一つの報酬
 アルルが街外れにある、ウィッチの店に入ると、威勢のいい声が聞こえてきた。

「最近の流行は、ズバリ干しトカゲですわ。粉にしても良し、呪具にして良し」

「捕まえる手間と加工する手間を考えれば、楽になるが、ちとこれは高くないか?」

「あらあら、ご不満なら買わなくても良いのですのよ」

「どんな接客だ。安くしてくれと言ってるだけじゃないか。常連だぞ」

 見慣れた金髪の魔女と、銀髪の闇の魔導師の背中にアルルは目を輝かせる。

 ウィッチは、カウンターでシェゾ越しにアルルに気づいた様で、軽く手を振ってくる。

 シェゾは肩越しにアルルを見て顔をしかめた。いつもの事だ。

「まあ、アルルさん。お買い物ですか?」

「うん。学校の先生から頼まれたの。これリストね」

 魔導学校の先生から頼まれた買い物リストをウィッチに渡す。

「実験用アルコール2本、魔石が6個、銀のスプーン30本…あらー、在庫あったかしら?」

「大丈夫?」

「ま、なんとか調達しますわ」

 ウィッチは笑いながら肩をすくめた。

「錬金術の基礎実験か?」

 シェゾがウィッチが持つリストを覗き込んで呟く。

「分かるの?」

 アルルの一言に、シェゾは顔を引きつらせる。ウィッチも心なしか苦笑いを浮かべている。そういえばシェゾはこれでも闇の魔導師と名乗るぐらいの力量はあるのだった。アルルはシェゾの視線に背中を丸める。

 シェゾは引きつり顔から渋い顔になり、小さく舌打ちして、踵を返した。

「あら、お帰りですの?」

「ああ。また来る。邪魔したな」

「…トカゲは安くしませんわよ」

 アルルはその背中を追いかける。シェゾの機嫌は随分斜めだ。

「ごめんウィッチ、あたし行くね」

 黒いマントの後ろを追って店を飛び出す。

 背後からウィッチの声が聞こえた。

「ちゃんと取りに来て下さいね〜」

「分かってるよぅ」

 店を出た所で、アルルはシェゾに追いついた。足音で気づいているはずだが、一瞥もくれない。

「ねーねーシェゾー」

「うるさい。ついてくるな」

「宿題教えて欲しいんだけど」

「ウィッチにでも聞けばいいだろう」

「だってリストの在庫調達しなきゃって言ってたから、忙しいでしょ」

「だからってなぜ俺」

「だってー」

 アルルは口を尖らせながら、シェゾのマントを両手で握る。こうでもしないとシェゾの足についていけないし、転移で逃げられたりしそうだったからだ。

 予想外の力にシェゾはバランスを崩しながら、ようやくアルルの方へと顔を向けた。

「で、報酬は?」

 何が言いたいのか分からず、アルルはきょとんとシェゾを見上げた。シェゾは頭痛を我慢しているかの様な表情になる。

「貴様は、無償で宿題を教えて貰おうとしていたのか?」

「じゃ、夕飯にカレー作る」

 思いつきで口にしてみたが、意外に名案だ。アルルは笑顔で「ね?」と念を押してみた。

「…安くみられたもんだな」

「だってボクの得意料理だよ!!サラダもつけるからさ」

「食後のコーヒーは?」

「はいはい、つけますつけます。任せて下さい」

 ふむ。とシェゾは顎に手を当てながら、アルルの方を向いた。マントを引っ張ってアルルから手を離させる。

「いいだろう。ただし俺の授業は優しくないぞ」

 そのまま宿題の答えを教えてくれるような素直な展開はアルルも期待していない。それはウィッチに聞いても同じだったろう、恐らく「ご自分で考えることですわね」と辛辣な言葉が飛んでくることだろう。

「よし、じゃあボクの家だね。ちょっと歩くけど…」

「俺はそんなに時間を無駄にする気はない」

 シェゾにがしっと頭を掴まれ、アルルはシェゾを見上げる。一瞬、目眩のような不思議な感覚の後、景色は全く変わっていた。

「ぅあ、あれ?」

「確かこの家だったな」

 ほぼ自宅の前。シェゾはアルルの家へとずかずかと向かってゆく。

「あ!!え!?ちょ、ちょっと待って、今家の鍵…」

 アルルがポケットに手を入れるが、シェゾは小声で何か呟きながらドアノブへと手をかける。

「『解錠』」

 がち。っと本来なら聞こえるはずのない音が聞こえて、シェゾがドアを開けた。

「邪魔するぞ。…おい、ぼさっとするな」

「えーと、今の何?」

 アルルの一言に、シェゾは鼻で笑う。

「解錠の呪文だが?」

「…。」

 いや、そーじゃなくて。なぜ人の家の鍵を勝手に開けて中へ入るのかと。そんな文句が喉元までせり上がるが、アルルはあえてそれを飲み込んだ。この銀髪の魔導師は言うだろう、「家に招かれたんだ、何が悪い」

 アルルも家に入ると、ダイニングにあるテーブルの上で、カー君が楽しそうに踊っていた。

 シェゾはそれを掴むと、アルルに向かって放り投げる。空中で見事なひねりを加えながら、カー君は見事にアルルの肩に着地した。

「ぐっぐー」

「始めるぞ」

 マントを外して、椅子に掛けながら椅子に座ると、シェゾはコツコツとテーブルで机を叩いた。


 なんだかんだ言いながら、こうやってシェゾは付き合ってくれるのだ。

sii
2008年07月02日(水) 21時06分32秒 公開
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■作者からのメッセージ
青春ですな。

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