にしよう、そうだ、ビーフカレーにしよう!昨日は野菜カレーの残り物だったからね。うん、決定。









 「はー、全部買い終わったー」
カー君が盛りだくさん食べるから、荷物が重くてしょうがない。あー、疲れた。家の半径50mまでしか空間転移ができないという、技量の無さにはあきれるねー。火事場の馬鹿力は出せるのに…。



 思考が止まった。呼吸も止まった。



 シェゾが、いる。そこに、懐かしい恰好で。
 今しかない。


 「あ、シェゾー。懐かしいね、その格好。白服は白服でもこれはずっと前に見ただけだったから…」



 少し、声が震えてしまったかもしれない。その、返答は。



 「…アレイアード・スペシャル」



 「うわあ! 危ないなあ、いきなり! 何でよ!」
ウソ、でしょ? 何でこうなるんだろう? シェゾこんな卑怯な手を、一度も使ったことなんてないのにな。なんで…。


 
 「…お前はよく覚えておいたほうがいい、所詮お前は、俺の獲だ」
「何言ってるんだよ! 今更! 何で怒ってるの?」
そうだよ、何を今更! ボクとキミは仲間でしょう?
「次会った時は、容赦なく、殺すぞ」
「え、待って、なんで、何でよシェゾ! いきなり急にどうしたんだよシェゾぉ! ねぇ、ちょっと待ってって。いやだちょっと!」
行かないで、行かないでよ急に! ねえキミは何だっていうのさ! 何週間もボクを避けて、今まで散々ストーカーしてきた癖に避けて、キミは何がしたいのさ! それをボクに言うためだけに来たの? そりゃないよシェゾ。なんで、なんでそんな話に急になってしまうの…。キミとボクは、仲間じゃなかったの? …やっぱり、ボクはキミの「魔力の器」でしかないの?



 もうなんか、それを考えている間に悲しくなってしまって、空間転移で帰った訳でもなく、何故か早足で去っていく彼を追いかける気力もなくなっていた。もう、いやだ。



 とぼとぼと家路を歩く。ぽろぽろと涙が流れる。誰にも見られてないかな。ボクが泣いてるなんて誰かが知ったら、心配症のみんながすっ飛んできちゃうよ。でもさ、ボクだって1人で泣きたいときもあるんだ。というか、泣くときは1人で泣きたいんだ。だから。



 「あら、アルルじゃない。…え、泣いてる? ど、どうしたのよアルル!」
あーあ、見つかっちゃった。ルルーに。一番見つかりたくなかったのに。早足で駆け抜ける。どうせ家までほんの少しだし。
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ…! …あれはマジだったわね」


 ルルー、ごめん。それと、
「カー君…。ごめんね、ごめんね…」
サタンの城に置いてきぼりにしてしまっていたが、もうつれて帰る元気もなかった。何でだろう、シェゾじゃなきゃ、此処まで落ち込まないのに。


 つらい、本当につらい。何でこんなにつらいんだろう。悲しいよ、胸が痛くて堪らないよ。何で、なんで、キミは、さ。他のみんなとは、最初こそ大変だったけどもう仲良くなれたのにさ。ディーアとだって、仲良くなれたのにさ。何で一番、誰よりも最初に会った、シェゾ、キミとは仲間になれないんだろうね。ねえ、ボクはキミが分からないよ。なんで、そんな、友達になるのを嫌がるのさ。分かんないよ、ボクはただの魔力の器でしかないの? 魔力が無くなったらキミは、キミはきっとボクなんてどうでもいいんでしょう? 酷いよ、酷いよね。あまりにも理不尽すぎてもうやっていられないよ。…もう、もう何だっていうのさ! 


 声に出して泣いた。激しくむせび泣いた。泣いた。瞼がジンジンと痛むのが止まらないくらい泣いた。それでも、胸の痛みはとれない。




 あの時の瞳と、さっきの声が重なる。冷たい、凍るような…。心の底から冷え切るような瞳と声が、怖い。目を閉じても、耳をふさいでも、襲ってくる。冷たくて、凍るような…もういいよ、止めてよ、静かにしてよ。
 次会った時には殺されちゃうんでしょう…。じゃあ、仕方がないから…。




                            続く



りりりれり
http://yakotonoshosai.blogspot.jp/
2014年10月27日(月) 00時12分46秒 公開
■この作品の著作権はりりりれりさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 試験だとかわーわー騒いでいた割に、わりと早く済んでしまいました。なんだよコイツ、は禁句です…。
 今回は、急に変わってしまったシェゾの態度に戸惑い、悲しくなってしまうアルルさんです。彼女は強いはずですが、やっぱり女の子だから…と、思い、若干キャラ崩れています。ちなみに御気づきでしょうがシェゾの服はPC98−01のものです。シェゾさんが早足で帰ったのは、本当は引きとめて欲しいという感情が無意識に出てしまったものです。
そして、ついにブログを作成。貧弱な頭をひねくりまわした結果こうなりました…。

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No.2  りりりれり  評価:--点  ■2014-10-29 18:19  ID:TvdnLK10luM
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ありがとうございます。シェゾさんもアルルさんも均衡が崩れたせいでかなり病んでます。

取りあえず、ブログのほうには魔導に関する独り言やら、絵も乗っけております。それでは続きを書いてきます!
No.1  華車 荵  評価:30点  ■2014-10-28 02:32  ID:93R27tvt5go
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 説明コメントwww
 ほんと、シェゾさん女の子泣かしちゃだめでしょ!!(笑)

 アルルさんも弱い部分はあると思うのでそんなに崩壊はしていないかと。
 PC−98板2ですかね? それは確かに懐かしいです(笑)
(そう言えばMSX2版とPC98版ってデザイン違ってたかな? 復刻版でじっくり見てみたいですね)

 おお、ブログ作成したんですね! お疲れ様です!
総レス数 2  合計 30

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