キミが存在(あ)る今、
 街が静寂に沈む夜の界隈。見下ろす鐘楼しょうろうに、彼はただ独り佇んでいた。



 光の消えた住宅街。黒くわだかまった広場。
 暗黒に埋もれるか埋もれないかの瀬戸際で見つめる紅い瞳は、何の感慨もなく。それゆえに穏やか。

「やぁ」

 一瞬逡巡の後、柱の影から出て行くと彼の瞳が彼女に向けられ、初めて感情が宿る。

「Dアルル」
「こんな所に居たんだね。気配を辿ってきて正解だった」

 いつもより緊張した声を、彼女は気付かない振り。

「何だ? 探してくれたのか」
「うん」

 振り返り、冗談めかした言葉。素直に頷くと、彼の意外そうな顔。

「今日中に見つかって良かった。神出鬼没は困るよ、Dシェゾ」

 悪戯に微笑う。頬を射す痛みは寒風のためか、それとも上手く笑えていなかったのか。
 ドッペルシェゾがますます眉根を寄せ、何故?、表情で訊いてくる。

「約束」
「約束? ……何のだ?」

 考えてみるも、分らないらしく訊いてくるドッペルシェゾ。ドッペルアルルが人差し指を折り曲げて彼を招くと、黒衣を揺らしながら近付いてきた。長身を屈めて目を合わせる。
 ドッペルアルルの細く小さな手が彼の頬を包み、

「!?」

 有無を言わさず唇を重ねた。
 見開かれた紅眼。しかし、驚きはやがて楽しげな気配に変わり、彼女の躰はあっさりと両腕に捕われる。

「どうした? 今日はやけに積極的だな」
「……誕生、日、プレゼント、」

 ようやく解放され、息絶え絶えに言う。
 彼の顔から不敵な笑みが消えた。
 彼女は言葉を探してしばらく黙り、

「去年、話し合う機会がなかったし、どうしようか迷ったんだ。でも、ボクも嬉しかったから。きっとキミも喜んでくれると勝手に……」
「何故突然」
「この前、シェゾの誕生日の事でアルルに相談を受けた。……それで……」

 あぁ。
 思い出したように彼が息を漏らす。

「感化された訳か。お前らしいな」
「迷惑、だった?」

 見上げると、柔らかく浮かぶ笑み。

「言った筈だろう。お前が祝ってくれるのなら何時でも嬉しいと」

 ぽむぽむと頭を叩く。

「有難う、な」

 ドッペルアルルはドッペルシェゾの顔をじっと見つめ、
 目を伏せた。

「実を言うと、心臓が壊れそうな程鳴っていたんだ。さっきは」

 顔をあげ、情けなく笑う。

「声が硬かったのはそれで、か」
「気付かれてたか、やっぱり」
「それはそうだ。で、少しは落ち着いたのか」
「ううん。今は……」

 撫でられながら視線を上に向けると、暗がりの中。

「、頭の中で鐘が鳴っているよ」

 視線を戻せばドッペルシェゾが噴き出した。

「酸欠か。それは悪かったな」
「……ちゃんとしたプレゼントはまた今度、ね。何が欲しいか聞いてないし、何をあげればいいのかも分らなかった。何せ、初めてのことだから」

 茶色の髪を一房手に取り口付ける彼へ、ドッペルアルルは申し訳なさそうに言う。
 楽しげな男の手が、少女の輪郭を辿るように頬へ肩へ降りていき、

「いや、必要ない」

 腕を掴まれ、引き寄せられる。

「その代わり、暫くこうさせておけ」

 纏わり付く夜の冷気は一掃され、心までをも捕らえる熱に抱擁される。
 ドッペルアルルは黙って目を閉じ、頷いた。

「何だか、ボクの方がプレゼントを貰っているみたいだ。キミを祝いたかった筈なのに」

 包み込むには大きすぎる躰を抱き締める。
 息遣いが旋毛つむじに落ち、降る声。

「何を言う。こんな美味いプレゼントを貰っているのは俺の方だろう」
「幸せ、なんだよ。とても」

 普段口にしないだろう言葉は、いとも容易く零れ落ちた。
 彼の笑う音が、温もりを通して伝わる。

「幸福に感じているのは俺も同様だ。こうやってお前に触れられる、それだけで……。永き時、存在してきたのが無駄ではなかったと想える」

 額に、瞼に口付けられる。

「ボクもだ。ボクも……、今在る事、こんな風に嬉しく思える時が来るなんて、想像したこともなかったのに」

 無に近しい自分に、こんなにも激しい衝動があるとは信じられなかった。
 けれど、

 ―― キミは、誰?
 ―― 俺は……。……お前と似たような存在、だ。多分、な……。

 あの瞬間、初めて目が合った時の魂の震えは忘れもしない。
 それから幾日月。想いは留まることなく、安定を保ちながらも強くなっていく。消えそうな孤独から引き摺り出される。

「Dシェゾ」

 きっと二人、この想いを知るために。
 星降る月夜に導かれ、そして出逢ったのだ、と。

「居てくれて、有難う」
 ―― 生まれてきてくれて、有難う。

 だから、

「――、」



 一緒だから、最期まで生きてみよう。


                                            End
華車 荵
2009年03月16日(月) 23時38分19秒 公開
■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 お、Dアルルが珍しく素直だ。

 えー、シェゾ誕生日の筈ですが、なにやら屈折したことをしている華車です。こんばんは。
 いえ、ね。去年、アルルの誕生日に某DシェさんにウチのDアルルを祝って頂きまして、ささやかながら仕返し……もとい、お返しというか、そんな感じでございます。
 まぁ、すなわちお得意のなりチャネタ(殴)
 シェゾはね、色んな所で祝われてると思うので私くらいは外れてみようという思いもあり……、てかシェゾ誕を目の前にドッペルズが閃くとは真底屈折してるだろうなんて言わないで私の性格を解ってくれるなら笑って許してお願い解って(何)
 投稿した時間が中途半端なのも、私の性格を解っt(ry

 このドッペルズ、なりチャ入ってるので私の設定とは若干異なるため、書きやすかったり書きにくかったり(どっちだよ)でした。雑念が大いに入ったので、苦労した部分もありましたが書いていて楽しかったです。
 実を言うと、
>有無を言わさず唇を重ねた。
 の部分。勢い余って思い切り口ぶつけて悶えまくってる二人、なんてのを思いついたのは……言わない方が良かった?(ぉぃ)

 何はともあれ、楽しんでいただければ嬉しいです。
 そしてシェゾさん誕生日おめでとうございます(今更)

※執筆時BGM fripSide『absolute one』

この作品の感想をお寄せください。
No.4  華車 荵  評価:--点  ■2014-10-06 20:30  ID:xhjJGwmtVG.
PASS 編集 削除
 りりりれりさんコメントありがとうございます!(*^▽^*)
 読んでくださっていたんですか!? 本当にありがとうございます!
 DシェDアルいいですよね〜。もう大好きです! 愛してます!
No.3  りりりれり  評価:50点  ■2014-10-05 23:08  ID:TvdnLK10luM
PASS 編集 削除
DシェDアル大好物です。コメント書く前、というかここで投稿小説書く前にも何回か読んでいたので、「そうだ、コメント書こう」と思い立ちました。
No.2  華車 荵  評価:--点  ■2009-03-23 02:28  ID:KV3.uwVSEGw
PASS 編集 削除
 こんばんは、初めまして雪音さん。華車 荵です。
 コメントありがとうございます! うわぁ、凄い嬉しいvv
 DシェDアル大好物ですか!! お仲間ですね。御馳走だなんてそんな……ご笑味いただければ幸いですv

 思いついた方、本当に書いてたらムード台無しだったでしょうね(笑)でもそういう茶目っ気もあってこそ、DシェDアルだと勝手に思っていたりしますw
 この二人は天然茶目な部分もあると良いな〜と。普段はクールカップルなんですけどね(笑)
 最近、DシェDアルに餓えまくっています。でも同志様少なくて寂しかったんですよね;; でもそんな中、同志様に喜んでいただいて本当に嬉しいです(^-^)
 読んでくださってありがとうございますm(_ _)m 
No.1  雪音  評価:100点  ■2009-03-22 16:27  ID:0Znh15Wyq4g
PASS 編集 削除
初めまして。雪音です。
「有無を言わさず唇を重ねた。」思いついた方を書いてしまっていたら、
良いムードだったのが、一気に台無しになりますね(笑)
DシェDアルのCPは大好物なのでとても面白かったです。
御馳走様(笑)
総レス数 4  合計 150

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス(必須)    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除