スローワルツ 前篇
 「お前が欲しい」
「またヘンタイかー。ボクの魔力はあげないっていってるでしょ」



 それがこんな状況になっているのは、間違いなくアイツのせいだ。なぜ、何故この闇の魔導士の俺が、モーニングなんぞを着て、ここに立っていなければならんのだ。絶対におかしい…。まあ、ここには食い物だけは完璧だ。アルルとの勝負に負けて、カーバンクルの食費を出さなければいけなかったから、大したものをここのところ食ってはいなかった。ある意味幸運といえば幸運か。しかし、なんだ、この状況は。


 「まーたキミが負けたね、うーん、じゃ、荷物持ち頼もうかな」
「くそっ! どうしていつもいつも…」
「あら、ちんちくりんとヘンタイじゃない、いつも通り仲がいいわね」
「ボクはちんちくりんじゃないし、シェゾが勝手に勝負を持ちかけてきたんだってば!」
「俺を…ヘンタイ呼ばわりするな」
「まあいいわ。それより、あんたたちに話があるの」
「え?」
「は?」


 「えええええええええええええええ!? ぶ、舞踏会?」
「なんでそんなのに俺が行かなければならないのか」
「感謝しなさいよ。ちょうど急にキャンセルが男女1人ずつ出て、食事の関係上数合わせが必要なのよ」
「えええええええええ、そんな急に言われても…」
「なぜ頼んでもいないのに」
痛えッ! ルルーの奴、蹴りいれやがった。
「ルルーならサタンつれていけばいいだろ」
「サタン様にそんなこと言える訳ないでしょう?」
「だからなんで俺が…」
「その辺にいたからよ」
「……」
ただえさえ魔力も回復していないのに、これ以上蹴りを入れられてはたまらない。どうやら、行かなくてはならないようだ。

 「ででで、でも、ボク、ドレスなんて持っていないよ!?」
「衣装その他もろもろは私が用意しておくわ」
「ダンスも踊れないよ?」
「え、ダンスはレディのたしなみって…まあお子さまアルルには分からないわよねえ」
「うー、そこまで言わなくてもっ!」
「ヘンタイは踊れるのかしら?」
「ヘンタイではないと何度言えばわかる…! ともかく、まあ踊れるが」
「えー、シェゾも踊れるの―」
「あたりまえだ」
小さい頃、乳母兼教育係に教えさせられた覚えがある。さっさとおわらせたかったから、ある意味真剣にやっていた気がする。
「ああもう、どうしよう」
「明日の昼出発するから、準備したら猛練習よ、アルル」
「お願いします…、ちょっと不安だなあ」
「あんたも準備しなさいよ、昼まで寝ていたら探し出して女王乱舞くらわせるわよ」
どうもしらばっくれることは許されないらしい。面倒なことになってしまったものだ。どうしてくれるのだ。全く。


 「アルル、しっかり覚えなさいよ…」
脳筋がなんか言っている。なんて気分の悪い。帰ることにしよう。



 なんていう流れだったか。そういえば、アルルの姿がまだ見えない。全く、なんで女というものは、着替えにあんなに時間がかかるのだろう。



 「ごめん、おまたせシェゾ」
「遅かったぞ。というか脳筋は何処行った」
「え、ルルー?なんか、挨拶に行ったらしいよ。取引先がどうのこうのって」
「…そういやあいつはあれでもお嬢様だったな」
「あ、そういえばさ、シェゾってなんで踊れるの?」
「昔、習わされただけだ。大した理由などではない」
「ふーん」
 なんだコイツは。そんなこと知ってどうするというのだ。
「あのさ、その、似合わないかな」
「は?」
「この恰好じゃ似合わないかな」
似合っている、という言葉がこぼれそうになるが、へんなプライドが邪魔をする。
「馬子にも衣装だな」
「まったく、酷いこというよね。キミは」
「お前は結構嫌な奴だがな」
「最近は努力して毒舌吐かないようにはしてるんだけど」
「毒舌とは少し違う」
「あっそう」


 何だコイツは。というかこの言葉何度目だ。


 「あ、ルルーがあいさつしてる! 普段から考えられないような…しとやかさ、だね」
「まあ、そうだな」


 脳筋の挨拶が終わり、開会の刻がせまる。そろそろ音楽でも流れるのだろうか。ふむ、プログラムを見ると、どこか遠い国のワルツや、ポルカ、なんだかいろいろな種類の音楽がずらりと並んでいる。しまいには俺にも踊り方がさっぱり分からないような曲まである。


 「あー、シェゾシェゾ、この曲なんていうの?」
「これか?これは子犬のワルツだな」
「こんなの速くて踊れないよ」
「まああまり踊るのに適してはいないだろうな」
「じゃあさ、なんかボクにも踊れそうなの、ある?」
「…ちょっと待てよ、いま探している」







 あった。これならアルルも踊れるだろうし、ちょっとした悪戯もできる。
「おい、これだ」
「なんて読むの?」
「ジュ トゥ ヴ だ」
「???」
「訳してやろうか?」
「うん、お願い」







「お前が欲しい」
















りりりれり
2014年09月10日(水) 21時52分39秒 公開
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No.2  りりりれり  評価:--点  ■2014-09-18 19:41  ID:TvdnLK10luM
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ありがとうございます。
No.1  華車荵  評価:--点  ■2014-09-14 11:03  ID:xhjJGwmtVG.
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 ご投稿ありがとうございます!
 シェアルシェアルしぇあるんるん♪⌒ヽ(*´ェ゚)ノ
 続き楽しみにしてます!!
総レス数 2  合計 0点

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