Blood moon |
見るは血、血、血。紅い血。月夜なはずの空に、穏やかな金色の月は無い。あるのは殺伐とした赤銅色の血塗れに塗れた火星のような錆びた月。 二人の魔導士は、向き合い、血にまみれ、そこにいた。息は荒く、張り詰めた時間が刻々と過ぎる。さあ、一体どのくらい過ぎたのか。 「ボクはキミと戦いたくはなかったよ」 そう言いながら、片方の魔導士は構えを解くどころか、少しずつ魔力を己の身体に重ねていく。強く、儚く、そう言った。 「俺はお前の魔力を奪う。ただそれだけだ」 そう言い、もう片方の魔導士は呪文を詠唱し始め、少しずつ相手への集中力を極限まで高める。静かに、冷たく、そう吐いた。 「アレイアード・スペシャル」 轟音が響いた。地面が割れた。木が根こそぎ倒れた。少女の魔導士はこれまでの傷で、避けるのが少し遅れる。肩が、左肩から、酷く血が流れ出していた。大きく切り裂かれた傷は少女が受けるには余りにも痛々しく、残酷だった。 青年の瞳は揺れた。心が揺さぶられた。身体が強張った。口は引き攣った。 しかし少女は諦めなかった。激しい痛みに耐えかねて、その場にしゃがみこむような人間ではなかった。 知っていた。そういう人間だと青年は知っていた。目の前にいるようで遠い、彼が知らない光をもっている少女がそういう人間だ、と。妬ましかったのか、憎かったのか、消してしまいたかったのか、欲しかったのか。青年は知らなかった。自分の感情が分からなかった。 青年は近づいた。自らの敵に。青年は近づいた。それが危険なことだと痛いほど分かっていた。 少女は見つめていた。自らの敵に。少女は見つめていた。それが諦めないということだと思っていた。 「とどめでも刺すの? 今ボクはキミに攻撃をいつくらわそうかと考えているんだけど。それ以上近づかないでよ。ボクは剣に刺殺されたくないし」 「黙れ」 「じゅげむ!」 「アレイアード・スペシャル」 そしてまた轟音、爆風。 勝者はどちらでもない。まだ、決着はついていなかった。しかし。 もう両者とも魔力はなかった。この時点で圧倒的有利なのは青年の魔導士の方だった。青年は近づくのをやめない。少女の大量出血は止まらず少しずつ生気が無くなってきた。 「殺されたいか」 「嫌に決まっているでしょ」 「奪われたいか」 「嫌に決まっているでしょ!」 「お前はなにも変わらないな。光は確かということか」 「キミはいろいろ変わりすぎだよ。一体何を考えているのか知りたいね、闇の魔導士さん」 「痛くないのか」 「キミが付けた傷のくせに。激痛で死にそうだ」 「…じゃあ死ね」 「とどめを刺して殺すことなんてできない癖に」 この後、何が起きるかなんて誰も知らない。 |
りりりれり
2014年10月08日(水) 20時23分52秒 公開 ■この作品の著作権はりりりれりさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.2 りりりれり 評価:--点 ■2014-10-11 00:15 ID:TvdnLK10luM | |||||
感想ありがとうございます。 そして感想を見た瞬間りりりれりは思った「そうだ、続きを書こう」。 死にネタにはせずに状況をしっかり良く分かっていそうなキャラに話してもらおうとおもいます。何故かどうしてもこのままで終わらせられない性格…、後味悪いのどうもダメな人間です。 |
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No.1 華車 荵 評価:30点 ■2014-10-08 21:53 ID:xhjJGwmtVG. | |||||
うわ、ダーク。なんでこうなったのか、この後どうなったのか物凄く知りたいです! 仲間たちには止められなかったのかなぁ……。この時の彼の考え方とか知りたいですね。あの日常を棄てるのは彼なりに辛かっただろうし、そうまでして成し遂げたいものがあったのだとしたらそれが何なのか。 続きは……死にネタだと辛すぎるのでこのままでもいいかもとちょっと思います(汗) |
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総レス数 2 合計 30点 |
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