震える心、とかす心 |
「何故俺が…」 シェゾはつい先ほど倒したカメプヨが落としていった本とお金を拾いながら文句を言っていた。 シェゾがいるのはサタンが作った危険極まりない遊園地の中のアトラクションの一つウォーターパラダイスで、モンスターと死闘を繰り広げていたのだった。アトラクションとは名が付いてるものの、腕に覚えのないものならば数分もたたずに追い出されることだろう。事実、シェゾより前に入ったほとんどの人間は全て追い出されていたのだった。そのため、シェゾは今は一人で途中にいた半魚人を倒して、最上階を目指していたのだった。しかし、何故シェゾがこんなことをしているというのは理由があった。それは、今から一ヶ月前ほどのことであった。 「やっと、たどり着けたか」 シェゾはとある塔の最上階で、数字の羅列に囲まれている黒色のクリスタルを目の前にしていたのだった。シェゾは十年近く前に現代の賢者の一人に数えられたアレン=テルの魔力を吸収してからというもの、人間から魔力を奪うことができなくなり、今ではこうして強い力を秘めている魔導具から魔力を吸収して、魔力を高めているのだった。 「思い返せば、苦労したな…」 シェゾは今までのことを思い介していたのだった。この塔は一度入りなおすたびに階層の作りががらりと変わるのだった。そのため、シェゾは何度も何度も苦労してここまでたどり着いたのだった。 「まあいい、これでこの時空の水晶は俺のものだ、さぞかし力になるだろう」 そういって、シェゾが時空の水晶に触ったときにそれはおこった。 「くっ、俺の魔力が吸われているだと?」 「のこのおやってきたな」 「誰だ!!、姿を見せろ?」 いきなり聞こえた声にシェゾは大声で返すがその声は意外なところから返ってきたのだった。 「貴様の手の中にいるだろう」 その声で、シェゾは自分の手の中にある時空の水晶を見たのだった。 「貴様、意思が!!」 「貴様の魔力貰うぞ」 「ちっ、テレポーテーション」 シェゾがとっさに呪文を唱え完成させると、塔の中には時空の水晶だけになっていた。 「逃げたか、まあいい魔力は私が吸い出せなかった分以外は全て抜き出したから、あとはたいした魔力もない抜け殻だろう。しかし、人間にしてはたいした邪気にまみれた魔力だな。これならば、もっとおもしろいことができそうだな」 その一言を最後に、塔は一晩で消え去ったのだった。 それから、三週間後 「くそっ、あれ以来ろくに力が使えないな」 道夫歩いていたシェゾは雨が降り始めたために大きな木下で雨宿りをしていたのだった。 「ふふふ、いらしゃいなの・・・」 「商人か、商売の相手を探しているのならば、他を探せ」 「ふふふ、みるのね・・・」 「なんだ?これはチラシ」 シェゾはそこに書いてあった文字に目を釘付けにしたのだった。 『入るためにステージが変わる冒険アトラクション満載のわくぷよだんじょん』 「まさか、あの水晶が・・・」 「ふふふ、言ってみるのね」 商人に言われるでもなく、シェゾは山を越えてわざわざここまでやってきて、今に至るのだった。 そして、シェゾが最上階に行くと、思わず目の前の光景に息を呑んでしまったのだった。そこにいたのは一人の青い髪の少女だった。その少女は空の青と水青によって、少女の白い健康的な肌が映えているのだった。その少女はもの悲しそうにうつむいているのだった。そのために、儚げな雰囲気が漂っていたのだった。それよりも、シェゾはこの少女にどこかであったような気がしたのだった。 「おいっ」 シェゾは無意識に少女に話しかけたのだった。 「こんなところまで…、そんなに私を苛めたいんですか…」 少女は悲しそうにうつむいたんのだった。 「あのな、俺がそんな奴に見えるか?」 シェゾはなるべく刺激しないように話しかけたのだった。 「だって、いかにも怖そうです…」 (ううむっ、かっこいいと思っていたんだが、言われてみれば確かに…) 「あのっ、本当に私を苛めに来たんじゃないんですか?」 「当たり前だ、お前が敵でなければ戦うつもりはない」 その言葉に、少女は怯えながらも話しかけてきたのだった。 「あ、あの、それじゃっ…、仲良くしてもらえますか?」 「えっ、いや、その」 シェゾは唐突にそんなことを言われたために照れてしまったのだった。 「だめですか?」 (うっ、どうすればいいんだ) 少女がすがるような上目づかいでシェゾを見てきたとき、シェゾは無意識に口を開いた。 「だめだ」 「やっぱり私なんかじゃ…」 シェゾがそういうと少女は悲しそうに泣きそうになったのだった。 「自分のことをそういうんじゃない」 「えっ」 少女はシェゾが何が言いたいのか分からなかったためにきょとんとしてしまった。 「『私なんか』というような、自分を貶める言い方は止めろ」 「でっ、でも…」 「『でも』じゃない、いいかこの世には大きく分けて二通りのいき方があるんだ。一つはお前のように下を見て歩くいき方、そして、もう一つは俺のように前を向いてある生き方だ」 「前を向いて歩く…」 少女はその言葉を小さく反芻したのだった。 「そうだ、自分が不幸であると諦めている限り、決して自分が変わることも、周りが変わることもない。そして、決して幸せにもなれない」 「・・・・・・」 その言葉に少女は何か考えているようで何も言わなかった。 「お前はもっと幸せになる努力をしたほうがいい、そうすれば俺は友達になってやる」 「じゃっ、じゃあっ、努力をしたら友達になってくれるんです?」 「ああっ、分かった。だから、ちゃんと前を向いて歩けよ」 「は、はい!!」 (ふっ、俺としたことが説教じみたことを、一体どうしたというのだこの女が幸せだろうと不幸だろうと俺には関係ないはず…。くそっ、シェゾ・ウィグィィともあろうものが…) 「申し遅れましたが、私はセリリといいます」 少女、セリリははみかみながら自己紹介をしたのだった。シェゾは自然と笑うと自分も自己紹介をしたのだった。 「俺はシェゾだ」 「シェゾさん、またお会いしましょうね」 そういうと、セリリは水の中に潜ってどこかに言ってしまったのだった。 「さてっ、オーブは…」 (ありがとう) 「?」 シェゾがオーブを探そうとしたときに、誰かがシェゾにお礼を言ったような気がしたのだった。それと同時に何かがシェゾの中から抜けて言ったような感じがするのだがっ、シェゾはあまり問題がなかったためにそのままオーブ探しを続けたのだった。 「なかなかいい場所だな」 シェゾは空中に浮かんでいる泉に昼ごはんを食べに来ていたのだった。 「シェゾさんはお昼ですか?」 泉の中からセリリが顔を出して、シェゾに話しかけてきたのだった。 「セリリか?元気か?」 「はいっ、私はあれからシェゾさんに言われたことを自分なりに考えてみました。今はまだ無理ですけど、きっと変わって見せますね」 セリリのその言葉をシェゾは頷きながら聴いたのだった。 「セリリ」 「なんですか?」 「歌を歌ってくれないか?」 「歌ですか?」 シェゾは何故かセリリの歌が聞きたくなったのだった。理由などない、ただっ、なんとなくだった。 「いやならいいぞ」 「がんばって歌いますね」 セリリはゆっくりと歌い始めたのだった。その歌声は空のように澄み渡っており、水のように聞くものの心を清めていくのだった。そして、その歌声は優しかったのだった。 シェゾはこの先に待ち受けるであろう試練のことを忘れて、今はセリリの歌に酔うことにしたのだった。何よりも、セリリといると心が安らぐような気がしたのだった。そして、シェゾはしばしの安らぎの眠りに付いたのだった。 セリリはそんなシェゾの寝顔を見ながら嬉しそうに歌い続けたのだった。 |
千里
2007年10月07日(日) 22時23分04秒 公開 ■この作品の著作権は千里さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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