旅の始まり |
あの人は今何処に居るのだろう。 壮大なような、小さいような。 そんな冒険から一夜が明けた。 朝日が遠く赤く、まだ仄暗い空を徐々に、徐々に白く染め上げていくのを、窓辺に腰掛けたまま頬杖をついて眺めていた。 胸の奥が苦しくざわつく。嘆息。 眠ったのは数刻ほどで、確かに疲れていたはずなのに目が冴えて眠れない。 それどころか、触れていた肌は火照り、鼓動は高鳴るばかり。 ――あの人は今、何処に居るのだろう。 遠い赤に見つめた瞳を重ねては思いを巡らせる。 出会ったのも別れたのもほんの数時間前。それなのにこんなにも心を捕らえて離さない。 瞼を閉じればあの優しい笑顔が蘇る。 人ではないと直ぐに解った。それでもいい。もう一度会いたい。名前を呼んで欲しい。 「サタンさま……」 今までにない欲求が胸を満たし弾かれたように動き出す。床へ降り、早足でクローゼットへ向かい戸を開けた。 動きやすい服を選んで引っ張り出す。 着替えを済ませ、適当な荷物をバッグに詰め込んだ。 不安か期待か、お腹の奥が疼く。 と、コンコンと扉を叩く音。 「お嬢様? ルルーお嬢様、起きていらっしゃいますか?」 外を見ればさっきよりも明るい陽の光。 聞き慣れた侍女の声に、思わず返事をしかけた唇をつぐんで、 「…………」 バッグを腕に引っかけて、音を立てないように、急ぎ足で窓へと近付く。 格闘技の修行を積み、女性にしては驚くほどタフな自分の身体が有り難かった。 幼い頃は周りにある道具を駆使して部屋を抜け出したものだが、多分今はそれさえも必要ない。 窓をまたぎ階下の屋根に降り立って、体を滑らせるように渡り行く。眼下には青々とした庭。呼吸を整えて再度心を決めて、 そして地面を目差して飛び降りた。 どれくらい走っただろう。きっと今頃屋敷は大騒ぎだろうな。 そう思いつつ朝焼け輝く地平線を見つめる。 振り返れば街の入り口は遠くに小さく。しかし戻れない距離ではない。 が、彼女は構わず前を向いた。 どこか懐かしい気配。小さい頃に感じたような。 それが何故か、あの人と見つめ合った、ほんの数時間前の記憶と重なる。 一層胸が高鳴るのを感じて彼女は頬を綻ばせた。 旅のしかたなど知らない。 何が起るか解らない。 それでも、目差すものは一つで迷いなどない。 彼女は一つ深呼吸、そして歩き出す。 あの人が飛び去った筈の、日の昇る方角へ。 |
華車 荵
2014年10月19日(日) 12時32分51秒 公開 ■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 華車 荵 評価:--点 ■2014-10-21 13:27 ID:93R27tvt5go | |||||
感想ありがとうございます! そうです、出会った時のあと!! ルルーさん、行動力はめっちゃありそうだなと思います。これから二年間、サタンさまを追いかけ続けて、アルルとも出会うんですよね。 ルルーさんが幸せになりますように(*´∀`*) |
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No.1 りりりれり 評価:30点 ■2014-10-19 21:51 ID:TvdnLK10luM | |||||
おお! あれですね、出会ったときの後! そういえばお嬢様だからすぐには抜けだせないのかあ…。私だったら頭が回りません! なんか決心が此処まで伝わってくる…。凄い。 |
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総レス数 2 合計 30点 |
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